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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略

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リソースの小さなスタートアップや中小企業がシェアを伸ばしていくには、業界トップの大企業とは違った戦略が求められます。規模で劣る企業が、大企業と戦う際に参考にしたいのが“ランチェスター戦略”です。もともとは戦争の中で培われてきた理論ですが、現在はビジネスにも応用され多くの企業が活用し、競争を勝ち抜いて業績を伸ばしてきました。

 TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第二弾となる本記事では、ランチェスター戦略の内容や、実際にどのように活用されてきたのか事例を紹介していきます。

※連載第1回:「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』

ランチェスター戦略とは

 ランチャスター戦略とは、イギリスのエンジニア、フレデリック・ランチェスター氏が、第一次世界大戦中に提唱した軍事理論です。彼は自身が開発した戦闘機が、戦争でいかなる戦果をあげるか研究し、武器性能と兵力数でその軍の戦力が測れることを方程式にまとめました。第二次世界大戦時には、アメリカの数学教授クーペマンが、ランチェスターの法則を応用して「クーペマンモデル」という軍事シミュレーションモデルを開発しました。

 戦争のために生み出された2つの理論ですが、それらをビジネスに勝つための理論として体系化したのは、日本でコンサルタントをしていた田岡信夫氏です。多くの経営戦略がアメリカから輸入されているのに対し、ランチェスター戦略は原点こそ欧米であるものの、日本発の経営戦略とも言えます。

 

ランチェスターの法則とは

そんなランチェスター戦略は「ランチェスターの法則」とクーペマンモデルこと「ランチェスター戦略方程式」の2つから構成されています。ランチェスターの法則とは、武器効率と兵力数で軍隊の戦闘力を求めるための方程式で、弱者の戦略こと「第一の法則」と、強者の戦略こと「第二の法則」があります。それぞれ見ていきましょう。

 

■弱者の戦略(第一の法則)

 第一の法則とは一騎打ちの法則とも呼ばれていて、局地戦や接近戦、1対1などの条件が当てはまる場合、次の公式が当てはまります。

 戦力=武器効率(質)×兵数力(量)

 つまり戦力は武器の質と兵力に比例するので、同じ武器を持っている場合、兵力数の差がそのまま戦力の差になるということです。逆に言えば相手よりも質の高い武器を揃えれば、少ない兵力でも戦いに勝てるとも意味します。長篠の戦いで、当時最強と呼ばれていた武田軍に相手に、半数の兵ながら鉄砲を使い勝利を収めた織田信長がいい例でしょう。


つまり、弱者の立場にあるものは、第一法則が成り立つ場面、状況設定する必要があります。そのためには次のようなことを意識しなければなりません。


①局地戦を選ぶこと

商圏を絞り、狭いエリアでのナンバーワンを狙うこと。

②接近戦を展開すること

顧客に近づき、時間や労力をかけてでも得意先のナンバーワンになること。

③一騎打ち型を選ぶこと

競合のいない、もしくは少ない市場を狙うこと。大手が作らない製品や、大手が攻めない地域を狙って商戦を仕掛けること。

④兵力の分散を避け、一点主義をとること

複数の商品や地域に兵力を分散させるのでなく、一定のシェアを得るまでは一点に兵力を集中させること。

⑤敵に分散と見せかけるための陽動作戦をとること

差別化していることを大企業に悟られると、同じような商品を作ったり、同じ地域で総力戦を仕掛けられます。大企業に差別化していることを悟られないよう、陽動すること。

■強者の戦略(第二の法則)

ランチェスター戦略は「弱者の戦略」ばかりにスポットライトを当てられますが、強者のための戦略もあります。弱者の戦略を成功させ、業界トップに上り詰めれば今度は自分たちが強者になります。今度は自分たちが弱者からの突き上げを食らう立場になるため、強者の戦略で対策しなければなりません。

