「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑱〜STP分析
事業を成長させていくにあたりマーケティングは必要不可欠ですが、闇雲にプロモーションをかけても期待した成果が得られません。場合によっては、マイナスの結果になることもあるため、マーケティングを行うには、その根幹となる戦略を定める必要があります。
TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第18弾で取り上げる「STP分析」は、マーケティング戦略を策定するためのフレームワーク。事業のマーケティングに携わる方は、必ずその基本を押さえておきましょう。
STP分析とは
STP分析とは、次の3つの頭文字をとったもので、マーケティング戦略を策定するのに使われるフレームワークです。
マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラー氏が提言し、「効果的に市場を開拓するためのマーケティング手法」だと紹介しています。
マーケティング戦略を考えるには様々なステップがありますが、そのうち「同質のニーズを持った顧客をグループに分ける(セグメンテーション)」「分類したグループのうち、狙う市場を決める(ターゲティング)」「狙う市場の中での、自社の立ち位置を明確にする(ポジショニング)」という重要なステップを考えるのに役立つのが「STP分析」です。
STP分析を行うメリット
STP分析を行っていく過程で、事業を展開するのに役立つ様々なメリットがあります。それぞれ見ていきましょう。
顧客ニーズを発見、整理できる
STP分析は、顧客を持っているニーズごとに分類することから始めます。その時、市場にどのようなニーズを持った顧客がいるのかを必然的に考えることになります。予め想定していたニーズの他にも、改めて考えることで新しいニーズを発見できるかもしれません。また、ニーズ毎に顧客を整理することで、市場の全体像を俯瞰できるのも大きなメリットです。
自社の強みを明確化できる
市場をセグメントし、自社のポジションを把握することで、自然と自社のプロダクトの強みが明確になっていきます。逆にSTP分析をしても強みが見つからないということは、ターゲットに対してしっかりと訴求できないことを意味します。ただし、その場合もターゲットが明確になっていれば、どのような強みが必要なのかが自ずと見えてくるので、顧客ニーズに沿った戦略が練れるでしょう。
他社との競争を回避できる
STP分析によって市場を把握できれば、競合との棲み分けがしやすくなります。競合が狙っていない市場を効果的に狙えるため、効果的に市場を広められるでしょう。仮に競合と競争することになっても、明確に差別化ができていれば無駄な価格競争などに巻き込まれないためダメージが少なくてすみます。
STP分析のやり方
STP分析は、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショングをそれぞれ行っていきます。一つずつやり方と注意点を見ていきましょう。
①セグメンテーションのやり方
セグメンテーションとは、市場や顧客のニーズを共通項によって細分化していく作業です。年齢や性別など、さまざまな基準で市場を分けていくことで、自社のサービスを本当に求めているのはどんなユーザーなのかが明確に見えてきます。
セグメンテーションでは様々な指標を用いますが、代表的な指標が4つあります。一つはデモグラフィック(人口統計的変数)で、年齢・性別・家族構成・学歴・職歴など、人の変わらない基本情報を基にしたセグメント指標です。統計調査を用いることで判断できます。
2つ目のジオグラフィック(地理的変数)は、国・市町村・気候・文化・宗教など、地理的要因に絡む情報を基にした指標で、地図や国の調査結果を参考にします。
3つ目はサイコグラフィック(心理的変数)。価値観・性格・ライフスタイル・購入動機、などといった個人の心理に基づく情報を使ったセグメント指標です。アンケート調査やヒアリングなどを行った結果を基に判断します。
4つ目のビヘイビアル(行動変数)は、買い物の頻度・買い替えのタイミング・使用用途などといった個人の行動に焦点を当てた情報を使ったセグメント指標で、ユーザーの行動データなどから判断できます。
上記の4つ以外にも、セグメンテーションに用いる指標はあります。どの指標を使うかによって市場の見え方は変わってくるので、様々な視点から市場を見てみましょう。
②ターゲティングのやり方
ターゲティングとは、セグメントされた市場の中からターゲット層を絞る作業です。セグメンテーションだけでは市場を分けただけですが、ターゲティングを行うことで、どんな人に向けてプロモーションを仕掛けるのか戦略が見えてきます。
