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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑲〜規模の経済

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑲〜規模の経済

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スタートアップが既存産業に参入する際には、大企業との違いを正確に把握して戦略を練らなければなりません。例えば同じような商品を展開するにしても、大企業は大量生産によって容易にコストを抑えることが可能です。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第19弾で取り上げる「規模の経済」は、大企業ならではのメリットの一つです。理解しておくことで、大企業との差を適切に把握し、正しい戦略を練れるようになるでしょう。また、時に「規模の不経済」として、デメリットに変わることもあるので市場の攻略のヒントになりうるはずです。

規模の経済とは

規模の経済(economic of scale)とは、一定の生産設備のもとで、生産量や生産規模を高めることで単位あたりのコストが低減することです。コストが下がることを「費用逓減(ひようていげん)」と呼びます。


コストが軽減されるメカニズムを理解するために、まずは「固定費」と「変動費」について理解しておきましょう。企業で生産された製品のコストは、次の2つに分けられます。


製品一個あたりの費用は、固定費と変動費を合わせた「総費用」を生産量で割ることで算出できます。 


実際に数字を使って見ていきましょう。あるお菓子工場では、固定費が毎月100万円、変動費がお菓子を1個作るのに10円かかるとします。毎月お菓子を100個作るとすると、お菓子1個あたりの費用は次の通りです。

総費用=100万円+10円×100個=100万1,000円

一個あたりの費用=100万1,000円÷100個=1万10円

このお菓子を1個つくるのに1万10円かかるので、それ以下の単価で販売すれば赤字になります。もし同じ工場で、このお菓子を毎月1,000個作ったらどうでしょう。

総費用=100万円+10円×1,000個=101万円

一個あたりの費用=101万円÷1,000個=1,010円

一個あたりの費用は1,010円なので、1,010円以上で販売すれば利益がでます。このように生産数を増やすと一個あたりの費用が下がるので、販売単価を下げる、つまり安売りしても利益を確保できるようになるのです。

ただし、生産数を増やしてコストを下げるのは限界があります。一度にたくさん作れば、機械が故障しやすくなったり、設備や工場を増やさなくてはいけなくなります。ある一定の水準を超えると、一個あたりの費用が上がる場合もあり、それを「規模の不経済」と言います。

規模の経済のメリット

規模の経済を実現することで、企業にどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。

利益率が上がる

規模の経済により、製品一個あたりの費用が下がれば、同じ値段で販売しても利益率が上がります。通常なら、コストを下げるために、材料や作り方など様々な工夫が必要となり、時にそれは顧客満足度を下げることにもなりかねません。規模の経済なら、製品の質は変わらないので、顧客の満足度を下げることなく利益率を上げられるのです。もちろん、多く作って売れ残りも大量にあっては意味がありませんが、順調に売れているのであれば、それだけ利益率を上げられます。

価格競争に強くなる

コストを下げられるということは、それだけ販売価格も下げられます。市場が成熟し、競合他社が現れると、たいてい価格競争が起こります。もし、ライバルが値下げをして自社のシェアをとられれば、こちらも値下げをして対抗しなければいけないときもあります。そのような時は、いかにコストを抑えられるかが勝負です。

販売価格を下げても、規模の経済によってコストを抑えられていれば、利益を確保することはできるでしょう。逆にライバルよりも販売価格を下げた場合、ライバルも同じ水準まで値下げすることが強いられます。もしもライバルが原価割れをした場合、勝負は決まったも同然です。

このように規模の経済性を活かした戦略の一つが、マイケル・ポーター教授が提唱した「コスト・リーダー戦略」です。

参入障壁を高められる

規模の経済を活用すれば、新規参入者に対する牽制を行うこともできます。もしも新規参入者が自社と同じような製品を販売しようにも、様々な理由から大量生産はできません。例えば大量生産するための資金と技術です。大量生産をするには、それなりの設備投資が必要ですし、それを使いこなすための技術や人手も必要になります。新規参入者がいきなりそれだけの資金を出すのは難しいでしょう。

仮に大量生産が可能だとしても、それらの製品を販売しきれなくては意味がありません。新規参入したばかりでは知名度も低く、それだけの商品は売り切れず、在庫を抱えるリスクが高くなります。

