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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑨〜アドバンテージ・マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑨〜アドバンテージ・マトリクス

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ビジネスは、どの領域に参入するかである程度収益性が決まります。収益性の低い領域ではどんなに頑張っても限界がありますし、逆に収益性の高い領域では、工夫次第でいくらでも事業を拡大できるのです。事業の目的は利益だけではありませんが、利益を無視して事業をすることはできないでしょう。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第9弾で取り扱うアドバンテージ・マトリクスは、それぞれの事業領域の収益性を分析するフレームワーク。

収益性の高い領域で新規事業を始めたい方、今やっている事業をこのまま続けても大丈夫か不安のある方は参考にしてください。

アドバンテージ・マトリクスとは

アドバンテージ・マトリクスはコンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が考案した、業界の競争環境を分析する手法です。「競争上の競争要因(戦略変数)」と「競争上の競争要因(戦略変数)」を、それぞれ縦軸と横軸に表すことで、事業領域を4つに分類します。


いきなり聞き慣れない言葉が出てきたので、それぞれ詳しく見ていきましょう。

競争上の戦略変数(Number of approaches to achieve advantage)

競争上の戦略変数とは、その業界・企業が扱う製品・サービスの差別化ポイントの多さのことです。消費者が製品やサービスを購入する際に、どれくらい多くの観点で決定しているかを示します。

例えばインターネットプロバイダーを例にとって見てみましょう。プロバイダを選ぶ時は通信速度と料金によって選ぶ方が多いと思いますが、今や通信速度はどこも大差ないため、料金だけで比較する方も多いと思います。料金だけで比較できるので競争上の戦略変数は少ないです。

一方でスマホはどうでしょうか。料金はもちろんのこと、メーカーやサイズ、RAMやROMといったスペック、カメラの性能など様々な点を見ながら選ぶと思います。特に最近では顔認証か指紋認証かで選ぶなど、チェックするポイントがどんどん増えています。比較するポイントが多いので、競争上の戦略変数は多いです。

優位性構築の可能性(size of advantage)

優位性構築の可能性とは、大量生産でコストを下げられる可能性です。規模の経済性の働きやすさとも言えます。

例えばパンを100個焼いて売るのに、10個作る時の10倍のコストはかかりません。材料は10倍必要ですが、大量に購入すれば割引交渉できますし、人件費や水道光熱費も10倍にはなりません。つまり、1個あたりのコストが下げられるため、利益が大きくなります。

ただし、大量に材料を仕入れるには、在庫を保管する場所や管理のコストがかかる上に、大量に作ると売れ残るリスクも高くなります。製造コストや人件費だけでなく、広い視野で規模の経済性が働くか考えましょう。

アドバンテージマトリクスの4つの事業タイプ

「競争上の戦略変数」と「優位性構築の可能性」で分けると、次の4つの事業タイプに分けられます。


①分散型事業

「競争上の戦略変数」は高く、「優位性構築の可能性」が低い左上の領域。製品やサービスを差別化すれば利益を得られますが、大量生産によるコストダウンに向いていない事業です。そのため小規模ではうまみがあっても、大規模になると収益性の維持が難しくなります。

例えば町のパン屋やカフェなどが挙げられます。パン屋を選ぶ時は価格以外に様々なポイントを見て選ぶはずです。パンの味や価格、素材にこだわっているか焼き立てかどうかの他、店の立地や雰囲気、店員の接客など多数に上ります。そのためパン屋は製品の差別化ポイントが多いので、工夫次第で収益を挙げられるのです。

ただし、大量生産してコストダウンしようにも、利益を高めるのは難しいでしょう。大量に原料を仕入れれば多少のコストダウンになりますが、大勢のお客さんがいなければ売れ残ってしまいますし、大勢のお客さんが来ればそれだけ人件費もかさみます。

そのため、町のパン屋は大量生産してコストダウンするよりも、多少高くても質の高さや差別化を狙うのが得策です。

②特化型事業

「競争上の戦略変数」も「優位性構築の可能性」も高い右上の領域。製品やサービスを差別化しやすい上に大量生産によるコストダウンも可能です。差別化により特定の分野で地位を築けるため、規模の大小に関わらず優位性を構築できるのが特徴です。代表的なものに出版業界があります。

出版業界の商品は書籍です。書籍にはファッション誌や漫画、参考書、ビジネス書など多数の種類があります。それぞれの種類の中にも若い女性向けや中年男性向けなど、さらに細かいカテゴリーに分けられます。そのため差別化も容易で、ヒットすれば小規模な出版社でも利益をあげることが可能です。

また、大量生産によるコストダウンも期待できます。たくさん印刷すればするほど、一冊あたりのコストは下がるうえに、パンと違って腐ることもありません。そのため全国で売ることもできる上、出版直後に売れ残ったとしても長期に渡って売れることもあるのです。

差別化に成功して特別な地位さえ築ければ、小規模なままでも高収益を目指せる領域と言えるでしょう。

③手詰まり型事業

「競争上の戦略変数」も「優位性構築の可能性」も低い左下の領域。成熟産業に多く、差別化も大量生産によるコストダウンもやりきったために、これ以上差別化も大量生産によるコストダウンが期待できない状況です。

