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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑫〜PMF(プロダクト・マーケット・フィット)

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑫〜PMF(プロダクト・マーケット・フィット)

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新しい事業を立ち上げる際に「このコンセプトで市場に受け入れられるかな」「自分たちの独りよがりになっていないかな」と不安になったことがあるビジネスパーソンは少なくないでしょう。自信満々で製品やサービスをリリースしたにも関わらず、市場に見向きもされなかったケースも枚挙に暇がありません。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第12弾で取り扱うPMF(プロダクト・マーケット・フィット)は、まさに上記のような不安を取り除いてくれる概念で、製品・サービス(プロダクト)と市場(マーケット)がフィットしている状態を指します。どのような状態をPMFと言えるのか、もしくはどうすればPMFとなるのかを解説していくので参考にしてください。

PMFとは

「プロダクトマーケットフィット(Product Market Fit)」とは、自社のプロダクトやサービスが、あるマーケットに適合している状態を指します。Netscape社の創業者であるMarc Andreessen(マーク・アンドリーセン)が提唱した概念で、彼は「最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態」と定義しました。ちなみにマーク氏はFacebookやeBayなどでボードメンバーも務めていた、米国スタートアップ界の重鎮です。

PMFを満たさなければ事業は成功しないともいわれており、スタートアップが一番最初に目指すべき関門だと言えるでしょう。もちろんスタートアップの創業期だけではなく、プロダクトを持つ限り、ユーザーを増やし新たな市場をターゲットにしたいと考えるのであれば、常に意識しなければなりません。

事業において最も重要とされる市場選び

PMFは大きく「市場を満足させるプロダクト」と「正しい市場」の2つで構成されています。多くの企業は前者のプロダクトには注力しますが、「正しい市場」を見定めるのを怠りがちです。どんなにいいプロダクトを作ったとしても、市場を間違えていると「ゾンビスタートアップ(収益を出しているものの、それ以上の成長は見込めない企業)」止まりになってしまいます。

スタートアップを評価する3大要素は「チーム、市場、プロダクト」だと言われていますが、その中でも多くのキャピタリストが最も重要だと応えるのが「市場」です。なぜなら、PMFを進めてステージを重ねていった時に、チームやプロダクトを変えることはできても市場は簡単に変えられないからです。サービス作りを進めるのと同時に、そのサービスがフィットする適切な市場を見つけ出す、もしくは作り出すことがスタートアップの成功を決める要素と言えるでしょう。

PMFは顧客アンケートで判断する

「最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態」という概念を頭で理解しても、具体的にどのような状態をPMFと言えるのでしょうか。その基準の一つが「口コミが発生するか」です。これまでリーチできなかったような、自社に縁のない顧客層からの問い合わせが増えてきたら、PMFを達成したといえるでしょう。

さらにPMFの度合いを具体的に知りたい方は顧客アンケートでNPS(ネットプロモータースコア)を測定する方法もあります。NPSとは、顧客ロイヤリティを測る指標のことで、事業の成長率に高い相関関係があると言われています。業界でNPSトップの企業は、競合他社の2倍の成長率を上げているという調査結果もあるほどです。欧米では公開企業の3分の1以上が活用していると言われているため、PMFが気になる方は活用してみましょう。

PMFを達成する方法

PMFが実現できていれば、顧客数と売上は順調に伸びていくはずです。しかし、そのような状態を作り出すのは容易ではありません。どのようにPMFを実現していくのか、その手順を見ていきましょう。


①市場のニーズを把握する

PMFを目指すために必要なのは、市場のニーズを正確に把握することです。メインターゲットとなる人たちがどんなことに困っているのか、もしくはどんなサービスを求めているのかを調べましょう。そのためにターゲットへのヒアリングが有効です。直接ユーザーの声を聞き、反応を伺えばニーズがより明確になるでしょう。

