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【TAP Key Person's Interviews】♯07 「スポーツ×イノベーション」で人々を幸せに | 東急スポーツシステム株式会社

【TAP Key Person's Interviews】♯07 「スポーツ×イノベーション」で人々を幸せに | 東急スポーツシステム株式会社

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2015年から東急電鉄が実施している事業共創プログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」。幅広い16の領域で求められている技術・アイデアはどのようなものか?そしてオープンイノベーションを通してそれぞれの領域では何を実現したいのか?――それらを可視化するため、eiiconではTAPに参加する東急グループ各社にインタビューするシリーズ企画『TAP Key Person's Interviews』をスタートさせた。

今回登場するのは、TAPの【スポーツ】領域を担う、東急スポーツシステム株式会社だ。“スポーツを通して人々の人生を幸せにします”という理念を掲げている同社は、フィットネス・スイミング・フットボール・ゴルフ・テニスの5つの事業を展開。心と体を育むキッズスクールからシニア向けプログラムまで、老若男女全ての人々へスポーツに関わるサービスを提供中だ。日本の超高齢化社会を見据え、従来のビジネスに縛られない自由な発想でスポーツの素晴らしさを伝えようと模索している。

そんな同社がTAPを通じてどのような世界観を実現したいのか?――代表取締役社長南口氏に、お話を伺った。

■東急スポーツシステム株式会社 代表取締役社長 南口 綱 氏

1993年、東京急行電鉄株式会社に入社。ファイナンスやグループ会社管理を15年担当。その後、経営計画等の策定を手がける。鉄道事業に7年間従事し、駅関連業務を統轄。2017年に東急スポーツシステムへ異動。2018年4月より現職。高校・大学時代は空手を、今は休日に地元サッカーチームのコーチと、自身もスポーツを楽しんでいる。

スポーツで人々をもっと幸せにしたい。

――今回、東急スポーツシステムがTAPに参加する背景をお聞かせください。

南口氏 : 当社では、“スポーツを通して人々の人生を幸せにします”という理念を軸にビジネスを展開しており、その中で「人々の幸せってなんだろう?」と突き詰めていくことを大切にしています。日本人で、週に2回以上運動する人は人口の10%。これは、先進国の中で飛び抜けて低い数字です。これからの超高齢化社会においてスポーツで人生を幸せにする方法、その一端を担う当社のビジネスモデルがこのままでいいのかと常に考えています。

さらに、私たちが提供する従来のサービスでは、どうしても既存の会員様向けのものが多くなってしまう。だからこそ、TAPを通じて様々なアイデアに触れ、新しいことに挑戦していきたいのです。たとえ、事業まですぐには辿り着かなくとも、そこから新たなアイデアが生まれる可能性がありますし、チャレンジしようとする機運も生まれる。今後、東急スポーツシステムがブレイクスルーしていくためにも、TAPを必要としているのです。

――では具体的に、TAPによってオープンイノベーションを実現したい領域はありますか?

南口氏 : 既存事業強化と新規事業開拓、業務効率化の3点になります。既存事業にはフィットネス、ゴルフ、スイミングスクール、サッカースクール、テニススクール、法人向け事業の6つの柱があります。全て会員様に向けてサービスを提供し、いかにして当社の価値を感じていただけるかが重要となります。

しかし、最近では24時間営業の無人のフィットネスクラブなど競合も増えており、安価にフィットネスを楽しめ、多様化するニーズに対応したものが登場し始めました。確かにフィットネスマシンだけを置いておいて、会員様が自由に使い、汗を流してもらうという考えもあるかもしれません。ですが、それは当社の理念にそぐわない。「われわれがスポーツで人生を幸せにする」という価値観が私たちにあるからこそ、他のフィットネスクラブとの違いが必要なのです。

――競合との差別化を明確にしていくわけですね。

南口氏 : その通りです。スイミングやフットボールなどのスクールビジネスにおいては、各家庭の生活の変化も感じています。以前は、スクールまでご両親が送迎し、子どもの頑張りを見届けていました。しかし、今では子どもだけが送迎バスに乗って、スクールに通うようになっています。共働き家庭が増えたことにより、子どもの頑張っている姿、上達する姿をご両親が見ることが少なくなってきているのです。

果たしてそれが多くの人々の幸せに繋がっているのでしょうか。私は親が子どもたちの成長を“見る”楽しさが、スポーツには必要だと考えます。両親に褒めてもらい、認められてこそ、子どもの幸せにも繋がっていくはずですから。

――なるほど。

南口氏 : 一昔前は、フィットネスクラブへ通うことがステータスだった時代もありました。それが現在では、ダイエットや機能改善が目的で通うように変化しています。次は「通う楽しさや意義を感じられる仕組み」を求められていると感じています。

例えば、新たなフィットネスプログラムを導入し、プログラムの成果を見える化したり、会員様により成果を感じていただくサービスの提供などです。また、子どもがスクールで練習している姿をダイジェストで切り取り、ご両親がWeb動画で見えるようにするサービスもニーズがあるでしょう。楽しさを実感できる仕掛けや仕組みをテクノロジーで実現できれば、さらに人々が幸せになり、これからも当社に通い続けていただけます。そうすれば、会員様も社員も会社も、関わる人みんなが幸せになれるはずです。

――新規事業ではどのようなサービスを目指していくイメージですか?

