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【TAP Key Person's Interviews】♯03 ポスト2020の建設業界を共創で変革する | 東急建設株式会社

【TAP Key Person's Interviews】♯03 ポスト2020の建設業界を共創で変革する | 東急建設株式会社

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2015年から東急電鉄が実施している事業共創プログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」。幅広い16の領域で求められている技術・アイデアはどのようなものか?そしてオープンイノベーションを通してそれぞれの領域では何を実現したいのか?――それらを可視化するため、eiiconではTAPに参加する東急グループ各社にインタビューするシリーズ企画『TAP Key Person's Interviews』をスタートさせた。

今回登場するのは、TAPの【建設】領域を担う、東急建設株式会社だ。同社は1946年に創業し、渋谷や東急沿線の街づくりを核に事業を成長させており、特に近年では東京オリンピック・パラリンピックに伴う建設需要や堅調な公共投資・民間建設投資を背景に業績を伸ばしている。そして、「Shinka(深化×進化=真価)し続けるゼネコン」を企業ビジョンに掲げ、次なるステップへと進もうとしている。

一方、2020年以降のマーケットや労働人口の変化など、建設業界を取り巻く状況を見てみると、多くの課題が浮き彫りになってくる。その中で、オープンイノベーションによる新たな価値の創造が、建設業界に大きなインパクトを与える可能性を秘めている。――業界が抱える現状の課題から、TAPによる共創で切り拓く未来まで。東急建設でオープンイノベーションを推進している佐藤氏・鈴木氏のお二人から、お話をお伺いした。

■東急建設株式会社 経営戦略本部 経営企画部企画グループリーダー 佐藤喬氏 (写真右)

1994年に東急建設株式会社へ新卒入社。工務部で現場の数値管理などを経験したのち、2007年に経営企画部へ異動。経営に関わるさまざまな業務を手掛けながら、現在はオープンイノベーションの推進にも積極的に取り組んでいる。

■東急建設株式会社 経営戦略本部経営企画部企画グループ 鈴木武士氏 (写真左)

2017年中途入社。新卒では百貨店に入社。経営企画部でM&Aによる子会社再編等を担当。その後、経営コンサルタント会社に転職し、M&Aや新規事業企画、ビジネスプロセス改善、RPA導入などを手がける。東急建設株式会社に入社後、これまでの経験を活かし、現職で活躍中。

2020年を境に、建設業界全体が大きな転換期を迎える。

――まず東急建設さんがTAPに参加した背景についてお聞かせください。

佐藤氏 : 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた建設ラッシュなどもあり、建設業界は現在55~56兆円とも言われる大きなマーケットになっています。しかし、この業界にいる誰もが、今の状況がそのまま続くとは思ってはいません。市場が徐々に縮小していくことが予想される中、私たちは生き残るために、事業ドメインを建物の新築・新設から、修繕や維持、補修・改修へとシフトさせていかなければなりません。そのためには、建築物のライフサイクルをきちんと見越した上で、お客さまにサービスを提供する必要があります。そこで、修繕や維持、補修・改修の精度を高める新しい技術やアイデアを求めるために、オープンイノベーションに取り組み始めました。

――確かに今後の日本の人口減少を見据えると、新築・新設よりも、修繕や補修といったニーズが増加することが見込まれます。

佐藤氏 : また一方で、労働市場にも課題を抱えています。現在、建設業界には約500万人の就業者がいますが、その約2割が60歳以上。今は2020年に向けて好景気とも言える状況ですが、その後にリタイアしようと考えている就業者も多くいるはずです。つまり、数年後には現状から労働力が20%下がってしまいます。そうなってしまう前に、生産性を向上させる新しい技術が必要です。その他にも、60歳以上の職人が持っているさまざまな技術を、若手に伝承することも必要ですし、今後さらに増加する外国人労働者の育成システムの構築も急務となります。こうしたさまざまな課題を解決していくために、オープンイノベーションが必要になってくるのです。

――業界的に、大きな分岐点に差し掛かっているのですね。現在、これらの課題を解決するために、すでにスタートしているプロジェクトはありますか。

鈴木氏 : 例えば、先ほど佐藤からもお話ししましたが、建設業界では比重が大きい就業者層である60代が近い将来減っていきます。そして、この60代が持っている技術が失われていくという危機感があります。そこで、技術伝承を実現させるために、東急建設では彼らが持つ技術を映像で、しかも手軽に残すためのプロジェクトを進めています。

――具体的にはどのように取り組み始めているのでしょうか?

