「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊺〜ファンベースマーケティング
自社の商品に愛着を持ってくれているファンを大切にしながら、ファンをベースにして、売上や事業価値を中長期的に高めていこうとするマーケティング手法、「ファンベースマーケティング」が近年、注目を集めています。
TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第45弾では、この「ファンベースマーケティング」を取り上げ、注目される背景や実践するための方法、そして成功事例などを詳しく紹介していきます。
ファンベースマーケティングとは?
ファンベースマーケティングとは、自社の製品・サービスに愛着を持ってくれる人(=ファン)をベースにして、中長期的に売上拡大やブランド価値を上げていくマーケティング手法を指します。一般的なマーケティングは新規顧客獲得をメインにしますが、ファンベースマーケティングでは、自社のファンである既存顧客あるいは優良顧客をベースにします。そうした点が、従来のマーケティング手法とは大きく異なる部分です。
なぜファンベースマーケティングが注目されているのか?
なぜ、ファンベースマーケティングが注目されているのでしょうか?その背景として、以下の4点が挙げられます。
購買人口の減少
日本の人口は減少を続けており、これは購買人口も減ることを意味しています。また新規顧客は母数で既存顧客を大きく上回りますが、新規顧客は離脱率も高く、リスクだけでなくコストパフォーマンスの面でも懸念点が多いです。このような背景からファンベースマーケティングは、コストを安価に抑えながら大きな売上を作れるマーケティング戦略と言われています。
安定した売上が確保できる
ファンを大切にすることで、顧客の離脱を防ぐことに繋がり、長期的に購入をする顧客が生まれます。つまり、売上が安定します。有名なマーケティングの法則で「パレートの法則」と呼ばれるものがあります。これは上位20%の顧客が全体売上の80%を創出しているという考え方です。ファンを大切にして顧客維持をさせることで、全体売上の80%ほどは安定することになり、ファンベースマーケティングは売上維持の面でも非常に効果的です。
インターネット/SNS社会に適した手法
インターネットやSNSなどの発達により、人々は大量な情報を手に入るようになりました。そのため、ユーザーに認知してもらうことも何かしらの施策が必要なほど、情報過多になっています。しかし認知をしてもらったとしても、新たな他の情報は日々ユーザーの中に取り入れられ続けていくため、せっかく情報が届いたとしてもそれは一過性にすぎず、その先覚え続けてもらうというのがとても大きな課題です。
そのため、SNSやテレビで話題になっても「話題になっただけ」で、中長期的に効果が出ずにユーザーには忘れ去られてしまう「成功したはずなのに失敗」状態になってしまいます。そこで自社のファンを大切にして顧客維持をしていくことで、認知施策に大きな投資をせずとも売上を伸ばすことのできるファンベースマーケティングは、情報過多社会にも適したマーケティング戦略になります。
ファンベースマーケティングのメリット
ファンベースマーケティングは時間がかかりますが、真摯に取り組むことでファンとの絆は深まり、やがて新規顧客の獲得にもつながっていきます。ファン自身のリピート購入や購入単価の向上も見込まれるため、中長期的な売上増も期待できます。
一方で、自社のファンは企業に対する愛着があるため、第三者に対して熱量の高いレコメンドをしてくれるでしょう。そのため、PR施策や各種広告などを打たなくとも、既存顧客であるファンがオフライン/オンラインを問わず製品やサービスを広めてくれたり、新規顧客を連れてきてくれたりするメリットがあります。
また、ファンと密接に関わっていく中で、社員も会社や製品・サービスへの自信と誇りが強まります。社内の士気も上がり、社員同士のコミュニケーションも活性化します。こうしたポジティブなループが広がっていくことこそが、ファンベースマーケティングが企業にもたらす最大のメリットと言えるでしょう。
ファンベースマーケティングを実践する上での4つのポイント
では、ファンを作っていくためには何をすればいいのでしょうか。以下の4つがファンベースマーケティングを実践するためのポイントになります。
顧客の育成シナリオを作成する
ファンベースマーケティングにおいて重要なのが「ユーザーのフェーズに合わせたアプローチ」です。そのフェーズの目安=顧客育成のシナリオを作ることがファーストステップとなります。
