「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑧〜SWOT分析
数あるビジネスフレームワークの中でも、定番といえる「SWOT分析」。シンプルなフォーマットに必要な情報を書き込んで考えていくと、自社の置かれている現状が明らかになり、勝機とリスクが見えてくる便利なフレームワークです。しかし、シンプルが故にいくつかのポイントを守らなければ意味がなく、徒労に終わってしまいます。
TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第8弾では、SWOT分析の効果的な使い方について紹介していきます。チャンスを最大限に活かし、リスクを最小限に抑えるために参考にしてください。
SWOT分析とは
SWOT分析とは、マーケティング手法の一つで、企業の「内部環境」「外部環境」をそれぞれカテゴリーを2つずつに分けて、4つの項目について分析します。
内部環境:自社の『Strength(強み)』『Weakness(弱み)』を洗い出します。
外部環境:市場における『Opportunity(機会)』『Threat(脅威)』を洗い出します。
内部環境とは商品やブランド、人材リソースなど企業が自社でコントロール可能な独自資源のことです。内部環境の中から目標達成に大きく貢献しうるものを「強み」、目標達成の妨げとなるものを「弱み」として扱います。
一方で外部環境とは政治、経済、市場動向、消費者ニーズなど、自社ではコントロールできない要因のことを言います。外部環境の中で、企業の成長を促すものを「機会」、成長を妨げるものを「脅威」と呼びます。
4つの項目を埋めて企業の現状を理解し、戦略の立案に活かすのがSWOT分析です。
SWOT分析を効果的に行うコツ
SWOT分析はシンプルなだけでに、すぐにフォーマットを埋めようとしがちです。しかし、ただ4つの項目を埋めるだけでは効果的な分析はできません。SWOT分析を行う上でのコツを見ていきましょう。
■SWOT分析を行う目的を明確にする
SWOT分析は企業の戦略目標の策定のほか、マーケティングプランの立案や、社員一人ひとりの目標設定など、さまざまなシーンで活用できるフレームワークです。万能的に使えるSWOT分析だからこそ、はじめる前になぜやるのか目的を明確にしなければなりません。
目的が不明確な場合、様々な不都合が生じます。例えば複数人でSWOT分析を行っている時に、一人はマーケティングプランのために分析し、一人は組織の目標設定のために分析していては話がまとまりません。一緒にSWOT分析をする人たちの方向性を合わせるために、目的を明確にして共有しましょう。
また、一人でSWOT分析を行う際も、目的が不明確だと項目を洗い出しただけで終わってしまい、次のアクションに繋がりません。SWOT分析は、分析した上で次のアクションプランまで落とし込んで始めて意味を成します。そのためにも、まずは目的を明確に定めましょう。
■事実と解釈を区別し、一つの事実から複数の解釈をしてみる
SWOT分析をしている時は、「事実」なのか「解釈」なのか常に意識して考えましょう。フレームワークの中に事実と解釈が混同していると、分析の妨げになります。また、一つの事実から複数の解釈を引き出すことも重要です。
例えば「全国に営業拠点が多い」という事実に対し、「営業力が強い」と解釈すれば強みとなりますし、「高コスト体質」と解釈すれば弱みになります。このように多角的に考えることで、強みの中に含まれているリスクや、弱みを活かす活路が見えてくることもあります。
これは内部要因だけでなく、外部要因も同じです。脅威と思っていた出来事が、機会に変わるかもしれません。
■「オプション思考」で複数の戦略目標を作成する
一つの事実から複数の解釈をできるということは、そこから導き出されるアクションプランも複数作成できるということです。一つの事実が意味することは、常に固定ではありません。強みと思っていたことが、状況が変われば弱みに変わることもあるのです。
様々な状況に対応できるように、始めから決め打ちせずに、いったん複数の目標、計画を出すように心がけましょう。これを「オプション思考」といいます。複数のオプションを洗い出した上で、最適な目標を選択していきます。
SWOT分析の手順①-それぞれの項目を洗い出す
SWOT分析を目的を明確にしたら、それぞれの項目を洗い出していきます。一見シンプルに見えるSWOT分析ですが、実はそれぞれの項目を洗い出していくのに別のフレームワークを活用しなければなりません。
いきなり自社の強みや弱みを出せと言われても、なかなか適切な答えを出すのは難しいでしょう。見当違いな答えを出してしまうと、そこから導き出される目標や計画も見当違いのものになってしまいます。
それぞれの項目の答えを出すのに、相性のいいフレームワークがいくつかあるので見ていきましょう。
■外部環境の分析の仕方
SWOT分析を行う際には、一般的に内部環境より先に外部環境から分析していきます。なぜなら、内部環境で分析する内容が外部環境の分析によって変わってくるからです。外部環境とは政治動向や法律・規制、経済や景気状況、社会的動向や技術革新動向などが該当します。
外部環境を分析するのに有用なフレームワークには「PEST分析」や「3C分析」があります。法整備や社会動向など、より俯瞰的な視点でのマクロ分析を行うにはPEST分析、競合他社や市場の動向など、自社に近い視点でミクロ分析を行うには3C分析がおすすめです。
また、特に脅威について深く分析するには「5フォース分析」を活用してみましょう。
■内部環境の分析の仕方
