「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑮〜バリューチェーン
次々に新しいサービスや商品がリリースされる今の時代、自社独自の価値を生み出し他社との差別化を図るのは容易ではありません。多くの企業が付加価値を生み出そうと四苦八苦しているものの、どこにテコ入れをすればいいか分からず迷走している企業も見られます。
TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第15弾で取り上げる「バリューチェーン」は、企業が生み出す価値がどのように作られているかを可視化したもの。企業のどの活動がどのような価値を生み出しているのか一目でわかるため、差別化できるポイントや課題を浮き彫りになってくるでしょう。
激化するビジネスの現場で、新しい価値を生み出したい方は参考にしてください。
バリューチェーンとは
バリューチェーンとは、企業におけるさまざまな活動のなかで、「どのタイミングでどのようなバリュー(価値)が生まれているのか」を考えるフレームワークです。ハーバードビジネススクール教授のマイケル・ポーター氏が、1985年に出版した「競争戦略論」のなかで提唱しました。日本語では「価値連鎖」などと表現されることもあります。
バリューチェーンは大きく2つの行動で定義されます。一つは「主活動」で、実際に商品が消費者に届くまでの流れに直接関係のある企業活動のこと。「購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービス」などが該当します。もう一つは「支援活動」で、主活動がよりスムーズに進めるための活動。「資金調達、技術開発、人材育成、インフラ整備」などが該当します。
バリューチェンを行う目的
バリューチェーンを行う理由は主に2つあります。一つは自社のバリューチェーンを分析し、どこに強み弱みがあるのか整理・把握するためです。市場の中で競合企業よりも優位なポジションに立ち、勝ち続けるには自社の状況を正しく把握しなければなりません。バリューチェーンを正しく分析できれば、事業活動の弱みを補強しつつ、強みを活かせるでしょう。
もう一つの目的は、業界他社のバリューチェーンを分析することで、消費者ニーズや市場の変化を把握するためです。将来の消費者ニーズが正しく予測できれば、これから競合他社がどのような戦略をとるのかわかるため対策を練ることができます。業界に先んじて消費者ニーズを先取りすることも可能なので、常に優位に戦いを進められるでしょう。
バリューチェーンとサプライチェーンの違い
バリューチェーンと似た概念に「サプライチェーン」というものがあります。言葉としても似ているため、混同される方もいますが両者は違うものです。サプライ(供給)チェーンとは、その名の通りサービスや商品を消費者に供給するまでの流れを指します。
商品が生産されて消費者の手に届くまでには、様々な「供給」が存在します。例えば家具を例にとっても「材料生産者→加工業者→輸出業者→加工職人→物流職人」といった風に、様々な供給がなされるのです。
一方でバリューチェーンは供給だけに着目するのではなく、マーケティングやサービスを含めた、価値を生み出す事業活動すべてに着目します。サプライチェーンが「誰が何をどのように担っているのか」を焦点にしているのに対し、バリューチェーンは「どこにコストをかけて、どこで価値を生み出すのか」に焦点を当てています。根本的に目的が違うので、うまく使い分けられるようにしましょう。
ただし、この2つの分析は無関係ではなく、バリューチェーンを分析するためには、サプライチェーンにおける担い手や活動を理解しなければなりません。どちらが優れているというわけではなく、相互に補完しながら活用できるといいでしょう。
バリューチェーンを行う5ステップ
実際にバリューチェーンを分析するための、5ステップを見ていきましょう。
①企業活動を洗い出し、流れにまとめる
まずは社内にどのような企業活動があるのか洗い出してみましょう。仕入れや製造、物流など様々な事業活動をリストアップできるはずなので、それらを上流工程から消費者に届くまでの流れにまとめます。業界によって標準的なバリューチェーンがあるので、ゼロから作るよりも標準モデルを参考にしながら作ってみましょう。
②主活動と支援活動に分けて図式化する
上記で洗い出した企業活動の中には、流れに当てはまらない活動もあるはずです。例えば採用は、商品を作って届けるまでの流れには当てはまりませんが重要な活動です。それらは支援活動なので、主活動とは別に図にまとめます。
③それぞれの活動にかかっているコストを洗い出す
図式にまとめた事業活動におけるコストを洗い出します。この工程を一人で行ってしまうと、コストを見落としてしまう恐れがあるため、各部署の担当者と連携しながら行いましょう。
