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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑯〜ゲーム理論

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑯〜ゲーム理論

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ビジネスに限らず、私達の人生は選択の連続です。そして、ビジネスでの選択はほとんど全てが他人、つまりは同僚や取引相手、ユーザーの選択との組み合わせによって結果が変わります。私達は周りがどのような選択をするのかも考えながら、意思決定をしていかなければならないのです。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第16弾で取り上げる「ゲーム理論」は、2人以上のプレーヤーがどのような意思決定をするのかを分析する学問のこと。きちんと学習すれば、今後誰がどのような行動をとるのか、それにより自分あるいは社会がどのような利益不利益を被るのか、様々なパターンを考えられるようになります。

今回はゲーム理論とはなんなのか、また有名なゲーム理論の事例をいくつか紹介していきます。成長している企業の多くもゲーム理論を活用しているため、ぜひ参考にしてください。

ゲーム理論とは

ゲーム理論とは、簡単にいえば「二人以上のプレイヤーがあるルールに従って選択をする時、最大限の利益を得るためにどのような行動をするべきか」について考察された学問のことです。

その起源は、20世紀を代表する数学者で現代型コンピュータの生みの親、ジョン・フォン・ノイマンとその友人で経済学者のオスカー・モルゲンシュテルンの考察だと言われています。

1994年以降、ノーベル経済学賞ではゲーム理論に深く関連する分野での受賞が続いており、今では経済行動の分析や実経済を動かすビジネスにも活用され始めました。ゲーム理論で用いられるゲームは、現実の社会生活やビジネスにも似た状況が多いため、経営や交渉の現場でよく用いられているのです。

現にゲーム理論の研究が進んでいるアメリカでは、マーケティング戦略の策定や交渉のためにゲーム理論のスペシャリストを採用するケースも増えています。日本では、まだ「机上の空論」のように扱われることも少なくありませんが、ビジネスの現場にも十分活きる学問だと言えるでしょう。

ゲーム理論を代表する「囚人のジレンマ」

多々あるゲームの中で、最も有名なのが「囚人のジレンマ」です。囚人のジレンマとは、ある犯罪で捕まった容疑者2人が、互いに意思疎通できないよう別の部屋で尋問される状況で、どのような選択をするのか考察したものです。

2人の容疑者がとれる「自白」か「黙秘」のみ。2人の選択によって、2人が受ける罰は次のように変わります。

・2人とも黙秘した場合→お互いに懲役2年

・2人とも自白した場合→お互いに懲役5年

・1人は自白、1人は黙秘した場合→自白した人は無罪、黙秘した人は懲役10年


このような状況で、2人の容疑者がどのような選択をとるのか考えていきましょう。全体でもっとも刑が軽くなるのは、お互いに黙秘して「二人とも懲役2年」になることです。しかし、もし自分が黙秘をして、相手が自白すれば自分の懲役は10年になってしまいます。一方で、自分の利益を優先して自白を選択した場合、相手が自白をしても懲役5年、相手が黙秘すれば自分は無罪となります。

全体の刑が軽くなる選択は何か分かっていても、自分の利益を考えて意思決定することで、全体として不利益を被ってしまうことになります。このように個人の「効用」を追い求めた結果、全体としては効率的ではない現象を「囚人のジレンマ」と言います。

人事戦略でも用いられる「マッチング理論」

次に紹介するゲームは、Googleの人材配置にも活用されたことで注目を浴びた「マッチング理論」です。2012年には、米スタンフォード大学のアルヴィン・ロス教授がマッチング理論研究の功績を評価されてノーベル経済学賞を受賞するなど、学術界でも注目の高い分野です。

マッチング理論は複数の人の好みや希望を考えて、最適なペアづくりを考察するゲームです。価格だけでは受給が決まらない市場で、最適な資源配分(マッチング)を目指すのが大きな特長の一つ。みんなが1番利益を受けられるように(時には競争的な状況下で)戦略的に行動する前提で考えていきましょう。


