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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑰〜イノベーター理論

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑰〜イノベーター理論

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革新的なサービスやプロダクトであればあるほど、市場にどのように受入れられるかは非常に重要です。新しい商品をすぐに試したく人がいる一方で、なかなか手を出さない方もいます。彼ら彼女らはそもそも考え方が違うので、マーケティングの方法も変えなければいけません。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第17弾で取り上げる「イノベーター理論」は消費者を5つに分類し、市場の広がりの段階を解き明かしたビジネス理論です。マーケティングに携わる人がこれを把握していなければ、シェアを獲得しきれずにサービスをクローズさせてしまうことにもなりかねません。新規事業に携わる方、マーケティングを行う方は必ず覚えておきましょう。

イノベーター理論とは

イノベーター理論は、1962年に米スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が提唱した理論で、消費者を時間軸とニーズによって5つのカテゴリーに分けて考えます。主に新しいサービスやプロダクトを市場に出す際、シェアを獲得していく段階でそれぞれのターゲットにあったプロモーションを選ぶ際の参考になります。

早速イノベーター理論における消費者の5つのタイプについて見ていきましょう。


イノベーター(Innovators/革新者)

イノベーターとは、新しいテクノロジーやサービスを求めている人たちのことを指します。最新のテクノロジーに対する興味が非常に高く、常日頃から積極的に最新情報を収集している人たちです。新しいもの、まだ誰も持っていないものを手にすることに価値を見出しており、信頼性や権威性が担保されていな商品やサービスでも抵抗なく興味を持ちます。消費者全体のうち、わずか2.5%しか存在しないと言われる消費者層を指します。

アーリーアダプター(Early Adopters/初期採用者)

アーリーアダプターはイノベーターの次にトレンドに敏感で、積極的に情報収集を行っています。イノベーターよりも理性的で、目新しさだけでなくベネフィット(価値)にも着目して商品を選びます。また、情報のインプットだけでなく、自ら積極的に情報を発信するため「オピニオンリーダー」や「インフルエンサー」という呼び方で認知されることも。彼らはその後の消費者への影響力が強いため、商品が普及するかどうかの鍵を握っているとも言われています。全体の消費者の13.5%がこの層に当てはまります。

アーリーマジョリティ(Early Majority/前期追随者)

アーリーマジョリティは、アーリーアダプターに比べては慎重な姿勢を見せますが、平均よりはキャッチアップが早い層です。アーリーマジョリティの評価を聞いてから購入を決断することが多く、世間への普及を広めてくれる存在であることから「ブリッジピープル」とも呼ばれています。全体の34%とボリュームの大きな層です。

レイト・マジョリティー(Late Majority/後期追随者)

レイト・マジョリティーは、比較的猜疑心が強く、広告やセールスには簡単に影響されない層です。周囲の動向をしっかりと見極める慎重さを備えていて、世間の過半数の人がその商品を手に取り、安全が確認されたところでようやく自分もそれを手に取ります。周囲に追随して動くことから「フォロワーズ」と呼ばれることも。全体の34%と、アーリーマジョリティと並んで大きな層となります。

ラガード(Laggards/遅滞者)

ラガードは、5つの消費者層の中で最も新商品に対して警戒心の強い人たち。時には新しい商品に対して敵意すら抱いていることもあり、よほどの事情がなければ手に取ることすらありません。新しい情報には興味を示さず、伝統的な振る舞いを好みます。新商品が伝統になって初めて購入を検討し、頑なに使用を拒みます。偏屈な印象を抱くかもしれませんが、全体の16%はこの層に分類されます。

「普及率16%の理論」と「キャズム理論」

イノベーター理論を考える上で、強く意識しなければならないのが「16%」という数字。これはイノベーターとアーリーアダプターの足した合計値です。アーリーアダプターまで普及すれば、彼らが情報を発信するため、爆発的に購入者が増えるため、普及率16%を超えられるかが製品の成功を左右する。それが、ロジャース氏が提唱した「普及率16%の理論」です。

対してマーケティングコンサルタントのジェフリー・A・ムーア氏が提唱したのが、「キャズム理論」です。キャズムとは「溝」のこと。キャズム理論ではアーリーアダプターまでの2グループを「初期市場」、アーリーマジョリティからの3グループを「メインストリーム市場」と捉えます。この2つの間にはキャズム(溝)があり、消費者が商品に求めるニーズが大きく異なるというのです。

初期市場の消費者が「新しさ」を重視するのに対し、メインストリーム市場の消費者は「安心感」を重要視します。つまり、市場の16%まで普及しても、そこに横たわるキャズムを超えなければ、それ以上市場に広がることなく消えるというのです。

初期市場まで普及させるには「目新し」だけでも十分ですが、キャズムを超えるには「安心感」も訴求しなければいけません。そのために、人気のインフルエンサーに商品をレビューしてもらったり、商品の良いレビューを集めるなど、それまでとは異なる伝え方が求められます。

市場の16%まで普及すれば爆発的に購入者が増えると考える「普及率16%の理論」と、普及率16%を超えるためにアプローチを変えるべきだと考える「キャズム理論」。全く正反対の理論ではありますが、どちらが正しいということはありません。ただし、それぞれの層のニーズと違いを理解し、ユーザーに合わせた訴求が求められることは変わらないでしょう。

