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植物由来の新素材「CNF」の実用化・社会実装を”オープンイノベーション”によって加速させる――アップデートした富士市の『CNFマッチング・オープンイノベーション促進事業』の中身とは?

植物由来の新素材「CNF」の実用化・社会実装を”オープンイノベーション”によって加速させる――アップデートした富士市の『CNFマッチング・オープンイノベーション促進事業』の中身とは?

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静岡県富士市は、次世代素材「CNF(セルロースナノファイバー)」の社会実装を目指し、2022年度から『デジタルツールを活用したCNFオープンイノベーション促進事業』を推進してきた。これまでの3カ年にわたる実績を経て、今年度からの本事業は、「第3期アクションプラン」に基づく新たなフェーズにおけるコア事業へとアップデート。これまでの取り組みを土台にしながら、より広範な認知拡大と共創パートナーの獲得を目指し、市外へも積極的に進出して情報発信を行うなど、新たな挑戦に乗り出している。

その象徴的な取り組みとして、2025年12月に横浜・みなとみらいで、神奈川県との共催イベント「官民連携で実現するカーボンニュートラル」を開催した。会場では、CNF活用に意欲的なスタートアップや事業会社に向けて、富士市を代表するCNF活用企業がリバースピッチを実施。新たな価値創造に向けた熱いメッセージを伝えた。

イベントに先立ち、TOMORUBAでは『CNFマッチング・オープンイノベーション促進事業』を推進する富士市産業政策課の平野貴章氏へのインタビューを行った。本記事では、アップデートされた事業の狙いをはじめ、今年度の支援企業2社(東洋レヂン株式会社、丸富製紙株式会社)を選定した背景、今後の展望について紹介する。

続いて、イベントの基調講演として登壇した静岡大学特任教授/トヨタ車体株式会社 西村拓也氏の「CNFの最新トレンドと魅力」に関するレポートを掲載。さらに、今年度の支援企業である東洋レヂンと丸富製紙がリバースピッチで語った「実現したい共創内容」や「提供リソース」について紹介する。――脱炭素社会の実現に寄与する素材として注目されるCNF。その可能性と、富士市が仕掛けるオープンイノベーションの最前線をお届けする。

【01:富士市・平野氏インタビュー】 第3期アクションプランで加速する、富士市CNFプロジェクトの現在地

●「紙のまち」富士市が挑む、次世代素材CNFの社会実装

――改めて、富士市がCNF関連産業の推進に力を入れている背景を教えていただけますでしょうか。

平野氏 : 富士市には製紙業をはじめ、輸送機械や食品・化学工業など多様な産業が根付き、バランスの取れた工業都市を形成しています。中でも、やはり古くからパルプ・製紙産業を基幹産業として発展してきており、「紙のまち」としての側面を強く持っています。

その紙の原料パルプをさらに微細化した植物由来の次世代素材がCNFです。CNFは軽量かつ高強度など、様々な特性を持ち、国も2030年に1兆円市場の創出を目指すロードマップを掲げるなど、大きな期待を寄せています。

富士市では、この新素材にいち早く着目し、2019年に「富士市CNF関連産業推進構想」を策定しました。産学官が連携する「富士市CNFプラットフォーム」を設立し、オール富士市で推進体制を構築してきたのです。

▲富士市役所 産業交流部 産業政策課 CNF・産業戦略担当 主幹 平野貴章 氏

――そのプラットフォーム活動の一環として、今回の『CNFマッチング・オープンイノベーション促進事業』があるのでしょうか。

平野氏 : その通りです。今年度は推進構想に基づく「第3期アクションプラン(2025〜2027年度)」がスタートした重要な年であり、この事業では、CNFの実用化・社会実装に向けた「認知度向上・裾野拡大」と「マッチング・オープンイノベーションの場の創出」という2つの柱を実現するため、事業全体を大きくアップデートさせています。

●「待ち」から「攻め」へ。市外への進出と支援企業の選定理由

――具体的にどのような点をアップデートされたのでしょうか。

平野氏 : これまではコロナ禍の影響もあり、AUBAなどオンラインのマッチングツール活用が中心でした。しかし、現在はリアルの場の重要性が増しています。また、従来のように富士市内で活動するだけでは、発想や事業の広がりに限りがあるでしょう。そこで、「外へ出る」決定をしたのです。

