「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉝~ロングテール戦略
様々な商品を販売していると、必ず「売れる商品」と「そんなに売れない商品」の2つに分かれます。普通なら売れない商品の販売を止めて、売れる商品に絞ろうと思うことでしょう。しかし、売れる商品だけを販売すれば必ず成功するかわからないのがビジネスの面白いところ。
TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第33弾で取り上げる「ロングテール戦略」は、売れない商品に価値を見出した逆転の発想法。AmazonやNetflixといった世界的な成功企業も、この戦略で成長してきました。どのようなメリット/デメリットがあるのか見ていきましょう。
ロングテール戦略とは
ロングテール戦略とは、売れ筋の商品に依存せずに、販売数の少ないニッチな製品を取り扱うことで売上利益を増やす戦略のこと。雑誌『ワイヤード』編集長のクリス・アンダーソンが販売ランキング順の曲線を恐竜に見立てて提唱しました。売れ筋の商品を恐竜の高い首(ヘッド)、販売数の少ないニッチ商品を長い尾(ロングテール)と表現したのです。
ロングテール戦略の先駆けとなったが世界的EC企業のAmazon。ご存知の通り、Amazonでは年に1度売れるかどうかのニッチ商品も取り扱っており、その品揃えで成長してきました。クリス氏はAmazonをはじめとするWeb2.0時代の企業が成功した理由を説明するために「ロングテール戦略」を提唱したのです。
ロングテール戦略は、それまで主流だった「パレートの法則」を覆す理論として大きな注目を集めました。パレートの法則とは、売れ筋の上位2割の商品が全体の売上の8割を作るという考え方。ロングテール戦略は戦略は、それまで無駄だと思われてきた8割の商品に大きな価値を与えたのです。
ロングテール戦略のメリット
ロングテール戦略にはどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
売上が安定する
ロングテール戦略は、売れ筋商品に売上を依存しないため、売上が安定しやすいというメリットがあります。売れ筋商品に売上を依存していると、何らかの要因で売れなくなった時に大きなダメージを負ってしまいます。ロングテール戦略では多くの商品に売上を支えているため、不測の事態が起きてもダメージを最小限に抑えられるのです。
不良在庫の概念がなくなる
ニッチな商品がビジネスの肝となるロングテール戦略では、年に1度しか売れないような商品も販売することに意味があります。通常の小売ビジネスでは、不良在庫と呼ばれるような商品にも価値が生まれるため、在庫整理のためのたたき売りなどが必要ありません。そのため、健全な利益構造を維持できるのです。
ロングテール戦略のデメリット
ロングテール戦略には多くのメリットがある一方で、どのようなデメリットがあるのか見ていきましょう。
ロングテール戦略が機能するまでに時間がかかる
ロングテール戦略の売上を支えるニッチ商品は、一つひとつの商品の売上は高くありません。そのため、売れ筋商品のような短期的な売上増加が期待できないので注意が必要です。ロングテール戦略で売上が安定するまでビジネスを続けられるような、計画的な財務戦略などが必要になります。
商品の管理コストがかかる
ロングテール戦略では大量の商品を扱うため、それらを補完しておく管理コストも莫大にかかります。場所代はもちろん、ピッキングや手入れなどにも金銭的・人的がコストがかかるのです。年に数回しか売れないような商品は入荷数も予測しづらい上に、多数の商品の在庫を確認しながら在庫補充をするのは大きな労力が伴います。
ロングテール戦略を実現する方法
ロングテール戦略を実現するにあたり、どのようなステップを踏めばいいのか紹介していきます。
ターゲットを絞る
ロングテール戦略をとろうにも、いきなりAmazonのような品揃えを実現するのは不可能です。まずはどんな商品を取り扱うのか、またはどんな顧客に向けて販売するのかターゲットを絞りましょう。Amazonも最初から今のような品揃えだったわけではなく、最初は本のネット販売から始まり徐々に品揃えを増やしていきました。
