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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉞~ファブレス経営

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉞~ファブレス経営

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みなさんは「メーカー」と聞いて、どのような企業体をイメージしますか?自社で商品を企画し、自社工場で開発する。そんなイメージを持っている方も少なくないかもしれません。しかし、最近では自社で工場を持たない企業が大きな成功を収めているケースが増えています。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第34弾で取り上げる「ファブレス経営」とは、自社で生産設備を持たない経営戦略のこと。「生産しないメーカー」とはどういうことなのか、どんな企業が成功を収めているのか紹介していきます。


ファブレス経営とは

ファブレス経営とは、自社で生産設備を持たず、製品の生産をすべて他社に委託する経営方式のこと。メーカーという言葉は「作り出す人」という意味ですが、それは決して物理的に作る人だけを指すわけではありません。物理的に製品は作らずとも、そのアイディアを生み出す人もまたメーカーなのです。

ファブレスという言葉を分解すると、ファブとは英語で「fabrication facility」。生産を行う工場などの施設のことを指します。「ファブを持たない(less)」ので、ファブレスメーカーというわけです。

ファブレスメーカーが生まれたのは1980年代の半導体業界でのこと。半導体は製品の開発サイクルが短い上に、精密機器であることから製造工場の建設には莫大な費用がかかります。そのような背景から、昔から半導体業界ではファブレス経営が取り入れられてきました。

ファブレス企業と対をなすファウンドリ企業とは

ファブレス企業と一緒に「ファウンドリ企業」ということもぜひ覚えてください。ファブレス経営が製品の企画や開発を担当するのに対し、製造以降の工程を担当する企業のことです。

ファブレス企業はファウンドリ企業に対して製品の開発を委託し、ファウンドリ企業は完成した製品を納品します。ファブレス企業は製品の企画・開発に集中できるため、低コストでスピーディに世の中の変化に合わせた対応が可能になるのです。

一方でファウンドリ企業は製造や品質管理に集中できるため、効率よく大量生産ができ、低コストで高品質な製品を供給できるようになります。

OEMとの違い

ファブレス経営と似たビジネスモデルに「OEM」というモデルがあります。ブランドと製造元が異なる点では同じですが、その構造は微妙に違います。OEMは自社製品を他社ブランドとして供給する方法です。

技術力があっていい製品を作れるけど、会社の知名度が低いために売れない。そんな会社が認知度の高い企業のブランドを使って売るのがOEM。ファブレスと比べて、OEM企業が製品の企画から開発まで行うケースが多いです。


ファブレス経営のメリット

あえて工場を持たないファブレス経営には、どのようなメリットがあるのか見ていきましょう。

初期コストを大きく抑えられる

ファブレス経営の最大のメリットと言えば、コストを大きく抑えられること。生産設備を整えるには莫大な費用がかかりますし、需要の変動や市場の変化に合わせて生産を行うには高額な設備投資が必要です。

ファブレス経営によって設備コストを押さえれば、それだけ損益分岐点を引き下げることもでき、事業のリスクも大きく下げられます。仮に事業が軌道に乗らなかった場合も、撤退時のコストを最小限に抑えられるのです。

経営資源を集中させられる

ファブレス経営なら、生産に対して設備投資や人材を投資する必要がない分、他の業務にリソースを集中できます。企業の競争力の原点となる研究開発や、製品を販売するためのマーケティングなどにリソースを割けるのです。

事業の成功を左右する業務にリソースを集中することで、成長を加速することができるでしょう。

リスクを分散できる

ファブレス企業とファウンドリ企業は必ずしも1:1の関係ではありません。複数のファウンドリ企業に依頼をすることで、納期を短縮したり、製造量の調整ができるのです。一つのファウンドリ企業に依頼するよりも、不測の事態に対するリスクを分散できるメリットもあります。

また、自社の生産設備を改良するとなれば、多額の設備投資や時間がかかりますが、よりよい設備を持つファウンドリ企業を探せば、短期間で製造効率を上げることも可能に。急激に需要が増えた時も、供給量を増やしやすくもなります。

少ないリソースでも急成長できる

ファブレス経営ならリソースの少ないベンチャー企業でも急成長を目指せます。通常、メーカーは「死の谷」などの経営リスクを避けるために、需給のバランスを考えながら成長していかなければなりません。