④それぞれの活動の強みと弱いを探る
コストを洗い出したら、強みと弱みも探っていきます。上流から順番にやる必要はなく、わかりすいところから埋めていきましょう。例えば「原価が低い/高い」「物流が速い/遅い」などについて列挙していきます。ここでいう強みとは、相対的な競争優位性です。VRIO分析を用いるとわかりやすいので、下の記事も参考にしてください。
参考記事:「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑥〜VRIO分析
⑤独自の価値創出を考える
ここまでのステップを終えたことで、それぞれの事業活動におけるコストと強み弱みを把握することができました。重要なのはそれらの情報をもとに、新たな価値をいかにして作るか考えることです。「弱みを補う(強みを活かす)ために、コストをかける」「コストを無駄にかけているので削減する」などの要件に絞られていくはずです。
新しい価値を創出するためには、必ずしも自社のみで行う必要はありません。弱みを補うため、もしくは強さをより発揮するためにパートナーと組むのも一つの手です。競合他社のバリューチェーンと比較しながら考えると、どこで独自性を出すのか見えてくるでしょう。
バリューチェーンの成功事例
バリューチェーンで工夫し、成功した企業を紹介していきます。
ユニクロ
アパレル業界は一般的に、製造から卸、小売までそれぞれ専門業者が存在し、原価に対して価格が膨れ上がっていました。製造から販売までを自社で手掛け、大量に生産することで圧倒的なコストダウンに成功したのがユニクロです。製造と小売が直結しているからこそ、市場のニーズに素早く柔軟にも対応できます。バリューチェーンを大胆に改革した戦略と言えるでしょう。
IKEA
世界最大級の家具量販店のIKEAも、大胆なバリューチェーンの改革で成功した企業です。一般的に家具は完成した状態で販売しますが、IKEAは顧客に組み立ててもらうスタイルをとることで、大幅なコストダウンに成功しました。組立前の状態のため、商品スペースは削減され、輸送コストや在庫コストも大きくカットできます。ちなみに顧客が自ら商品を組立てて完成させることで顧客満足度があがることを「IKEA効果」と言われています。
スターバックス
スターバックスもまた、コーヒーショップとしての新しい価値を創出して成功しました。それまでのコーヒーショップの価値は「美味しいコーヒー」が飲めることでした。しかし、スターバックスはそれに加え、「サードプレイスであること」をコア・コンセプトにインテイリアや接客、オペレーションの工夫で新たな価値を創出しました。
編集後記
今は昔に比べ、新しい商品やサービスが次々に生まれ、独自の価値を見出すハードルが高くなっています。消費者は数ある商品から選べるため、明確な価値がなければ市場を生き抜くのは難しいでしょう。全ての企業において、独自の価値を見出すのは必須だと言えます。
その一方で、現代はSNSや口コミサイトが普及したことにより、独自の価値さえ作れれば、低コストで商品を知ってもらうことが可能です。企業の規模や広告にかけたお金の多寡ではなく、商品の魅力だけで勝負できる時代とも言えるでしょう。ぜひバリューチェーン分析を活用して、他社が真似できない独自の価値を生み出してください。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
■連載一覧
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く④〜チャンドラーの「組織は戦略に従う」
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑤〜孫子の兵法
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑥〜VRIO分析
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑦〜学習する組織
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑧〜SWOT分析
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑨〜アドバンテージ・マトリクス
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑩〜ビジネスモデルキャンバス(BMC)
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑪〜PEST分析
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑫〜PMF(プロダクト・マーケット・フィット)