トヨタや日立も参画する「フィジカルAI」とは?政府も社会実装を後押しするAI×ロボティクスの新技術を解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤー、そしてそれらを実践・検討する企業の経営者は、常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは「フィジカルAI」です。生成AIの進化が次のフェーズに入り、AIが“考える存在”から“実際に動く存在”へと拡張し始めています。人手不足が深刻化する日本において、フィジカルAIは産業と社会の在り方を大きく変える可能性を秘めた注目領域です。
フィジカルAIとは「AI×ロボティクス」で現場作業を代替・支援する技術
フィジカルAIとは、AIがロボットや機械と結びつき、物理的な世界で認識・判断・行動を行う仕組みや概念を指します。テキスト生成や画像生成といったデジタル空間内で完結する生成AIとは異なり、センサーやアクチュエーターを通じて現実世界に直接作用する点が特徴です。
たとえば、カメラやLiDARなどのセンサーで周囲の環境を認識し、その情報を基にAIが判断を下し、ロボットアームや移動機構を制御して作業を行う──こうした一連の流れがフィジカルAIの基本構造です。近年は、大規模言語モデル(LLM)や視覚言語モデル(VLM)などの基盤モデルの進化により、ロボットがより柔軟で汎用的な行動を取れるようになりつつあります。
つまりフィジカルAIは、「AI×ロボティクス」を高度に融合させ、これまで人に依存してきた現場作業を代替・支援するための中核技術といえます。
高市政権の人工知能基本計画にもフィジカルAIが明記
フィジカルAIが注目される最大の背景は、世界的な人手不足と生産性向上への強い要請です。製造業、物流、建設、介護など、身体的作業を伴う分野では、従来のデジタル化や業務効率化だけでは限界が見え始めています。そこに登場したのが、AIが実際に「動いて働く」フィジカルAIです。
日本では、この潮流を国家戦略として後押しする動きが加速しています。高市政権のもとで策定された「人工知能基本計画」では、AIとロボットを組み合わせたフィジカルAIの開発・導入促進が明確に位置付けられました。計画では、フィジカルAIを人手不足への対応策として社会実装していく方針が示されており、単なる研究開発にとどまらず、実装フェーズを重視している点が特徴です。
さらに、政府はAI関連施策に約1兆円規模の投資を行う方針を打ち出しています。基盤モデルの国産化と並び、フィジカルAIの実装が重要テーマとして掲げられており、政策・予算の両面から強力な追い風が吹いています。生成AIブームの次に、日本が競争力を発揮できる分野として、フィジカルAIへの期待が高まっているのです。
参照ページ:人工知能戦略本部(第3回) - 科学技術・イノベーション - 内閣府
参照ページ:政府、AIに1兆円投資へ 基盤モデル国産化やフィジカルAI実装めざす - 日本経済新聞
物流、建設、医療…フィジカルAIの活躍が期待されている分野
フィジカルAIの活躍が期待される分野は多岐にわたります。
まず製造業では、自律型ロボットによる組立、検査、設備保全などへの応用が進みつつあります。熟練作業者の技能をデータとして学習させることで、柔軟な対応が可能なロボットの実現が視野に入っています。
物流・倉庫分野では、ピッキングや搬送作業の自動化が代表例です。EC市場の拡大に伴い、24時間稼働が求められる現場において、フィジカルAIは不可欠な存在となりつつあります。
建設・インフラ分野では、危険作業の代替や老朽化インフラの点検・保全への活用が期待されています。高所作業や災害現場など、人が立ち入りにくい環境でこそ、フィジカルAIの価値が発揮されます。
さらに医療・介護分野では、介助ロボットやリハビリ支援ロボットとしての活用が進む可能性があります。少子高齢化が進む日本において、介護現場の負担軽減は喫緊の課題であり、フィジカルAIは社会的インパクトの大きい技術といえるでしょう。
フィジカルAIの社会実装を目指す「AIロボット協会(AIRoA)」の取り組み
こうしたフィジカルAIの社会実装を後押しする象徴的な取り組みが、一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)です。AIRoAは、AIとロボット技術を融合し、「ロボットデータエコシステム」の構築を目指す団体として設立されました。
従来、ロボット開発は企業や研究機関ごとにデータやノウハウが分断され、スケールしにくいという課題がありました。AIRoAはこの課題に対し、産業の垣根を超えた大規模なデータ収集と共有、そして基盤モデルの開発・公開を進めることで、汎用ロボットの高度化を狙っています。
理事や会員には、トヨタ自動車や日立製作所をはじめ、AI・ロボティクス分野を代表する企業や研究者が名を連ねています。日本の基幹産業を担う企業が参画している点は、フィジカルAIが一過性の技術トレンドではなく、産業基盤として本格的に育成されようとしていることを示しています。
AIRoAは短期的には基盤モデルとデータセットの整備、中長期的には医療や建設など社会課題解決に資するロボットの実装を目指しており、日本発のフィジカルAIエコシステム形成において重要な役割を担う存在といえるでしょう。
参照ページ:一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)AI×ロボット分野で、ロボットデータエコシステム構築を目指し活動を開始
参照ページ:AIRoA
編集後記
フィジカルAIは、研究テーマから実装フェーズへと移行しつつあります。政策による後押し、産業界の連携、基盤モデルの進化が重なり、日本企業にとっては新たな成長機会となる可能性があります。特に、現場力やものづくりの知見を強みとする日本にとって、フィジカルAIは生成AIとは異なる勝ち筋を描ける分野です。
フィジカルAIは実際の社会課題や産業構造に深く根差した技術であり、日本の将来を左右する重要なテーマです。今後は、技術動向だけでなく、政策や産業連携の動きも含めて立体的に捉えていくことが、ビジネスパーソンにとって欠かせない視点となるでしょう。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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