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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑪〜PEST分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑪〜PEST分析

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ビジネスを持続的に成長させるには、その市場のことを詳しく知る必要あります。市場を理解せずに参入しようとしても、一時的にはうまくいっても成功は長続きしません。しかし、闇雲に市場のことを調べても、どう自分のビジネスに活かせばいいか分からないという方も少なくないのではないでしょうか。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第11弾で取り上げる「PEST分析」は市場の変化を分析し、自社のビジネスに活かすためのフレームワーク。これから参入する市場、もしくは既に参入している市場がこれからどうなるか気になる方は参考にしてください。

PEST分析とは

PEST分析とは、経営学者でマーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラー氏が説いた外部環境を分析するためのツールです。コトラー氏は「調査をせずに市場参入をしようとするのは、目が見えないまま市場参入をするようなもの」として、外部環境の重要性を説きました。

PESTとは、以下の4つの要因の頭文字のことです。

P:Politics(政治的要因)

E:Economy(経済的要因)

S:Society(社会的要因)

T:Technology(技術的要因)


それぞれを細かく分析することで時代にあった製品やサービスの開発ができ、生き残りを図ることができると言われています。それぞれ何を意味するのか見ていきましょう。

政治的要因(Politics)

産業界を規制する法律や規制など、単独でのロビー活動でコントロールできない決定事項や変化。国会での審議状況、国際世論、政局の動きなどは、自社でコントロールすることができず、経営方針や戦略に大きな影響を与えます。

経済的要因(Economy)

国内外の経済状況など、自社の経営活動ではコントロールできない経済活動の動向。景気や家庭あたりの可処分所得、消費者人口や労働力、企業の設備投資・購買力、支出パターンなどはコントロールできず、売上や利益に大きな影響を与えます。

社会的要因(society)

社会的課題など、自社単独の(広い意味での)社会貢献活動だけではコントロールできない社会の動き。消費者の価値観や知覚、好み、態度、企業の倫理観やポリシーなどはコントロールできず、自社のビジョンや社会的役割に大きな影響を及ぼします。

技術的要因(Technology)

技術革新など、自社単独の研究開発活動だけではコントロールできない技術トレンド。テクノロジーのスピードや方向性、研究開発投資総額などは自社でコントロールず、商品開発やビジネスモデルに大きな影響を与えます。

なぜPEST分析が必要なのか

ビジネスをしていく以上、外部環境への適応は欠かせません。一時的な成功に満足し、外部環境の変化に目を向けなければ、次第に業績が下がっていくのは目に見えています。特に現代は「VUCAの時代」と呼ばれ、社会の変化が急速な上に不透明な時代。予測していなかった社会変化が、自社のビジネスを窮地に立たせることも珍しくありません。

PEST分析は、数ある社会の変化の中から、自社業界が受ける変化や影響を4つの観点から正確に洗い出し、成長するための戦略を導き出すための分析方法です。自社ではコントロールできない社会の変化を具体的に洗い出すことで、今後起こりうる外部環境の変化を予測し、新たな環境下でも対応できるような体制を整えられます。

正しくPEST分析が行えていれば、社会の変化によって自社業界にネガティブな影響を及ぼそうとも、ダメージを最小限に抑え、経営面での破綻を防いでくれるでしょう。未来を確実に予測することはできませんが、PEST分析に則って情報を集めることで、変化のカギとなる兆候を見つけられるはずです。

PEST分析の進め方

PEST分析は一見シンプルなので、すぐにPEST情報について調べたくなります。しかし、分析を効果的に行うには、調査の前にもやらなければいけないことがあります。PEST分析の流れを紹介するので、ぜひ順を追って調査を行ってください。

①目的の設定

単に4つの項目に調査しただけで、効果的な分析はできません。何のために外部環境を調べるのか明確にしておかないと、情報を集める事自体が目的になってしまいかねません。PEST分析の目的は主に、外部環境の変化から「事業機会を見出す」か「自社が抱えるリスクを見出す」のいずれかです。

それぞれ自社が置かれている個別の事情を照らし合わせて、目的を具現化していきましょう。闇雲に情報を集めても、どのように自社の戦略に活かすか見いだせなければ意味がありません。常に目的を意識しながら、自社の戦略に繋げることを考えて分析しましょう。

②4つの要因を調べる

目的が明確になったら、4つの要素に該当する情報を集めます。情報の集め方は各種メディアや関係各所へのヒアリングなど、様々な方法がありますが、ある程度的を絞って情報収集しないと情報の海を漂流することになります。