東京や神奈川の企業様から「こちらでイベントをやってほしい」という声をいただいていたことも後押しになり、今回初めて横浜・みなとみらいでリバースピッチを開催することにしました。首都圏の企業の皆様に富士市の本気度を直接伝え、新たなパートナーシップを築くための大きな試みと言えます。

――「官民連携で実現するカーボンニュートラル」のリバースピッチには、東洋レヂン様と丸富製紙様の2社が登壇されます。この2社を今年度の『CNFマッチング・オープンイノベーション促進事業』の支援企業に選定した理由をお聞かせください。

平野氏 : 第3期アクションプランの柱「CNFの認知度向上と裾野の拡大」を、自社の言葉で力強く語れる企業だからです。リニューアルの旗振り役として、富士市CNFプラットフォームの中核を担うこの2社にお願いしました。

東洋レヂンさんはコトづくりが非常に上手です。廃棄物や工程端材などを活用したアップサイクル製品の開発など、社会課題解決とビジネスを両立させるユニークな取り組みをされています。オープンイノベーションによって企業イメージを高め、ビジネスの信頼獲得に繋げている好事例です。

丸富製紙さんは、家庭紙メーカーとして確固たる地位を築いています。しかし、そこで満足せず、紙の技術を応用してCNFという素材そのものを製造・提供する事業へと進化しています。製紙会社から素材メーカーへと変貌を遂げている点は、他の企業の大きな刺激になるはずです。

●「実用化」から「社会実装」へ。富士市が目指すCNFエコシステムの未来

――これまでの3年間で、『CNFオープンイノベーション促進事業』のホスト企業同士の繋がりも生まれるなど、エコシステムが形成されつつあると伺いました。最後に、今後の展望について教えてください。

平野氏 : 通常の取引先やサプライチェーンでは出会えない企業と繋がり、課題解決のパートナーを見つける事例が生まれています。ホスト企業同士の連携も見られ、他地域の企業へとアプローチする動きも出てきました。プラットフォームとしての厚みが増していると感じます。

また、以前は実用化(技術の確立や試作)が主なテーマでしたが、今は商品化や市場投入を含む社会実装へとフェーズが進んできています。脱炭素やサーキュラーエコノミーの実現に向けて、CNFやバイオマスは不可欠な素材と考えており、社会のニーズに応え、課題を解決していくためにも、社会実装を後押ししていきたいです。

この取り組みを通じて「富士市に来れば、CNFに関する『ヒト・モノ・コト』のすべてがある」と言われるような、国内の産業エコシステム拠点を目指します。今回のイベントをきっかけに、多くの企業様と「社会を変える」共創が生まれることを楽しみにしています。

【02:講演レポート】 森からクルマをつくる――CNFが切り拓くネイチャーポジティブなモノづくり革命

●欧州発のメガトレンド。「リサイクル」の先にある「ネイチャーポジティブ」

イベントの基調講演には、トヨタ車体株式会社に籍を置きながら、静岡大学農学部ふじのくにCNF寄附講座 特任教授を務める西村拓也氏が登壇。「脱炭素・サーキュラーエコノミーの最新トレンドとセルロース材料開発の位置づけ」と題し、CNFの現在地と未来を語った。

西村氏はまず、世界的なサーキュラーエコノミーの潮流、特に欧州の動向を解説した。「今、欧州では2050年に向け『すべての生き物がハッピーになる地球』を目指す動きが加速している。キーワードは『ネイチャーポジティブ』。経済活動を通じて自然を回復軌道に乗せる考え方が、モノづくりの根幹になる」と説明した。

さらに、世界最大級のプラスチックの展示会「K」(ドイツ・デュッセルドルフ)の視察に触れ、「廃プラスチックはもちろん、ガラス繊維さえも再生しようとする動きがある」と報告。あらゆる素材が循環を前提とされる中で、CNFがどう位置づけられるかが問われていると指摘した。