例えば、新規顧客に対しては認知をしてもらうためにSNSでキャンペーンを開催したり、クーポン配布で購入ハードルを下げる、既存顧客にはファンコミュニティへの参加を促したりすることでブランドに対する愛着を増やしていくなど、顧客のフェーズ毎にアプローチを変えて実践していくことで、ファンを生み出すことが可能になります。
そのため、育成シナリオはファンベースマーケティングを行う前に全体設計をしておきましょう。
ファン同士でコミュニケーションできるコミュニティを作る
ファン同士の交流を行わせることで、ブランドに対する魅力を発見することになるだけでなく、ファン目線のアドバイスで商品・サービス改善を行うことができます。また、コミュニティ内で近い価値観を持った人と語り合う機会が増えれば、自分の趣味や好みについてより自信を持ち、製品・サービスへの熱量が高まるためです。
下記の「成功事例」でも取り上げますが、大手食品メーカー・カゴメでは、会員制コミュニティ「&KAGOME」を開設し、カゴメのファン同士の交流を実現しました。同サイトでは、会員がカゴメ商品に関するレシピ投稿が行われたりなど、運営側と会員が一緒に作り上げるサイト内容になっているため「一緒にカゴメを創り上げている」というファンの意識を高めさせることに繋がっています。
ストーリーを開示する
ファンの愛着度をより高めるために、製品やサービスのストーリーを開示しましょう。企業は生活者の課題解決のために情熱を込めて製品やサービスの開発を行います。そのため、消費者を思って作られた製品やサービスの開発までのストーリーはファンの心を掴む要素が高いものになります。そこで愛着心を湧かせるためにも、開発ストーリーや秘話や苦労話などをオウンドメディアやSNSを活用して発信。ユーザーに知ってもらうことで、ファンの熱量を高めることができるでしょう。
施策の見直しを実施する
今、実施している施策が「ファンベース」に則っているかどうか見直しを行い、フェーズに合わせてそれぞれのマーケティング投資を最適化しましょう。フェーズごとのマーケティング戦略を立てることで、無駄な広告予算を削減することができます。広告予算が削減できた分は、ファンベース施策の補填に使うなどをしてバランスを整えましょう。
しかしファンベースにばかり注力をしすぎてしまうと、新規顧客獲得が全く行われなくなってしまいます。ファンベースが大事とは言え、新規顧客施策に全く投資を行わないのは、これからファンになるユーザーの損失にも繋がってしまいます。全体設計をしっかりと行いバランスの良い投資配分を定めましょう。
ファンベースマーケティングの成功事例
それでは最後に、ファンベースマーケティングの成功事例を3つ紹介していきます。
コメダ珈琲
喫茶店チェーン「コメダ珈琲」を展開する株式会社コメダは、創業時からリピーターやファン作りを重視しており、利用者層も常連が多いという特徴がありました。そこで同社は、「さんかく屋根の下」というコメダのファンが集まるコミュニティサイトを開設。コメダファンが語り合って交流を深める「コメダ部トークルーム」や、コメダ珈琲での一枚を投稿する「フォトコンテスト」など、ファンにとって楽しい空間が用意することで、企業とファンが共同で「コメダ珈琲」をよくしていこうとする流れができたのです。
カゴメ
飲料や食品を販売するカゴメ株式会社。同社は、「&KAGOME」という会員制のコミュニティサイトを開設し、ファン同士の交流を活性化しました。「&KAGOME」では、企業とファンが一体になってカゴメを作っていくという意識を持てるように、トークルームやレシピ投稿といった機能を取り入れています。一方、カゴメのファンたちの座談会から生まれたアイデアをもとに商品開発に取り組むなど、新たな商品作りに寄与するコミュニティにもなっています。
ワークマン
作業服・安全靴からアウトドア、スポーツ商品などの製造・小売を行っている株式会社ワークマン。同社は、「ワークマン公式アンバサダー」とともに製品開発やプロモーション活動を行っています。アンバサダーは、社員自らSNSなどを活用して候補者を見つけ、リクルーティング。店舗にアンバサダー候補が訪れることを見込んで、直接会話をするために現地まで訪れることも。ワークマンがアンバサダーに金銭を支払うことはなく、アンバサダーのブログ投稿のPV数や公開した動画の再生数をKPIにすることで、ワークマンとアンバサダーの双方がWin-Winな関係になることを目指しています。
(TOMORUBA編集部)
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