情報収集に慣れていない方は、調査する市場の業界団体や学会、リーダー(大手企業)の研究所などが発行している市場調査のレポートを活用するといいでしょう。ただし、大手企業が発表しているからといって鵜呑みにはせず、反対意見がないか、根拠となるデータがないかなど、幅広く意見を集めて検証しましょう。

③機会と脅威に分ける

集めた情報を「機会」の側面と「脅威」の側面からそれぞれ見ていきます。情報は基本的に発信者の主観と意図が含まれているため、安易に鵜呑みにしたり、一面的な味方をすると視野を狭める恐れがあります。集めた情報を「事実」と「分析」に分けて、フラットな視点で情報で見ましょう。

その上で集めた情報を様々な切り口で分析していきます。「自社にとって都合のいいことと悪いこと」や「変化が起きるのが近い将来か遠い将来か」などで分類して、情報の優先度や重要度を決めていきます。一見、自社にとって脅威に見える事象も、見方を変えると機会になることもあるので、多角的な視点で考えましょう。

④時間軸に落とし込む

集めた情報からどのような変化が起きるか予測できたら、それらを時間軸に落とし込んでみましょう。既に起きつつある変化と10年後に起きると予測されている変化では、必要な対応が全く違います。短期的な課題は施策の見直しだけで解決できるものも多いですが、長期的な課題は構造的な問題を孕んでいるため、慎重に対策を練らなければいけません。時に人は短期的な課題にばかり着目しがちですが、長期的な課題こそ目を背けず対策を講じなければいけません。

また、トレンドも大きく「一時的なもの」と「中長期にわたり続いていくもの」があり、適切に判断しなければなりません。一時的なトレンドであれば、あえてのらないという選択肢もありますが、中長期的なトレンドであれば対策が必要不可欠です。「いつ起きる変化なのか」に加えて、「どれだけ続くトレンドなのか」も見極めましょう。

PEST分析を行う上での注意点

PEST分析は扱う情報の範囲が広いため、教科書的に進めてしまうと全く役に立たない情報の集まりができてしまうリスクもあります。しっかり、事業に活かすための分析をするためにも、次のことに注意してください。

課題にフォーカスする

PEST情報を集める際には、どんな問題意識を持っているのか、領域を絞って情報収集しなければなりません。既存事業におけるPEST情報なのか、これから新規参入する市場のPEST情報なのかで、必要な情報も変わってきます。どんな課題を解決するためのPEST分析なのか意識して情報を集めましょう。

特に情報収集は際限がないため、目的意識がなければ永遠に終わりません。目的に応じて情報収集する期間やリソースを決めておかないと、いつまで経っても情報収集を繰り返し、それで満足してしまうことも少なくありません。どんな情報をどれくらい集めればいいのか、予め決めておきましょう。

変化に着目する

PEST分析で最も重要な着眼点は「変化」です。単に市場の現状を把握するだけでなく、過去と比べてどのような変化が起きているのか、これからどのような変化が起きようとしているのか考えましょう。変化が起きる原因を把握することで、より立体的に分析が可能になります。

市場の変化は独立的に起きているものではありません。必ず原因があり、一つの変化が別の変化の原因になるものです。その法則が分かってくると、今起きている変化から次に起きる変化を予測できるでしょう。

他のフレームワークと併用する

PEST分析はあくまで外部環境を調べるものです。自社の戦略に活かすには、他のフレームワークと連携するとより効果的です。例えばSWOT分析は、外部環境と内部環境を組み合わせて、戦略を構築していくフレームワーク。PEST分析で調べた外部環境をSWOT分析(https://tomoruba.eiicon.net/articles/2124)に利用すれば、より深い分析ができるでしょう。

4つの項目の関連性を意識する

PEST情報はそれぞれが独立して起きているとは限りません。項目を一つずつ見ずに分析をすると視野が狭く、表面的な変化しか見えてきません。例えば、技術の進歩が人々の価値観を変化させ、それが経済活動に影響を与えたことで法律が変わる、と言ったように、4つの項目は完全には切り離せません。集めた情報を俯瞰し、関係性を考えながら分析しましょう。

情報に流されすぎない

PEST分析での情報収集はとても手間のかかる作業です。慣れてくれば効率的に情報収集できますが、最初のころはどれが必要な情報なのかも分からず、途方に暮れてしまうかもしれません。大量の情報に触れることで心理的にバイアスがかかってしまい、適切な分析ができなくなってしまう恐れがあります。情報をしっかり集める必要はありますが、鵜呑みにしないこと、フラットな視点を失わないことを意識しておきましょう。

