「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊸〜バランススコアカード
「4つの視点」に沿って、戦略の立案から具体的なアクションまで落とし込むことができるバランスの取れたフレームワーク、『バランススコアカード』(BSC)。日本国内では、2000年代に入り大企業を中心に採用されましたが、中小企業にとっても経営戦略を考えるうえで非常に有効で、多くの企業で活用されています。
TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第43弾では、このバランススコアカードを取り上げ、導入するメリットや設定する流れ、さらに成功事例などを詳しく紹介していきます。
「4つの視点」で構成されるバランススコアカード
バランススコアカードは、企業業績を定量的な財務業績のみでなく、多面的に定義し、それらをバランスよくマネジメントしようとする経営管理手法。1990年代初頭に米国ハーバード・ビジネススクールのロバート・S・カプラン教授と経営コンサルタントのデビッド・P・ノートンにより開発されました。米国、欧州、アジアの主要企業に浸透し、前述したように2000年代に入って日本でも導入する企業が相次ぎました。
バランストスコアカードは上図のように「4つの視点」で構成されています。ここでは、各視点について解説していきます。
■財務の視点
「企業の業績を財務的に成功させるためにはどうするべきか」を探るのが、財務の視点です。ステークホルダーの期待に応えるために、効果的かつ具体的な指標を設定します。ここで設定する代表的な指標は、利益額や利益率、売上高などのP/L指標や、自己資本比率などのB/S指標、株主に対するROEやEPSなどの指標などが挙げられます。
■顧客の視点
「顧客に対してどのように行動することで企業のビジョンを達成できるか」という視点です。顧客の立場と企業の立場、双方の視点を軸とした指標を設定しましょう。顧客の視点としては、満足度やリピート率、企業の視点としては、顧客1人あたりの売上高や顧客1人あたりの費用などが挙げられます。
■業務プロセスの視点
効率的な業務プロセスを構築すれば、財務的目標の達成や顧客満足度の向上につながるはずです。そのためには、サービスやプロダクトの開発プロセス、配達や生産、購買や販売などのオペレーションプロセス、提供後のアフターサービスなど、各プロセスで想定されるさまざまな指標を設定する必要があります。
■学習・成長の視点
企業のビジョンを達成するために、組織や個人に必要な能力向上を図るのが、学習・成長の視点です。社員定着率、社員満足度、能力向上率などの指標を設定しましょう。
バランススコアカードを活用するメリット
単年度の財務の結果だけを考えるなら、仕入れ価格を引き下げることや、社員の教育費用を大幅に削ったり、IT投資を凍結することで利益を底上げすることができるかもしれません。しかしながら、それでは短期的に業績は向上しても、将来の業績に悪影響を及ぼす可能性があり、バランスの良い経営とは言えません。
バランススコアカードを取り入れることで、経営戦略やビジョンと企業行動の因果関係を明らかにしつつ連携させ、業績評価や進捗把握を単に財務面からだけで無く、企業を取り巻くステークホルダーの観点や、業績を支える業務プロセスや従業員教育等の評価も一覧で俯瞰することが可能。バランスの良い経営を行うことができるでしょう。
バランススコアカードを設定する流れ
バランススコアカードは次のように作成していきます。まずは具体的な戦略目標を設定し、それにあわせて要因を分析、明確な数値設定を実施。そうすることで、確実に戦略を実行する流れが生まれます。
【1】 ビジョンと戦略の設定する
まずは、会社の理念や行動指針、価値を表すミッションとビジョン、バリューを設定します。「会社として、何を最も重要視するのか」「ミッションを叶えるために、どう行動するのか」「世の中にどんな価値をもたらすのか」が目標を定めるための起点になり、バランススコアカードの評価基準にもなります。
【2】戦略目標の設定し、戦略マップを作る
次に、ビジョンと戦略を達成するための戦略目標を設定します。次のステップである重要成功要因の分析・作成と合わせて戦略目標を設定することで、抽象的に表されているビジョンと戦略を業績評価指標に置き換えやすくします。
【3】重要成功要因の設定する
設定したビジョンと戦略または戦略目標を達成するために必要な具体的要因を検討していきます。バランススコアカードを成功させるためには、経営層から従業員一人ひとりに至るまで設定したビジョンと戦略を浸透させることが大切です。そのためには業界、各企業、事業部、部門、課、環境要因、一時的要因など各レベルでの重要成功要因の分析・設定を行います。
【4】業績評価指標(KPI)を設定する
設定した重要成功要因の評価を行うために具体的な業績評価指標を設定します。バランススコアカードにおける業績評価指標=財務的業績評価指標ではなく、ビジョンと戦略を実現するために重要な非財務的業績評価指標についても設定します。また、ビジョンと戦略からアクションプランまでの因果関係はもちろんのこと、業績評価指標同士の因果関係についても考慮することが重要となります。
【5】数値(ターゲット)を設定する
設定した業績評価指標を受けて、実際の数値目標を決めるターゲットを設定します。
【6】戦略プログラムやアクションプランを策定する
業績評価指標を達成するための戦略プログラムやアクションプランを策定します。
バランストスコアカードの導入事例
それでは最後に、バランススコアカードを実際に導入している国内外の企業の事例を紹介していきます。
■エクソン・モービル
同社がバランススコアカードを導入した目的は、「ガソリン以外の商品・サービスによる売上拡大」と「プレミアムガソリンの利益率アップ」という2つです。また、エクソン・モービルは使用総資本利益率を6%から12%へ引き上げることを目標とし、「財務」の戦略目標に収益性向上と生産性向上を設けています。
バランススコアカードの導入によって4つの視点が可視化され、さらに経営戦略が具体化されたことで社員全員の認識が一致。その結果、導入から4年で使用資本利益率は16%に改善されました。
■関西電力
バランススコアカードを導入した日本国内の成功例として知られているのが、関西電力です。2000年に電気事業法が改正され、電力が自由化されたことにより、同社を取り巻く環境は大きく変化しました。その変化に対応するために導入したのが、バランススコアカード。これを取り入れることで、組織・社員が自立的に業務を行っていくことを期待しました。
バランススコアカードを基に、重点戦略を1枚にまとめた「戦略マップ」を支社・支店・事業所ごとに作成し、それを浸透させるためのワーキンググループも結成。仕組みを構築するだけでなく、しっかりとコミュニケーションをとることが成果を出すために重要であることが分かる事例です。
またその他、日本企業では、リコーやシャープといった企業がバランススコアカードに注目。自社流に開発・導入しました。導入した企業の多くは、現場の従業員がその考え方を修得したときに全社業績へプラスの効果があることに気づき始めており、バランススコアカードを普遍的な経営管理モデルへ高める努力を始めています。
(TOMORUBA編集部)
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