ただし、ファブレス経営なら柔軟に生産を調節できるため、低リスクで成長にドライブを切ることができるのです。

ファブレス経営のデメリット

コストを抑えて成長できるファブレス経営ですが、どんなデメリットを抱えているのかも見ていきましょう。

外注コストがかかる

生産設備への投資を抑えられる一方で、自社生産する場合のランニングコスト以上の外注コストがかかります。これは生産量が増えれば増えるほどかさむため、大量生産を前提とする場合には、自社で生産体制を持つことも検討した方がいいかもしれません。

生産管理・品質管理がしにくい

ファブレス経営では、生産を他社に委託するため、製造工程がみえづらくなります。自社工場なら、品質を保つために細かな施策もしやすいですが、他社に依頼するには少しハードルが挙がります。自社製造に比べて最新の注意を払って品質管理できる仕組みを整えなければなりません。

特に大量生産をするには、品質管理を仕組み化する必要があります。ファウンドリ企業を細かくチェックするのも重要ですが、信頼できるファウンドリ企業を探するのも重要な戦略の一つです。

情報漏洩リスクがある

生産を依頼するということは、製品に関する情報を相手に渡すということ。つまり情報が漏洩するリスクがつきまといます。もしも、依頼したファウンドリ企業が情報を流せば、類似した製品を作られるかもしれませんし、悪意がなくても情報が漏洩することはあります。

信用できる企業を探すのはもちろん、情報を安全に取り扱ってくれるかも厳密にチェックしておきましょう。また、何かあったときのために対処法や責任の追求に関する取り決めをしておくのも重要です。

生産過程でのノウハウが得られない

製品を生産していく上では、本来多くの学びを得られるものですが、ファウンドリ企業に委託するファブレス経営では、それらの学びを得る機会を失ってしまいます。例えば生産過程で得られた技術が、別の製品に役立つことも珍しくありませんが、そのような偶発的なチャンスも失ってしまうのです。



ファブレス経営の成功事例

今や様々な業界でファブレス経営による成功事例が増えています。中にはみなさんがよく耳にする企業も少なくありません。その一部を見ていきましょう。

キーエンス

社員の平均年収が日本一高いことでも知られるセンサー・測定機器メーカーのキーエンス。その高収益体質を生み出しているのが、企業の存在意義として掲げている「付加価値の創造」です。

新商品の約7割が「世界初」「業界初」という高い商品開発力を誇り、それは検出装置や回路の設計といった高付加価値部品に注力することで実現しています。その他の、センサーの組み立てや加工などの作業はすべて外部委託しているのです。

また、商品開発力の原動力となるのが自社営業による「直接販売」。代理店などを挟まず、自社社員が直接現場に赴くことで現場の声を吸い上げ企画・開発に活かしています。結果的に顧客が求めている商品を開発することができ、高い収益性を実現しているのです。

任天堂

大手ゲーム企業の任天堂もまたファブレス経営を行っている一社。ゲームの流行によって生産体制がまるまる入れ替わるようなゲーム業界は、実はファブレス経営と相性のよい業界なのです。

2018年にだけで約1,700万台も売り上げたニンテンドースイッチは、ほぼ全ての部品が鴻海精密工業などの中国企業にアウトソースしています。大量生産なため自社で生産する選択肢も考えられますが、リスクも考慮した企業の姿勢が垣間見られます。

伊藤園

緑茶飲料メーカー最大手の伊藤園もファブレス経営を取り入れています。緑茶の原料となる茶葉の茶畑拡大や商品企画、仕上げなどは自社で行うものの生産工程は全て外部に委託しているのです。

人が口にするものなので、品質管理には特に厳しく全国の工場担当者と密に品質会議を行い、安心安全な商品づくりにこだわっています。「品質に問題があればすぐに取引停止」という厳格な姿勢をとることで、ブランド力を損なわない品質管理を徹底しているのです。

TOMORUBA編集部 鈴木光平)


■連載一覧

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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く④〜チャンドラーの「組織は戦略に従う」

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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑥〜VRIO分析

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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑬〜ブルーオーシャン戦略

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