TOMORUBA

事業を活性化させる情報を共有する
コミュニティに参加しませんか?

AUBA
  1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊼〜人的資本経営
「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊼〜人的資本経営

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊼〜人的資本経営

  • 10493
  • 10488
  • 10471
4人がチェック!

企業に対する人的資本の情報開示要請が強まるなか、世界中で注目や関心が高まっている人的資本経営。そこで、TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第47弾では、人的資本経営を取り上げます。人的資本経営が注目されている理由から取り組むメリット、実践するためのポイントや具体的な事例まで紹介していきます。

人材を「資本」として捉える、人的資本経営

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

経済産業省が2020年に発表した「⼈材版伊藤レポート」において、人的資本経営の重要性が強調されたことが関心の高まりを促しました。

従来の考え方では、人材は資源の1つとされてきました。「ヒト・モノ・カネ」といわれるように、資源はコストとして消費するものに当たるため、人材にかける費用も、なるべく抑えることが理想とされていたのです。

一方、人的資本経営では、人材は「利益や価値を生む存在」として、“資源”(Human Resource)ではなく“資本” (Human Capital)に位置づけられます。個性を充分に育成・活用することは、資本としての人材に投資することになり、代替不可能な価値が向上することで自社の企業価値も創造され、結果、利益として企業に還元されていくことで、企業経営の好循環が生まれます。

⼈材版伊藤レポートでは、これまでの人材=“資源”とする人材戦略と人的資本経営における考え方の違いを以下の図のようにまとめ、変化が激しい現代には「これまでの成功体験に囚われることなく、企業も個人も変化に柔軟に対応し、想定外のショックへの強靭性(レジリエンス)を高めていく変革力が求められる」としています。

人的資本経営が注目される4つの視点

現代の企業経営に求められる以下のような視点から、人的資本経営が注目されています。

●多様な人材/多様な働き方の視点

労働人口減少が加速する今、外国人労働者やシニア世代など様々な人材の登用が重視されています。また、時短勤務やリモートワークなど働き方そのものも多様化しており、従来の画一的な人材管理では限界を迎えつつあります。こうした社会の変化を受け、一人ひとりの事情や状況に合わせた勤務形態で「個」を活用し、パフォーマンスを最大限に引き出す人的資本経営が、持続的な企業経営のため必要と考えられています。

●投資家からの視点

「無形資産」を投資判断の指標として評価する傾向が高まっています。そのため、投資家をはじめとするステークホルダーは、企業の将来性を判断するために人的資本経営に関する情報開示を強く求めるようになっています。上場企業・IPO準備企業にとって、今後はさらに「人的資本」の指標を抜きに企業価値を考えることができなくなるでしょう。

●世界的動向の視点

持続可能な社会を目指した取り組みが世界的に注目されており、「多様性の尊重」「エンゲージメント」といった人に関する指標を重視する経営が高く評価されています。例えば人的資本は、ESG投資では「社会」と「ガバナンス」に含まれています。またSDGsでは、目標8に設定されている「働きがいも経済成長も」やダイバーシティ・人材育成などの項目にも該当します。このように、企業の成長性を評価する上で、いまや人材への投資は重要な判断ポイントとなっています。

●デジタル化時代の経営戦略の視点

DXの推進により産業構造も変化する中、企業は将来に向けてさらなる挑戦的な経営改革を迫られています。そのための新たな付加価値創造を担うのは “人”であり、人的資本経営の基本でもある「一人ひとりを最大限に活かす」視点を取り入れることが、今後の持続的な企業成長には欠かせないと考えられています。

人的資本経営に取り組むメリットとは?

人的資本経営に取り組むことで、次のようなメリットが期待できます。

●能力を可視化

人材育成を通して、従業員がどのような能力を持っているのか、一人ひとりの知識やスキルを正確かつ詳細に把握しやすくなります。人的資本経営では個人の能力を可視化することになるため、本来のパフォーマンスが発揮できる人材配置が可能になります。

●生産性向上

人的資本経営では人材に投資するため、従業員のスキルアップと成長が促され、業務の生産性が向上します。一人ひとりが今まで以上にパフォーマンスを発揮すれば、企業全体の利益拡大も実現します。その利益をさらに人的資本に投入することで、従業員と企業がともに成長し合える好循環が生まれます。

●エンゲージメントが高まる

人材育成に力を入れると、企業に対して「自分たちの成長に投資を惜しまない職場」と認識しやすくなるため、従業員のモチベーションの維持・向上が期待できます。従業員のモチベーションが高まることで、企業への帰属意識も強まり、離職率の低下などにもつながります。

●企業イメージの向上

人材育成に力を入れる企業は、一定の社会的信頼を得られやすく、企業イメージの向上にもつながります。

世間の人々から「この企業で働きたい」と思われることで、優秀な人材も集まりやすくなり、企業競争力の強化にもつながります。

●投資家からの注目度が高まる

投資家などのステークホルダーにとって、人的資本経営は企業価値を判断するために欠かせない重要な指標です。人的資本経営に積極的に取り組んでいる企業は、利益だけでなく社会的価値も高いと評価され、投資対象として認識されやすくなります。

