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「がんと共に生きる時代」の新たな価値創造を目指す3つの共創事業案を披露!小野薬品工業による事業創造プログラム『HOPE Acceleration』最終審査会レポート

「がんと共に生きる時代」の新たな価値創造を目指す3つの共創事業案を披露!小野薬品工業による事業創造プログラム『HOPE Acceleration』最終審査会レポート

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小野薬品工業は、「がんと共に生きる時代」の新たな価値創造を目指すオープンイノベーション型事業創造プログラム『HOPE Acceleration』を2024年より開始している。

これは、スタートアップやパートナー企業と連携し、“医療”の枠を超えた新たな価値の創造に挑戦する取り組みだ。2025年1月に始まった今年のプログラムでは、応募企業が書類・面談選考やビジネスビルド(ワークショップ)、インキュベーション期間を経て、2025年8月に開催された最終審査会でこれまでの成果を披露した。

本記事では、最終審査会で発表された3つのプロジェクトを紹介する。スポーツウィッグ®︎ や生活をちょっと楽にする着脱しやすい衣服、メタバースを活用したがん患者コミュニティなど、いずれもがん患者さんの課題を出発点とした独創的なアイデアである。

また、最終審査会後に実施したプログラム主催者・小野薬品工業株式会社 経営戦略本部 BX推進部長の藤山昌彦氏へのインタビュー内容もあわせて紹介する。医薬品という形でがん患者さんに大きく貢献してきた同社が、次に見据える未来とは?

【プログラム概要】 「治療そのもの」にとどまらず「治療生活全体」の課題解決へ

最終審査会の冒頭、『HOPE Acceleration 2025』を主催する小野薬品工業株式会社 BX推進部 オープンイノベーション推進室長の若松大将氏が、本プログラムの目的や概要、当日の流れについて説明した。

小野薬品工業は近年、がん領域を重点領域の一つに位置付け、医薬品を通じてがん患者さんに貢献してきた。しかし一方で、患者さんの声に耳を傾けると、治療そのものではなく、治療生活全体において依然として多くの課題があることが分かってきたと、若松氏は言う。

▲若松大将 氏(小野薬品工業株式会社 BX推進部 オープンイノベーション推進室 室長)

治療生活全体の困り事を解決するには、製薬に特化した自社の力だけでは難しい。そこで、「異なる知見を持つ方々と共創することで新しい価値を届け、がんの治療だけでなく、治療生活全体を支えたい」という思いで、このプログラムを開始したことを伝えた。

今回のプログラムでは、応募企業が書類・面談選考、さらに2回のビジネスビルド(ワークショップ)を経て、この日の最終審査会に臨んだ。最終審査会では、応募企業と小野薬品工業の社員で構成された3つの共創チームが登壇し、質疑応答を含めた40分間で共創プロジェクトについて詳しく説明した。

審査員は、小野薬品工業株式会社 副社長の辻󠄀中聡浩氏や経営戦略本部の藤山氏のほか、ベンチャーキャピタリストらが務めた。

【共創ピッチ】 がん患者さんを取り巻く“衣食住”の課題にフォーカス、異業種が製薬会社と織りなす3つの共創プロジェクト

ここからは、最終審査会で発表された3チームのピッチ内容を順に紹介していく。高性能ウィッグやウェア、さらにメタバースを活用した新しい取り組みまで、それぞれが独自の視点でがん患者さんの課題解決に挑んだ。

【発表テーマ】 がん患者さん向けの高性能オーダーメイドウィッグ共創プロジェクト

最初に登壇したチームは、がん治療による脱毛の課題に着目。化学療法による脱毛は苦痛が大きく、治療後、元の状態に戻るまでに約2年を要することもある。従来用いられてきたウィッグ(かつら)には、暑さや蒸れ、ずれやすさといった課題があった。そこで提案するのが、スポーツ向けに開発されたウィッグだ。軽量で通気性がよく、運動中でもずれにくい。

また、がんのほか、脱毛症を患うスポーツ選手からは、プレー中でもずれず、装着感が良いと高評価を得ている。インキュベーション期間中には、JIS規格を取得したほか、医療機関での催事を開催し紹介活動を行った。ウィッグメーカーの開発力と製薬会社のネットワークを掛け合わせ、がん患者さんの生活の質を高めるソリューションとして進化させていきたい考えだ。

【発表テーマ】 医療と日常をシームレスにつなぐ新しいウェアの共創プロジェクト

続いて登壇したチームは、がん患者さんの服に関する課題に注目した。治療中や治療後は体調や体型の変化、手術や治療の影響で着替えが困難になり、外出を諦めて1日中パジャマで過ごす患者さんも少なくないという。こうした状況を変えるため、医療とファッションを融合させた新しいコンセプトのウェアを提案。