南口氏 : TAPを通じて出会う共創パートナーに期待していることは、私たちが検討段階にすら入っていない、新しい発想を持ったアイデアやテクノロジーの提案です。すでに先ほどお話しした「成果の見える化」などは社内で検討していますし、私たちフィットネスの専門家が進めていく領域だと考えています。

また、専門アドバイザーによる、測定結果を基にしてカウンセリングを行うからだステーションやウェアラブルもすでにサービスとして提供しています。そういった形になっているものではない、全く新しい領域でのご提案をお待ちしています。

――フィットネス業界では考えつかないようなアイデアを求めていると?

南口氏 : そうですね。以前のTAPで印象に残っているのが、フットサルコートの利用者をマッチングさせ、大会まで運営する仕組みです。さらに、その大会でベストゴールを撮影し、大会後に映像で見えるように編集することでプロサッカーリーグのように、フットサル大会を盛り上げるという提案でした。スポーツを提供するビジネスは、どれも場所と時間の制約があります。今ご説明した提案のように、そういった課題をITでマッチングさせ、解決するシステムは可能性を感じます。

また、企業は健康経営を目指すために社員に向けて、フィットネスクラブに通うように奨励しているところもありますが、今のところ徐々にしか進展していません。それは、時間と場所という制約を越えていないからです。

ただし、オフィスの会議室に私たちが出張し、ストレッチなどのフィットネスを提供するサービスを行えば、受け入れられると思っています。それは、時間と場所という制約を、提供する側が越えてサービスを提供しようとしているからです。お互いが最適な部分でマッチングできれば、新たなビジネスチャンスが生まれると思います。

お客様だけでなく、社員のためにもオープンイノベーションが必要。

――今後、超高齢化社会という社会課題がますます浮き彫りになってきます。高齢者に向けて、ビジネスを拡大していきたいとお考えですか?

南口氏 : 高齢者に向けたフィットネス事業はハードルがかなり高いと思っています。日本は欧米に比べ医療保険制度が充実していますし、病気になるまで自分が健康だと思っている方々も多いので、そういう意識の高齢者に時間とお金を使ってまでフィットネスクラブに通いたいと思っていただくためには工夫が必要です。さらに、既存のフィットネスクラブでは、通われている高齢者のコミュニティがすでにできている。そこに新規のお客様が入ろうとすると、転校生のように疎外感を感じることもあるみたいです。

そういった問題を解決するために、実は、小学校の体育館といった既存の公共施設が有効ではないかと、私は考えています。

そこで、学校や公園といった、行政や地方公共団体が管轄しながらも十分に稼働していない施設の運営を私たちが受託し、サービスを提供していこうと計画中です。そうすれば、今まで必要だった場所代を削減することができます。フィットネスクラブの運営コストの3〜4割が賃料なので、ここを節約することができれば安価で提供でき、金額の面で二の足を踏んでいた高齢者がフィットネスに参加するハードルが下がります。また、新規施設を作らずとも自宅周辺に施設を整備するハードルも下がるはずです。

――場所代を削減することで、低価格帯のフィットネスクラブを生み出すわけですね。

南口氏 : はい。ただ、それだけではなく、公園も体育館も使い方を変えていきます。新しい使い方は、技術で乗り越える部分と、ハードで作り込む部分が必要となります。先日、当社は町田中央公園グループの指定管理事業を受託しました。そこで、町田にある体育館をフィットネスエリアとして企画し広めていくアイデアを、TAPを通じて提案いただきたいと思っています。

その場でフィットネスを行わなくとも、パブリックビューイングやスポンサーを募ってイベントを開催する、パラスポーツの普及に活用することだってできます。そこで蓄積したノウハウを活かして、指定管理事業を拡大し、ビジネスとして成長させていく計画です。

東急グループのビジネスモデルは、東急沿線に人を集め、価値を提供し、その対価をいただくことで成立しています。そのために、何らかの方法で人々が集う場所、サービスを生み出さなければなりません。しかし、東急沿線は既に様々な施設が集積し、賃料も安くはないため健康社会を実現させるような、社会インフラ的な取り組みは短期的には採算性が厳しいのも事実。ですが、人の暮らしに欠かせない健康や文化を守っていくことは、沿線の方々と共に成長してきた東急グループが他社に先がけてやるべきことだと考えています。

高齢者が健康を維持するために必要な運動をする場所がないのであれば、それを私たちが解決すべき社会課題と定義付け、すぐには収益に直結しなくとも場所づくりに取り組んでいくべきなのです。そういった、社会インフラ的発想を持ったアイデアやテクノロジーも私は大歓迎です。

――東急グループの理念と合致した発想であれば、挑戦する価値があるということですね。

南口氏 : たとえば、定年後に時間を持て余している方がいれば、スポーツという分野で彼らを繋げてコミュニティを形成するといったアイデアも考えられます。公園などの公共の場を使って、触れ合える場を提供することも、高齢化社会の中では挑戦していく必要があります。ボランティアに近いことでも、継続性があればやる価値がある。それは、他社ではできない私たちだからできることです。