人的資本経営を実践するポイント

人的資本経営を実践するための要点は、2022年5月に発表された「人材版伊藤レポート2.0」に「3P・5Fモデル」としてまとめられています。その中で、人的資本経営の実施にあたり重要視すべきは、個人の能力や経験といった価値を最大限引き出すことであり、経営戦略と合わせて具体的な人材戦略を検討し、連動した施策の必要性を提示しています。

同レポートでは、人材戦略に着目し、「3P・5Fモデル」という概念を掲げており、人材戦略に求められる「3つの視点」と「5つの共通要素」としてまとめています。以下に「3P・5Fモデル」についての解説と、それを用いてどのように人材戦略を行えばよいかを解説します。

人材戦略においてどの企業にも必要な3つの視点

まず3Pに該当する、「3つの視点」には以下の要素が挙げられています。

●経営戦略と人材戦略の連動

長期的な事業計画に基づき、経営戦略と連動した人材戦略の立案が重要となります。企業ごとにビジネスモデルや経営戦略が異なるため、それぞれの目標を達成するために必要な人材を検討し、能力を活用・獲得させる戦略が不可欠です。連動させるにあたっては、社内の経営課題を洗い出し明確化した上で人材戦略を策定すると良いでしょう。

●As is-To beギャップの定量把握

自社の理想とするビジネスモデルや経営戦略を定め、現状の人材や人材戦略とのギャップを把握し、解消していく必要があります。現状持っているスキルと目標とのギャップを定量的に把握することで、どのような課題を解決すればよいか判断が可能です。ビジネスモデルや経営戦略と人材戦略のギャップを埋めるためには、まず従業員の能力や経験、配属などをデータ化した上で常に情報収集し、把握することが必要です。

●企業文化への定着

人材戦略を実行するためには、企業文化への定着が必要であり、それは経営トップが戦略を掲げるだけでなく、従業員一人ひとりに考え方や具体的行動を意識付けることが重要となります。企業文化は時間をかけて徐々に形成されるため、地道な取り組みの継続が大切です。具体的なアクションとしては企業理念や経営目標を明確に掲げたり、従業員と管理職や経営トップが直接対話するなど、コミュニケーションを密に取ったりするといった方法があります。

人材戦略実行においてどの企業にも共通する5つの要素

次に、5Fに該当する「5つの共通要素」は以下のとおりです。

●動的な人材ポートフォリオ

経営戦略の実現や、新規ビジネスモデルへの対応に必要な人材を質・量ともに充足させ最適化するために、常時更新される人材ポートフォリオの作成が必要です。人材ポートフォリオとは、企業の経営戦略に基づきどのような人材が在籍し、配置されているかを示すものです。現状の人材ポートフォリオを把握しつつ、今後の経営計画やビジネスモデルに必要な人材を質と量の両面から適切に獲得・育成し、配置することが求められます。

●知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

知・経験のダイバーシティ&インクルージョンは、さまざまな価値観や経験・考え方を受け入れることで、新たなイノベーション創出が可能となる重要な要素です。多様な個性や経験、価値観などを積極的に認め、企業運営に生かすという考え方を指し、人的資本経営実現のための人材戦略を実行する上でも必要な動きです。

●リスキリング・学び直し

急速に変化する事業を取り巻く状況や価値観の多様化に対応するためには従業員一人ひとりの能力向上が求められ、その中で必要な能力をリスキリングすることも重要です。リスキリング・学び直しとは、企業が必要とする能力やスキルを従業員に習得させることを言います。個々人のスキルや生産性向上、新しい価値創出を目的とした、人的資本経営に必要な施策です。

●従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントは、従業員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務を行ってもらうために重要な要素です。企業に対して持つ愛着や貢献意欲のことを指し、エンゲージメントを高めるためには職場環境を創り上げることが大切です。

●時間や場所にとらわれない働き方

時間や場所を問わず、安全かつ安心して勤務できる環境整備は、事業継続や従業員の精神的健康を促し、人材戦略を適切に実行するために取り組むべき重要なポイントです。具体的な取り組みとしては、リモートワークや時短勤務などを行うことが挙げられます。ただし、注意点として、同じ時間や空間で勤務しない人を管理するため、マネージャー層のリーダーシップ、マネジメントスキルが求められます。また、コミュニケーション方法やリモートワークだけで完結する業務プロセスの確立なども必要です。