②解決策を提示する

市場のニーズが浮き彫りになったら、そのニーズを満たす解決策を提示してみましょう。この際によく用いられるのが「アジャイル開発」。製品やサービスの細かい使用を決めずに、プロトタイプを作って何度もテストを繰り返し、開発を進めていく手法です。見込み顧客に対して行うことで、開発と同時にニーズの把握もできるため、開発期間の短縮にも繋がります。

③長期的なコストを検証する

PMFは短期的な施策で実現できるものではありません。プロダクトが完成しリリースした後も、クオリティを高めてPMF達成のための施策を続けています。当たり前ですが、そのためにコストもかかります。ニーズを把握するためのアンケートや、それに対して解決策を提示してテストをするにもコストがかかるのです。もしもリソースが不足してしまえば、ニーズは分かっているのに、解決策が作れないという事態にもなりかねません。定期的に長期的なコストを見直し、余力をもってPMFを実現しましょう。

PMFを目指す上での注意点

PMFを目指す上ではいくつか気をつけなければいけない注意点があります。それぞれ見ていきましょう。

継続して市場のリサーチを行う

今は「VUCAの時代」と言われるほど変化の激しい時代です。一度市場のリサーチをしたからといって、その結果を何年も参考にするのではなく、定期的に市場のリサーチを行いましょう。たった数年で市場のニーズが変わったり、ある出来事がきっかけで新しいニーズが生まれることも珍しくありません。一度PMFを実現したからといって油断するのではなく、常に市場のニーズにマッチしているか意識しましょう。

PMFが未熟ままでセールスや採用を強化しない

スタートアップにとっては、一刻も早く売上を立てて組織を拡大したいもの。しかし、PMFが未熟なままでセールスやマーケティングを頑張っても、コストに見合った成果は得られません。顧客が満足していないサービスを拡散しても、売れないどころかクレームの原因にもなってしまいます。PMFの実感を得られるまでは、セールスや採用よりも市場のリサーチにコストをかけましょう。

PMFに必要な「戦略的泥臭さ」

最後に徹底したPMFの実現で成功したスタートアップの事例を紹介しましょう。シリコンバレー発、世界最大手のフィンテック企業Stripe(ストライプ)の創業者、コリソン兄弟は「戦略的泥臭さ」を発揮してPMFを実現した一例です。インターネットビジネス向けにオンライン決済サービスを提供する彼らは、2009年に立ち上がったときに、PMFを実現するために熱心に働きました

Stripeはシリコンバレー最強のアクセラレータであるY combinator(Yコンビネータ:YC)に採択されており、YCはコリソン兄弟にとって理想的なアーリーアダプター探しの場でした。なぜならYCの卒業生は起業家であり、常に最適な決済処理サービスを探しているからです。

コリソン兄弟は卒業の一人ひとりに電話をかけ、自分たちのサービスを営業しました。了承を得た相手にはサービスのリンクを送るだけでなく、直接彼らのもとに出向いて自分たちでインストールまでしたのです。このテクニックは彼らの名にちなんで「コリソン・インストール」と呼ばれるほど。

YCの卒業生をアーリーアダプターにする「戦略性」と、自ら出向いてソフトをインストールさせる「泥臭さ」こそが、StripeのPMFを達成した理由と言えるでしょう。「自分たちにとってのコリソン・インストールは何か?」を考え、PMFを目指しましょう。

編集後記

一昔前ではあれば、PMFが未熟であっても、大体的なプロモーションと徹底した営業で売上を伸ばせたかもしれません。しかし、今の日本は多くのプロダクトやサービスが存在し「困りごとがない」と言われるような状態です。生半可なPMFでは、顧客たちの心には刺さりません。

新しい事業を始める時は、早くプロダクト・サービスを完成させ、売上を上げたい気持ちは分かりますが、まずは地道にPMFを達成しましょう。ひたすらユーザーにアンケートし、テストを繰り返している間は地味かもしれませんが、それが成功への一番の近道になるはずです。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


■連載一覧

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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス

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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑨〜アドバンテージ・マトリクス

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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑪〜PEST分析

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