ターゲティングを効率よく行うには、主に3つのパターンがあるので参考にしてください。一つは「無差別型ターゲティング」です。セグメントされた市場の違いを無視して、すべての市場に同じ商品を供給する手法です。大企業など、リソースが豊富にある企業がとるのが一般的です。ただし、消費校とが多様化している現在では、あまり有効とは言えないケースも増えています。
2つ目は「差別型マーケティング」。複数のセグメントされた市場に、それぞれのニーズにあった商品やサービスを提供する手法です。料金プランを複数設定したり、機能を変えた商品をシリーズとして販売するなど、多くの企業が採用しています。
3つ目の「集中型マーケティング」は、ごく限られた市場に集中してマーケティングを行う方法。高級メーカーやニッチな商品など、コアなファンがついているような場合に有効です。
③ポジショニングのやり方
ポジショニングとは、セグメントの中で競合の商品と自社の商品の立ち位置を見定める作業です。値段や品質、店舗数、販売チャネルなど、競合と様々な軸で比較し、差別化できるポイントを探しましょう。
この時に気をつけなければいけないのは「データに基づいて分析すること」「一度に多くの指標で比較しないこと」です。感覚で判断すると正確に分析できない上に、その判断が正しかったのか後から査定しにくくなります。また多くの指標で同時に比較するとデータが複雑になってしまい、大事なデータを見落とす可能性があります。比較に使う指標、1~4つぐらいまでにとどめましょう。
STP分析をする際の注意点
STP分析をする際には、いくつか注意したいこともあるので紹介します。
競合の動き方も考慮する
STP分析をして、競合が手を出していない市場が見つかったとしても、安易にターゲットにするのは早いです。まずは、なぜ競合が手を出していないのか考えましょう。単純に市場が小さい場合もあれば、今は十分な市場があっても近い将来縮小する可能性が高いこともあります。また、過去に遡るとその市場をターゲットに失敗しているサービスもあるかもしれません。データには現れない難しさがあるかもしれないので、なぜ失敗したのかを調べる必要があります。自分たちが一番最初に市場に見つけた可能性もゼロではありませんが、あえて誰も手を出さなかった可能性も考えてみましょう。
STP分析だけで満足しない
STP分析はあくまでターゲットを絞り、自社の立ち位置を確認するためのフレームワークです。最適な市場を見つけたとしても、効果的な魅力を伝えられなければ意味がありません。どうやったら効果的なプロモーションができるかは、他のフレームワークが必要になるため、STP分析で満足せずに、多角的な視点で考えましょう。
STP分析の成功事例
最後にSTP分析をうまく活用して成功した事例を紹介していきます。
すき家
吉野家との差別化で店舗数を増やし、最大手の牛丼チェーンになったすき家はSTP分析をうまく活用しています。例えばすき家は、「牛丼市場」ではなく「外食・中食・内食」というセグメントで市場を細分化しました。中食とは外部で調理されたものを自宅で食べること、内食とは自宅で手作りの料理を食べることです。
そしてすき家はターゲットを「外食・中食全体」にすることで、「牛丼市場」よりも顧客層を広げます。また、一般的な牛丼チェーンが男性一人客をメインターゲットにしている中、「ファミリー・女性層」をメインターゲットにしたのです。そのため「メニューが豊富でテーブル席もあり、家族連れ・女性でも入りやすい」というポジショニングをして成功を収めました。
ユニクロ
ユニクロは一般的なアパレルメーカーとは異なるセグメンテーションを行い、差別化に成功しました。一般的なアパレルメーカーでは、性別や年齢でセグメントをしているのに対し、ユニクロが行ったのは「カジュアル志向かフォーマル志向か」「トレンド志向かベーシック志向か」の2つの軸によるセグメント。「カジュアル志向かつベーシック志向」の市場をターゲットにし、「低価格かつ高品質な衣料品を提供する企業」というポジショニングを行い大成功を収めました。
編集後記
消費行動が多様化している現代、適切な市場を見つけなければ事業を成長させるのは難しいでしょう。市場をどのような軸でセグメントするのかに、マーケティングのセンスが現れます。それぞれの業界には代表的なセグメント軸がありますが、必ずしもそれに従う必要はありません。すき家やユニクロのように、競合とは異なるセグメントをすることで、まだ未開拓な市場を見つけられるでしょう。効果的な差別化をしたい方は、ぜひSTP分析を活用してください。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
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