「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉔〜プラットフォーム戦略
GAFAを始め、世界中で大成功を収めた企業の多くが取り入れている「プラットフォーム戦略」。もはや近年のビジネス戦略において欠かせない概念となっています。プラットフォーム戦略はビジネスの大きな原動力となる一方で、成功させるためにいくつかの外せないポイントがあります。
TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第24弾では、ビジネスプラットフォームを取り上げ、様々な事例を紹介していきます。
プラットフォーム戦略とは
プラットフォーム戦略とは「モノや情報が行き交う場」を提供すること。通常のビジネスでは「企業ー顧客(企業であれ個人であれ)」という1対1の関係を築きますが、プラットフォーム戦略では1対多の関係を築くビジネスモデルと言えます。
一口にプラットフォームといっても、3つの種類に分けられるので見ていきましょう。
①オンラインプラットフォーム
オンラインプラットフォームはWeb上で提供される様々なサービスの基盤。取引の形態により大きく4種類に分けられます。
1つ目は企業と消費者が取引するタイプ。「Amazon」や「楽天市場」のようなECサイトのほか、「ヤフージャパン」のようなポータルサイトも含まれます。
2つ目は消費者同士で取引するタイプ。「メルカリ」にようなフリマアプリ、「Uber」や「Airbnb」のようなシェアリングエコノミー、「ココナラ」のようなスキルシェアアプリなどが該当します。
3つ目は企業と消費者の間に企業が入る形で取引されるタイプ。Googleに代表される検索エンジンや、Facebook・Twitterに代表されるSNSなどが該当します。
4つ目は企業同士で取引されるタイプ。ビジネスマッチングや金融機関向けのFinTechなどが該当します。
②ソフトウェアのプラットフォーム
パソコンやスマホで基盤とされるOSも、システムの土台であることからプラットフォームとして表現されます。インストールしたアプリを起動させるには、OSが欠かせません。
パソコンのOSで代表的なものはMicrosoftの「Windows」やAppleの「MacOS」があります。スマホではGoogleの「Android」やAppleの「iOS」が主流ですね。
OSやハードウェアなどのプラットフォーム一式をネット上で提供する「PaaS」というサービスもあります。アプリ開発に必要なプラットフォーム環境の準備を大幅に削減してくれます。
③コンテンツ配信型プラットフォーム
オンラインプラットフォームの中でもBtoCサービスでコンテンツを配信するサービスのことを、特にコンテンツ配信型プラットフォームと呼びます。アプリや電子書籍・音楽など配信されるコンテンツは様々。
代表的なサービスを上げるなら、アプリを配信する「Google Play」、動画配信サービスの「Netflix」、音楽配信サービスの「Spotify」などがあります。コンテンツ配信型プラットフォームの多くは有料コンテンツを多く含んでおり、決済プラットフォームとしての役割も担っています。
プラットフォーム戦略のメリット
なぜプラットフォーム戦略はこれほどまでに巨大に成長し、様々な業界で注目されているのでしょうか。他のビジネスにはない特徴的なメリットを紹介していきます。
ネットワーク効果により、ユーザーが爆発的に増加する
プラットフォームのユーザーが増えれば増えるほど、プラットフォーム全体の価値が高まることを「ネットワーク効果」と呼びます。例えばYouTubeのような動画投稿サービスを例に挙げると、ユーザーが少ないうちはあまり大きな価値がありません。投稿する人が少なければ見に来る人も少ないですし、見る人が少なければ投稿する人もあまりいません。
しかし、何かをきっかけにユーザーが増えると、一気にユーザー数が倍増します。人気の動画を挙げると一気に見る人が増え、さらに面白い動画が増えていくのです。ユーザーが増えれば増えるほどサービスの価値が高まり、さらに多くのユーザーを爆発的に増やせるのがプラットフォーム戦略のメリットです。
ビッグデータを活用して顧客分析が容易になる
