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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く(52)〜インパクト投資

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く(52)〜インパクト投資

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近年、スタートアップの新しい資金調達法として注目を集めている「インパクト投資」。ファンドから出資してもらう点はVCからの資金調達と同じですが、ソーシングの方法が異なるため、これまで資金調達が難しかったスタートアップにも大きなチャンスがあります。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第52弾では、この「インパクト投資」について紹介します。どのようなメリットが期待できるのか、どのようなインパクトファンドがあるのか紹介するので参考にしてください。

インパクト投資とは?

インパクト投資とは、財務的な収益を追求しながらも、社会や環境に対してポジティブな「インパクト」を創出することを目的とした投資手法のことです。

従来の投資は「リスク」と「リターン」のみを判断軸としてきましたが、インパクト投資ではそこに事業活動によって社会的・環境的な変化や効果を生み出せるか、という新たな軸が加わります。ここで言う変化や効果というのは、測定可能であることも条件です。

インパクト投資の規模は世界的に見ても急速に拡大しており、2022年の市場規模は1兆1640億ドルと推計されました。この予測の数値を発表したGIINのCEOであるAmit Bouri氏は、インパクト投資の可能性について次のように語っています。

「1兆ドルを超える世界的なインパクト投資市場の新たな推定は、成熟し洗練されていく業界にとって重要な節目です。しかし、この数字は業界にとって非常に良い兆候であると同時に、さらなる行動を促すものでもあります。2030年までに国連の持続可能な開発目標を達成し、2050年までにネットゼロ排出を実現するためには、大規模な資本の割り当てと積極的なポジティブインパクトの追求が必要です」

インパクト投資の4つの構成要素

インパクト投資の定義について、前述の市場規模を発表したGIINは4つの構成要素があると言います。それぞれ詳しく見ていきましょう。

意図があること(Intentionality)

Intentionalityとは、インパクト投資に対して明確な戦略や方針を定めていること。事業の中には”結果的に”インパクトが生まれてしまうこともありますが、それはインパクト投資の対象にはなりません。

具体的には、財務リターンやインパクトに関する数値目標を設定し、その実現のための計画を立案・実行することが求められます。

財務的リターンを目指すこと(Financial Returns)

インパクト投資と聞くと、インパクトばかりが注目されがちですが、事業に投資する以上は財務的なリターンも求められます。そのため、インパクト投資家の中にも、財務的リターンを優先するグループと、市場レートより低い達成率であっても社会的・環境的インパクトを優先する2つのグループが存在します。

広域なアセットクラスを含むこと(Range of asset classes)

インパクト投資は特定のアセット(資産)に限定されません。株式・債券・融資・リースなど、さまざまな金融取引が対象とされています。それらは投資活動で得られる経済的リターンのほかに、その投資が社会や環境に与える影響を評価することや、明確な意図をもってインパクト投資を実践することが含まれます。

社会的インパクト評価をおこなうこと(Impact Measurement)

インパクト投資に欠かせない”インパクト”は測定可能でなければならず、投資家たちも主体的に投資活動によって生じた社会的・環境的変化を把握し、価値判断を加えます。そのような「インパクト評価」によって、企業や投資家が事業や投資における影響を把握し、より持続可能なビジネス戦略に繋げられるのです。

インパクト投資と「ESG投資」の違い

インパクト投資と類似の投資手法として挙げられるのが「ESG投資」です。ESG投資とは「従来の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資」のことで、インパクト投資同様サステイナビリティの実現を追求する投資手法です。

よく混同されがちな2つの投資ですが、両者はそれぞれ目的が異なります。ESG投資の目的が「長期的なリスクの削減」と「企業価値の最大化」である一方で、インパクト投資は「特定の社会課題解決」が目的です。

ただし、インパクト投資の中にも経済的リターンをいかに重要視するか濃淡があるため、経済的リターンを重要視する場合はESG投資に含まれることもあります。

スタートアップから見たインパクト投資のメリット

事業を急速にドライブするために、エクイティファイナンスが欠かせないスタートアップですが、その資金調達の手段としてもインパクト投資は大きな注目を集めています。スタートアップから見たインパクト投資の魅力についても見ていきましょう。

社会的・環境的インパクトの最大化

スタートアップの多くは大きな社会課題の解決を目的にしながら、投資家から資金調達をしています。しかし、一般的な投資家は経済的リターンを主目的にしているため、社会的インパクトよりも売上や利益の成長を優先しがちです。

一方でインパクト投資家は、経済的リターンを追求しながらも、一貫して社会的インパクトを主目的にしているため、投資家との会話でもインパクトの議論が多くなります。投資家からインパクト指標の管理などのエンゲージメントを受けることで、スタートアップが継続的に社会的インパクトを生み出すインセンティブとなるでしょう。

資金調達機会の拡大

インパクト投資を受けるということは、中長期的な社会課題解決に繋がるインパクトを作り出し、持続的に成長し続けられるという評価に繋がります。つまり、インパクト投資を受けることで、様々な投資家からの資金調達機会に恵まれるのです。

