<#BECAUSENOW vol.3イベントレポート>DNP/ニューステクノロジーにおける共創現場のリアル
新型コロナウイルスの感染拡大により、社会のあらゆる領域にニューノーマル(新しい常識)が定着しつつある昨今、企業間の関係にも大きな変化の波が押し寄せている。特に、他業種・他業界の企業と手を取り合い、日々コミュニケーションを重ねている、オープンイノベーションの現場の人々には、その変化が現実味を持って迫っているようだ。
7月30日、AUBAはコロナ禍においてオープンイノベーションに取り組む企業への支援を目的として、「#BECAUSENOW vol.3 eiicon活用事業者が語る アフターコロナ・ウィズコロナにおけるオープンイノベーションの実際のところ」と題するオンラインイベントを開催した。
イベントでは、eiicon companyのエンタープライズ事業部においてセールス部門の責任者を務める曽田将弘がモデレーターを担当。大日本印刷株式会社(以下、DNP)のビジネスデザイン本部において、数々のオープンイノベーションのプロジェクトを主導する松嶋亮平氏、そして、動画マーケティングのスタートアップである株式会社ニューステクノロジー(以下、ニューステクノロジー)の大北潤氏から、アフターコロナ・ウィズコロナ時代における共創のあり方についてお伺いした。
また、当日は質疑応答サービスSli.doを用いて、イベント参加者からの質問を募集。寄せられた質問に登壇者がリアルタイムで回答し、今、オープンイノベーションの現場で何が起こっているのかが、多角的な視点から明らかにされるイベントとなった。本記事では、その熱気あふれるイベントの様子をお届けする。
コロナ禍だからこそ、事業を「加速」させるべき。ビジョンへの共感を軸にOIに挑むDNP。
まず登壇したのは、DNPのビジネスデザイン本部において、新規事業開発における戦略構築・実行の責任者を務める松嶋氏だ。松嶋氏が所属するビジネスデザイン本部は、2018年10月に新設した部門。新価値創出による社会課題の解決を柱に据えた組織であり、その手段としてリアル、デジタルに拘らない、様々なチャネルを生かしたネットワーキングを実践しており、積極的にオープンイノベーションに取り組んでいるという。
▲大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部 第1部マーケティンググループ リーダー 松嶋亮平氏
冒頭、松嶋氏はまず「社名」にまつわる、あるイメージについて語る。松嶋氏によれば、DNPは大日本”印刷”という社名から、一般的に、印刷や出版に関する事業のみを展開している企業だと認識されがちだという。
しかし実際には、DNPは印刷技術を中核としながらも、エレクトロニクス部門や生活・産業部門など幅広く展開しており、それら各領域の技術やノウハウを連動し、融合させることにより独自の価値提供を行ってきている。
「未来のあたりまえをつくる。」をブランドステートメントとして掲げ、広範な事業領域を有し多彩な価値提供を行うのがDNPの特徴だと、松嶋氏は説明する。
そして、こうした多彩な価値提供を行なってきたDNPが、来るべきVUCA時代に対応し、さらなる新価値創出をねらい設立したのが、ビジネスデザイン本部だ。同部では現在3つの活動基盤を構築してオープンイノベーションを活用した新規事業開発に取り組んでいる。
1. weworkにおけるネットワーキング、事業パートナーの獲得
2. クリエイティブアソシエーション「CEKAI」との資本業務提携によるクリエイティブ・チームの組成
3. WEBサイト「DNP INNOVATION PORT」を通じたプロジェクトの発信、共創パートナーの公募
松嶋氏はこの組織の特徴を、「メンバーの自発性・内発的動機を重視した事業開発をするところ」だと強調する。広範なDNPの事業領域からブレイクスルーを果たし、新価値を創出するためには、メンバー一人ひとりの意志と情熱こそが最も大切という。
事実、ビジネスデザイン本部が掲げる事業開発のテーマは、メンバーそれぞれの個人的な熱意や思い入れが発端となって設定されている。その一つが「新しい”食の体験価値”を創造し、人々の食生活に驚きと喜びを提供する」というものだ。
これは、これまでに無い食品や味、食文化、食の体験などの創出に向けて、食に関する技術を保有するスタートアップ、又は食に関する製品や販路などを保有する企業との共創型の事業開発であり、「フードコミュニケーション」と名付けて、取り組みを推進している。
こうした取り組みが結実したのが、アサヒビール、そしてスタートアップのFULLLIFEと3社で共創した、新感覚ビアカクテル「BEERDROPS」だ。
FULLLIFEの独自技術で製造した溶けにくい果汁氷「アイスボーール」をビールに入れて味わう、このプロダクトは、ビジネスデザイン本部のメンバーが、とあるスタートアップイベントでFULLLIFEのピッチに遭遇したことがきっかけとなり、後にアサヒビールを巻き込むかたちで開発された。