強者の戦略の前提となる第二の法則は、第一の法則とは逆に広域戦、遠隔戦、確率戦という集団対集団の戦いの際に、次のような公式が当てはまることを言います。

戦力=武器の質×兵力数の二乗

武器の質に比例することは第一の法則と変わりませんが、兵力数は二乗に比例するため兵力数の差がよりダイナミックに戦力に影響します。例えば武器の性能が同じで、兵力が100の軍と200の軍が戦う場合を想定してみましょう。第一法則では両軍の差は100(200-100)ですが、第二法則では30,000(40,000-10,000)と大きく差が開きます。

兵力数で勝っている軍は、第二法則が成り立つ場面、状況を作り出すために、「ミート戦略」と呼ばれる次のようなことを意識しなければなりません。


①なるべく確率戦をもちこむこと

確率戦とは、戦場において機関銃のような確率兵器(一度に複数の敵を攻撃できる兵器)を用いた戦闘のこと。ビジネスに例えれば、幅広い製品を作って市場全体をターゲットにする「フルライン戦略」などが当てはまります。

②一騎打ちを避け、総合戦を展開すること

競合が多い市場を狙って、兵力数をもって弱者を抑え込むこと。多少の機会損失や無駄があったとしても、物量を投入して弱者が入り込む隙間をなくします。

③直接の接近戦を避け、間接的・遠隔的戦闘場面を作ること

顧客との距離をおくことで、より多くの商品を販売する考え方。例えばマスメディアを使って広い認知させたり、卸や小売を通す関節販売などが挙げられます。

④圧倒的な兵力数による短期決戦をねらうこと

弱者との戦いに瞬間的に兵力を投入し、弱者が撤退もしくは戦えない状況になるまで攻めること。

⑤敵を分散させるための誘導作戦をとること

弱者が差別化を図ろうとしている商品の類似商品を作るなどして、弱者を自分の土俵にあげること。ゲリラ戦を仕掛ける弱者を真っ向勝負の場に引きずり出します。


 

■三一の法則と市場占有率

ランチェスター戦略における「弱者の戦略」とは、「第一法則」で戦闘をしかけ、「武器の質」を上げて兵数の差をひっくり返すというもの。しかし、クープマンは兵数の差が3倍以上開いた場合は、弱者が逆転することは不可能だと言っており、田岡氏はこれを「三一の法則」と言っています。弱者は3倍以上の相手に対して、戦わずに逃げるのが最上の策だと言うのです。

逆に言えば、強者は相手の3倍以上の兵力で戦いを仕掛ければ負けることはありません。第2次世界大戦中、アメリカ軍の戦闘機は常に三機編成で日本の零戦に攻撃を仕掛けてきました。抜群の性能を持つ日本の零戦は、一騎打ちでは負けることはなかったでしょうが、さすがに3機を相手では為す術もなく破れています。ビジネスでも、三一の法則が成り立つほど圧倒的な差をつければ、安心して勝ち続けることができるのです。

ビジネスで三一の法則の目安となるのが市場の占拠率、つまりシェアです。田岡氏は、何%シェアをとればいいかということも具体的な指標を提示しています。その一つが「相対的安定値」と言われ、シェア41.7%を指します。俗に「40%目標」と言われ、達成すればひとまず安全圏と言える数値です。

他にも「上限数値」である73.88%は、市場を独占したと言ってもいい数値。逆に「下限数値」の26.12%以下は、たとえ業界トップになったとしても、シェアの争いは終わっていないことを意味します。ランチェスター戦略とは、いかに業界シェアを高め安定的な地位を作り上げるかの戦略と言えるでしょう。

3つの競争原理

ラインチェスター戦略は、突き詰めると次の3つの競争原理が根底にあります。


■ナンバーワン主義

戦いにおいて絶対的有利な立場にあるのはナンバーワンだけとし、差別化のない純粋競争の中では、ナンバーワンだけが安定的な立場にいます。それが占拠率の科学の一つの結論であり、戦略的哲学です。