鈴木氏 : 我々ゼネコンは受注後、協力会社に建設に関わる作業を依頼し、その全体の管理を担当します。まずは、この全体の管理を若手でもしっかりできるように、建設現場における管理に関する仕事を映像に残そうと動いています。もう一方で、技術伝承のために協力会社にもお願いをして、その会社の鳶が持つ技術も映像に残せるように検討を進めています。2019年上期には、映像が少しずつでき上がるスケジュール感で動いています。こうした取り組みの中から成果が見えてきたものについては、出資も検討していきたいと思っています。また、スタートアップへの出資は事業性の見方がM&Aとは違うため、TAPの知見をお借りしながらやっていきたいです。

▲こうした建設現場の技術伝承に役立つ映像が完成していく予定だ。

――技術伝承のプロジェクトのお話がありましたが、その他にも取り組んでいるものはありますか。

佐藤氏 : ドローンと映像技術を使った取り組みですね。これは、国土交通省が積極的に進めている分野でもあります。また、例えば、VRで図面と実際の現場を重ね合わせて、どこに配管があるかなどを可視化する技術にも取り組んでいます。これらの新技術に期待しているのは、現場の生産性を上げること。労働環境の改善も建設業界では必要で、働き手が減っていく中でも、残業を減らし休みも増やしていかなくてはなりません。生産性を上げるアイデアは、業界全体で待ち望んでいることですね。

鈴木氏 : 設計の分野でも、生産性を上げていければと思っています。基本的な設計をパターン化させて自動化させれば、コストも時間も削減できます。AIなどの技術を応用することで、人が何日もかけていた作業を、すぐに完了できるようなイノベーションが生まれるといいですよね。

あと、最近では建設資材が高騰していて、価格の予測を立てることが難しくなってきています。四半期、半年、1年と資材価格のレポートを作成しますが、どうしてもタイムラグがある。タイムリーに価格が分かる演算ができれば、私たちのビジネスに大きなアドバンテージを与えてくれます。

佐藤氏 : 過去には、資材や労務費の高騰のあおりを受けて建設費が短期間で10%以上も上がってしまったこともありました。コスト予測ができるシステムがあれば、会社の武器になります。

簡単には手に入らないアセットやリソースが、最大の魅力。

――東急建設さんは、海外事業にも着手されていますね。オープンイノベーションへの取り組みは、海外事業にもインパクトをもたらすものになりそうでしょうか? 

佐藤氏 : 当社は収益の多様化を目指して、東南・南アジアを中心とした海外ビジネスも展開しています。タイは約35年以上、インドネシア、シンガポールも歴史が長く、最近ではミャンマー、ベトナム、バングラデシュに進出しています。具体的にはODAによる大型の土木工事や、日系企業の工場建設などを行っています。鉄道案件も多く、東南アジアでも東急の強みが知られていますね。

しかし、海外では技術的な問題が起こっています。現地の協力企業では日本で活用している技術や機材が使えなかったり、東急建設が目指す品質を理解してもらうのにも労力を割きます。そういった海外の課題解決にもオープンイノベーションを必要としていますね。また、それをきっかけに共創パートナーが海外進出する契機を掴んでほしいと思っています。

▲東急建設が手がけるジャカルタ大量高速輸送システム

――海外事業で共創できるという点も、一つの魅力的な提供アセット・リソースになると思います。その他に、特徴的な提供アセット・リソースはありますか?

佐藤氏 : 共創パートナーにとって一番のメリットとなる提供アセット・リソースは、「建設現場」というフィールドがあることではないでしょうか。このフィールドを使って、実証実験を積極的に行うことができます。しかもそのフィールドは全国各地に、大小さまざまあります。また、相模原には準大手ゼネコンの中ではレベルの高い施設を誇る技術研究所があります。音響関係の実験室や人工気象室、風洞実験室などもあり、多種多様な研究を行っています。施設の使用はもちろん、研究者も一緒にオープンイノベーションに取り組むことも可能です。

また、今までの施工データも社内に蓄積されています。例えば、法律上は杭のデータは残しておく必要はないとされていますが、昨今の事件を受け、当社ではそういったデータも保存することにしています。その他にも、設計や見積もりなど、膨大な量のデータが存在しています。

