【イベントレポート】「eiicon」の人気イベント再び!メルカリ小泉氏に学ぶ、「強力なパートナーとの共創ノウハウ VOL.2」
オープンイノベーションのプラットフォーム「eiicon」は4月5日、昨年11月に行われた人気イベントの第2弾「オープンイノベーションを起こす!強力なパートナーとの共創ノウハウ VOL.2」を開催しました。平日夜のイベントながら、会場となった渋谷のイベント&コミュニティスペース「dots.」には、大手企業で新規事業開発に携わっている方々や、スタートアップ企業の方々など、80名近い参加者が集まりました。
イベントは、eiicon founderの中村亜由子によるオープニングトークからスタート。ここでは、オープンイノベーションに取り組む多くの企業が抱える課題として、「共創すべきパートナーに出会えない」が非常に多いことを紹介。
その解決策として、「興味のある企業すべてと会います」「多角的過ぎるアクセラレータプログラム」など広くパートナーを募集する事例も見受けられますが、結果的に、膨大な手間暇と時間がかかってしまい、 “オープンイノベーション疲れ”が発生するリスクが高いと指摘。こうした問題を回避し、オープンイノベーションを成功に導くためには、共創したいパートナー像=ターゲットの明確化など、事前準備の重要性を語りました。
多角的な経験を持つメルカリ小泉氏に学ぶ「大企業とスタートアップの共創ノウハウ」
このオープニングトークに続き、メインプログラムである株式会社メルカリ 取締役(2017年4月14日より取締役社長兼COO)の小泉文明氏を迎えて「大企業とスタートアップの共創ノウハウ」による講演が行われました。
小泉氏は、大手証券会社にてミクシィやDeNAなど名だたるベンチャー企業のIPOのアドバイザリー業務を担当後、ミクシィの取締役執行役員CFOを経験。さらにスタートアップの支援などを手掛けた後、2013年から株式会社メルカリに参画。さらにメルカリでは、物流大手ヤマト運輸との事業提携なども主導されており、大手・ベンチャー双方のコンサルティングに加えて、スタートアップサイドでの共創経験もお持ちです。
そこでこの講演では、大企業とベンチャー企業の共創ノウハウに関して参加者から事前にいただいた5つの質問をご用意。eiicon founderの中村がモデレータとなり、小泉氏に豊富な知見と多彩な実体験をもとに、それぞれ回答していただきました。
■質問1
大企業とスタートアップが連携を図る上で、双方に必要なマインドセットとはなんですか?
■小泉氏の回答
目先の成果ではなく、本質的なビッグインパクトを生む共創マインドが重要。
「前提として、大企業とベンチャーでマインドは異なる。たとえば大企業の場合、起こりやすいのは経営層と現場の認識のズレ。経営層から指示を受けた現場サイドは、オープンイノベーションが成果をあげるべきToDo=目的になりがちだ。これを回避するために、まず社内でオープンイノベーションを行う意義を掘り下げ、経営層と現場で意志の共通化を図ることが重要。また、現場の社員を評価する上でも、短期間での小さな成果ではなく、リスクをとって大きな成果にコミットする姿勢にフォーカスすべき。
一方、ベンチャーの場合は、日々のサバイブのために『大企業と組めば、短期間で売上があがるのではないか、資金調達ができるのではないか』という目的のはき違いが起こりやすい。企業規模だけでなく、言語も時間軸も異なる2つの会社が組むリスクを考えれば、そこに大きな意味がないといけない。たとえ時間がかかったとしても、事業提携がユーザーにとって、そして2つの会社にとって大きなインパクトをもたらすものを目指す。そうした本質的なマインドセットが必要だと思う」
■質問2
オープンイノベーションにおいて、大企業の担当者が一番留意すべき点とは?共創する際の注意点とは?
■小泉氏の回答
「フェア」な信頼関係を築く姿勢と、ベンチャーを見極める努力は必須。
「リスク回避のために、『大企業がベンチャーを管理しよう』と考えるケースがあるが、これは一番NGな発想。大事なのは『フェア』であること。たしかにベンチャーはリソースが不足している部分もあるだろうが、それでも協創を目指す仲間・パートナーとして信頼関係を築くべきだ。
会社に新入社員が入ってきたときと同じように、相手ができます・やれますと言っていたとしても、結果的に失敗することもある。そうした場合にも手取り足取りコントロールするのではなく、フェアな関係で、相手を育てていこうという思いを持ってほしい。当然ベンチャー側が未熟であれば、契約の解除も仕方ないだろう。
そもそも、ベンチャーが持つ技術力などについて、手を組む前にしっかりデューデリジェンス(適正評価)していないケースが少なくない。大企業の担当者は、相手の言葉を鵜呑みにして責任を丸投げするのではなく、社内の別部署の仲間に技術力をチェックしてもらう、他のベンチャーの技術情報をリサーチするなど、積極的にコミットすることが重要で、ベンチャーと組めば早く物事が進む、リスクが取れると思うのは違うと感じる」
■質問3
大企業とスタートアップのスピードの差は、どう調整するのが賢い?
