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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑦〜学習する組織

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑦〜学習する組織

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先行きが読めず、変化の激しい「VUCAの時代」では、知識やノウハウが陳腐化するのも早く、トップダウン型の組織で事業を成長させるのには限界があります。従来のようなマニュアルによる知識の伝達では不十分で、現場で働く人々が自ら学習し、知識やノウハウを身に着けていかなければ、社会の変化に対応できません。組織が学習できなければ、経営目標の未達に始まり、社員と経営陣の関係に亀裂が入ることで職場の風通しが悪くなるほか、慢性的な赤字体質に陥ることになるでしょう。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第7弾で取り上げる「学習する組織」は、そのような事態を防ぐ特効薬。1990年代、マサチューセッツ工科大(MIT)教授であったピーター・センゲが、ベストラセラーになった彼の著書"The Fifth Discipline"(邦題は『最強組織の法則』)の中で提唱した概念です。「学習する組織」とはどのような組織なのか、どうすれば「学習する組織」を構築できるのか解説していきます。

学習する組織とは

学習する組織とは、組織として高いパフォーマンスを維持し、成長させるための概念で、変化の激しい現代社会でより発展するための成長戦略です。組織のメンバー一人ひとりが自発的に考えて行動するとともに、チームで相乗効果を発揮して大きな成果を上げられる組織のことを指します。

学習する組織が提唱される前の企業組織は、極端に言えば経営者という操縦士が操縦するロボットなようなもの。社長をはじめとした、一部の経営層が強力なリーダーシップを発揮するトップダウン型の組織が一般的でした。戦後の混乱した社会では、前向きなビジョンを掲げたリーダーが力強く組織が成長していたのです。

しかし、情勢が安定し経済活動が円滑に行われるようになると、現場で働く人々主体的に学習し、かつ一致団結して相乗効果を生み出すことが必要です。単純作業の多い仕事であれば、リーダーの命令を素直に聞ける従業員が優秀と評価されますが、複雑で臨機応変な対応が求められる仕事であるほど現場の自主性が求められます。AIをはじめとするテクノロジーが単純作業を代行してくれるこれからの時代、「学習する組織」の必要性はますます高まっていくでしょう。

学習する組織を構成する「5つのディシプリン」

センゲは「学習する組織」を実現するために必要な要素を、下記の「5つのディシプリン(規律、風紀)」にまとめました。


一つずつ詳しく見ていきましょう。

①システム思考

システム思考は学習する組織の根幹をなす概念で、5つのディシプリンの中で最も重要です。人間の活動や様々な事象を相互に関連したシステムとして捉える概念のことで、ものごとを単体として見るのではなく相互の関連や関係性に着目し、俯瞰的にものごとを捉えます。

今の世の中はどんどん複雑化しており、因果関係が捉えにくくなっています。目の前の問題だけを解決しようとすることで、別の問題が起きたり、後になってより大きな問題が生じることも珍しくありません。問題の本質を捉え、個別最適ではなく全体最適を目指すのがシステム思考です。

自分が置かれている場の構造が把握できれば、無意識のうちに拘束されていた力から開放されるだけでなく、その力を逆に利用することもできるでしょう。

②自己実現(マスタリー)

自己実現とは、組織を構成する個々人が自らの仕事や役割を創造的に広げていく取り組みのこと。また、自らを成長させるために継続的に学習することを指します。自己実現のレベルの高い人たちは、常に自己の能力を広げ、本当に探し求めている人生を想像し続けています。

自己マスタリーには2つの活動が必要であり、その一つが自分にとって何が大事かをつねに明らかにし続けることです。もう一つが、今の現実の姿をもっとはっきり把握できるように学習しつづけること。ビジョンを明確にし、それと現実の狭間でおきる「クリエイティブ・テンション(創造的な緊張関係)」に身をおき、学習を継続することが重要だとセンゲは指摘しています。

③メンタルモデルの克服

メンタルモデルとは、個人もしくは組織の根底にある固定化されたイメージやマインド、つまり「固定概念」のことです。「男だから、女だから、上司だから、部下だから……すべき」という偏った価値観のことで、無意識に私達の行動や意思決定に影響を与えています。