つまり、先に規模の経済を実現して、低コストを実現しておけば、競合他社が追随するのを諦めるため、安定的なポジションを確立できるのです。

規模の経済のデメリット

様々なメリットのある規模の経済ですが、デメリットもあります。競合が規模の経済を働かせている場合、このデメリットが攻略の糸口になるかもしれないので参考にしてください。

大きな初期投資が必要

規模の経済を実現するには、大量生産するだけの設備投資が必要になります。業界や、何を作るかにもよりますが、初期投資だけで数億、数十億とかかるケースもあります。それだけの初期投資をするには融資が必要な場合もありますが、融資額が大きくなるほどハードルも高くなります。

仮に初期投資ができたとしても、初期投資を回収する前に製品が売れなくなれば、揃えた設備もすべて負債になってしまいます。かといって、小さな初期投資では大量生産は難しく、規模の経済は難しくなります。投資が大きいほど規模の経済性も大きくなりますが、失敗した時のリスクも大きなることを覚えておきましょう。

売れなくなった時の赤字が大きい

規模の経済が働くのは、製品が売れていることが前提です。製品が売れなくなった瞬間に、赤字が膨れ上がってしまいます。例えば販売数が半分になったため、生産数を半減したとしても、固定費は変わりません。生産数を上げることで分散できた固定費が、今度は一個あたりの費用を押し上げることになるのです。

製品が売れなくなれば、これまで紹介してきた効果が、全て逆に働くことになります。ブームに乗っかって大勝負に出たものの、ブームが去った後に悲惨な目にあったケースはこれまでいくつもありました。規模の経済を働かせるには、数年後の市場を見通せる先見の明が必要です。

規模の不経済が働く

先に紹介したように、規模の経済には限界があります。ある一定まで生産数を増やすと、コストが下がらない、もしくはコストが増える場合があり「規模の不経済」と言います。

規模の不経済には様々な要因があります。例えば生産数を増やしすぎたことで、新たな設備投資が必要な場合。他にも大量生産した製品を保管するための賃料や、作業員の管理費用など、固定費が増える要因は様々です。

どれくらいの生産量が、最も規模の経済が働くのか、適切に把握しておく必要があるでしょう。

規模の経済の成功例

規模の経済を活用して成功した企業の事例を見ていきましょう。


ワークマン

もともとブルーワーカー向けの作業着や関連商品を販売してきたワークマンですが、一般向けの新業態「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」が大ヒットしました。これまでプロのために開発してきた「高機能」にファッションを加えたアパレル商品は、あらゆる世代に受け入れられました。そしてなんと言っても、ヒットの要因はその安さにあります。

その安さの背景にはもちろん「規模の経済」が働いているのですが、ワークマンはアパレル業界の常識を覆したレベルで行っています。通常、アパレル業界にはトレンドがあるため、どんなに大量生産しても、その年に売り切れる量しか作れません。

しかし、ワークマンの製品は、トレンドに左右されない機能、デザインのため、時間軸に縛られない大量生産が可能なのです。それにより、高性能でありながら格安の製品を展開し、大成功を収めました。

デイサービス

規模の経済が働くのは、製造業に限ったことではありません。近年、規模の経済による成功例がふえているのがデイサービス業界です。大規模デイサービスは小規模デイサービスに比べて固定費も増えますが、収容人数が倍になったからといって固定費は倍になりません。

「小規模の方がきめ細やかなサービスできる」と思っている方もいますが、規模が大きく収益を上げれていれば、人員を増やしてサービスの質も高められます。利用者が多ければリハビリ用のプールや、機能訓練施設などの大きな設備投資も可能になるので、より充実したサービスが可能になります。

サービスが充実すれば、より利用者も集まるため利益をだし、さらなる投資が可能です。小規模施設の方がリスクが少なく開業もしやすいですが、結果的に大規模施設の方がサービスを充実させられるため、有利に戦えます。

編集後記

既に市場を獲得して、大量生産が可能な大企業に対し、新規参入者は不利な戦いを強いられます。単純に価格競争を仕掛けても分が悪いのは明白です。中小企業が戦うには、大企業の「規模の経済」が働かないような戦略で勝負をしかけなければいけません。

逆に市場を獲得した後は、「規模の経済」を活かして新規参入者に備えることも必要です。その時も、いたずらに生産数だけを増やしては、「規模の不経済」になりかねないため、適切な生産量を見計らいましょう。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


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