また、近年は上場企業と投資家との間でも社会的インパクトに対する会話の重要度が増しています。未上場時からインパクト投資を受けながら、社会的インパクトを明確にしておけば、上場してからもインパクト投資家たちとの対話が円滑に進み新たな資金調達へと繋がるでしょう。

インパクトスタートアップとしてのブランド

インパクト投資を受けるということは、社会的・環境的インパクトを生み出す事業を展開していることを、投資家のみならず幅広いステークホルダーへ発信することになります。それは、社会問題・環境問題への関心の高い消費者や求職者に対するブランド価値も向上するため、採用活動や販促活動にもポジティブな効果が期待できます。

実際にインパクト投資を受けたスタートアップは、一般のスタートアップに比べて採用コストを大幅に下げられ、人材が定着しやすいという声が上がっています。

インパクト投資を受ける注意点

一般的な資金調達に比べて、様々なメリットが得られるインパクト投資ですが、それを受けるにはスタートアップにも負担があります。今のリソースの状態で、インパクト投資を受けるだけの準備を整えられるのか見極めましょう。

インパクト投資を受ける重要性の社内の合意形成

インパクト投資を受けるためにはインパクト測定や、その可視化をしなければなりません。リソースの不足しているスタートアップにとっては、業務を続けながらそれらの作業をするのは大きな負担となるでしょう。

そのため、インパクト投資を受ける際には社内の合意形成が必要で、単に資金を得られるだけでなく、どんなメリットをもたらすのか理解してもらわなければなりません。たとえ短期的には大きな負担となっても、中長期的には企業価値の向上やブランド力向上に繋がることを丁寧に説明しましょう。

成長ステージに合わせたインパクト投資との付き合い方

一口にインパクト投資を受けるといっても、その付き合い方は常に一定ではありません。事業フェーズによって、付き合い方を変化させていく必要があるのです。

たとえばミドルステージ以前の、事業が確立されていないフェーズでは、必ずしも事業がどのようにインパクトを創出するのかロジックを組み立てる必要はありません。それよりもどんな社会課題を解決しうるのかビジョンを明確にしておくことの方が重要視されます。

一方で事業が確立されるフェーズでは、事業が社会課題に及ぼすインパクト指標を明確に示すことが求められます。単にロジックを立てるだけでなく、KPIを設定し実現するための体制整備も必要になるでしょう。事業フェーズに合わせながら、うまくインパクト投資と付き合っていく必要があります。

インパクト投資を行っているVC

どのようなVCがインパクト投資を行っているのか見ていきましょう。

MPower Partners

https://www.mpower-partners.com/

MPowerはESGの視点を投資プロセス全体に組み入れながら投資を行っているVCです。特に重点投資分野と捉えているのはヘルスケア/ウェルネス、フィンテック、次世代の働き方/教育、次世代の消費、環境/サステナビリティなど。

リーダーシップチームの構築、Go-to-Market戦略の策定、トップ営業、製品・サービス価値の向上、資金調達など、事業拡大に欠かせない分野で適切な支援をきめ細かく行い、企業価値を高めています。

慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)

https://www.keio-innovation.co.jp/

慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)は、大学VC初のインパクトファンド「KII3号インパクトファンド」を設立しました。デジタルテクノロジーによる社会の革新や、医療・健康などの課題解決に取り組むディープテック系スタートアップを対象に投資しています。

2024年10月をめどに200億円でファイナルクローズを目指すと同時に、ディープテック投資のパイオニアとしてさらにインパクト志向の投資活動を加速していくといいます。

環境エネルギー投資

https://ee-investment.jp/

環境エネルギー投資は2006年の創業以来、環境・エネルギー分野のベンチャー企業に投資を行っています。独自の「ESGスコアカード」と「SDGsインディケーター」を用いて、投資先の成長支援と社会的インパクトの評価を行っています。

同社は日本で初めてグローバルなインパクトVCで構成されるImpact Capital Managersへ2020年に加入しました。また、GSG国内諮問委員会の賛同メンバーとして登録して同委員会の「インパクト志向金融宣言」に署名するなど幅広い視点からインパクト投資への知見を深めています。

日本テレビHD

https://lab.ntv.co.jp/

日本テレビHDは、開局70年となる2023年に始動した「日テレ共創ラボ」を通して、様々な社会の課題に応えるべくインパクト投資を開始しました。映像の力で個人の楽しい時間や体験、企業の成長や社会問題の解決が加速する世の中を目指しています。

インパクト投資の支援を行うケイスリー社による、戦略やプロセスの構築、出資先候補へのインパクト・デューデリジェンスなどの支援を受けながら2023年に第一号投資を実施しました。

編集後記

今や多くの企業が社会課題、環境課題に向けて事業を展開していますが、投資家がそのインパクトを評価しなければ、企業は思うような事業展開ができません。営利団体である株式会社を経営する以上は利益の追求も必要ですが、それ以外の価値を評価してくれる投資家の存在がより求められていくでしょう。社会に大きなインパクトを生み出したいという起業家は、ぜひインパクト投資家の門を叩いてみてください。

(TOMORUBA編集部)

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  • 奥田文祥

    奥田文祥

    • 神戸おくだ社労士事務所
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