ナンバーワン主義には3つの具体的戦略があります。「ナンバーワンの地域」「ナンバーワンの得意先」「ナンバーワンの商品」です。ナンバーワンの地域とは、その名の通りナンバー1の地域をいくつとれるかということです。いきなり国全体のトップを狙うのではなく、まずはセグメントした地域でのナンバーワンを目指し、一つずつナンバーワンの地域を増やしていくことを重要だと言っています。

ナンバーワンの得意先というのは、受注先の受注比率で圧倒的なナンバーワンを目指すことを指します。つまり、競合に浮気をしない得意先をいくつ持たせるかが重要です。ナンバーワンの商品とは、その名の通り業界で売上ナンバーワンの商品を作ることを意味します。

3つのナンバーワンを見てきましたが、弱者と強者ではナンバーワンを狙う順序が違います。弱者はまず地域のナンバーワンをとり、得意先のナンバーワンをとって最後にナンバーワンの商品を作ります。どういう商品構成で勝負するかということよりも、売りやすい商品を地域を絞って集中的に売るのが「弱者の戦略」です。

逆に強者は強い商品を作って、その戦略商品をテコに弱者が支配する地域に攻撃を仕掛けます。これは強者だけに許された戦略なので、弱者はまず地域のナンバーワンから始めなければいけません。

 

■弱い者いじめの法則 

2つ目の競争原理は「競争目標と攻撃目標を分けて考えること」です。市場において、自分よりもシェアの高い相手は競争目標ですが、攻撃目標は自分よりもシェアの低い相手にしなければいけません。これは孫氏の兵法でいうところの「勝ちやすきに勝つ」と同義です。

例えば、アイディアが求められるキャンペーンやセールス・プロモーションにおいては、競争目標である強者を意識して差別化します。しかし、どの販売店や得意先を攻めるか考える時は、自分よりもシェア下位の会社を狙って攻めるのです。

日本では「弱いものいじめ」をよしとせず、強者に立ち向かうことを美徳としている風潮がありますが、競争に勝ちたいのであれば弱い者いじめを徹底する冷徹さも重要です。

 

■一点集中主義

3つ目の競争原理は「一点集中主義」。選択肢が複数あったとしても、目標を達成するまでは戦力を分散させずに戦力を集中させることを言います。少なくとも安定値である40%になるまでは、飽きることなく的を絞らなければいけません。そして、目標を達成してから別の地域などに進出してまた40%を狙います。

紅茶の「トワイニング」で知られる片岡物産は、一点集中主義の成功例です。創業当初は銀行を一行に絞り、取引先も高島屋に絞っていました。そうしてギフト・マーケットの4割は自社の製品で埋めて初めて次の取引先を開拓したのです。

ランチェスター戦略方程式とは

ランチェスターの法則と並んで重要なのが、クープマンが残したランチェスター戦略方程式です。結論から言えば、戦略と戦術にかける比率を2:1にするということ。戦略とは見えざる意思決定のことを指していて、価格戦略や広告戦略、流通戦略や製品開発などが該当します。一方で戦術とは目に見える意思決定のこと、つまり販売組織やセールスマンの数や質のことを指します。

どんなに優秀なセールスマンをたくさん集めてきても、魅力のない製品ばかりを作っていては、なかなか売れません。逆に魅力的な商品を作り、効果的な広告を打てば少ないセールスマンでも結果を出せるということです。戦術が必要ないという話ではなく、戦略と戦術への力の配分を2:1にするのが最も効果的であると言っています。

 

ランチェスター戦略の事例

ランチェスター戦略は様々な業界で活用されており、私達が知る大企業の多くも成長の過程で戦略に組み込んでいました。最後にランチェスター戦略で成功した企業の事例をいくつか紹介していきます。

 

■H.I.S.(エイチ・アイ・エス) 

