少子化と都市課題に挑む「アフォーダブル住宅」とは?東京都が仕掛ける官民連携200億円規模のファンドの仕組みを解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回取り上げるテーマは「アフォーダブル住宅」。東京都が官民連携ファンドを創設し、子育て世帯向けの住宅供給を促進する新しい取り組みが始まっています。これは単なる住宅政策ではなく、金融・不動産・都市政策を横断する新たなビジネストレンドでもあります。
アフォーダブル住宅とはサステナブルなモデルで住宅を供給する仕組み
アフォーダブル住宅とは、直訳すれば「手頃な・手が届く住宅」です。一般に市場価格より低廉な家賃で提供され、特に子育て世帯や低・中所得層が安心して暮らせることを目的としています。欧米では長年の政策課題として公営住宅や社会住宅の形で整備されてきましたが、日本においても近年、都市部での住宅価格や賃料の高騰が社会的課題となり、注目が集まりつつあります。
東京都は2025年に「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」を創設しました。最大の特徴は、公共資金と民間資金を組み合わせ、サステナブルなモデルで住宅を供給しようとしている点にあります 。
参照ページ:官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド|グリーンファイナンスの発展|東京都産業労働局
アフォーダブル住宅注目の背景にある課題は「少子化対策」と「都市の持続可能性」
アフォーダブル住宅が注目される背景には二つの大きな社会課題があります。
一つは「少子化対策」です。東京都は「東京都住宅マスタープラン」(2022年)や「少子化対策2025」において、子育てしやすい住環境の整備を重要施策として位置づけています 。住宅費の負担は結婚や子育ての意思決定に直結するため、手頃な住まいの供給は少子化克服のカギと考えられています。
もう一つは「都市の持続可能性」です。人口が集中する東京では、働き手や子育て世代の流出を防ぐためにも、居住コストを抑える政策的インセンティブが必要です。加えて、ESG投資やグリーンファイナンスの潮流と連動し、住宅分野における社会的インパクト投資の受け皿としても機能することが期待されています。
参照ページ:東京都住宅マスタープラン|計画
参照ページ:「東京都の少子化対策 2025」を公表
東京都が取り組む200億円規模のファンドの仕組み
このファンドの法的枠組みは「投資事業有限責任組合(LPS)」です。LPSとは、ベンチャー投資や不動産投資の分野で広く用いられる仕組みで、有限責任組合員(LP:出資者)は出資額を超える責任を負わない一方、無限責任組合員(GP:運営者)が実際の投資運営を担うという特徴があります。リスクを限定しつつ機動的に投資を行えるため、官民連携のファンドスキームとしても適しています。
参照ページ:投資事業有限責任組合(LPS)制度について (METI/経済産業省)
出典:官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド|グリーンファイナンスの発展|東京都産業労働局
投資対象は東京都内の賃貸住宅で、築年数は問わないものの、耐震性など安全性が確保されていることが条件。広さは原則45㎡以上、家賃は近隣相場より低廉に設定され、子育て世帯やひとり親世帯を優先的に受け入れます 。
また、ファンドには「優先・劣後構造」が取り入れられ、家賃を低く抑えるほど都の利回りは民間投資家より低く設定が可能になります。これにより、社会的リターンを優先しながらも、民間投資家には一定の金融的リターンが確保される仕組みになっています。
参照ページ:官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド 運営事業者募集要項
参照ページ:官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド 運営事業者の募集について
アフォーダブル住宅によって期待されるメリット
社会的インパクト
市場価格より低い家賃での供給は、子育て世帯の生活安定や出生率向上に直結します。さらに、ひとり親世帯や若年層など多様な層の住環境改善につながり、社会課題解決の効果は大きいと期待されています。
ビジネス機会
民間事業者にとっては、不動産投資の新しい領域として位置づけられます。従来の利回り至上主義型の不動産投資ではなく、ESG投資やインパクト投資を組み込むことで、資金調達の幅を広げられる点も大きな魅力です。
政策連動による信頼性
東京都の関与により、政策的な安定性が担保されます。都はファンドの投資委員会にオブザーバーとして参加し、供給状況のモニタリングも実施。民間にとってはリスク低減の要素となり、投資判断の後押しとなります 。
「空き家活用」や「ひとり親支援」といったユースケースの拡大に期待
今後アフォーダブル住宅は、子育て世帯向け住宅だけでなく、空き家の活用やひとり親支援、シェア型住居など多様な形態に広がる可能性があります。特に東京都は、供給物件の概要を原則公開する方針を掲げており、社会的な透明性を確保しながらモデル事例を積み上げていく構えです 。
また、この枠組みは東京以外の自治体や民間デベロッパーにも波及する可能性があります。既にESG投資を重視する金融機関やREITの動向とも連動しやすく、官民連携による都市課題解決の新モデルとして全国展開が期待されます。
編集後記
「住宅」と「金融」という異なる領域をつなぐアフォーダブル住宅ファンドは、社会課題解決型ビジネスの典型例といえます。少子化対策や都市の持続可能性といった喫緊のテーマに正面から取り組みつつ、投資家やデベロッパーにとっても新たな機会を提供する。こうした動きは今後ますます重要性を増し、次世代の都市づくりや不動産市場の在り方を大きく変えていくでしょう。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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