出会いから製品販売まで約6ヶ月間という驚異的なスピードで創り上げられており、松嶋氏は「3社の強みがうまく噛み合った、ビジネスデザイン本部におけるオープンイノベーションの好事例だ」と紹介した。
続いて、ビジネスデザイン本部が事業開発のテーマとして掲げるのが、「テクノロジーでこれからの育児・保育の課題を解決していく」というもの。現在、日本社会全体の課題ともいえる子育て支援の領域において、DNPの製品、サービス、テクノロジーなどを活用した共創を行い、妊娠期から未就学児の子供達を対象に「安全・安心」「楽しさ」という体験価値を提供することを意図したテーマだ。
その具体的な共創事例として、松嶋氏は「mamaroⓇ(ママロ)」を製造するスタートアップTrim社との資本業務提携を挙げる。mamaroは授乳やおむつ交換ができるIoT型の可動式ベビーケアルーム。現在、全国の商業施設やレジャー施設などに100台以上が設置されており、育児・保育における社会課題の解決に貢献している。
DNPはこのmamaroを、2020年7月に国内企業として初めて、東京都内3カ所の事業所内に導入。今後はオフィスや事業所などへの設置を通じて、女性社員の産前・産後、女性特有の身体不調のケアなど女性活躍推進の一環としてより働きやすい職場環境づくりにも貢献していく方針だ。
最後に、松嶋氏は「CO-CREATION」の取り組みについて説明。CO-CREATIONとはDNPが実現したいテーマをWEBサイト「DNP INNOVATION PORT」を通じてオープンにし、パートナーを募るという公募型の共創の取り組みだ。現在、DNPは全社的にオープンイノベーションを推進しており、環境やモビリティといった様々なテーマでCO-CREATIONによる共創を行っているという。巨大な会社規模を誇るDNPだが、組織を横断しながら全体で外部企業に対して開かれた姿勢を示していることが伺える。
ここでモデレーターの曽田から、松嶋氏に対していくつかの質問が投げかけられた。以下では、その質問と回答を紹介する。
●ウィズコロナにおけるオープンイノベーションで以前と変化した点は?
DNP・松嶋氏「清潔・衛生・除菌といった価値が、プロダクトの必須項目になったこと。例えばBEERDROPSにしても、適切な提供方法やサーブの手法が重要になってくる。今後、市場に受け入れられるプロダクト・サービスを創り上げるうえでも、その点を重要視しながら、様々な分野でパートナーを探索していきたい」
●ウィズコロナの状況下でのオープンイノベーション推進において工夫されている点はありますか?
DNP・松嶋氏「DNPがコロナを収束させることはできないが、アフターコロナの時代に向けた準備は積極的に進めていきたい。また、共創パートナーがコロナ禍の影響を受け、取り組みがスタックしてしまうこともあるので、その場合は提供リソースの確保のため社内の説得・調整に力を注ぐことが重要」
●ウィズコロナ・アフターコロナの状況下で、今後オープンイノベーションをどのように推進していく予定か?
DNP・松嶋氏「コロナ禍により、あらゆる事業が未知の領域に突入している。そうした環境では、積み上げ型ではなく、状況に応じて一気に難局を突破できるブレイクスルー型の事業推進が必要になる。オープンイノベーションは事業を加速させるために有効であり、これからの時代に無くてはならない当たり前の手段になる。今後は、私たちも積極的に自らの価値観やビジョンを発信して、それに共感してくれるパートナー企業と出会い、オープンイノベーションによる事業開発を実現させていきたい」
「とりあえずやってみよう」が基本姿勢。技術を保有していないからこそ、機動的な共創が可能になる。
続いて登壇したのは、ニューステクノロジーの取締役の大北潤氏だ。
▲株式会社ニューステクノロジー 取締役 大北潤氏
「つくりかたを、新しく。とどけかたを、新しく。」をミッションとするニューステクノロジーは、タクシーサイネージ「GROWTH」の開発・設置を主軸とするメディア事業、動画制作を行うクリエイティブ事業、動画広告の運用代行を行うエージェンシー事業など、多角的な事業展開を特徴とする企業。
近年は、Maas事業、Food tech事業、ESG・SDGsへの投資事業などにも手を広げ、各事業のシナジーを生かした拡大を図っている。
そうした企業の特徴について、大北氏は「とりあえずやってみようがウチの基本姿勢」だと解説する。もともとニューステクノロジーは、独自技術を保有しておらず、自社内に蓄積したフレームワークや発想法を強みとしている。そのため、事業開発においてはオープンイノベーションが前提となっており、それが積極的な事業展開につながっているのだという。
そして、そうした姿勢が最も功を奏したのがMaas事業だ。ニューステクノロジーは、フィリピン支社において電動キックボードの開発・販売事業を行っており、そのプロダクトが東南アジア最大のスポーツ総合競技大会「South East Asian Games」(略称:シーゲーム)の公式移動手段として採択された実績を残している。
続いて大北氏にも、DNPと同様の質問を投げかけた。
●ウィズコロナにおけるオープンイノベーションで以前と変化した点は?