人的資本経営において求められる2つの企業行動

人的資本経営に対して求められる企業行動は、大きく分けて「人的資本経営のための環境整備」と「人的資本経営の情報開示」の2つが挙げられます。

●人的資本経営のための環境整備

人的資本経営を行うには、従業員が持つ個別ニーズへの対応や、魅力的な経験・機会の提供可能な労働環境を整備することが急務となっています。整備にあたっては、事前に中長期的な企業戦略を立案します。その上で、現状の人材ポートフォリオ作成、必要なスキルのリスキリングなど、人材版伊藤レポート「3P・5Fモデル」を参考にすることで、人的資本経営に基づく人材戦略の立案、実施が可能になります。

●人的資本経営の情報開示

金融庁は2023年度にも、人的資本に関する19項目として、従業員の採用・育成や労働環境など一部の情報について、有価証券報告書に記載を義務化する方針を示しています。ただし19項目の内、開示が必須とされる項目は一部に留まります。開示の義務化は上場企業と一部の大規模に有価証券の募集や売出しを行う非上場企業が対象です。

人的資本の開示にあたっては、2022年8月に内閣官房非財務情報可視化研究会が定めた「人的資本可視化指針」で、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4要素を基に行うことが効率的であると示されました。

企業は上記4つの要素を踏まえた上で、以下の流れで情報を積極的に開示することが求められています。

1.自社の経営戦略と人材戦略の関係性を明確化する

2.独自性と比較可能性のバランス確保や、価値向上とリスク管理の観点などを検討し整理する

3.自社の人材育成及び社内環境整備方針を定める

4.定量的に測定可能な指標やその目標、達成への進捗状況を開示する

人的資本の開示は投資家への理解を深めるだけではなく、自社が内包する課題解決や市場での立ち位置を明確化し、企業目標達成に向けて具体的に行動できるといったメリットがあります。

人的資本経営を実践する企業事例

それでは最後に、人的資本経営を実践する2社の事例を紹介していきます。

●サイボウズ株式会社

社員の幸せや働きがい、成長を重視しているサイボウズ。同社はベンチャー時代に、離職率の高さや優秀な人材の確保・定着に課題を抱えていたことから、人的資本経営に注目。採用やリテンションの強化には、従業員一人ひとりの主体性やチームワークが重要であると考えるようになりました。

まずは、自社の企業理念や存在意義の基盤となる4つの文化を言語化し、組織として在りたい姿の追求を始めました。また、整理した情報をオウンドメディア「サイボウズ式」で積極的に発信。共通の理想を持つ人材の採用を強化することで、組織の生産性とはたらく人の幸福度を高めることができるようになりました。今後も型にはまることなく、自社のカルチャーを表現できる人的資本情報の開示を続けていくそうです。

●株式会社ポーラ

2021年にサステナビリティ推進室を設け、サステナビリティレポートの発信を開始しているポーラ。社会と社員に対して「数値目標を立て、本気でゴールに向かって取り組んでいく」という姿勢を見せることが、狙いの一つでした。また、全国にいるビューティーディレクターをはじめ、ビジネスパートナーに対しても、「人・社会・地球環境」の3観点・15指標から、何に着手し、どのような未来を創っていこうと考えているのかといった会社の方向性を示すべく、それぞれ注力目標を定めて情報を開示しています。

一方、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)についても目標を示すことで、全国にいるビジネスパートナーが自発的に勉強したり、自分たちの店舗でできる取り組みを考えて実行したり、全社的な組織活性化につながっています。

(TOMORUBA編集部)

■連載一覧

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く①〜ポーターの『5フォース分析』

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く②〜ランチェスター戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く③〜アンゾフの成長マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く④〜チャンドラーの「組織は戦略に従う」

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑤〜孫子の兵法

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑥〜VRIO分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑦〜学習する組織

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑧〜SWOT分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑨〜アドバンテージ・マトリクス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑩〜ビジネスモデルキャンバス(BMC)

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑪〜PEST分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑫〜PMF(プロダクト・マーケット・フィット)

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑬〜ブルーオーシャン戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑭〜組織の7S

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑮〜バリューチェーン

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑯〜ゲーム理論

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑰〜イノベーター理論

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑱〜STP分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑲〜規模の経済

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く⑳〜ドミナント戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉑〜LTV

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉒〜IPO

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉓~MVP戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉔〜プラットフォーム戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉕〜ジレットモデル

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉖〜フリーミアムモデル

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉗~フリー戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉘〜ダイナミックプライシング

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉙~ストックオプション

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉚~コア・コンピタンス経営

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉛~コストリーダーシップ戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉜~マーケティング近視眼

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉝~ロングテール戦略

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉞~ファブレス経営

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㉟~マーケティングファネル

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊱〜RFM分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊲〜IPビジネス

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊳~キャッシュマシン

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊴〜D2C

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊵〜PPM分析

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊶〜コンテンツマーケティング

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊷〜両利きの経営

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊸〜バランススコアカード

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊹〜BPO

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊺〜ファンベースマーケティング

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊻〜パーソナライゼーション

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント4件

  • 金谷敏尊

    金谷敏尊

    • 株式会社onnellinen
    0いいね
    チェックしました
  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

    • eiicon company
    0いいね
    チェックしました