消費者タイプ別アプローチ方法

消費者のタイプによってアプローチを変えるべきだと先述しましたが、どのようなアプローチが効果的なのか見ていきましょう。

イノベーター:目新しさ

イノベーターは常に新しいものを探しています。情報収集の際には最新テクノロジーに関する情報をSNSやウェブサイトから随時入手しているのです。そのため、イノベーターにアプローチするには、どのような最新テクノロジーが使われ、それまでの商品と何が違うのかを明記しましょう。特にテック系のサイトで商品を紹介してもらえれば、イノベーターに情報を伝えやすくなります。

アーリーアダプター:伝えやすさ、ベネフィット

とにかく新しいものが欲しいイノベーターに対し、アーリーアダプターは「新しいものを人に広めたい」という欲求も強いです。そのため、彼らが情報を拡散しやすいように、商品の特長や使い方を分かりやすく紹介すると彼らの欲求をくすぐりやすくなるでしょう。また、この層はベネフィットも求めているので、目新しさだけでなく、そのテクノロジーがどのようなベネフィットに繋がるのかも重要視しています。

アーリーマジョリティ:安心感

アーリーアダプターに感化されやすいアーリーマジョリティにアプローチするには「安心感」を打ち出しましょう。ここまでの初期市場には「目新しさ」が重要でしたが、これ以降のメインストリーム市場には安心感が欠かせません。製品の情報を詳しく伝えるよりも、インフルエンサーや権威のある方に商品を紹介してもらう方が効果的です。老舗で信頼性のあるメディアに取り上げられることも、安心感に繋がるでしょう。

レイトマジョリティ:危機感

レイトマジョリティは新しい商品に対する強い抵抗がある一方で、時代に取り残されることに危機感も持っています。そのため、いかに多くの人が使っているのか、いかに社会的な常識になっているのかを打ち出せると効果的です。

ラガード:なし

ラガードはそもそも新しいものにはほとんど興味がありません。そのため、アプローチをしかけるだけ無駄になる可能性が高いです。ラガードに対してマーケティングをする予算や時間は、別の層へのプロモーションや新しいサービスの開発に費やしたほうが生産的でしょう。

イノベーター理論の成功例・失敗例

イノベーター理論を活用して成功するとは、つまりキャズムを超えるかどうかです。戦略的にキャズムを超えた企業はその後も市場を伸ばせますが、キャズムを超えられなかった商品は撤退するしかありません。成功例と失敗例をそれぞれみていきましょう。

ネスカフェ・コーヒーアンバサダー

ネスカフェを展開するネスレ日本が、自宅の次にコーヒーの消費場所として着目したのが職場です。職場でも気軽にコーヒーを楽しんでもらえるよう、自社開発のコーヒーマシン「バリスタ」の普及プログラムとして2012年に始めたのが「ネスカフェ・コーヒーアンバサダー」という制度。

一定条件を満たすことで「オフィスを代表するアンバサダー」には、自宅と職場に無料で同マシンを設置できるようにしました。マシンが無料なため、社員はコーヒー代だけで様々な種類の上質なコーヒーを職場で試すことができます。

このアンバサダーこそ、イノベーター理論でいるアーリーアダプターに該当します。アンバサダー制度により、アーリーアダプターを開拓すると同時に、巻き込みながら市場普及に成功しました。制度開始からわずか4年で28万人ものアンバサダーを誕生させたのです。

国産の電子書籍

次の事例は失敗例。今や電子書籍と言えば、KindleやiPadなど外資によるデバイスが主流です。しかし、歴史を紐解くと過去には日本企業による失敗談がありました。

それは1990年代初頭のこと。SONYとNECはオリジナルのデバイスを発売していたものの、著作権トラブルによる書籍数の伸び悩みや使い勝手の悪さから想うように市場を拡大できませんでした。結局キャズムをこえられないまま売上は低迷し、2000年頃には撤退を余儀なくされます。

その後、Amazonが2007年にKindleが発売され、豊富なコンテンツと廉価な端末が市場に受け要られました。2010年にはAppleがiPadを発売し、電子書籍の導入ハードルを一気に下げたのです。先行した日本企業がキャズムを超えられずに撤退した後に、後発のアメリカがキャズムを超えて成功した形となりました。

その差には、アーリーアダプターへの普及に欠かせない「ベネフィット」を提供できなかったからです。どんなに目新しい商品であっても、コンテンツ数や使いやすさといったベネフィットがなければアーリーアダプターには普及しません。ベネフィットをしっかり打ち出せたアメリカ勢が市場普及を実現したのは当然の結果と言えるでしょう。

編集後記

ライフスタイルや価値観が多様化している現代、マスに向けたプロモーションは効果を失いつつあります。ターゲットを絞り、適したプロモーションをしなければ、プロダクトの魅力を伝えることはできません。

イノベーション理論を見てわかる通り、プロダクトの成長フェーズによってプロモーションの方法も工夫していく必要があります。自分たちのプロダクトは、どれくらいの普及率なのか意識しながらプロモーションを考えると効果的に市場シェアを獲得できるでしょう。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


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