リアル下町ロケット VOL.3 —リーマンショックを乗り越え、ロボット事業を軌道に乗せた三重の中小企業—
精密機械メーカーである中小企業”佃製作所”による奮闘を描く「下町ロケット」。この作品の舞台となった”佃製作所”のように、世界に誇る技術・プロダクトを持つ中小企業は日本に多数存在しています。ただ、今現在の日本において、そのような技術オリエンテッドの企業群に日の目を当てるような取り組みはまだまだ少なく、『知られていない』のが実情です。eiiconでは「リアル下町ロケット」と題し、優れた技術・プロダクトを保有する中小企業を紹介するプロジェクトをスタートしました。
その第3弾として紹介するのは、人とロボットが共存・協働するために柔軟素材とセンサーを組み合わせ、痛みを軽減する「YaWaRaKaロボD」を開発した株式会社三重ロボット外装技術研究所です。
同社は、中部ニュービジネス協議会(CNB)主催『ニュービジネスフェア2018』にて優秀賞を受賞(※)。さらに、産業技術総合研究所(産総研)との共同開発を進めるなど、近年注目を集めています。
しかし、もともと同社は三重県四日市市を地盤とし、1966年に創業した町工場。発泡樹脂加工の製造を得意とし、自動車関連の部品製造を手がけていた同社は、いかにしてロボット事業へとビジネスをシフトさせていったのか。さらに、会社の成り立ちや研究開発にまつわる話を聞きながら、三重から日本のモノづくりを盛り上げるその原動力を探ります。
※【イベントレポート】中部地区のオープンイノベーション最先端!中部ニュービジネス協議会(CNB)主催『ニュービジネスフェア2018』が開催! https://eiicon.net/articles/585
▲株式会社三重ロボット外装技術研究所 代表取締役 森大介氏
工業高校時代に「全日本ロボット相撲大会」の一般の部に出場し、準優勝。さらにガソリン1リットルで何キロ走行できるかを競う「エコカーレース」に出場するなど、モノづくりに親しむ。高校卒業後は、家業の木型製作所に就職。その後、受注の減少により廃業となったため、三重ロボット外装技術研究所の前身となる三重木型製作所に入社。2009年に事業承継により経営を引き継ぐと同時に代表取締役へ就任し、自動車関連事業からロボット事業へ会社のビジネスをシフト。2017年に現在の社名に変更する。
自動車関連事業から、ブルーオーシャンであるロボット事業へ。
――まず初めに、ロボットの研究開発をスタートさせたキッカケをお聞かせください。
三重ロボット・森氏 : もともと当社は、自動車のドアや床、バンパーに使用する発泡樹脂(ポリプロピレン)製品の試作品を作る町工場。先代社長を含めて60歳以上の社員がほとんどでした。しかし、リーマンショックで風向きが変わります。急速な景気の悪化をキッカケに、先代の社長から会社を買い取る形で事業継承をしました。私が30代前半の頃です。子どもも3人いて、なんとか生活もしていかなければなりません。不況の中、会社が軌道に乗るまでに数年かかりました。
実は事業継承した際に、負の遺産ともいうべき会社の借金も引き継いでいました。リーマンショック以後、少しずつ景気も回復したことや保険に入っていたこともあり、その借金をなんとか2〜3年で完済。その翌年には工場を広い場所に移転し、業績も上向いてきました。――ただ、このまま自動車関連の部品製造のビジネスをしていても景気変動が起こった際に生き残れない。景気が上向いているうちに次の手を打ちたいと思い、ロボットの研究開発を進めようと決意しました。
――事業継承してから数年で借金を完済し、工場も移転。成長軌道に乗ったような印象もありますが、自動車関連のビジネスは不安が大きかったということでしょうか。
三重ロボット・森氏 : 実は、高校卒業後に家業の木型製作所に就職をしたのですが、製造関連の会社がどんどん中国に移転してしまい、実家も廃業に追い込まれてしまいました。その経験があり、会社が元気な内に次の一手を打とうと考えていたんです。
――なるほど。自動車関連の仕事を受託しつつ、ロボットの研究開発を進めたわけですね。
三重ロボット・森氏 : そうですね。「脱自動車業界」を掲げていました(笑)。その中で、航空・宇宙産業やロボット産業への進出を検討したんです。航空機に関しては、国産化が進んでいましたが、まだ実用化に至っていない。このままだと実績が出るまで時間がかかり、儲けが出るのが遅くなると思っていました。それだったら、ロボットだと。
今から7年ほど前ですと、機能性にだけフォーカスされており、ロボットの意匠性や人とロボットの共存といったことまではビジネスとして考えられていなかった。将来的には、ロボットが生活に深く関わっていくのは予測できていましたし、人への衝撃を和らげるためには、ロボットを柔らかいものに包んでいた方が良いと考えるようになる。――それが事業の先進性だと考え、この領域で一歩前に出ればデファクトスタンダードとなり、ルールづくりにも参加できると確信しました。私にとっては、ロボット産業が「ブルーオーシャン」に見えたのです。