今や大手旅行代理店として有名なH.I.S.も、ランチェスター戦略を用いて今の地位を築きました。創業間もないころは、お金はないが時間のある学生向けに海外格安航空券を販売して、航空券販売事業者として独自の地位を確立。その後も、大手が注力していたハワイやグアムなどの人気リゾートではなく、当時は無名だったバリ島やセブ島、プーケット島の格安ツアーを販売し飛躍的な成長を遂げます。

また「1位になるまで決して目立たない」を徹底しており、メディアからの取材なども全て断っていたそう。そうやって、強者から攻められることなく業界トップの座まで上り詰めたのです。

 

■ハウステンボス

人気リゾートスポットとして知られるハウステンボスも、ランチェスター戦略で今の地位を築いた一社。今でこそ有名なリゾートですが、2010年までは開業以来18期連続赤字の絶望的な状況でした。その危機を救ったのが、先程も紹介したH.I.S.の創業者 澤田秀雄氏です。

ディズニーリゾートやUSJといった人気テーマパークと差別化させ、ハウステンボスがターゲットとしたのはインバウンド(海外からの旅行客)。ハウステンボスのある長崎県佐世保市は、決して立地のいい場所とは言えませんが、上海が東京よりも近く、ソウルは関西と同距離。成長著しいアジアを商圏として捉えたのです。

また、ディズニーランドとシーを足したような広い敷地のうち、1/3を無料の公園として開放してリソースを集中させました。それまでの2/3の有料ゾーンにテナントを集中させることで空き店舗をなくします。無料ゾーンはコストを下げると同時に集客装置となり、有料ゾーンの賑わいを復活させることに貢献しました。


■アパホテル

大手ビジネスホテルチェーンのアパホテルも、もともとは石川発祥の弱小ホテル会社でした。アパホテルは「局地戦」を仕掛けるべく、まずは石川県でNo.1のホテルを目指したのです。当初は石川県の中心地である金沢に出店せず、「3点攻略法」と呼ばれる金沢を三角で囲むように出店していきます。

そして各エリアでNo.1の称号を得た後に金沢を攻めて、金沢でもNo.1に輝いたのです。局地でのNo.1になることで、一定の品質を担保してくれるという安心感を顧客に与えられます。そうやって局地戦をうまく活用することで、アパホテルは自社のブランドを強固にしてきました。

 

■QBハウス

1,000円カットで知られるQBハウスも、ランチェスター戦略で言う差別化をうまく活用して業績を伸ばしてきました。それまで美容室は「お金と時間をかけてキレイになれる場所」というイメージがありました。しかし、QBハウスは「時間やお金をかけずに身だしなみを整えたい」という人たちをターゲットに1,000円カットを提供したのです。

それまでの美容室とは異なるターゲティングをしたのも大きな差別化ですが、駅の構内など従来美容室が出店しない場所に出店したことも大きな差別化です。時間を重視しているターゲットを獲得できるだけでなく、他社との競争がないため出店コストを抑えられるというメリットもあります。このように市場をセグメンテーションすることで、特定のターゲットに絞って戦略を練ったのがQBハウスの勝因です。

 

編集後記

日本でランチェスター戦略がブームになった1970年代と今では、ビジネスのルールは大きく変わりました。しかし、事例を見れば分かる通り、ランチャスター戦略がこの21世紀でも十分通用することが理解できたと思います。むしろ、人々のライフスタイルやニーズが多様化し、スマホの普及で簡単にリサーチができるようになった現代は、ランチェスター戦略が最も行いやすい時代とも言えるかもしれません。

特に、これからの時代は「インターネットの時代」が終焉を迎え、「インターネット×リアル」のビジネスが隆盛しようとしています。ネットサービスの全盛期は、「地域戦略」の重要性は薄れつつありましたが、今後はネットと並行して店舗やプロダクトを扱うビジネスが増えていくでしょう。リアルでビジネスを展開する以上、「地域戦略」は欠かせません。今回はランチェスター戦略の骨組みしか紹介できませんでしたが、次の時代を見据えているビジネスマンは、ぜひ詳細まで学びなおしてみてはいかがでしょうか。

TOMORUBA編集部

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