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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス

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経営戦略を検討する上で、著名なフレームワークとして用いられる「成長マトリクス」。経営学者であるイゴール・アンゾフが提唱したこのマトリクスは、これは「市場」と「商品・サービス」をそれぞれ新規か既存かで分類してマトリクスに落とし込み、成長戦略を考えるツールです。企業の戦略ドメインや将来の事業領域を検討する手法として、現代においても活用されています。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第三弾となる本記事では、アンゾフの成長マトリクスの内容や事例などを掘り下げていきます。

※連載第1回:「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』

※連載第2回:「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略

「経営戦略の父」であるアンゾフが提唱

成長マトリクスは、「経営戦略の父」と称されるイゴール・アンゾフ(1918〜2002)が出版したCorporate Strategy(1965年、邦題「企業戦略論」)の中で提唱されています。

アンゾフは、ランド研究所で米空軍の調達戦略やNATOの戦略分析などに従事した後、ロッキード・エアクラフトの経営企画部に移り、同社の副社長に昇進。そして、大学教員として道を歩めた人物。豊富な経験を背景として、戦略の概念を企業経営の中核に応用しました。

「企業戦略論」でアンゾフは、事業の多角化による成長には戦略性が必要だと訴え、製品・市場という点から事業成長の分析を行う方法論として成長マトリクスを生み出したのです。

「成長マトリクス」とは?

それでは早速、成長マトリクスを詳しく見ていきましょう。成長マトリクスとは、下図のように縦軸に「市場」、横軸に「製品」を取り、それぞれ「既存」、「新規」を区分して、4象限のマトリクスとしたものです。

<図:アンゾフの成長マトリクス>

「市場浸透」戦略

既存の市場に、既存の製品を販売する「市場浸透」は、リスクが低く、ビジネスを展開しやすい戦略と言えます。この戦略の場合、企業は同一顧客の購入頻度を高める、販売ボリュームを増やすといった工夫が必要になります。例えば、セット割引やリピート割引といった価格設定での工夫や、アフターフォローの実施といったサービス上の工夫が考えられます。

「新製品開発」戦略

「新製品開発」は、既存市場に新商品を次々と出して成長していくという戦略です。商品開発を進める中で、研究施設・製造設備・従業員など、新たに投資を進めていくことになり、リスクは市場浸透戦略よりも高くなります。続々と新商品を出していくビールやインスタントラーメンといった事業は、この象限にあてはまります。

「新市場開拓」戦略

「新市場開拓」は、既存の商品を新市場に出して成長していくという戦略です。新市場には2つの考え方があります。一つは、新しいエリアを新市場と捉える考え方。例えば、メーカーが販売網を世界に広げるといったケースが当てはまります。もう一つの考え方は、新しいターゲットを開拓するというもの。男性用の衣料を、ユニセックス商品として女性にも販売するようなケースです。

このように「新市場開拓」戦略は、今までにアプローチしてこなかった新たな市場を掘り起こしていくのですが、事業拡大が見込める市場を特定するためには専門的なリサーチが必要です。そのため、「市場浸透」戦略よりもリスクが高いと考えられます。

「多角化」戦略

「多角化」は、新市場に対して、新商品を開発・販売していくという戦略です。馴染みのない市場・製品領域へと挑戦することになるので、4つの戦略の中でも非常にリスクの高い戦略と言えます。

多角化戦略の4つのパターン

1965年に著書「企業戦略論」の中でアンゾフが提唱した、成長マトリクス。この時代は、経営の多角化がトレンドとなっており、コングロマリット化していく米国企業を見て有効な戦略の必要性を感じ、アンゾフは成長マトリクスを提唱したと言われています。

こうした時代背景から、成長マトリクスの中でも特に「多角化」戦略について掘り下げて研究されており、「水平型」「垂直型」「集中型」「集成型」という4つのパターンに分類されています。大手企業が展開する事業もこれらに分類されるケースも多く、あわせて紹介してします。

水平型多角化

既存の分野と近い業種・業態で事業展開を図るのが、「水平型多角化」です。分野を絞ることで、既存の技術や設備、ノウハウを生かすことが可能であり、既存事業とのシナジー効果の高い戦略と言えるでしょう。トヨタが、軽自動車のダイハツや高級ブランドのレクサス、商用の日野トラックを展開していたり、牛丼の吉野家がうどんのはなまるを運営していたりといった例が挙げられます。

垂直型多角化 

流通チャネルの川上・川下方向への拡大を図るのが、「垂直型多角化」です。自社の調達先や販売先の事業に進出することを意味します。ユニクロを展開するファーストリテイリングが、衣料の自社による委託製造(SPA)を開始したことや、ドトールコーヒーがコーヒー栽培に乗り出すこと、テスラがバッテリー生産に乗り出すことは、「垂直型多角化」の一例です。

集中型多角化

既存の製品・サービスや技術など、コア・コンピタンスを生かしながら競争を優位に進める戦略が、「集中型多角化」です。ダイソンがモーター技術を軸として、掃除機からヘアドライヤー、加湿扇風機に参入している例が挙げられます。

集成型多角化

中核事業の競争力を武器にしながら、一見無関係に見える分野に参入する戦略が、「集成型多角化」です。銀行やメディカルモールを運営するイオンや、旅行や書籍、保険も扱う楽天といった例が挙げられます。「集中型多角化」とは異なり、コア技術を生かせない可能性が高い戦略なので、既存事業とのシナジー効果や事業部の管理が課題となります。

富士フイルムに見る、多角化戦略の事例

これまで説明した「多角化戦略」について、富士フイルムを例にとって解説していきましょう。1934年に誕生した富士フイルムは、写真・映像・素材・複合機・光学機器・ヘルスケアなど、精密科学メーカーとして多くのビジネスを国内外で展開しており、多角化戦略が特徴的です。

富士フイルムの祖業は、社名にも由来する写真フィルム。ユニークなテレビCMなどで一般的にも非常に認知度の高い事業ではありましたが、1990年代以降、携帯電話やデジタルカメラが普及し、市場が縮小。そこで、ほぼ未知の分野とも言える医療や化粧品事業に参入し、収益源の多様化を実現しています。

同社の多角化戦略は、祖業であるフィルム市場が縮小するという外部環境に起因した部分も大きいですが、研究開発力や光学・素材というコア技術を有していたことにより、多角化でも成果を挙げた事例と言えます。

編集後記

今回は、製品・市場の軸で事業を4つの象限に分類して成長戦略を分析するフレームワーク、アンゾフの成長マトリクスについて紹介しました。成長マトリクスは、自社の事業方針を直感的に整理・理解できるフレームワークと言えます。さらに、それぞれの戦略によって成功をおさめている企業がどのような組織やノウハウを有しているか分析することにも活用できます。「新規事業やオープンイノベーションに取り組みたい」といった企業にとっても、戦略決定に寄与できる有用なツールになるでしょう。

TOMORUBA編集部

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