まずはカテゴリーを絞り「〇〇に関する商品だったら何でも揃っている」という得意領域を作りましょう。商品カテゴリーだけでなく「〇〇という人が必要なものなら何でも揃っている」と顧客を軸にして絞るのもありです。
ECサイトを作る
ロングテール戦略をリアルで実現するのは容易ではありません。不可能ではないものの、大量の商品を保管し、陳列するだけの場所が必要なため、いきなり実現するにはハードルが高すぎます。
ECサイトなら物理的な制約を受けることなく商品を展示できるため、リアルに比べれば格段に早くロングテール戦略を実現できるでしょう。もちろん、ECサイトを作っただけでは売上は伸びないので、どうすれば売れるのかサイトのUI・UXやSEO対策なども常に改善し続ける必要があります。
商品数を増やす
ロングテール戦略の肝は、いかに多くの種類の商品を提供できるか。そのため、常に商品を増やし続ける必要があります。Amazonのような「プラットフォーム型」であっても、出店してくれる人を増やす営業活動は欠かせません。また、商品カテゴリーが増えていくとサイトが煩雑になっていくため、その都度サイトの使いやすさも改善していきましょう。
ロングテール戦略の成功事例
ロングテール戦略で成功した企業の事例を見ていきましょう。
Amazon
まず紹介するのはロングテール戦略の代名詞とも言えるAmazon。日本のEC売上高トップであることはもちろん、2位のヨドバシカメラとの差は約10倍と他を寄せ付けない強さです。
その強さの秘密は、ご存知の通り商品アイテムの多さ。「Amazonのサイトを見れば、何でも見つかる」と思うからこそ、多くの人がAmazonで商品を探します。また、それほどの商品数を取り扱いを実現している物流システムも強さの秘密。最先端技術を用いることで、膨大な量の商品を滞りなくユーザーに届けているのです。
イケア
家具業界でロングテール戦略を実現したのがスウェーデン発祥のイケア。「北欧のおしゃれな家具を安く買える」と日本でも評判になり、瞬く間に成長してきました。
イケアの特徴は都心から離れた郊外に大規模な店舗を展開すること。郊外の地下の安いエリアに出店することでコストを抑える他、広い店舗は倉庫としても利用できるのもコストを下げるのに一役買っています。もちろん、店舗が広いからこそ多くの商品を陳列でき、ロングテール戦略のメリットを享受しているのです。
Netflix
ロングテール戦略を利用できるのは小売業界だけではありません。ネット動画サービスのNetflixもまたロングテール戦略で大成功を収めました。そもそもロングテールの提唱者であるクリス・アンダーソンに、ロングテールという名前を使うよう勧めたのもNetflixの創業者リード・ヘイスティングスと言われています。
Netflixはそもそもリアルの在庫がないため、倉庫など場所的な制約は一切ありません。そのため、通常は扱わないようなマイナーな映画やテレビ番組まで取り扱うことで集客力を高めました。取り扱い動画の裾野を広げることで新たな顧客を開拓し、競合他所にない強みを見出したのです。
地方のスーパー「A-Z」
全国的にはあまり知られていないものの「リアルAmazon」と呼ばれているのが、鹿児島のスーパー「A-Z」です。通常、ロングテール戦略の前提となるのがインターネットで、リアルで展開するにはイケアのようにカテゴリーを絞るのが一般的。
しかし、A-Zは東京ドームのグラウンド面積3個分という巨大な面積を利用することで、その常識を覆しました。そのアイテム数は38万を超えると言われており、食品や日用雑貨はもちろん、神仏具や乗用車に至るまで、ありとあらゆる商品を揃えています。
中には年に数個しか売れない商品もあり、その戦略は決して効率的ではないとも言えるかもしれません。しかし、利益よりも客のニーズを優先する「利益第二主義」こそが、結果的に同社の利益に大きく貢献しているのです。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略
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