男女のパートナー選び

マッチング理論で最も有名なのが、男女のパートナー選びの話です。男女それぞれ3人で婚活パーティをする際に、下記のような特長がある前提で考えていきます。

女性(A):ルックスもよくて家事もできる

女性(B):ルックスはよいが、家事はできない

女性(C):ルックスはよくないが、家事はできる

男性(A):年収2,000万円

男性(B):年収1,000万円

男性(C):年収500万円

昔の経済学で考えると、一番お金を持っている男(A)が最初にパートナーを選べることになります。なぜなら、男(A)が他の男性人よりも、高い金額を提示できるからです。もし男性陣が全員女性(A)と結婚したいと思った場合、「男性(A)/女性(A)」のマッチングがベストになってしまいます。

しかし、結婚相手を選ぶ条件は年収だけではありません。もしも女性(A)が男性(C)との結婚を望んだ場合、「男性(A)/女性(A)」はベストなマッチングではなくなります。この時に、しっかり女性(A)の気持ちを考慮し、「男性(C)/女性(A)」というペアが生まれるようにするのがマッチング理論です。

「男性(C)/女性(A)」のペアができれば、2人にとっては最適な組み合わせができましたが、残りの4人についても考慮しなければいけません。マッチング理論では最適なペアを作るために、「安定性」と「対戦略性」2つの条件を満たす必要があると言われています。

安定性のあるマッチング

安定性のあるマッチングとは「マッチングの結果に不満を持つ人がいなくなる」状態のことをいいます。例えば、上の例で次のような前提が追加された場合を考えましょう。

①男性(A)は、女性をルックスで選ぶ

②女性(B)は、男性を年収で選ぶ

男性(A)は「男性(C)/女性(A)」のペアができた後、女性(B)を選びます。女性(B)は男性(A)が本命なので相思相愛です。男性(B)と女性(C)は他のペアに割り込む余地がないため、二人でペアになります。つまり、次のようなペアが安定的なマッチングです。

男性(C)/女性(A)

男性(A)/女性(B)

男性(B)/女性(C)

もし、男性(A)と女性(C)のペアが生まれたとしたら、それは不安定なマッチングです。マッチング不安定だと、マッチング事態が崩壊する可能性が生じます。このケースで言えば、後から男性(A)と女性(B)が浮気に走るような事態です。安定的なマッチングであれば、それぞれ浮気の原因がなくなります。

対戦略性のあるマッチング

対戦略性があるとは「嘘をつく理由がない状況」のことを言います。嘘をつく状況とは「第1希望ではなく、あえて第2希望を言う」ようなことです。例えば上記のケースで考えてみましょう。

男性(C)は、本当は女性(A)が第1希望にも関わらず、「他の男性に年収が劣っているから」と思い、第2希望の女性(C)を第1希望と言いました。第1希望が難しいと思った時に、第2希望を伝える戦略を取る人は少なくありません。このような戦略をとらせないことが「対戦略性」です。

対戦略性をとるには、嘘をつく理由をなくせばいいのです。嘘をつく一番の理由は「第1希望が叶わないと、他の候補が埋まって選べるものがなくなること」。つまり、素直に第1希望を言っても、第2希望がちゃんと考慮されるようなシステムにすることが重要です。

例えば男性(C)が素直に女性(A)を第1希望と伝えたものの、女性(A)は男性(A)を選び「男性(A)/女性(A)」のカップルが成立します。男性(C)は女性(C)が第2希望で、女性(C)も男性(C)が第1希望でした。しかし、男性(B)が女性(C)を第1希望に選んだので、女性(C)は渋々男性(B)を受け入れたとします。

男性(C)は仕方なく、女性(B)を選ぶしかありません。このような事態を避けるためにも、男性(C)は最初から女性(C)を第1希望だと嘘を言う戦略をとるのです。このような事態を生まないためにも、「早いもの順をやめること」が重要です。

早いもの順をやめるとは、具体的には「全てのペアを保留状態にしてマッチングを続けること」です。例えば、女性(C)は男性(B)を受け入れましたが、その後男性(C)を選び直す機会があればいいのです。