▲技術研究所には人工気象室など、さまざまな設備が用意されている。

鈴木氏 : 当社には土木部門も建築部門もあって、さらに代名詞とも言える鉄道建設の部門があります。そして、木造に注目した中規模木造建築の部門や将来性の高い、リニューアル事業やITで建物を管理するソリューション事業もある。粒は小さいですが、さまざまな事業や部署、部門と組むことができるのです。少し変わったものでは、国内最大級のパプリカ養液栽培施設を保有し、パプリカの栽培も行っています。しかも、このパプリカがとても美味しいんですよ(笑)。

――パプリカの栽培!とても意外です(笑)。東急建設には、まさに多種多様の魅力的なアセット・リソースがあるわけですね。

佐藤氏 : 社内だけでなく、外部の協力会社とのネットワークも当社の魅力です。建設現場で何十社という協力会社との繋がりがあるので、オープンイノベーションによる取り組みの裾野が広がっていく可能性も高い。首都圏の鳶や大工の協力会社が集まる会合もありますので、そこで新たな試みを提案・検討してもらうこともできるでしょう。その会合では、複数の会社とまとめて会えますし、建設業界に精通していないと中々入り込めないネットワークと繋がっていくことが可能です。実は、先ほどの映像による技術伝承の案件もその会合でプレゼンをして、協力会社に共感していただき、検討が進展していったんですよ。

将来を真剣に考えているからこそ、貪欲にオープンイノベーションを推進していきたい。

――オープンイノベーションに取り組む中で、「こんな技術は特に欲しい」といったものはありますか。

佐藤氏 : 建設業界で使えるものは、何でも欲しいと思っています。実際やろうとしたときに共創パートナーの状況を見て、カバーできない部分があればそれを当社がカバーしたり、カバーできなければ任せられる会社も探します。土木事業や建築事業といった各企画部門とも連携していますし、私たちが窓口となってより適切な部門とマッチングしながら検討を進めていきます。

――では、どのようなマインドを持ったパートナー企業と共創に取り組みたいと思っていますか?

佐藤氏 : まずは、私たちと一緒に悩んでくれる企業さんですね。前途した映像制作の企業さんとお話をしはじめたときは、多くの提案をしてくれて、一緒に悩んでくれたのが印象的でした。

鈴木氏 : 取り組んでいる技術や事業の強みを私たちへ積極的にアピールしてほしいですね。そして、その事業や技術が生まれた背景に、苦労があるとさらにいいと思っています。――「もうどうにもならないから、その問題点を解決するために、その技術や事業を始めたのだ」と。そういった内なる情熱を秘めたスタートアップと、組んでいきたいですね。

――最後に、TAPへの応募を考えている企業へメッセージをお願いします。

鈴木氏 : 建設業界は将来の課題が多くあります。それらを挑むべき課題として捉え、一緒に発展していこうと思っていただける企業さんにお会いしたいと思っています。この業界では、単純作業に日々追われてしまっている優秀な方がまだまだ沢山います。そういった方々が、創造的な仕事に注力できる環境を作っていきたいです。そんな建設業界の次の価値をつくるために、共に力を発揮していきましょう。

佐藤氏 : さまざまな課題を抱えている業界ですが、建設業界は非常に大きなマーケット。その先の広がりに、可能性を感じてほしいです。また、ここで解決できたことは、防災やインバウンドへの対応、環境といった社会問題の解決にも直結していきます。建設業界だけでなく、社会を良くしていきたいと考えている、そこにやりがいを感じられるスタートアップからの応募を期待しています。外から見たら、「もっとこんな先進技術を導入したらいいのでは」といった意見を、どんどん集めていきたいと思っています。今はまだ事業化に至っていない技術でも、私たちと話をしたら、道が拓けることだってあります。ぜひ、積極的にご応募ください。

取材後記

2020年を目指し、全国各所で開発が行われている。その中心となっている建設業界だが、その中を覗いてみると、業界全体で課題が山積している。豊富な労働力に支えられ、今まではマンパワーで乗り切っていたことも、労働力の減少により今後は実行が不可能になる。その中で、オープンイノベーションによる技術革新、新たな価値の創造を業界全体が待ち望んでいる。東急建設とのオープンイノベーションが、建設業界全体をも救う「次なる一手」になり得るだろう。

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)

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