合成生物学による植物由来希少成分の発酵生産技術を社会実装するファーメランタ、2億円の資金調達を実施
ファーメランタ株式会社は、今回、Beyond Next Ventures株式会社、Angel Bridge株式会社、Plug and Play Japan株式会社を引受先とする第三者割当増資を実施し、総額2億円の資金調達を実施。
資金調達の背景
ファーメランタ株式会社は、植物由来の有用成分を発酵生産することで次世代のサプライチェーンを構築することを通じて、人類及び地球の健康増進に貢献することを目指す企業。
人類はこれまで、健康増進や医薬品開発のために、天然化合物を有効活用してきた。特に、植物は生存競争による進化の過程で、多様で複雑な化合物(二次代謝産物)を生産する能力を獲得してきたことが知られている。西洋医学におけるモルヒネの単離は近代薬学の発展の契機であり、東洋医学においても様々な生薬の希少成分が利用されている。しかしながら、農業による生産方法は、年単位の不安定な栽培に依存し、僅かな含有成分を抽出しなければならないため、植物由来の希少成分を工業的に生産するためには大きな障壁がある。一方、同社の技術を用いてそのような有用成分を微生物に発酵生産させることができれば、気候や栽培地域に依存せず日単位でスケーラブルな生産及び供給が可能に。
同社の研究チームは、2008年、世界で初めて植物二次代謝産物であるアルカロイドを微生物で発酵生産することに成功した。以来、2011年に多様なアルカロイド化合物のプラットフォームとなる中間体を、2016年にWHO指定必須医薬品の原料を、バイオマス由来の簡素な素材であるグルコースから発酵生産することに成功するなど、研究成果を積み上げてきた。
また、2016年から2020年までは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「植物等の生物を用いた高機能品生産技術開発」プロジェクト(スマートセル・プロジェクト)の採択を受け、情報解析系の研究グループとの連携により、バイオものづくりの基盤となる高度に操作された微生物菌株の構築に係るコア技術を確立してきた。
2021年からは、生物系特定産業技術研究支援センターが実施する「スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援)」の採択を受け、引き続き研究開発に取り組むとともに、社会実装を通じた事業化の準備を進めてきた。世界をリードしてきた15年以上の研究成果の蓄積により、植物の二次代謝産物をはじめ、任意の化合物を高速・高効率・安価に供給することを目指すという。
資金調達の目的
同調達は、2022年10月の設立以来、同社にとって初回の資金調達となる。今回の第三者割当増資で調達した資金を用いて、研究拠点の整備並びに研究開発人員の増強による研究体制の拡大、その他実験及び資材を含む研究開発費などに充当する予定だ。現在開発中である複数の目的化合物における生産菌株の改良を行い生産効率を向上させ、既存製品の生産コストを下回る収量の達成を目指すという。今後1年半の研究開発期間を通じて基盤技術の強化を図り、その後の試作及びスケールアップフェーズへの展開、4年後の実用化に向けた計画を進める予定。併せて、同社は提携先との共同研究事業を展開しており、次世代の発酵産業への貢献を目指すという。
技術の特徴
同社が保有する技術は、合成生物学を利用した産業用人工菌株の構築における統合的な基盤技術だ。
同社の研究チームは、NEDOのスマートセル・プロジェクトを通じて、情報解析技術を用いてさまざまな生物種からの最適な生合成遺伝子を組み合わせることで、大腸菌内で効率的な植物二次代謝産物の改変型生合成経路を構築することに成功(図①)。併せて、前例のない数にも及ぶ20以上の外来遺伝子を1菌体に導入し適切に発現させることを可能とする多段階遺伝子導入技術を確立した(図②)。
また、独自の研究成果として、目的物質の生産効率を向上させるための遺伝子の発現バランスの最適化(図③)や、タンパク質過剰発現耐性菌株の作出(図④)など、ユニークな要素技術を確立。これらの統合的な基盤技術により、20段階以上の生合成経路を細胞内に構築し、培養液1リットル当たりグラムスケールで目的物質を実用的に発酵生産することが可能に。この収量は、伝統的な農業による生産方法と比較して、低コストに医薬品や健康食品などの原料を供給することを可能とする。
代表取締役CEO 柊崎庄吾氏のコメント
「この度のシードラウンドにおいて、3社の投資家様からご出資いただけることを心から喜ばしく思うとともに、深く感謝申し上げます。心強い投資家様のご支援を賜りつつ、グローバル市場で挑戦する事業基盤を整備していく所存です。
2022年9月に発表されたバイオテクノロジーとバイオものづくりの推進に関する米国大統領令のファクトシートによると、バイオものづくりは今後10年以内に世界の製造業の1/3を代替し、その経済効果は約30兆ドルに達すると試算されています。身の回りのほとんどのものをつくれるようになるため、サプライチェーンにおける国家安全保障の論点になることが言及されています。気候変動をはじめとする地球規模の諸問題を背景に、合成生物学は、従来の化学合成法や植物抽出法に代わり、物質生産手法のパラダイムシフトを創出する分野です。弊社が確立してきた菌株構築技術の実用化により、次世代の産業革命に寄与するべく邁進してまいります。」
引受先からのコメント
Beyond Next Ventures株式会社 パートナー 有馬暁氏、 投資担当 矢藤慶悟氏
「この度、石川県立大発スタートアップのファーメランタ社に投資できたことを嬉しく思います。この合成生物学分野では米国を中心に大規模スタートアップが台頭している一方、コストの課題から既存産業の置き換えに至っていないのが現状です。同社は「ファーメランタ」の社名の由来でもある、大腸菌をベースとした革新的な”発酵”技術をもち、植物由来の物質生産法に革命を起こすと確信しています。同社が合成生物領域のグローバルカンパニーになれるよう、全力で支援してまいります。」
Angel Bridge株式会社 代表パートナー 河西佑太郎氏、アソシエイト 三好洋史氏
「ファーメランタ社は、高度な技術力が要求される大腸菌を活用した生産に成功し、既に他社よりも高効率かつ高品質な生産を実現しているフロントランナーです。ビジネスにおける豊富な経験と実績を持つ柊崎CEO、世界的な技術力を持つ南CSO/中川CTO、とビジネスと技術力のバランスが取れている経営陣もファーメランタ社の魅力です。グローバルを舞台に、世の中を大きく変革するメガベンチャーになるポテンシャルを秘めていると確信しており、Angel Bridgeとしてもファーメランタ社のフルポテンシャルが発揮されるように全力で支援していきます。」
Plug and Play Japan株式会社 Director, Food & Beverage / Ventures Analyst 相馬由健氏
「ファーメランタは、今まさに世界で大きな注目を集める合成生物学領域で、柊崎さんの原体験による当該技術への思い、技術による社会貢献を目指す中川さん、南さんの3名の思いが形になったものです。ファーメランタのコア技術による微生物発酵生産は、グローバル市場においてもその独自性が明確であり、非常に大きな可能性を感じています。国内のみならずグローバルでの合成生物学領域およびファーメランタのさらなる成長を信じ、あらゆる支援をさせていただきたいと思います。」
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