日本企業は長らく男性を優遇する雇用条件を守って組織であり、未だに女性の管理職の割合は先進国でもワーストです。それも日本の組織に根強く残っている「メンタルモデル」がなしていると言えるでしょう。

個人あるいは組織の変革や成長には、このメンタルモデルを認識することが重要になります。しかし、メンタルモデルは心の奥深いところに存在するため、周囲はもちろん本人でさえも認識できないことが多々あります。まずは自分、もしくは自分たちに「メンタルモデル」があることを理解した上で、内省と探求を繰り返しながら「どんなメンタルモデルを持っているか」を自覚しましょう。

④共有ビジョン

共有ビジョンとは、組織に所属する人々が目指すべき未来の理想像のこと。センゲは著書の中で「本物のビジョンがあれば、人々は学び、力を発揮すると」書いています。

従来の組織では、会社がビジョンを掲げ、従業員にそれを共有するのが当たり前でした。つまり組織のビジョンが優先され、個人のビジョンは後回しだったのです。

しかし、センゲは「共有ビジョンは個人のビジョンから生じる」としています。つまり、個人のビジョンが明確にならなければ共有のビジョンは生まれないのです。「自己実現」でも個人のビジョンを明確にする重要性を解きましたが、共有ビジョンを築くためにも個人のビジョンがなければいけません。

組織は言うまでもなく、個人の集合体です。つまり「学習する組織」とは、「学習個人の集まり」でなくてはいけません。そのためには、メンバーを組織のビジョンに服従させるのではなく、個人のビジョンを作り出すようにメンバーを励ますことが重要です。

⑤チーム学習

チームの強さというのは、単純にメンバーの能力を足し算するだけでは求められません。スポーツでも、スーパースターを集めたチームが必ずしも勝利するとは限らないことが、歴史の中で証明されています。

どんなに優秀な人材を集めたとしても、それぞれがチームとして力を合わせる意識を持たなければ、それぞれの実力を発揮できません。個人が学習するのに加え、チームとしての学習がなければ「学習する組織」は生まれないのです。

チームによる学習に必要なのは「対話」です。対話を通しながら、メンバーがもっている多様なメンタルモデルを理解し、深めていくことが重要になります。時には意見をぶつけ合いディスカッションを繰り返しながら、真の意味での「学習する組織」が構築されていくのです。

学習する組織「3つの柱」

学習する組織を作っていくには、具体的に次の3つの力を養っていくことが必要です。

①志を育む力

②複雑性を理解する力

③共創的に会話する力

この3つの力は、3本脚の椅子に例えられることも多く、3つともバランスよく養わなければいけません。1本だけが長い、もしくは短かったりすると椅子のバランスが崩れて倒れてしまいます。どんなにビジョンが強くても、行動に移さなければ絵に描いた餅ですし、どんなチームで対話をしても、ビジョンや複雑性を理解する力がなければ無意味です。

それぞれどのような力なのか、詳しく見ていきましょう。

①志を育む力

志を育む力は、自らを動かす原動力となる力。自分たちが本当に望んでいることを明確にし、そこに向けて自ら変化していく能力のことです。「自己マスタリー」を高め、自分が思い描いた姿になるため研鑽を磨き、組織で「共有ビジョン」を紡ぐことで、内発的な動機にあふれた個人の集団を創り出します。

②複雑性を理解する力

複雑性を理解する力とは、様々な繋がりが作り出すシステムの全体像とその作用を意識し、理解する力です。目的やビジョンが明確になっていても、その達成方法を考えるためには、まずは自分たちの立ち位置を理解し、どのような課題があるのか理解しなければなりません。「システム思考」で、それらを効果的に考えていきます。

③共創的に会話する力

共創的に会話する力とは、個人や組織に根強く存在する無意識の前提を踏まえて、創造的に考え話し合う能力です。どのような「メンタルモデル」を持っているのか把握し、それを意識しながら話すことが組織での学習には欠かせません。

学習する組織の事例

名だたる大企業も、学習する組織を取り入れて業績を伸ばしています。どのような企業が取り入れていたのか2社の事例を見ていきましょう。

●フォード

世界で始めて本格的に学習する組織を取り入れた大企業は、自動車業界大手のフォードと言われています。フォードの人気車の一つにリンカーン・コンチネンタルという車があり、映画『ゴッド・ファーザー』にも登場するアメリカを代表する高級車です。永く人気のあったこの車ですが、1990年代にトヨタのレクサスが北米市場に登場したことで大きな危機を迎えます。