ニューステクノロジー・大北氏「共創の提案への反応が良くなった。例えば、AUBAの活用でいえば、メッセージの返信率が大幅に向上している。おそらく、コロナ禍の影響を受けて、あらゆる企業における危機感が高まり、現状を打開するオープンイノベーションへの期待が上昇しているのだと思う」
●ウィズコロナの状況下でのオープンイノベーション推進において工夫されている点はありますか?
ニューステクノロジー・大北氏「自社の全てをさらけ出す。スピーディーな共創を意識する。2社間だけでなく、他の企業も巻き込みながら、立体的なコミュニケーションで共創を進める。以上の三点が、実体験から導いた重要ポイント」
●ウィズコロナ・アフターコロナの状況下で、今後オープンイノベーションをどのように推進していく予定か?
ニューステクノロジー・大北氏「親会社にオープンイノベーション事業部が設立され、今後はビジネスコンテストも予定しているなど、コロナ禍に関わらず、オープンイノベーションへのスピードを上げていくつもり。そのなかで、尖った発想や技術を持つパートナーと出会って、共創を実現させていきたい」
オープンイノベーションの「現場」に迫る/質疑応答
最後に、Sli.doを通じて行われた、松嶋氏、大北氏と参加者との質疑応答の内容について、いくつか抜粋してご紹介する。
●【DNP・松嶋氏への質問】
オープンイノベーションの取り組みのなかで、出資する条件はあるのか?
DNP・松嶋氏「我々はVCのような投資機関ではないので、出資が前提となって共創を進めることはないし、明確な出資検討条件などもない。事業開発のなかで、必要があれば出資を検討するというスタンス。よって、何よりもまずお互いがシナジーをしっかりとだしながら、共に事業開発を進めていけるかが重要」
●【DNP・松嶋氏への質問】
食事や育児など、BtoBtoCの領域でオープンイノベーションに取り組んでいるが、それは意識的なものか?
DNP・松嶋氏「特別にこだわっているわけではない。しかし、DNPにおけるオープンイノベーションを活用した新規事業開発は、生活者や社会に向けてどんな価値が提供できるのか、どんな課題を解決できるのか、を重視しているので、結果的にBtoBtoCのようになることが多い」
●【ニューステクノロジー・大北氏への質問】
共創を提案した企業から、返信をもらうためのポイントはあるのか?
ニューステクノロジー・大北氏「まずはこちら側からしっかり情報を発信して、相手方に伝わる状態にしておくことが重要。例えば、AUBAを活用する場合であれば、PRページに自社のビジョンや保有する技術・アセットをしっかり書き込んでおく。事実、AUBAの『今だからこそ、オープンイノベーションを止めない。』の企画に参画した際も、自社のビジョンを熱く語った内容を掲載したら、たくさんのご連絡をいただいたので、やはりその点がポイントだと思う」
取材後記
グローバル規模の混乱を巻き起こしたコロナ禍。いまだ収束の見通しは立っておらず、アフターコロナ・ウィズコロナにおける生活や働き方の指針も、明確には示されていない。昨今、盛んに口にされるニューノーマルとは、いわば「不安と共生する生き方」とも言い換えられるだろう。
しかし、そうした状況に反して、イベントの2名の登壇者からは前向きなコメントがたびたび口にされた。DNP・松嶋氏は「コロナ禍だからこそ、その後の時代を見据えて、今、事業を加速するべきだ」という。一方で、ニューステクノロジー・大北氏は「コロナ以降、共創の提案への反応が良くなった」と話す。
コロナ禍の爪痕は、現在も社会のあちこちに見受けられるが、ことオープンイノベーションに関しては、ポジティブな影響も少なからず存在していたことが分かるだろう。暗がりのなかに一筋の光を見るような、そんな期待を抱かせるイベントになった。
※イベント後、BEERDROPSのLPがアサヒビールのコーポレートサイト内に立ち上がった。クリエイティブにはCEKAIが携わり、BEERDOROPSの魅力が存分に伝わるページとなっている。 https://www.asahibeer.co.jp/beerdrops/
(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太)
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