■小泉氏の回答
大きな夢を描きつつ、無理のないスケジュールを組む。
「これまでの経験から、たしかにスピードの違いは感じる。ベンチャー側が大企業を動かそうするなら、準備から最終決済まで1年程度は時間をかけないといけないケースもある。むしろ、短期間で決着をつけようというのは、大企業のルールをわかっていないように感じる。
ただしスピード感を持って事業提携を目指すなら、まず決済権を持つキーパーソンを見極めることが大事。自分自身が大企業にいたから分かることだが、責任ある役職の人間が異動してきたばかりで、実は若手社員が実質的には動かしていることも珍しくない。
また、私が事業提携の提案をする場合には、大企業の中期経営計画や有価証券報告書などを徹底的に読み込み、相手の事業戦略を踏まえた上で、パートナーとなるメリットを必ず伝えるようにしている。この基本をおろそかにするベンチャーは意外と多い。やはり先方にもメリットがないと動いてくれない。
一方で、大企業側は『ベンチャー=スピード感が速い』という認識があるだろうが、ベンチャーのリソースは限られているので、想像と異なることもままある。期待値コントロールを誤ると危険なので、大きな夢を描きつつ、双方にとって無理のないスケジュールを組むことが大事」
■質問4
ズバリ、契約はどういうものを締結するのか?いわゆるNDAで進めていく?
■小泉氏の回答
NDAやLOIで構わないが、大事なのは早期に結ぶこと。
「NDA(秘密保持契約書)やLOI(基本合意書)など、会社ごとの状況やルールにあった契約を締結すればいい。ただし、資本が絡まない契約であれば、できるだけ早い段階で結ぶことが何より大事。ベンチャーサイドの話をさせてもらうと、大企業では、一番の応援者が急な人事異動でいなくなるリスクがある。その時、契約を結んでいなかったばかりにプロジェクトがご破算に……という場合もありうる。
一方で大企業が契約の際に注意すべきなのが、ベンチャーと契約書をしっかり読み合わせること。これを怠ると、契約内容を都合よく受け取られて、想定外のアクションを取られる可能性がある。どんな内容なのか、しっかりと意味を伝え、双方が納得できる内容を目指す。ここでアンフェアな契約を結ぶこともできてしまうが、どこかから情報が漏れた時、業界内で悪評が立つ可能性もある。
ちなみに、メルカリで言うと契約を結ぶ以上に大変だったのが、大企業の社内ルールを乗り越えること。『CtoCビジネスは社内ルールでNG』と散々言われた。これを突破するためには、何がリスクだと捉えられているのかをヒアリングし、それへの対応策や対応実績を伝えつつ、それを超えるメリットを具体的な数値などを持って提示できるかがカギになる。ここは勢いだけでは越えられない壁なので、創業期から例えばカスタマーサポート系の数値は取るようにしてきたが、大企業を説得できるだけのエビデンスは絶対必要だと思う」
■質問5
スタートアップにとって強力なパートナーになりうる大企業の要件とは?
■小泉氏の回答
自分たちに足りないピースを持っていること。そして、カルチャーが合うこと。
「スタートアップはまず、自分たちに足りない部分が何なのか、具体的に把握すべき。やみくもに事業提携を目指すのではなく、自分たちで解決できる課題であれば、むしろ自己解決を目指す方がいい。その上で、パートナーとして大企業と組むべきなのかを判断し、自分たちが求めるものを持つ企業を探せばいい。
メルカリは2016年からヤマト運輸と事業提携を行っており、非常にうまく行っている。その理由として、当然配送というメルカリのユーザー体験でとても大事な部分をヤマトさんが担っていることは自明だが、それに加えて、我々とヤマトさんのカルチャーがマッチしている点が大きかったと感じている。ヤマトさんはもちろん業界トップクラスの企業だが、一方で創業者が培ってきたベンチャーマインドが社内に根付いている。若いパートナーと一緒に、自分たちもリスクを取りながらチャレンジしていこうという社風が感じられた。
一口に大企業と言っても、リスクテイクを失ってしまっている会社と、本質的にイノベーションを起こせるような創業のマインドを持っている会社がある。またベンチャーの中にも、コツコツと積み上げ式で成長してきた組織もあるだろう。こうしたカルチャーや人間性が合う会社と組むことで成功しているケースは多い」
取材後記
メルカリ小泉氏が語る、大手とベンチャー双方の視点に立った共創ノウハウ。そのどれもが、実際の経験に基づいた内容であり、具体的かつ実践的な提言ばかりでした。先駆者の貴重な体験談は、いわば生きた教科書です。自社が意識すべきマインド・アクションはもちろん、「相手は自分たちをこう捉えているかもしれない」という視点・発想を持つことで、可能性の拡大やリスク回避できるケースも十分にあります。こうした情報を活かし、「言語も時間軸も異なる組織」が深い信頼関係を結ぶ事例が増えれば、間違いなくオープンイノベーションは加速していくことでしょう。
(構成:眞田幸剛、取材・文:太田将吾、撮影:加藤武俊)