当時のフォードは開発が遅れることが常態化しており、その遅れが予算オーバーを生み出している状態でした。スケジュールと予算を厳しく管理しようともなかなか改善されることもなく、市場はどんどんレクセスに奪われていったのです。

そのような状況を見かねた経営陣たちは、MITと一緒に学習する組織の手法を用いてプロジェクトをマネジメントすることにしました。知識の習得に留まらず、毎月行われるマネジメント会議にMITのファシリテーターが同席し、その後2時間の振り返りの時間を持つことを続けたのです。

その結果、マネジメントチームは全体像と本質をしっかり見据えられるようになり、本音で話し合いながら共有の目標を達成しようとする思いを重ねていきます。そうしてマネジメントチームからは次々と新しい施策やイノベーションが起こり、これまでよりも遥かに高いパフォーマンスを発揮したのです。

それらの取り組みにより、リンカーン・コンチネンタルは、顧客満足と外部のデザイン評価が飛躍的にたかまり、あらゆるビジネス上の目標を開発していきます。加えて、フォードで始めて目標時期より前倒しで開発を完成させ、予算よりも80億円少ない経費で済ませたのです。学習する組織を取り入れるコストを遥かに上回る成果を残す結果となりました。

●ユナイテッドテクノロジー

ハーネスなどの自動車部品や、航空機のエンジンを作るメーカーのユナイテッドテクノロジー(UTC)社もまた、学習する組織で経営危機を乗り越えた一社。1990年代、UTCは大口の顧客に「今のままでは取引先を変えざるを得ない」と言われたのです。それもそのはず、顧客が新車を開発する際の見積もりに50日もかかっていたのです。競合の日本企業が17日で見積もりを出したのと比べれば、取引先を変えたくなる気持ちも分かります。

危機を感じた経営陣がまず着手したのは、「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング」(BPR)という手法。仕事のプロセスを分析に基づき、ITシステムを導入し、新たなフローに従えば、大幅に見積もりを改善できると考えたのです。しかし、実際に自分たちで行った所、見積もり期間は60日に伸び、外部のコンサルタントを雇ってみたところ70日にまで伸びたのです。

実はBPRの学習する組織の全く逆の発送で、ITシステムによる新しいワークプロセスを導入することにより、人の働く楽しみや面白さを奪っていきます。コンピュータに仕事を指示されるようになった人間は、創造的な仕事は何一つできなくなり、システムの想定外が起きた時も自分たちで対応できません。その結果、BPRの8割は失敗に終わるとも言われています。

困り果てた経営陣が頼ったのは、フォードで学習する組織を導入したマネージャー。彼が行ったのは現場の担当者やマネージャーを集めて、みんなで輪になって話し合うことです。なぜ今のような問題が起きているのか、根本のメンタル・モデルはなにか話しあることで思考を深めていきます。

問題の根本にきづいたチームは、見積もり期間を10日まで短縮することを目標にし、「10日間か、それとも廃業か」を合言葉に結束しました。ルールやコミュニケーションの仕方、情報共有の仕組みなどを大幅に見直し、学習する組織に基づいたプロセスで、自らの手に見直しが進められていったのです。

学習する組織のプログラムを導入した結果、見積もり結果はなんと5日間にまで短縮することができました。その目覚ましい成果のおかげで、UTCは顧客との取引を維持し、危機を脱することができたのです。

編集後記

これまで人体は「脳が全体の司令塔となり、他の臓器はそれに従う」と考えられていました。しかし、最新の研究では「体中の臓器が互いに直接メッセージをやりとりし、情報交換することで、私たちの体は成り立っている」という事実が明らかになっています。

企業組織も、以前は「経営者の司令に、従業員が従う」のが一般的でした。しかし、複雑かつ急速に変化する社会に対応していくには、臓器のように「それぞれが考え、コミュニケーションをとりながら事業を成長させていく」ことが必要です。

従業員たちが自ら考えることが求められるだけでなく、経営者もまた従業員に学習を促す仕組みを作らなければなりません。組織の課題を感じている経営者は、まず「学習する組織」を作るためのリーダー像を目指してみてはいかがでしょうか。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


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