▲静岡大学 農学部 ふじのくにCNF寄附講座特任教授 / トヨタ車体株式会社 材料技術部 主査 西村拓也氏

●木材・CNFならではの「ちょうどよさ」

なぜ今「木」や「CNF」なのか。西村氏はエンジニアの視点から、木材の特性を「中庸」と表現した。「プラスチックは燃えやすく劣化しやすい。カーボンなどは扱いが難しい。しかし、木材は地球環境の中で生き残ってきただけあって、強すぎず弱すぎず、熱や紫外線に対しても『ちょうどいい』耐性を持っている。このバランスこそが、工業材料としてのポテンシャルなのだ」と語った。

西村氏は、木材繊維を解きほぐし強度を高めた素材がCNFであると説明。同氏が開発を主導した、トヨタ車体が開発したスギ間伐材と樹脂の複合素材「TABWD(タブウッド)」などの事例を提示し、機能的価値に加え、素材が持つ「感性に訴える魅力」に注目しているとした。

●理屈を超えた「ワクワク」を社会へ。CNF・木質素材のコンセプトカー「しずおかもくまる」

その上で、西村氏はボディや内装にCNF・木質材料を全面的に採用したコンセプトカー「しずおかもくまる」を紹介した。「かつて斬新なデザインのEVを初めて見た時、理屈を超えた『ワクワク』を感じた。CNFや木質素材にも、それと同じ力がある」と語る。

実際に「しずおかもくまる」で街を走ると、多くの人が笑顔で声をかけてくれるという。プラスチックにはない「圧倒的な違和感」と「温かみ」が心を動かすのだと解説した。「ユーザーに『なんかいいよね』と思わせる力が社会を変える原動力になる。森を育て、モノを作り、森へ還す。『ネイチャーポジティブ』なサイクルをCNFで実現したい」と熱く語り、会場を期待感で包み込んだ。

【03:リバースピッチ】 「紙のまち」から「先端素材のまち」へ。CNF社会実装を牽引する、富士市内企業2社の挑戦

ここからは、今年度の『CNFマッチング・オープンイノベーション促進事業』の支援企業である東洋レヂンと丸富製紙がリバースピッチで語った「実現したい共創内容」や「提供リソース」について紹介する。

【東洋レヂン】 環境貢献×五感の喜び。CNFが可能にした「香るプラスチック」で、新たな高付加価値市場を創る

▲東洋レヂン株式会社 取締役副社長 井出康太氏

プラスチック加工・射出成形メーカー、東洋レヂン株式会社は医療機器パーツの精密成形や機能性プラスチックのコンパウンドを得意とし、自社ブランド「SOMANIKS」を展開する。同社はプラスチック産業が直面する厳しい現実に触れながら、「環境に優しいだけで、消費者に選ばれるのは難しい。付加価値として『香り』に着目した」と述べた。

通常、香料は110〜120度で揮発してしまうため、200度近い熱を加えるプラスチック成形時に混ぜ込むことは困難だ。しかし同社は、CNFが持つ微細な網目構造に着目し、アロマオイルの分子を抱え込むことで成形後も香りを保持させた。CNFの特性を熟知し、長年のコンパウンド技術を持つ同社だからこそ実現できた「香りの革命」と言える。

この技術は、液体でしか存在しえなかった香りに形を与え、「形があって、触れられる香り」として多様なプロダクトに実装することを可能にした。用途として、リラックス効果を狙った睡眠グッズやペット用品、メンタルヘルスケアへの応用、さらには認知症予防としての嗅覚トレーニングや、医療現場、アパレルなど、多岐にわたるアイデアを披露。また、デジタル×香りの市場が年平均7%以上の成長が見込まれるデータも示し、共創の優位性をアピールした。

同社は「幅広い業界の知識やニーズと、革新的な技術を掛け合わせたい」と呼びかけ、共創に向けた具体的な5ステップ(①相談 ②プラスチック選定 ③香料選定 ④配合・試作 ⑤量産化)を提示した。このプロセスを強力に支えるのが、同社が保有する実験用混練機「ラボプラストミル」だ。例えば茶殻や海藻、カレールーなどユニークな廃棄物・残渣の配合テストも小ロットから実施できる。最短1〜3カ月で試作品を提供し、量産まで伴走型で支援できる体制は、パートナーにとって心強い。

