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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉜~マーケティング近視眼

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉜~マーケティング近視眼

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時代の変化が激しい昨今「サービスの寿命」はどんどん短命化しています。一時は栄華を誇ったサービスも新しいサービスの登場により窮地に立たされるケースも珍しくありません。激動のビジネスシーンを生き抜くには、市場を俯瞰し自分たちのサービスをどう捉えるかが肝になります。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第32弾で取り上げる「マーケティング近視眼」は、市場を俯瞰できずに自分よがりになってしまう状態。これまでも多くの企業が、視野が狭いために業績悪化、最悪の場合は倒産という結末を迎えています。

今回はマーケティング近視眼に陥って失敗したケースを存分に紹介し、その背景にある要因を見ていきたいと思います。

マーケティング近視眼(マイオピア)とは

マーケティング近視眼(マイオピア)とは、その名の通りマーケティングに対する視野が狭まっている状態。言い換えれば、企業が自社製品を中心に考える「製品志向」に陥ってしまい、顧客が何を求めているか考える「顧客志向」が疎かになってしまうことです。

この考え方は、1960年にハーバード大学ビジネススクール教授のセオドア・レビット氏が発表した論文「Marketing Myopia」で広まりました。日本では「近視眼的マーケティング」などと呼ばれることもあります。

マーケティング近視眼の事例

マーケティング近視眼をより深く理解するために、レビット氏が論文の中で紹介している2つの事例を見ていきましょう。

鉄道業界の例

論文が書かれた1960年代のアメリカでは、鉄道業界が急速に衰退していました。その背景には「車社会の完成」と「航空輸送や自動車輸送の発展」という時代の変化があります。旅客や輸送の需要の受け皿となっていた鉄道業界が、自動車や航空機に取って代わられたのです。

その結果、多くの鉄道会社は旅客サービスから撤退し、最終的には鉄道旅客事業を維持するために「全米鉄道旅客公社(通称:Amtrak、アムトラック)」が生まれました。

レビット氏は、鉄道業界が衰退した理由として「鉄道事業」への製品志向の強さがあったと言います。そのため、自動車や航空機などの代替サービスの発展や、電話の普及により移動ニーズが縮小するといった変化に対応できませんでした。もしも、自分たちの事業ドメインを「鉄道事業」ではなく、顧客志向になって「輸送事業」と捉えていれば、業界の衰退はなかったかもしれません。

その点、日本の鉄道業界は顧客視点を持って発展しました。不動産などの都市開発や、バス・タクシーといった電車以外の交通サービスも提供することで、大きな成長を遂げたのです。


映画業界の例

もう一つ、レビット氏が論文の中で紹介しているアメリカ映画業界の事例も見てみましょう。論文が書かれる前の1950年代は、アメリカで一般家庭にテレビが普及した時代。それまで活況だった映画館への動員数は減少の一途をたどっていました。

テレビ業界が発展する一方で、多くの映画館が廃業を迫られることに。当時のハリウッドの映画業界は、テレビ業界を顧客を奪う新しい勢力と捉えた結果、その戦いに破れたと言えるでしょう。もしも「エンターテイメント事業」として、他の娯楽を生み出していたらそのような結果にはなっていなかったかもしれません。

同じような現象は現代でも起きています。YouTubeやNetflixといった新しい動画サービスに対し、今度はテレビ業界が敵意を持って対抗しているのはまさに同じ構図と言えるでしょう。テレビ番組との連動企画や、YouTubeへの参入といった対策を打たねば、かつての映画業界と同じ結末になるかもしれません。


レビット氏の論文では、鉄道業界と映画業界の他にも次のような事例が紹介されています。

・エネルギー業界と考えられなかった石油業界

・化学繊維の登場で衰退したウールのドライクリーニング事業

・白熱電球の登場で衰退したケロシン電灯

・スーパーマーケットの登場で窮地に立たされた街の食品雑貨店

マーケティング近視眼に陥ってしまう4つの理由

レビット氏は、論文の中でマーケティング近視眼に陥ってしまう主な理由は4つあると言っています。それぞれ見ていきましょう。

市場が拡大し続けてしまうという幻想

1つ目の理由は、人口が増加することにより市場が拡大し続けるという錯覚してしまうこと。今の日本では無縁に思うかもしれませんが、世界人口は当時も今も増え続けています。その市場に身を置く企業の中には、市場が増加する前提で事業運営してしまうケースも少なくありません。

しかし、人口が増え続けているからといって、市場も比例して拡大し続けるとは限りません。車の登場で鉄道を利用する人が減ったように、新しい製品やサービスの登場によって人々の生活様式が変われば、いくら人口が増えても市場が縮小することもあるのです。

それが2つ目の理由である「代替品の登場」です。

代替品が存在しないという幻想

成長している市場には、必ず多くの企業が参入します。その中には、代替サービスを生み出す企業も出てきます。しかし、業界内で圧倒的な地位を築いている大企業は、新しいビジネスなど視野に入りません。市場も拡大し売上が伸びている中、新しく生まれたビジネスなど小さな存在で、取るに足らないと感じてしまうのです。

例えば、今でこそ普及しているUberのようなライドシェアサービスも、アメリカでサービスが出始めた時は、多くのタクシー会社は視野にも入れなかったことでしょう。しかし、Uberの成長とともにタクシーの市場は縮小し、サンフランシスコ最大のタクシー会社イエローキャブすら倒産する結果となってしまいました。