ニーズを吸い上げ、柔軟素材×センサーで新しい技術を。
――そこから、ロボットに搭載するための接触検知機能を持った柔軟素材の研究開発を進めたと。
三重ロボット・森氏 : はい。研究開発を開始してから、1〜2年でロボットに装着できる柔軟素材を形にしながら特許を取得しました。その間に、協働ロボットや介護ロボット、サービスロボットのISO規格も作られ、時流も味方してくれましたね。
ロボットの研究開発を開始してから3年目には展示会に出展し、様々なニーズを聞くことができました。そうした中で、柔軟素材だけでなく、センサーを使用しながら接触を検知・処理できる技術が必要だと気が付いたのです。
――それが、接触検出ソフトカバーである「YaWaRaKaロボD」の開発に繋がったわけですね。
三重ロボット・森氏 : そうです。それから「YaWaRaKaロボD」に関わる特許を取得したのが2016年です。技術に関する動画をネットで配信し、翌年には大企業や大学が興味を持ち始め、2018年から量産を見据えた試作が始まりました。さらに、現在では産業技術総合研究所(産総研)との共同開発も進んでいます。
▼「YaWaRaKaロボD」のロボットへの実装例
――産総研との共同研究はいつからですか?
三重ロボット・森氏 : 2018年の6月からです。実用化に向けては、第三者機関による安全認証が必要となります。なぜなら、安全認証を受ければ、当社の製品を導入するメーカーは安全認証のプロセスを行なう必要がないので、実用化への道が拓けるからです。認証を受けるためのノウハウを産総研は持っていますので、そういった部分の研究開発を共同で行なっています。
その他にも大手企業との量産化プロジェクトも進めていますし、アジア圏からの問い合わせも多くきています。海外進出を見据えて、国際特許取得にも動いています。
――実用化が進んでいく中で、どのようなビジネスモデルを検討されていますか。
三重ロボット・森氏 : 目指しているのはAppleのビジネスモデルです。上流と下流を抑えて、モノづくりはパートナー企業にアウトソースする。上流にある特許や設計といったライセンス関連を押さえ、下流の販売網はメーカーと組んで売り出していきます。
現在、当社の事業はロボット一本なので、会社のスリム化を図って工場を売り渡しました。そのため、キャッシュフローも安定しています。今後は選択と集中で、有効的な投資を行ないながら、研究開発や第三者機関の安全認証、国際特許取得に注力していきます。
成功はすぐにやってこない。長い目で見ることが大切。
――リーマンショック後の約10年でここまで辿り着いていますが、「YaWaRaKaロボD」の技術を世の中に広めることができた理由はどこにありますか?
三重ロボット・森氏 : 技術やモノができた時は、必ず展示会に出展しています。年に数回、出るなら東京ビックサイトで開催されるような、大きなイベントを狙っていました。また、先程もお伝えした通り、技術動画を配信したことで、問い合わせ件数が増加しましたね。
――ロボット事業にシフトするまで、苦労した点はありましたか。
三重ロボット・森氏 : 事業継承した時に比べれば、苦労はありません(笑)。最初から借金があるわけではないですし、自分が始めた事業なので全て把握できています。研究開発した技術も、1年くらいでどうにかなるとは思っていませんでした。メーカーなどに技術を提案しても、認められるか無視されるかのどちらかですので、接触できたとしても長い目で見ていました。
――これから「こんな企業と共創したい」といった希望はありますか?
三重ロボット・森氏 : 大企業のオープンイノベーションは、本気度が足りないケースがあるという話も耳にします。そういった状況の中でも、本気で実現させたいと考えている方と組んでいきたいです。また、中国や韓国からの引き合いは多くあるので、2019年度以降は海外の展示会に出展を予定しています。
――最後に中小企業や町工場にメッセージをお願いします。
三重ロボット・森氏 : 私もそうですが、気持ちだけでも大企業と対等だと思って事業を進めていってほしいです。最初から自分達を大企業の下に位置していると思っていたら、上にはいけませんからね(笑)。
取材後記
森氏はリーマンショック後に会社を受け継ぎ、自動車関連事業を軸に黒字化。景気の回復と共に、自動車業界が息を吹き返す様を目の当たりにしながらも、ロボット事業へと軸足を移していきます。ロボット事業に社会のニーズがあるという確信があったとしても、森氏のように大胆な転換を決断できる経営者は少ないのではないでしょうか。まさに“選択と集中”がポイントになったと言えるでしょう。産総研との共同開発や大企業とのプロジェクトが進行中など、今後の同社の動向にも注目していきたいと思います。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)