このように全てのペアが最適な状態に落ち着くまでペアが確定しない方法を「受入保留方式」と言います。それを含めて、ベストなマッチングの方法を考えることを「メカニズムデザイン」と言います。

どうすれば社員全員が納得できる部署で働けるか考えるのも「メカニズムデザイン」です。部署の配置を考える時に参考にしてみてください。

オークション理論

次に紹介するのは、フェイスブック広告を支えているとも言われる「オークション理論」です。1996年と2020年にはオークションに関する研究が、ノーベル経済学賞を受賞し、注目を集めている分野。オークション理論とは、落札の過程を分析して、適切な価格で望ましい人へ商品・サービスが落札されるにはどうすればいいか考察ゲームのことです。

例えば公共工事は、オークション方式で入札が行われます。一番安く入札した会社が仕事を受注できますが、その会社が本当に工事をできるのかも考えなければいけません。安く落札したせいで、社員の給料が払えず工事がストップしてしまっては本末転倒です。「安いけど、ちゃんと仕事もしてくれる会社」を選ぶ仕組みが重要になります。

オークション理論の概要を説明したところで、オークションの種類についても見ていきましょう。オークションには大きく「公開入札」「封印入札」があります。


公開入札

公開入札とは、公の場所で行われる競売のことで、周りの参加者が提示している価格が分かる入札方法のことです。マグロの競りをイメージすると分かりやすいでしょう。

この公開入札もさらに「競り上げ方式」と「競り下げ方式」の2種類があります。競り上げ方式はよく見るオークション方式で、参加者が最低価格から徐々に価格を競り上げていきます。最後に1番高い落札価格を言った人が落札できます。

一方で競り下げ方式は、徐々に価格を下げていく方式です。途中で買い手が現れれればその場で取引成立です。価格が下がりきっても入札がなければそこでオークションも終了します。オランダの生花市場で行われているため「ダッチオークション(オランダ方式)」とも言われます。

封印入札

封印入札とは、参加者たちが周りの人の提示価格を知ることができないまま入札する方式のことをいいます。ビジネスシーンでよく用いられる方式で、企業はいくらで入札したいか伝えたら、後は結果を待つだけです。

封印入札にも「第一価格方式(ファーストプライス・オークション)」と「第二価格方式(セカンドプライス・オークション)」があります。第一価格方式とは、1番高い(もしくは安い)価格を提示した人が落札する方式です。

第二価格方式は、一番高い(安い)価格を提示した人が落札するのは第一価格方式と変わりませんが、支払金額は2番めに高い(安い)価格となります。1996年にノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・ビックリーが考えたことから「ビックリー入札」とも呼ばれています。

第二価格方式はネット業界でも浸透している入札方法で、WEB広告の入札などでもよく用いられています。2002年にGoogle AdWordsで第二価格方式を採用したことで注目を集めました。

このように様々な方式のオークションがある中で、参加者がどのような意思決定をするのか、またはどうすればお得に入札できるかを考えるのが「オークション理論」です。ビジネスの世界にもたくさんのオークションが存在するので、主催者・参加者それぞれの立場になって考えてみましょう。

編集後記

今回はゲーム理論の中でも、ビジネスと親和性の高いゲームを紹介しましたが、他にも様々なゲームが存在します。特殊なルールの中での出来事だと思うかもしれませんが、似たような事例は日常生活やビジネスに溢れているものです。世の中の出来事に照らし合わせて考えてみると、特定の条件下で人がどのような行動を取るのか把握しやすくなるでしょう。

特にビジネスをしていると、自分たちにとって都合のいい事態を想定しがちです。しかし、その多くは間違っており、ビジネスを窮地に立たせる原因になっています。ある判断に対して様々なパターンを予測しておくことで、次のアクションにもすぐに移れるでしょう。本質的に人を理解したい方は、ぜひゲーム理論を学んでみてください。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


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