TOMORUBA

事業を活性化させる情報を共有する
コミュニティに参加しませんか?

AUBA
  1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』

  • 11860
  • 11804
  • 1674
6人がチェック!

経営学を学んだことがある方なら誰もが聞いたことがあるマイケル・ポーターの『5フォース分析』。5つの競争要因が描かれたフレームワークはとても有名です。しかし、5つの競争要因が何を意味しているか知っていても、分析までできている方、さらには実際にビジネスに活かせている方はどれくらいいるでしょうか。

マイケル・ポーターが1980年に出版した自著の中で提唱した5フォース分析ですが、決した埃を被ったフレームワークではありません。むしろ、ものすごい速さで各業界の構造が変化している今の時代だからこそ、生き抜くために必要な分析だとも言えます。

しかし、5つの競争要因を「穴埋め問題」をしているだけでは、ビジネスを成長させる糸口は見えてきません。TOMORUBAの新シリーズ「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】の第一弾となる本記事では、5フォース分析を行う目的や、それぞれの競争要因からどのような判断ができるのか紹介していきます。

5フォース分析とは

5フォース分析とは、5つの競争要因(5つの力とも言う)から「魅力的な業界か」「業界に働く特有の力学」を分析するためのフレームワークです。5つの競争要因とは次の要素となります。


5つの競争要因について詳しく調べるのは、それなりに骨の折れることですが、気をつけなければいけないのは、「5つ箱を埋めて分析した気にならないこと」です。重要なのは5つの競争要因を調べた後に、自社のビジネスにどう活かすか考えることを忘れないようにしましょう。

5フォース分析をする目的

そもそも5フォース分析はなぜ行うのでしょうか。目的もなく5つの箱を埋めるだけでは、自身のビジネスに活かすことはできません。5フォース分析は業界の様々なことが分かりますが、その中でも特に「利益を生み出しやすい業界なのか」、「業界内の競争における力学」を分析するのに長けています。

新しい市場に参入する際には、その市場の利益構造を理解しておく必要があります。もしも利益を生み出しにくいと判断した場合には、参入しないという決断も必要になるかもしれません。また、既に参入している市場の場合、どのような競争が生まれているのか正しく把握する必要があります。業界内での競争の力学を把握しておくことで、リスクを回避し、収益力を上げるヒントを得られるからです。


業界全体の利益の上げやすさの分析

新しい市場に参入することを考えた場合、できるだけ「売上を上げやすく」「コストが下げやすい」市場を狙いたいと思うのは当然のこと。5フォース分析は、そのような願望をフレームワークに反映しています。業界全体の利益の上げやすさを分析する際には、まず「買い手の交渉力」と「売り手の交渉力」を見ていきます。

①買い手の交渉力

買い手の交渉力の買い手とは、商品やサービスの「販売先の業界」のことを指します。開発会社であれば、自社サービスを持つIT企業などが当てはまるでしょう。どんな企業が「買い手」になるのか、細かく設定するほど分析も細かくなります。買い手が複数ある場合は、それぞれ分析していきましょう。

買い手が定まったら、買い手の業界の現状や自分がいる業界の関係性について見ていきます。例えば買い手の業界が右肩上がりであれば、自分の商品やサービスの需要が増えて値上げの交渉がしやすくなる可能性があります。逆に自社業界のコモディティ化が進んでいると、買い手は価格でサービスを選ぶため、価格競争が激化し買い手との交渉力を失うことになります。

自身の業界だけでなく、買い手の業界も分析することで「売上の上げやすさ」をよりリアルに判断することができるようになります。もし今の買い手では売上が上げづらい場合には、別の買い手を探すのも一つの手でしょう。

②売り手の交渉力

売り手は、買い手とは逆に部品や材料を供給してもらう業界のことを指します。買い手の業界から見れば、自分たちが売り手となります。買い手の交渉力と同じように、売り手の業界や自分の業界との関係性を分析することで、「コストの下げやすさ」が分かります。

例えば売り手が特殊な技術を必要とし、替えがきかない場合は売り手の交渉力が強くなり、コストが下げづらくなるでしょう。また、売り手業界に「デファクトスタンダード」となっている強い事業者がいる場合も、売り手の言い値で調達せざるを得なくなります。「スイッチングコスト(競合の製品に切り替えるために必要な負担)」が高いことも売り手の交渉力を高める要因となります。

フレームワークの横の関係にある「買い手の交渉力」と「売り手の交渉力」を分析すれば、「売上の上げやすさ」「コストの下げやすさ」が分かり、「利益の上げやすさ」が見えてきます。魅力的な市場を探すのにも使えますし、「売上が上がりづらい要因」「コストが下げづらい要因」がわかれば、解決して新しいビジネスチャンスを生み出すことも可能です。

