「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉑〜LTV
「SaaS」に代表されるように、近年ビジネスの主流は「売り切り型」から「サービス型」にシフトしています。サービス型のビジネスを展開していく上で重要なのが、いかに顧客と良質な関係を継続するかということ。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、「とにかく売れればいい」が通用していた時代に比べ、その重要性は圧倒的に高まっています。
TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第21弾では、「LTV」という概念を通して、顧客との関係がいかに重要を説明していきます。SaaSはもちろん、あらゆるビジネスで重要になる概念なので参考にしてください。
LTVとは
LTVはLife Time Valueの略で、日本語に訳すと「顧客生涯価値」のこと。顧客生涯価値とは、顧客が生涯で企業にどれほどの利益をもたらすのか算出したものです。企業にとってその顧客がどれほど貢献してくれるのか指標となります。
LTVは企業の売上・利益に直結するため、いかに最大化するかが重要です。10万円の商品を一回買ってもらうより、1万円の商品を20回買ってもらったほうがLTVは大きくなります。商品の単価だけでなく、いかに継続して買ってもらうか、顧客と良好な関係を築いてロイヤリティを高めるかが大切になっているのです。
なぜLTVが重要視されているのか
LTVが重要視されている背景には、ビジネスの潮流の大きな変化があります。その一つは「サブスクリプションサービス」の普及。サブスクリプションサービスとは単なる定額制のサービスというだけでなく、「顧客が求めるサービスを継続的に提供して対価を得る仕組み」です。
出来上がった商品を売る、従来の「売り切り型」のビジネスとは違い、常に顧客が何を求めているのかを探り、顧客の満足度を高めていかなければなりません。そのために必要になるのが中長期的な視点です。
今期の売上を最大化するよりも、10年、20年といったスパンでの売上の最大化を図ることが経営戦略の軸になります。
LTVの算出方法
LTVは次の計算式で求められます。
LTV =平均購入金額×購入頻度(購入回数)×継続購入期間
仮に月額1,000円、解約率25%のサービスのLTVを算出してみましょう。解約率が25%ということは、継続期間が(1÷0.25)で4年と計算できます。購入頻度は毎月なので、12回/年です。
1,000×12÷0.25=48,000円
つまり、この場合は1人の顧客のLTVが48,000円となります。この数字はどのように判断するかというと、経費と比較していきます。広告など顧客1人を獲得するコストや、商品の粗利率や顧客維持のためのマーケティングコストを差し引くことで、純粋なLTVが算出てきます。
LTV =平均購入金額(×粗利率)×購入頻度(購入回数)×継続購入期間ー(顧客獲得コスト+顧客維持コスト)
LTVの売上を算出すれば、いくらまで顧客獲得にお金をかけれるかも計算できます。売り切り型のビジネスで1,000円のサービスを売るのに3,000円かけていれば赤字ですが、サブスクリプションビジネスなら黒字と考えられるのです。
つまり、LTVを最大化するには、平均購入金額と購入頻度、継続購入期間を増やすとともに、顧客獲得コスト、顧客維持コストを抑える施策も取り入れなければいけません。次に、4つのLTV最大化対策を紹介していきます。
LTVの最大化対策①平均購入金額を増やす
平均購入金額を増やすのに単に値上げをしては顧客満足度が下がり、解約率を高めることになりかねません。購入金額を上げる際には、いかに顧客満足度を下げずに客単価を上げるかが重要となります。具体的な施策を見ていきましょう。
1度の購入点数を増やす「クロスセル」
クロスセルとは、主商品と併せて別の商品も購入してもらう施策のこと。購入点数を増やすことで客単価をアップをねらいます。
例)
・ECサイトで注文完了前に関連商品を表示して購入を促す
・サブスクリプションサービスでオプションをおすすめする
商品の単価を上げる「アップセル」
アップセルはより単価の高い商品を購入してもらう施策のこと。顧客の満足度を高めることで、より高い商品も安心して購入してもらえます。
・金額の高いプランをおすすめする
・買い替え時によりグレードの高い商品を提案する
LTVの最大化対策②平均購入頻度を高める
平均購入頻度を高めるのは購入金額を上げるのと同じくらい重要です。購入頻度を1.5倍にすれば、単価を1.5倍にしたのと同じ効果が得られます。サブスクリプションサービスの場合は頻度を高めるのは難しいですが、店舗ビジネスやECなどでは来店頻度を高めることから始めましょう。
イベントの開催
イベントを開催することで接触頻度を高められる他、セミナーなどを開催すれば顧客の教育にもなりアップセルやクロスセルのチャンスにもなります。イベントを検討する際には、目先の利益だけでなく、イベンド後の効果も長期的に考えましょう。
例えばイベントを有料にすれば、イベント単体では黒字になるかもしれませんが、集客が大変になります。逆に無料イベントは赤字にはなりますが、より多くの方に知ってもらえる他「イベント参加者クーポン」などを発行すれば、イベント後の売上を期待できるでしょう。
例)
・アパレルショップの「ファッションセミナー」
・地域の飲食店を巻き込んで「はしご酒イベント」
SNSの活用
店舗にしてもWebサイトにしても、来店頻度を高めるには「来店するきっかけ」をいかに多く作るかがポイントです。そのために、お店やサービスの情報を定期的に発信していくのが効果的。
現在の情報発信のツールと言えばSNS。InstagramやFacebookページ、TwitterなどいくつかのSNSがあるのでいずれか、もしくは複数を組み合わせて顧客を魅了するコンテンツを配信しましょう。また、SNSマーケティングは広告コストを抑えれる他、クロスセル・アップセルのチャンスにもなるので、複数の意味でLTVを上げる効果が期待できます。
例)
・新作入荷した商品を紹介する
・セールや割引セールの情報を配信する
LTVの最大化対策③継続購入期間を延ばす
LTVの最大化を考える上で、継続購入期間を伸ばすのは非常に重要です。購入期間が伸びれば単純にLTVが増えるだけでなく、クロスセルやアップセルのチャンスが増える他、口コミしてくれる可能性も高くなるからです。