インキュベーション期間中には、がんサバイバーからのエピソード収集やインタビュー調査、アンケート調査、試着によるモニター調査を実施し、患者さんの課題や提案するウェアの評価を確認した。同チームは、これまでの衣服のトレンドを振り返りつつ、今後は「医療と日常のシームレス化」が進む見通しを提示。製薬会社と協力しながら、患者さんに製品を届けていきたいとした。

【発表テーマ】 小児AYA世代がん患者さんの孤独・不安解消ソリューション共創プロジェクト

次に登壇したチームは、小児がん患者さんが抱える孤独や不安の解消を目指す。小児がんの患者さんは、合併症や再発への不安、同じ経験を持つ仲間との交流機会の不足といった課題が残されている。同チームはこうした現状を踏まえ、小児がんのサバイバーが匿名で参加できる、メタバース空間を活用したコミュニティづくりを提案。スマートフォンやPC、VRゴーグルから簡単にアクセスできるメタバースで、患者さん同士の交流イベントを行う構想である。

インキュベーション期間中には、小児がん患者さんに対して、メタバース体験会を開催。メタバースでの交流を楽しんだ。同チームは「孤独な小児がん患者さんを1人も取り残さず、いつでもどこでも気軽につながるメタバース空間を実現したい」と意気込みを伝えた。

【審査員総評】 「さまざまな観点から患者さんやビジネスの課題を掘り起こし、ソリューションを描かれていたことに感銘を受けた」

ピッチを終えたチームに対し、副社長の辻󠄀中氏は総評を述べた。チームが提示した課題とソリューションに触れ、「さまざまな観点から患者さんやビジネスの課題を掘り起こし、ソリューションを描かれていたことに感銘を受けた」と評価した。また、「この連携を通じ、私たちも患者さんや医療従事者の課題について学んでいきたい。こうした場をきっかけに、引き続きご意見をいただければと思う」と述べ、発表を契機とした関係性の継続を呼びかけた。

▲辻󠄀中聡浩 氏(小野薬品工業株式会社 代表取締役 副社長執行役員/経営戦略本部長 兼 人事統括部長)

その他の審査員もチームの取り組みに高い評価を示した。Capital Medica Ventures 代表取締役 青木武士氏は「小野薬品工業の社員さんがパートナー企業と同じチームに入り、一つのビジネスプランに対して強い情熱を持って取り組み、スタートアップの良さを引き出そうと真剣に考えている姿勢が印象的だった」と述べた。

MTG Ventures 代表パートナー 伊藤仁成氏は「チーム全員が同じTシャツを着て一丸となり、新しいことに取り組む経験自体が、両社にとって素晴らしい学びになる。今回の取り組みが実際に形になることを期待している」と語った。

▲青木武士 氏(Capital Medica Ventures 代表取締役)

▲伊藤仁成 氏(MTG Ventures 代表パートナー)

ライフタイムベンチャーズ Founder/General Partner 木村亮介氏は「プログラムの入口から出口までレベルが高かった」「これをきっかけに事業を大きくしてほしい」と呼びかけた。株式会社eiicon 執行役員 Consulting事業本部 本部長 香川脩氏は「プレゼンの内容や考えの幅も前回より向上しており、話を聞いていて大変興味深かった。今後はスピード感を持って進めてほしい」と述べた。小野デジタルヘルス投資合同会社 エグゼクティブインベストメント ディレクター 小林正克氏は「プロジェクト単体で見てしまいがちだが、組み合わせることでより大きな価値を出せるのではないかと感じた」とコメントした。

▲木村亮介 氏(ライフタイムベンチャーズ Founder/General Partner)

▲香川脩 氏(株式会社eiicon 執行役員 Consulting事業本部 本部長)

▲小林正克 氏(小野デジタルヘルス投資合同会社 エグゼクティブインベストメント ディレクター)

最後に藤山氏は、「我々は審査する立場ではなく、皆さんの素晴らしいビジネスを患者さんにどう届けられるか、一緒に何ができるかを考えている。この4カ月間で一緒に課題探索や解決策を考えた経験が、皆さんにとっても価値になっていれば嬉しい」と締めくくった。

▲藤山昌彦 氏(小野薬品工業株式会社 経営戦略本部 BX推進部 部長)