例えばガソリン業界を見ていきましょう。ガソリンを給油する際にチェックするポイントと言えば、ガソリンスタンドの立地と価格ぐらいしかありません。ガソリン業界は販売会社で在庫を補完し合うシステムがあるため、商品で差別化できるポイントはゼロです。

一方でガソリンを大量生産しようにも、コストダウンは期待できません。ガソリンを大量生産するには莫大な設備投資が必要なうえ、エコカーなどが普及し始めて今、需要が縮小することはあっても拡大することは見込めないからです。費用対効果の高い投資は、既にやりきっているといえるでしょう。

事業が成熟して手詰まりになっている以上、これ以上打つ手はありません。今の収益を維持するか、もしくは撤退を検討しなければいけない領域です。

④規模型事業

「競争上の戦略変数」は低く、「優位性構築の可能性」が高い右下の領域。製品やサービスの差別化が困難なものの、大量生産によるコストダウンが可能な領域です。規模を大きくすればするほど収益を上げられます。半導体や鉄鋼事業が該当します。

鉄鋼や半導体事業で収益をあげようにも、製品の機能性やデザインで差別化するのは難しいため、大量生産によるコストダウンを期待するしかありません。そのため、鉄鋼や半導体における研究や製品の付加価値を高めるよりも製造プロセスの改善に重きが置かれているのです。

アドバンテージマトリクスの活用事例

アドバンテージマトリクスは単に事業の収益性を調べるためだけのものではありません。それぞれの領域の特徴を把握すれば、新しい一手が見えてくるはずです。今回はアドバンテージマトリクスを使って変わりつつある業界を解説していきます。

規模型事業から特化型事業に変わりつつあるコンビニ業界

従来のコンビニ業界は、典型的な規模型事業でした。置かれている商品はどのコンビニも大差ないため、より多く好立地に出店することが事業成功の鍵だったのです。セブン-イレブンは特定地域に高密度に出店する「ドミナント戦略」で、配送コストなどを抑えてきました。規模の経済が働く市場では、最も出店数の多いセブン-イレブンが業界トップを走っていたのです。

しかし、近年コンビニ業界に大きな動きがあります。他社と差別化するために独自のカフェメニューを提供したり、オリジナルスイーツに力を入れています。これまで「どこのコンビニも同じ」だったのが「ローソンのスイーツが食べたい」「セブン-イレブンのコーヒーを飲もう」とブランドごとのカラーが生まれてきたのです。

その中でも特に差別化戦略に力を入れているのはローソンではないでしょうか。コンビニ業界を規模型事業と捉えれば、セブンイレブンよりも多く出店しなければ業界首位は狙えません。となれば、特化型事業と考えて競争優位性を確保する必要があるのです。

ローソンは通常のコンビニの他、低価格に特化して「100円ローソン」や、女性をターゲットに健康的なライフスタイルを提案する「ナチュラルローソン」も展開しています。2014年には成城石井を買収し、富裕層に特化し従来のコンビニエンスストアとは異なった客層で事業成長を狙ったのです。

このように規模型事業であっても、打ち手一つで特化型事業にシフトし、業界トップの牙城を崩すことも可能です。規模型事業の場合は、業界トップに力勝負で勝つのは難しいため、差別化を考えていきましょう。

分散型事業から抜け出したQBハウス

理髪業界は一般的に分散型事業に分類されます。理髪店の魅力は美容師に属人化されやすいため、差別化が容易な反面、多店舗展開してもコストを下げることができないため、規模の経済が働きません。

そんな中、1,000円カットでフランチャイズ方式を持ち込んだのがQBハウス。駅ナカや繁華街で見かける【ヘアカット10分1,000円】の青い看板が目印の理髪店です。属人化されやすい理髪店の魅力を、マニュアルとシステムによりどこでも変わらない高品質なサービスが受けられるようにし、規模型事業を実現しました。

しかし、理髪店の規模型事業を切り開いた以上は、競合の脅威も覚悟しなければなりません。近年、QBハウスに続いて「1,000円カット」を提供する競合他社が増えているのです。QBハウスはそれらの競合と差別化するために、2019年に「1,200円カット」へ値上げしました。

値上げ分を原資に人材に投資し、業界全体で問題となっている「スタイリスト不足」を解消するのが狙いです。理髪業界で新たなビジネスモデルを作り上げたQBハウスが、次はどのような改革を起こすのか注目が集まっています。

編集後記

アドバンテージマトリクスを使えば、それぞれの業界が持つ強みや課題が見えてきます。しかし、それは不変的なものではないことも理解しておきましょう。今は手詰まりとなっている事業も、かつては特化型事業だった時代があったり、規模型事業だった時代もあるなど、時代によって変わっていきます。

逆にいえば、QBハウスのように業界の変革者となれば大きなビジネスチャンスを掴むことも可能です。アドバンテージマトリクスを使う際には分析に終始することなく、どうすればゲームチェンジャーになれるのか、大局観をもってお考えください。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


■連載一覧

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く④〜チャンドラーの「組織は戦略に従う」

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑤〜孫子の兵法

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑥〜VRIO分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑦〜学習する組織

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑧〜SWOT分析

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  • 奥田文祥

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  • 曽田 将弘

    曽田 将弘

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