プラットフォームにユーザーが増えれば増えるほど、多くの情報が集まり、よりビジネスに展開できるのも大きな特徴。特に注目を集めるのがビッグデータ。例えば楽天のようなEC型のプラットフォームの場合、顧客の動向を分析して、マーケティングに活用しています。レコメンド機能などがそうですね。ユーザーが多ければ多いほど有効なデータが集めやすく、より使いやすいサービスに進化させることができます。
他社を巻き込んでサービスの価値を高められる
プラットフォームビジネスは「1人で1億円稼ぐのではなく、10人で100億円を稼ぐビジネス」とも言われています。ユーザーの多いプラットフォームは、他の企業からすれだけで価値のあります。例えばLINE上では、様々な機能がビジネスを提供しており、その一つに傘をレンタルできる「アイカサ」があります。ユーザーからすれば、新しくアプリをダウンロードする必要がありませんし、アイカサからすればLINEユーザーに対してアプローチできます。LINEにとっても、アプリの価値が高まるので全員が得する仕組みなのです。
プラットフォーム戦略を成功させるには
成功すれば大きな利益を得られるプラットフォーム戦略ですが、実現するのは簡単ではありません。どのようなポイントを気をつけるべきか見ていきましょう。
フリクションの低減を意識する
あらゆるビジネスに重要な「フリクションの低減」。フリクションとは「不満」のことで、つまりいかにユーザーの不満を解消させられるかということ。特にプラットフォームでフリクションを意識しなければいけないのは、ユーザーが種類が複数になるからです。
例えばUberは「車は必要だけど、維持費がかかるから自分が乗らない時のことを考えるともったいない」と考える人と「タクシーは料金が高い上に、乗りたい時につかまらない」と考えている人の双方のフリクションを解決するサービス。
加えて、単に両者をマッチングするだけでなく、ドライバーと乗客の取引をすべてアプリで記録し、アプリ上で決済や評価ができるようにしました。それにより「運転手に対する安全性の不安」や「料金を払ってもらえるかの不安」などあらゆるフリクションの解消をしています。
プラットフォームの参加者が勝手に増えていく機能が備わっているか
プラットフォーマー自身が宣伝をせずとも、参加者が参加者を呼ぶ込み拡大していく仕組みがあるかが重要です。
例えばFacebookは、プラットフォーム内でゲームをつくるためのAPIを公開しました。多くの企業は自由にゲームを作成し、多くのユーザーに遊んでもらえるため、あらゆるゲーム会社がFacebook内でゲームをリリース。友達を誘って楽しめるゲームのため、ユーザーたちはこぞって友達を招待してユーザーが爆発的に増えました。
Facebookは仕組みを作ったことで、多くの参加企業(ゲーム会社)とユーザーをほとんど同時に獲得したのです。
適切なキャッシュポイント
プラットフォーム戦略においてキャッシュポイント(収益を得る方法)は非常に重要な選択です。多くの企業はユーザーは無料で使えて、参加企業のプラットフォーム参加料や手数料を収入源にしているケースが多いです。一方でコンテンツ配信型はユーザーにも利用料を課しています。
プラットフォーム利用料か手数料にするかでも、サービスの性格は大きく変わってきます。「誰に」「いくら」「どのタイミングで」お金を払ってもらうのか、ほぼ無限の選択肢があるため、適切なキャッシュポイントを作りましょう。
アライアンスでサービスの価値を高める
プラットフォーム戦略の大きな特徴は、アライアンスを組みやすいこと。だからこそ、参加企業とのパートナーシップはしっかりと築きましょう。プラットフォームはいかに、多くの企業、価値の高い企業に参加してもらうかで価値が変わります。パートナーシップを築くためにも、参加企業のことをよく知り、どのような未来を描くのかビジョンを見せることが重要です。
編集後記
「一人で1億稼ぐのではなく、10人で100億稼ぐ」プラットフォームビジネスは、まさに今のビジネストレンドを表したビジネスモデルと言えます。オープンイノベーションの観点から見ても、他社との協業がしやすいプラットフォーム戦略はとても優れています。
ネットワーク効果が働くまでは時間とコストがかかる戦略ですが、成功した時のことを考えれば十分に挑戦しがいのある戦略です。インパクトの大きなビジネスを作りたいと考えている方は、ぜひ自社のビジネスに取り入れてみてください。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
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