斬新なアイディアは期待しない

PEST分析だけで、会社を大きく成長するような斬新なアイディアが出るとは思わない方がいいでしょう。PEST分析はあくまで外部環境を把握すための手段なので、既に競合他社も同じ情報を持っている可能性も低くありません。だからといってPEST分析が不要なわけではないのも事実です。「PEST分析をしても新しいアイディアは生まれなかった」と落ち込むのではなく、PEST分析の結果を他のフレームワークに応用して戦略を立案しましょう。

PEST分析の実例

PEST情報をうまくビジネスに活かした実例を、それぞれの観点から見ていきましょう。

酒税増税と第3のビール

まずは、政治的な変化をうまく利用した事例として「第3のビール」を紹介しましょう。今や一般的に飲まれている「第3のビール」の誕生の裏には、酒税の増税があります。お酒にかかる税=「酒税」はお酒の種類によって違う税率が定められています。ビールは他のお酒に比べて酒税が高く設定されていたため、飲料メーカーはビールよりも麦芽の割合を下げて「発泡酒」として発売していました。ちなみに原料の3分の2以上に麦芽を使っているものをビール、それより少ないものが発泡酒です。

その安さから人気を博していた発泡酒ですが、2003年の酒税法改正により税率が上がることが決定。「安さ」が魅力の発泡酒は、値段が上がれば消費者も離れてしまいます。そこで飲料メーカーが考えたのがビール、発泡酒に次ぐ「第3のビール」です。第3のビールは麦芽が使われていない、もしくは発泡酒に別のアルコール飲料を混ぜて作られており、いずれにしても「ビール」「発泡酒」に分類されません。これにより飲料メーカーは酒税の増税による消費者離れを回避したのです。

人件費の高騰とオフショア開発

システムやアプリのなどの開発を海外の会社に委託する「オフショア開発」。様々なメリットがありますが、その中でも大きなものが「人件費の削減」です。日本よりも人件費の安い国に開発を依頼することで、コストカットが望めます。

これまでオフショア開発で人気の国と言えば「インド」と「中国」でした。高い技術力を持ちながら、人件費が安かったのです。しかし、ここ近年の経済成長に伴い、いずれの国も人件費が高まっています。そのため、コスト削減だけを目的にしていた企業は、ベトナムやフィリピンといったさらに人件費の安い国にシフトしているのです。経済的な変化をうまく読み解かなければいけない戦略と言えるでしょう。

家庭環境の変化とレトルト食品

ここ近年、レトルト食品や調理キットの種類が増加し、スーパーなどでも多くのスペースを占めています。昔は専業主婦の家庭が多かったため、料理はゼロから調理し、レトルト食品などのニーズはあまり高くありませんでした。

しかし、徐々に女性が社会進出を果たしたのに加え、独身世帯も増えたため、徐々に専業主婦の家庭は減り、早く簡単に調理できる商品のニーズが高まっているのです。「ゼロからは調理したくないけど、出来合いのものばかりではイヤ」というニーズが表すように、レトル食品や調理キットの売上が伸びています。

AI、ドローン技術の発達とドライバー不足問題

配達業界において、ドライバー不足は深刻な問題になっています。オンラインで買い物する人が増えたことに、配送する商品は増える一方でドライバーが全く足りないのです。そこで解決の鍵を握るのが、AIとドローンです。

どのようなルートを通って配達するかは、配達時間に大きく左右し、ベテランと新人では作業効率が大きく差が出ます。新人でも最適なルートで配達できるよう、AIが分析して提案する技術が広がりつつあります。もし普及すれば、今と同じ人数のドライバーでも、これまでより高い効率で配達できるようになるでしょう。

また、ドローンを使った配達にも期待が集まります。離島や山間部の家に配達するのに、わざわざ人が運ぶのは非効率的でした。もしドローンで配達できるようになれば、ドライバーがいなくても配達できるため、ドライバー不足を解決する糸口になるでしょう。新しい技術に即してビジネスを再構築しなければいけない事例と言えます。

編集後記

今は技術の進歩はもちろん、人々の生活様式や価値観も多様化し、ビジネスのライフサイクルはどんどん短期化しています。時代の流れを「点」で見ていては、長期的に発展するビジネスを構築するのは難しいでしょう。時代の流れを「線」で捉え、時代の変化に対応できるビジネスを構築していかなければなりません。

そのために、PEST分析は非常に有効な手段です。PEST分析だけで新しいビジネスが生まれるわけではありませんが、PEST分析で得た発見が時代の変化に強いビジネスを支える土台となるでしょう。最初は情報収集に苦労するかもしれませんが、これから起きるチャンスをものにし、リスクを回避するために、ぜひPEST分析にチェレンジしてみてください。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


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