【主催者インタビュー】 「衣食住を取り巻く多様な領域で、患者さんの課題に応じられる製品・サービスを拡充させていく」

続いて、『HOPE Acceleration』をリードする小野薬品工業株式会社の藤山氏に、今年のプログラムの手応えや最終審査会まで進んだ3チームの提案に感じた可能性、そして今後の新規事業戦略についてお話を伺った。

――まず、今年のプログラム全体を振り返っての手応えをお聞かせください。

藤山氏 : 応募総数は昨年より若干減少しましたが、提案の質は向上したと感じています。昨年の経験を踏まえ、募集テーマの設定やパートナー企業の選定基準を明確にできたことが、大きな要因だと思います。

昨年は広くパートナーを募集していましたが、1年間の運営を通じて、「やはり患者さんのこの困りごとにフォーカスすべきだ」という考えがより明確になり、私たちが解くべき課題も絞り込めてきました。これを踏まえてプログラムの設計を改善したことが、提案の質向上につながったと考えています。

――今年の注力ポイントやインキュベーション期間中の活動についてはいかがですか。

藤山氏 : 昨年は、ビジネスビルドを1回行い、最終審査会まで一気に進めたのですが、今年は、中間報告会を副社長の辻󠄀中も交えて実施しました。間に中間報告会を設けることで、軌道修正やビジネス組み立ての論点を明確化できたと思います。こうした確認の場があったことで、プログラム運営の精度も上がったと感じています。

――最終審査会まで進んだ3社の提案について、どのような可能性を感じましたか。

藤山氏 : まず、ウィッグの提案をいただいた1社目のプロジェクトは、患者さんの抱える深刻な課題を的確に捉えていました。治療による脱毛などの外見の変化は、精神面にも大きな影響を与えます。こうした課題に応える製品を提供することには、大きな価値があると感じました。

2社目のウェアの提案では、企画設計や商品設計のレベルが非常に高く、商品供給力も既にあり、がん患者さん向けの商品開発を一緒に進めていける信頼のおける企業だという印象を持ちました。私たちは患者さんや医療機関とのタッチポイントは持っていますが、衣類の製造ノウハウはありません。企画から製造までのプロセスを安心してお任せできる会社だと感じています。

3社目のメタバースを活用した提案についてですが、大きな挑戦をされていると思います。既に希少疾患のお子さん向けのメタバースコミュニティを運営されていますし、期待感を持っています。患者さんはリアルで集まることが難しい方もいらっしゃると思いますし、匿名で参加できることもメリットになるでしょう。SNSやZoom等にはない新しい体験を提供できる可能性を感じました。

――今後のオープンイノベーション戦略をどのように描いておられますか。

藤山氏 : 当社のグループに『michiteku』という子会社があり、現在はがん患者さん向けの情報提供サービスを展開しています。私はこの会社の社長を務めているのですが、なぜ、このサービスを提供しているかというと、ユーザーさん向けに信頼のできる情報を届け、不安を少しでも解消してもらいたいという思いがあるからです。今後は、情報だけではなく、治療生活の不具合を支える製品やサービスも提供したいと考えています。

『michiteku』を患者さん向けのプラットフォームとして育て、良い情報や製品やサービスを届けていく。そのために、一緒に取り組めるパートナーをさらに増やしていきたいと思っています。今回のプログラムでは、ウィッグやウェア、メタバースでの交流機会といった提案がありましたが、衣食住を取り巻くさらに多様な領域で、患者さんの課題に応じられる製品・サービスを拡充させていく方向性で考えています。

――最後に『HOPE Acceleration 』の今後の展望についてもお聞かせください。

藤山氏 : 来年以降も、パートナー企業の探索は継続する考えです。ただ、進め方やスタイルは見直す予定です。これまでは広く募集する形で進めてきましたが、「この領域に取り組みたい」「こういうタイプのベンチャー企業が望ましい」という視点が明確になってきたため、テーマを絞り、最良なパートナーとの共創の機会を得ていきたいと思います。場合によっては、弊社から声をかけることもあるでしょう。こうした活動を通じ、がん患者さんにとって価値のあるものを届けられる存在になりたいと考えています。

取材後記

最終審査会では、ウィッグやウェア、メタバースなど多様な提案が披露され、がん患者の治療生活全体に目を向けた取り組みが印象的だった。藤山氏のインタビューでは、グループ会社が運営する『michiteku』を通じた新しいプラットフォーム構想も垣間見え、今後の展開に期待が高まる。がんという日本三大疾病の一つに焦点をあて、医薬品提供にとどまらず、治療生活全体を支える製品やサービスの創出に挑む同社の次の一手に、今後も注目したい。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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