業界での競争を分析する

業界全体の利益の上げやすさだけが分かっても、業界の魅力を理解することはできません。業界の利益は自社だけで独占できるわけではないため、業界内の力学も把握していることが重要です。どんなに利益が上げやすくても、競合がたくさんいて新規参入者が増え続けている業界では、自社の利益を確保するのは難しいでしょう。

業界内の競争の力学を分析するには、フレームワークの縦のラインである「既存同業者との競争」「新規参入の脅威」「代替品の脅威」を分析していきます。

③既存同業者との競争

当たり前の話ですが、業界内の競争が激化すると、いずれ価格競争がおきて自社の利益は圧迫します。コモディティ化が進んでいる業界や、業績のいい競合がいれば、たとえ業界の利益は大きくなっても自社の取り分は小さくなる可能性が高くなります。どのような競合が成長しているのか、なぜ成長しているのか分析してみましょう。

④新規参入の脅威 

業界内の利益は、必ずしも既存のプレーヤーだけで配分されるわけではありません。業界に新規参入する企業がいれば、それだけ自社の取り分が減る可能性があります。参入障壁が低い業界であれば、新規参入者が増えやすいため、競争が激化しやすくなります。逆に法規制が厳しかったり、莫大な初期投資が必要な場合は参入障壁が高く競争が激化しづらいでしょう。

⑤代替品の脅威

代替品とは、商品やサービス自体は異なるものの、提供する価値が同じ商品やサービスのことを指します。例えばカメラ業界やゲーム業界は、「スマホ」が代替品となって業界の利益を奪われました。最近は新しいテクノロジーを活用した新しいサービスが、既存の市場をディスラプトするケースが増えています。既存のビジネスモデルの競合だけを見て業界構造を理解した気でいると、思わぬ代替品に市場全体を奪われかねません。

新しいサービス、新しいテクノロジーが次々と生み出される現代、最も脅威となるのは代替品と言えるかも知れません。意外な商品やサービスが、自分たちの市場の利益を奪っていることもあるため、自社の業界だけでなく他の業界にも目を光らせておく必要があります。逆に言えば、他の業界品の代替品となる商品やサービスを作れば、新しいビジネスチャンスを見つけることが可能です。

iPhoneを中心にスマホ業界を5フォース分析してみる

実際にiPhoneを事例にスマホ業界で5フォース分析を行っていきましょう。一般的なスマホメーカーに対してiPhoneはどのような戦略を行っているのか比較していきます。


①買い手の交渉力(量販店、ユーザー)

一般的にスマホメーカーの場合、量販店を通して市場に流通します。そしてメーカーと量販店の力関係を比較すると、量販店の交渉力が強いと言えるでしょう。スマホの売上を左右する量販店は、メーカーに対して強くの条件を提示することができ、メーカーもまたそれを断ることはできません。メーカーはオンラインで直販することもできますが、量販店の顔色を伺って量販店での販売価格から大きな値下げをすることもできません。

その点、Appleは量販店に対して強い交渉力を持っていると言えます。その源泉となっているのがApple Storeをはじめとする自社の強い販売網。量販店に依存しなくても自分たちで商品を流通できるため、量販店に対して強い交渉力を発揮できるのです。

また、Appleはユーザーに対しても強い交渉力を持っています。Appleは製品の特徴ではなく、世界観や思想を訴求するブランディングによって、「スマホ」ではなく「iPhone」が欲しいと思わせることに成功しました。そのため、iPhoneは強気の価格設定でも売上を伸ばしてきたのです。

Appleの交渉力の源泉はブランディングだけではありません。iPhoneユーザーの中にはMacやiPodといった他の製品や、iCloudやAppleMusicなどのサービスと併用している方が多くいます。Appleの製品は他のApple製品と併用することでその真価を発揮するため、スマホだけを他社に乗り越えるハードルを高くしているのです。Macユーザーの中には、Macとの相性がいいためにiPhoneを選んでいる方も少なくないでしょう。

②売り手の交渉力(部品メーカー、OS・CPUメーカー)

スマホメーカーにとっての売り手は、部品メーカーの他、OSやCPUのメーカーが挙げられます。Apple以外のスマホメーカーはAndroidを使っていますが(Androidは世界シェア8割超え)、Googleに対して強い交渉力を持てるメーカーはそういないでしょう。Appleは自社でiOSを開発しているためOSに関して交渉する必要がありません。OSに限らず、Appleはスマホのスペックを決めるチップやCPUも自社開発に切り替えています。スマホのコアとなる部品を自社開発することで、売り手との交渉自体を少なくしていることが分かります。