大量生産によるコスト優位性にあぐらをかく

代替サービスを軽んじてしまう理由の一つに、コストの優位性を過信してしまうことが挙げられます。事業規模が大きくなると「規模の経済性」がはたらきコストを下げられるほか、「範囲の経済性」や「経験曲線効果」など様々なメリットを得られます。

コストを下げられれば「コストリーダーシップ戦略」をとることもでき、有利な戦いにも展開できるのです。しかし、その安心感から代替サービスに対策をとるのが遅れ、気づいた時には市場を大きく奪われているケースも珍しくありません。

既存製品の改善に夢中になる

代替サービスが自社サービスの脅威になりつつあるとき、失敗する企業の多くがとるのが既存製品の改善です。既に社会のニーズがシフトしているにも関わらず、既存製品の改善や生産コストの削減をしても本質的な改善にはなりません。

例えば、アメリカのカメラ業界で圧倒的シェアを誇っていたコダックも、マーケティング近視眼になって既存製品の改善に夢中になった一例です。デジタルカメラの登場により、フィルムカメラのニーズが縮小していたにも関わらず、コダックは既存製品の改善に夢中になるあまりデジタル化に乗り遅れました。

その結果、2012年に破産申請を出すことになってしまったのです。早い段階で顧客志向を取り入れて、デジタル化に舵を切っていれば破産を免れていたかもしれません。

マーケティング近視眼を防ぐ「STP分析」

マーケティング近視眼になるのを防ぐのに有効とされるのが、過去に「学び直し」シリーズでも紹介した「STP分析」。STPとは「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」の頭文字で、3つのステップを踏むことで効果的に市場を開拓するマーケティング手法です。



STP戦略のための分析をしていくことで、最終的に自分たちの「事業ドメイン」が明確になっていきます。事業ドメインとは、事業を展開する領域のことで、これをどう捉えるかによって事業の方向性も大きく変わります。

例えば先に紹介したアメリカの鉄道業界の場合、自分たちの事業ドメインを「鉄道で人やものを運ぶこと」と狭義に定義してしまったがために、巨大なビジネスチャンスを逃してしまいました。もしも事業ドメインを「輸送」と広義にとらえていれば、鉄道を一つの手段ととらえ、自動車や飛行機も輸送の手段として捉えていたかもしれません。

マーケティング近視眼になってしまうと、どうしても自社ビジネスの事業ドメインを狭義で捉えがちです。特に現代は市場の変動も激しいため、定期的にSTP戦略に則って分析しながら、適切に事業ドメインを捉えられているかチェックしましょう。

市場を俯瞰して大成功を収めたNetflix

これまでマーケティング近視眼になって失敗したケースを多く紹介してきましたが、最後はマーケティング近視眼にならずに成功した事例を紹介します。



徹底的な顧客視点で、急激に変化するニーズにうまく対応したのが「Netflix」。今でこそ定額制の動画配信サービスとして日本でも人気の同社ですが、実は創業時の事業はアメリカ初のオンライン注文によるDVDの販売・レンタルサービス。

しかし、AmazonがDVD販売に本格参入するのを機にはじめたのが、サブスクリプション型のDVDレンタルサービスです。「延滞金なし」「やめやすいサブスク」といった画期的なアイディアで大きな成功を収めました。

当時、業界大手のブロックバスターと熾烈な争いを繰り広げましたが、ネットのストリーミング再生に舵を切ったNetflixに対し、ブロックバスターは店舗に注力。その結果、ブロックバスターは2010年に破産申請を行い、Netflixはさらなる成長を遂げます。

その後、料金の値上げによるユーザー離れで苦しんだ同社ですが、みなさんも御存知の通り事業拡大に成功し、現在は映画の制作にも乗り出しています。DVDの販売・レンタルからサブスクリプション型レンタル、そして動画配信に映画制作と、市場の変化に柔軟に対応してきたNetflix。

もしも同社が事業ドメインを「DVDのレンタル」と捉えていれば動画配信を始めなかったでしょうし、「動画配信」と捉えていたら映画の制作はしなかったでしょう。マーケティング近視眼にならず、市場の変化に対応したからこそ成功した好例と言えるのではないでしょうか。

編集後記

マーケティング近視眼に陥るリスクは、いかなる企業も孕んでいます。どんなに流行した商品であっても、未来永劫売れる保証はどこにもないからです。長きに渡って売れているロングセラー商品も、実は時代に合わせて改良が施されていることがほとんど。商品自体が変わらずとも、売り出し方を変えるなど様々な工夫が隠されています。

これから長きに渡って事業を成長させていきたいと思う方こそ、商品だけでなく社会の変化にも目を向けながら改良を重ねていってみてはいかがでしょうか。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


■連載一覧

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く④〜チャンドラーの「組織は戦略に従う」

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑤〜孫子の兵法

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑥〜VRIO分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑦〜学習する組織

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑧〜SWOT分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑨〜アドバンテージ・マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑩〜ビジネスモデルキャンバス(BMC)

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑪〜PEST分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑫〜PMF(プロダクト・マーケット・フィット)

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑬〜ブルーオーシャン戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑭〜組織の7S

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑮〜バリューチェーン

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑯〜ゲーム理論

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑰〜イノベーター理論

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑱〜STP分析

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