自社を取り巻く環境が見えてきたら、次は内部環境の分析を行っていきます。内部環境の分析では自社が持つ経営資源を見直し、プロダクトの質や価格、ブランド力や人材などを見定めます。内部環境の価値は固定的なものではなく「競合他社と比較して」差別化されている点に注目しましょう。
自社の強みと思っていても、競合他社も同じような強みを持っているのであれば、それは市場機会である可能性も高いです。内部環境と外部環境を混同させないことも重要です。
内部環境を分析には、4P分析やVRIO分析がおすすめです。自社がどのような経営資源をもっているのか、またそれが他社と差別化されており、模倣されにくくなっているのか考えましょう。
SWOT分析の手順②ークロスSWOT分析(TOWS分析)
それぞれの項目が埋まると分析をした気になりますが、さらに効果を高めるには4つの項目を掛け合わす「クロスSWOT分析」を行いましょう。SWOTの順番を逆にして「TOWS分析」とも言います。以下のように組み合わせで考えることで、より深い分析が可能になります。
■強み(S)×機会(O):積極攻勢をかける策
S×Oは、強みを活かして機会をとらえる策のオプションです。
■強み(S)×脅威(T):差別化などで脅威に対処する策
S×Tは自社の強みを活かして脅威に対応する策のオプションです。強みを用いて自社を差別化することで、脅威の中でも生き残ることを考えます。
■弱み(W)×機会(O):弱点を補完する策
W×Oは機会を上手く活用して自社の弱みを補う策のオプションです。環境の良さを活かして時間稼ぎをしながら、弱点を克服していく策をとることを考えます。
■弱み(W)×脅威(T):防衛・撤退などで弱みを最小化する策
W×Tは環境が悪化する中でそれを克服することができなさそうな時に、被害を最小限にとどめる策のオプションです。
基本的には守りに徹し、最悪の場合に備えて撤退戦略も検討することになります。
SWOT分析の事例
SWOT分析の事例として、ソニーの例を見ていきましょう。4つの項目を紹介していくので、それぞれを組み合わせたらどのようなオプションが作れるのか考えてみてください。
■ソニーの強み(Strength)
ソニーの強みは、多角化戦略の成功にあると言えます。東京通信工業からソニーに社名変更をする際、メインバンクからは「『ソニー株式会社』では何の会社かわからない。せめて『ソニー電子』などにしないか」と言われ、創業者の一人である盛田昭夫氏は次のような趣旨のことを返したと言います。
「ソニーが将来、エレクトロニクスの会社であるとは限らない。現在の経営者が将来のソニーの可能性を狭めることはしたくない」
その言葉どおり、ソニーは「CBS・ソニー」でエンタメ業界にも参入し、日本のがん保険を黎明期から売り始め金融事業にも参入しています。
現在の社会はコモディティ化が進み、どれだけ優れた技術を持っていても、すぐに技術は一般化し、価格競争に巻き込まれてしまいます。そのため、多角的な事業を行えることは非常に大きな強みだといえるでしょう。
■ソニーの弱み(Weakness)
ソニーは2019年の経営方針説明化でエンターテイメント事業へのさらなるシフトを示唆しました。事業を多角化し、また好調に成長させていますが、その一方で「次のソニーが見えない」ことは弱みにも繋がります。創業者の言葉を限るなら「ソニーが将来エレクトロニクスの会社であるとは限らない」ということは、中長期的な戦略が不明瞭であることも意味するのです。
それはダイナミックな変化に対応できると同時に、投資家からの信用を失い、会社への資金調達に支障をきたす可能性にも繋がります。もしあなたが投資家だとしいたら、頻繁に主力事業を切り替え、新規参入と撤退をしている企業に投資したいと思うでしょうか。
特にメーカーの場合は、資金調達が困難になると設備投資も困難になり、技術力の低下を招くことにもなりかねません。直近の経営に影響が出ているとは思えませんが、戦略の不明瞭さは将来の弱みになると考えられるでしょう。
■ソニーの機会(Opportunity)
ソニーとっての機会は、海外の市場拡大と言えます。現にソニーは他国においてテレビ事業を成功させてきました。特にインドでは大きな成功をおさめています。これから2050年まで人口が伸びる続けるインドでは、中間所得層が増加しており、これから莫大な利益が出ることが予想されています。
■ソニーの脅威(Threat)
ソニーにとって最大の脅威は、強力な競合他社の参入だといえます。特にアジアでの事業展開では、韓国のサムスンやLGといった競合を意識しなければなりません。特にサムスンは潤沢な資金を元手に、アジアにおいて大規模な事業展開を行っています。ソニーがアジアで成功するには、このような競合に打ち勝たねばなりません。
編集後記
SWOT分析は一見シンプルに見えるものの、他の分析と並行して行うことで深い企業の強み弱みを知ることができます。特に現代は社会の動きが激しく、ピンチやチャンスが流動的に変わっていきます。外部環境にスマートに対応するには、自分の強み弱みがなんなのか的確に把握しておかなければなりません。
会社のSWOT分析はもちろん、組織や個人でもSWOT分析は有用です。シンプル故の使い勝手の良さもSWOT分析の魅力なので、さまざまな単位で強みやチャンスを分析してみましょう。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
■連載一覧
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く④〜チャンドラーの「組織は戦略に従う」
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑤〜孫子の兵法