求めているパートナー像として「プレミアム市場向けなど、高付加価値製品を開発したい企業」「自社のコア技術や最終製品を持ち、新市場参入やリーダーシップを狙う企業」「自社の廃棄物(残渣や端材など)をアップサイクル・再資源化したい企業」を掲げた。同社は「この技術のストーリーや香りに触れた人が『自分もやってみよう』と行動を起こすことで、世界は一歩ずつ変わっていくはず」と強調。参加者のインスピレーションがイノベーションとなり、社会の変化へとつながっていく未来を共に実現したいと熱く呼びかけた。

【丸富製紙】 古紙パルプ由来のリサイクルCNF「FUJI-MF」が導く脱炭素社会への挑戦

▲丸富製紙株式会社 執行役員 生産技術・新製品開発部 部長 八木英一氏

創業70年の家庭紙メーカー、丸富製紙株式会社は、トイレットペーパーの国内シェアや、超長巻(5倍巻)製品での高い実績を持つ。特に「ペンギン 超ロング」は、多くの人が集まる主要施設などで広く採用されており、その技術力と信頼性は折り紙付きだ。

同社は「紙の可能性を追求する新しい挑戦を始めている」と強調し、トイレットペーパー製造の資源を活かしたリサイクルCNF「FUJI-MF」を紹介した。「FUJI-MF」には、扱いやすい「プレパウダータイプ」と「水溶液タイプ」の2種類がある。いずれも古紙パルプを原料とするため環境負荷が低く、樹脂などと複合することで強度向上や軽量化に貢献できるのが特徴だ。

▲「FUJI-MF」はトイレットペーパー原紙の工程損紙を原料とし、機械解維法にてペースト状にしたCNF(画像出典:丸富製紙ホームページ

現在、同社は「ふじのくにCNFラボ」に参画し、実証実験を進めている。その具体的な進捗も明かされた。一つは、ポリプロピレンなどの樹脂への配合トライアル。CNFを混ぜることで強度を高め、プラスチック使用量の削減(脱炭素)を目指す取り組みだ。また、ユニークな事例として建設分野への展開も紹介された。地元の生コンクリート協同組合と連携したコンクリートの品質改善・強度向上プロジェクトや、左官事業者と連携した漆喰材の開発などだ。CNFが持つ保水性や吸湿性を活かし、ひび割れ防止などの機能付加に成功しているという。

さらに同社は「FUJI-MFは、どんな材料にも試す価値がある」と述べ、既に約20社との共創がスタートしており、タイヤ用ゴム、熱交換フィルター、断熱材、工業用ベルト、接着剤など幅広い分野での開発が進んでいることが伝えられた。

共創に際し、同社は「FUJI-MF」の提供はもちろん、静岡県東部地区に構える14の工場を提示した。また、営業・マーケティング・海外事業の3部門が一体となった推進体制についても言及。「スピード感ある意思決定」と「タイムリーかつフレキシブルな対応」を掲げ、老舗企業でありながらスタートアップのような機動力でパートナー企業と向き合う姿勢をアピールした。求めるパートナー像としては、「前向きにチャレンジを楽しめる企業」を挙げている。既存素材の機能性向上と脱炭素社会の実現という二つのキーワードを軸に、共に新たな価値創造を目指したい考えだ。同社は老舗メーカーの看板を背負いながらも、素材メーカーとしての顔を鮮烈に印象づけた。

取材後記

取材を通じて強く感じたのは、富士市に浸透する「本気の熱量」だ。行政が描くビジョンに、東洋レヂンや丸富製紙をはじめとする地元企業が呼応し、自らの言葉で社会実装への覚悟を語るこの官民の一体感と、失敗を恐れず挑戦を称える土壌こそが、富士市CNFプラットフォームの最大の強みと言えるだろう。第3期アクションプランが始動し、富士市は「紙のまち」から「先端素材のまち」への転換を、着実な歩みとして進んでいる。今回のイベントは、未来の産業を共に創るパートナーへの熱い呼びかけだ。脱炭素やサーキュラーエコノミーの課題に対し、既存の枠を超えて共創に挑む。気概ある企業の参画を、心待ちにしている。

(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:齊木恵太)

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