――一方で、TAPを通じて業務効率化も実現したいとありましたが、どのような課題を抱えているのでしょうか。

南口氏 : 現在、東急スポーツシステムには正社員が200名、アルバイトを含めるとおよそ800名の社員が在籍しており、その多くがインスラクターやコーチとして非常に頑張っています。その中で社内の課題は、器具のメンテナンスといったバックヤード関連の業務、事務系の業務など、スポーツとは関わりの浅い部分の仕事になります。そこに時間を割き過ぎてしまい、インストラクターとしてお客様をサポートする時間が短くなっているのです。だからこそ、顧客情報を管理するシステムとバックヤードの事務系の仕事を改善する必要があります。

他にも、インストラクターやコーチが、その場で会員様の情報を蓄積できるシステムが欲しいですね。現在はウェアラブルデバイスを活用し、今日は何キロ走ったといった活動量は採れますが、それに定性的なデータまで収集できると顧客データが強固になっていきます。しかし、業界の誰もが考えてはいても、そこまでデータを取りにいけていない。もし実現すれば、データをもとに会員様により精度の高いインストラクションが提供でき、新たなサービスの検討も可能になっていくはずです。

――顧客データをいかに集めるか。その方法を確立したフィットネスクラブが、他社よりも一歩先に進んでいく事ができるのですね。

南口氏 : そうですね。また一方で、社員の生産性が向上していけば、彼らの給与にも直結すると考えています。フィットネス業界やスクールビジネス最大の課題は人材難。業界的にもインストラクター・コーチの給与水準が、まだまだ十分とはいえません。給与を今の倍にするなら、会員様を倍にするかコストを半分にすればいい。そういった思考は必要で、無駄を省くのは会社のためでなく、社員の給料を増やすため。その様に分かりやすく見えれば、社員も行動しやすくなります。そして、インストラクターの働き方においてイノベーションを起こすことができれば、当社だけでなく業界全体を救うアイデアに成長することも夢ではありません。

スポーツを通して、地域の活性化まで実現させる。

――現在、東急スポーツシステムでは、新しい試みや挑戦していることはありますか?

南口氏 : 当社には大型のゴルフ練習場が2カ所あります(東急あざみ野ゴルフガーデン・スイング碑文谷)。スイング碑文谷では、スウェーデンのトップトレーサー社製モニター・センサーを使用した、トップトレーサー・レンジを2019年1月に導入しました。打った球の弾道を打席のモニターで追えるサービスを提供しており、データを蓄積してアプリで整理保存も可能です。さらに、アプリに入っている世界のゴルフコースを、練習場で球を打ちながら周れる疑似体験もできます。

▲トップトレーサー・レンジ。プレーヤーは全てのショットのリプレイを打席に設置されたモニターで確認できる。

また、サッカースクール事業ですと、将来的にはJリーグを目指すチームを作ろうと計画中です。「東急SレイエスFC」というジュニアユースチームを運営しており、関東リーグで2位という実績で、Jクラブの下部組織とも対等に戦うことができています。ユースチームを2019年の4月から発足させますので、彼らが高校を卒業する頃にはJリーグを目指す社会人チームを結成し、東急沿線をさらに盛り上げていきます。沿線の方々には、クラウドファンディングでの支援、選手との何らかの繋がりを持てるイベントを事業化するといった構想が、漠然とですが頭の中にあります。

――まさにスポーツを通して、地域を活性化させる取り組みですね。

南口氏 : 地域に根ざした、沿線の方々に応援されるチームになると確信しています。たとえば、ユースチームの運営のお手伝いをすると、東急のポイントがもらえて、サービスを受けられるという仕組みがあっても面白いですね。こうした取り組みから、人の輪が広がっていくことを期待しています。

――最後に、TAPに応募を考えているスタートアップへメッセージをお願いします。

南口氏 : 当社はスポーツを軸に、街づくりや人々の人生を幸せにする事を目指しています。コンパクトな会社だからこそ、やろうとしたらすぐ実行に移すスピード感もある。フィットネス視点だけでなく、もっと違う視点でのアイデアを期待していますし、トライ&エラーは覚悟の上。未来を見据えて、一緒に頑張っていきましょう。

取材後記

近年、QOL(生活の質)や健康寿命という言葉が、社会全般で盛んに使われている。超高齢化社会を迎える日本において、これから “暮らしの質”がより求められるのは間違いない。その中で、人々の健康をサポートするフィットネスをはじめとするスポーツ事業が、ますます注目されるだろう。「フィットネス業界自体、生まれて30年という若い業界」と話す南口氏。若い業界だからこそ、問題も多岐に渡る。しかし、成熟した業界に比べ可能性を秘めているのは間違いない。人々の人生の幸せを実現するという、大きなビジョンを掲げる東急スポーツシステムとどのような革新的な価値を生み出せるのか?――ぜひ、TAPを通じて挑戦してほしい。

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)

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