一度購入してくれた顧客といかに継続的な関係を築けるか考えてみましょう。
定期購入やサブスクリプション
定期的に必ず購入する「定期購入」や月額制のサブスクリプションを導入することで、継続購入する仕組みを作れます。導入する際には、定期購入するメリットなどを打ち出しましょう。
CS(顧客満足度)を高める
顧客本位(必要なときに必要な量の必要な情報)のコミュニケーションをすることは、良好な関係を継続する上で重要です。そのためには、顧客にアンケートやヒアリングをして、現状を把握するのが効果的。
顧客ではなくても、顧客と同属性の声を知るのも有効です。顧客にどのようなニーズがあるのかを把握できれば、顧客満足度を高める上での参考になり、自然とLTVを上げることができるでしょう。
顧客の離脱原因把握と離脱数の減少
今の顧客だけでなく、離脱した顧客も研究することで、将来の顧客の離脱率を下げることができます。仕方ない理由で離脱する顧客がいる一方で、ちょっとした工夫で離脱を防げる顧客もいるため、なぜ離脱しているのかを把握しましょう。
顧客が離脱する理由は大きく次の3つです。
①一時的な離脱
②不満や興味の減少による離脱
③顧客自身の状況の変化による離脱
一時的な離脱とは、単にあなたのの商品を忘れているような状態。興味がなくなったわけではないので、再度認知してもらえれば戻ってきてもらます。接触回数の少なさが原因となることが多いので、SNSやDMなどを活用して顧客とのコミュニケーションを図ってください。
不満や興味の減少による離脱は、最も力を入れて対策しなければいけない要素です。ここが野放しになっていると、今後も同じ理由で離脱するお客さんが増えるかもしれません。予防のためにも、普段からアンケートやインタビューを実施して、離脱前に対策しましょう。
顧客自身の状況の変化による離脱は、対策しようのないケースもあります。例えば飲食店の常連が引っ越して通えなくなるなどです。ただし、ダイエットサプリの顧客が痩せて、それ以上買う必要がなくなるケースの場合は、新たなビジネスチャンスの種になるかもしれません。痩せたことによる新たなニーズに対応できれば、顧客満足度を高めて関係を継続できるでしょう。
LTVの最大化対策④顧客獲得コストと顧客維持コストを減らす
LTVを最大化するには、売上を最大化するだけでなくコストを抑えることも考えましょう。ただし、単純に「広告費を削減しよう」と考えるのはナンセンス。新規顧客が獲得できなくなっては本末転倒です。
「コスト削減」ではなく「最適化」と考えましょう。例えばランディングページのLPO対策や、広告の入札価格の最適化が効果的です。長年同じランディングページを利用している場合には、新たなページを作成し、テストをしながらコストを見直すのも有効です
また、獲得コストだけでなく顧客維持コストにも目を向けてください。システムやプラン、人的リソースを見直すことで大きく削減できる可能性もあります。維持コストを削減した分を獲得コストに充てて売上を上げれば、一人あたりのコストを下げることもできます。
サイトやシステムなど、一度作ったり導入しただけで満足せず、定期的に無駄がないか改善の余地がないか見直しましょう。徐々に最適化していくことで、LTVの最適化に繋がります。
編集後記
LTVを最大化するには「顧客に提供している価値」は何か、本質的に考えてみましょう。自分たちの利益を優先していては、一時的には儲かっても、LTVの最大化には繋がりません。「損して得取れ」の言葉とおり、一時的に赤字になっても、顧客が価値さえ感じていればLTVは最大化されるのです。
時代とともにビジネスが洗練されてきたこと、より顧客本位なサービスだけでが生き残っています。マーケティングのスキルやテクニックも必要かもしれませんが、いかに顧客に価値を届けられるか考え抜ける人が、これからのマーケティングを制するでしょう。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
■連載一覧
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く④〜チャンドラーの「組織は戦略に従う」
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑤〜孫子の兵法
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑥〜VRIO分析
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑦〜学習する組織
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑧〜SWOT分析
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑨〜アドバンテージ・マトリクス
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑩〜ビジネスモデルキャンバス(BMC)
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑪〜PEST分析
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑫〜PMF(プロダクト・マーケット・フィット)
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑬〜ブルーオーシャン戦略
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑭〜組織の7S
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑮〜バリューチェーン
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑯〜ゲーム理論
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑰〜イノベーター理論
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑱〜STP分析