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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊳~キャッシュマシン

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊳~キャッシュマシン

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どんなに優れた商品を開発したとしても、キャッシュが底をつけば事業は続けられなくなります。事業が成長しているにも関わらず、資金繰りがうまくいかずに倒産する「黒字倒産」した会社は少なくありません。ビジネスモデルを構築するには、資金繰りのしやすさも視野に入れる必要があるのです。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第38弾でとりあげる「キャッシュマシン」は、資金繰りの不安を解消してくれるビジネスモデル。かのDELLやAmazonも、このキャッシュマシンを取り入れたことで大きな成功を収めました。

キャッシュマシンとは

キャッシュマシンとは、キャッシュ変換サイクルを逆転して事業を運営するモデルのこと。キャッシュ変換サイクルとは、次のように表されます

キャッシュ変換サイクル = 在庫回転日数 + 売掛債権回転日数 ー 仕入債務回転日数

つまりキャッシュ変換サイクルとは、企業における現金支出と回収の時間差のこと。原材料、仕掛品、完成品の平均在庫期間と、顧客やサプライヤーへの仕払い条件で定義されます。

一般的には材料を仕入れるなど支出が先にあり、完成した商品を売って売上を回収します。そのため仕入れをしてから商品を販売する間は、手元のキャッシュが減ることを意味しているのです。

キャッシュマシンでは、先に資金を回収してから支払いをすることで、キャッシュ変換サイクルがマイナスに転換します。それによって事業リスクを減らし、手元の資金を増やすことで事業の可能性を広げてくれるのです。

原点は銀行の小切手

このキャッシュマシンを初めて採用したビジネスが銀行の小切手です。銀行は実際の支出の前に収入を得られるため、逆回転のキャッシュ変換サイクルを実現することができました。

なぜこのような仕組みが生まれたかというと、14世紀の欧州が非常に景気がよかったから。商人の間で現金以外の支払い方法が必要となり、小切手の人気に火がついたのです。

この仕組みを応用し、1891年にイノベーションを起こしたのがアメリカン・エクスプレスのトラベラーズチェック(旅行小切手)。海外を旅行したアメリカン・エクスプレス社の社員が、現金を手に入れるのに苦労したという経験から、トラベラーズ・チェックを発行するというアイディアに至りました。


キャッシュマシンを実現する方法

キャッシュマシンをビジネスに取り入れるには次の2つのポイントに注意しなければなりません。

1.サプライヤーから有利な支払条件を獲得すること

2.消費者から速やかに支払いを受けること

現在はインターネット技術の発展により、スマホから簡単に支払いをできるようになりました。今でこそ当たり前の光景ですが、商品が届く前に支払いをするというのはリスクが高いもの。現に、支払いをしても商品が届かないというトラブルは後を絶ちません。消費者が安心して支払える状況を作ることが非常に重要となります。

また、サプライヤーから有利な支払い条件を獲得するのも重要なポイントとなります。いかにサプライヤーへの支払日を遅らせられるか、それだけの信頼関係を築けるかがキャッシュマシン成功の鍵と言えるでしょう。


キャッシュマシンの成功事例

最後に、キャッシュマシンで成功した事例を紹介していきます

DELL

PCメーカーとして知られるデル社は、1980年代に最初に受注生産戦略を採用した企業です。創業してから数年は、このキャッシュマシンの仕組みを使って事業資金を確保しました。

当時は顧客から受注して支払いを受けるまでの期間が平均30日だったのに対し、サプライヤーへの支払いサイクルは平均で71日。この差分で手元のキャッシュを生み出し、事業資金に当てていたのです。

創業資金は1,000米ドルだったため、もしもキャッシュマシンを取り入れていなければ、大規模投資や多額の在庫で倒産していたかもしれません。

Amazon

AmazonのEC事業もまたキャッシュマシンで成功した一例です。Amazonは在庫の回転数を非常に早くすることでキャッシュ変換サイクルの逆転を実現しました。

加えて、購買力を背景にサプライヤーに対して有利な支払い条件の交渉を行なっています。この2つの組み合わせで、顧客から商品購入の支払いを受けてから、サプライヤーに支払いをする仕組みで成功を収めたのです。

PayPal

世界トップクラスのEC事業を展開するeBay社の子会社、PayPal社もまたキャッシュマシンで急成長を果たしました。同社はECサイト用のオンライン決済と送金サービスを提供しており、その顧客の多くはeBayのオークションに出展している販売社や個人です。

PayPal社は決済を行う個人もしくは事業者から先払いで送金手数料を徴収しており、さらに全ユーザーの口座残高(PayPal社の「手持ち資金」)を運用して金利収入も得ています。ユーザーが増えるほど手元の資金流動性が高まり、増え続けるユーザーに対して競争力の高いサービスを提供してきました。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


■連載一覧

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く④〜チャンドラーの「組織は戦略に従う」

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑤〜孫子の兵法

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑥〜VRIO分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑦〜学習する組織

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑧〜SWOT分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑨〜アドバンテージ・マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑩〜ビジネスモデルキャンバス(BMC)

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑪〜PEST分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑫〜PMF(プロダクト・マーケット・フィット)

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑬〜ブルーオーシャン戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑭〜組織の7S

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑮〜バリューチェーン

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑯〜ゲーム理論

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑰〜イノベーター理論

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑱〜STP分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑲〜規模の経済

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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉓~MVP戦略

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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉗~フリー戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉘〜ダイナミックプライシング

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