スマホ業界全体を見ても、売り手に対しては強い交渉力を持っていると言えます。スマホ部品は次々に新しい技術が登場し、競争が激化しています。中国では低コストの生産も行われており、価格競争も起きているため部品メーカー業界の交渉力が下がっていると言えるでしょう。

③既存同業者の脅威(他社スマホメーカー)

日本では現在シェア1位のiPhoneですが、世界でのシェアは2位。世界でトップシェアを誇るのは、韓国のSamsungです。日本でもGalaxyシリーズが人気なものの、国内シェアは4位にとどまっています。ただし、アメリカではAppleの牙城であったハイエンドモデル市場に食い込むことに成功し、真の競合だと言えるでしょう。Samsung以外にも世界トップシェア3位の中国Hueweiの動向も見逃せません。世界のスマホ市場はこのトップ3社でシェア50%を超えており、激しい戦いが繰り広げられています。

業界のトレンドを見ると、これから5Gスマホの競争が起きると予想されます。高速通信が期待される5Gですが、5Gに対応した端末でなければその恩恵は受けられず、これから買い替えの需要が高まるはずです。スマホ市場は既に飽和しており、市場も頭打ちだったため、転換期となる5G競争を勝ち取ったメーカーが、次の時代で大きな存在感を持つのは間違いありません。Appleにも5G対応のiPhoneリリースの期待が集まっています。

④新規参入の脅威(新興スマホメーカー)

スマホ業界の参入障壁は決して高くありません。半導体チップを提供する米クアルコムが、QRD(Qualcomm Reference Design)と呼ばれるスマートフォンの設計図の提供を開始したことが背景にあります。QRDを使えば誰でもスマートフォンを製造できるようになり、それを最も活用したのが中国の新興メーカーたちです。OPPO(オッポ)やVivo(ビボ)のように、スマホメーカーに転身して急成長する企業が現れています。Appleも中国の新興メーカーたちに脅威を感じていることでしょう。

⑤代替品の脅威(スマートウォッチ?)

カメラやゲーム機の代替品として、様々な市場をディスラプトしてきたスマホですが、いずれスマホも代替されることも考えられます。電話やLINE、Suicaなどは既にスマートウォッチの機能として搭載されているため、代替品として考えられるでしょう。AIスピーカーと組み合わされれば、より多くの役割を果たすはずです。

Appleが「Apple Watch」に注力しているのも、「スマホの次の市場」を作り出そうとしているからかも知れません。とは言え、スマートウォッチの小さい画面では、スマホの全てを代替するのは無理があります。ただし、現在「スマホのサポート役」のスマートウォッチが、立場が逆転してスマホが「スマートウォッチのサポート役」となる未来は十分に考えられるでしょう。


ーーiPhoneを中心にスマホ業界を5フォース分析してみましたが、激しい競争が起きていることが分かりました。鮮やかなブランディングにより、買い手にも売り手にも強い交渉力を持ってきたAppleですが、業界内を見ると新興メーカーの台頭により厳しい戦いを強いられています。飽和したスマホ市場でいかに次のビジネスチャンスを見つけるのか、「スマホの代替品」をいかにして作り上げていくのか注目したいところです。

 

編集後記

5フォースのフレームワークを見ていると、改めてビジネスが熾烈な競争であることを認識させられます。買い手や売り手とのパワーバランスを見ながら、競合と戦い、新規参入や代替品にも気を配らなければなりません。自分たちの会社以外を全て敵とみなす、まさに戦いです。

しかし、5フォースで「脅威」とされてきた力を、「好機」と捉える考え方もあります。それが「オープンイノベーション」。他社と手を組むことでイノベーションを起こし、新しいビジネスチャンスをものにすることです。競合や新規参入、代替サービスともうまくオープンイノベーションができれば、「競争」は「共創」へと変わります。

例えば、敵対関係の代表とも言える大企業とスタートアップの関係も変わってきました。Uberに代表されるライドシェア系のサービスが、タクシー業界の代替サービスとして市場をディスラプトした事例はまさにその典型。サンフランシスコ最大のタクシー会社イエローキャブが倒産したのは記憶に新しいでしょう。

しかし、Uberはその後、世界に進出するも各国で問題を起こし規制の対象となってしまいます。そしてライドシェアに代わって台頭してきたのが「タクシー配車アプリ」。テクノロジーを持つスタートアップと、タクシーリソースや交通データを持つタクシー会社が手を組むことでイノベーションを生み出しました。市場をディスラプトするのではなく、より効率化して業界の課題を解決したいい事例だと言えます。

これまで5フォース分析は、他社を脅威と捉えてきましたが、オープンイノベーション的に考えれば他社は共創相手となります。自分の業界に埋もれている好機を探すために、5フォース分析をしてみてはいかがでしょうか。

TOMORUBA編集部

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント6件