「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊱〜RFM分析
今やオンラインを活用することで多くのデータを集められますが、それらのデータをビジネスに活かし切れていない企業も多いのではないでしょうか。データ分析の手法は様々ありますが、その中でも代表的かつ初心者にも優しいのが「RFM分析」というフレームワーク。
TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第36弾では、このRFM分析について、そのやり方やメリット・デメリットについて紹介していきます。データを活用して事業を成長させたいと考えている企業は参考にしてください。
RFM分析とは
RFM分析とは、Recency(最終購入日)、Frequency(頻度)、Monetary(購入金額)の3つの指標を用いて顧客をグループ分けする分析方法のこと。それぞれのグループの性質に適したマーケティング施策を行うことでLTV(顧客生涯価値)を最大化するのが目的です。
3つの指標がそれぞれどのような意味を持っているのか見てみましょう。
Recency(最終購入日)
Recencyとは、最後に商品を購入した日付によって顧客をグループ分けすること。最終購入日が1週間前に購入した顧客は、1年前の顧客に比べて良い顧客だと判断できます。どれくらいの期間で分ければいいかは、商品の特性などによっても違います。
3ヶ月前に最後に買った顧客のことを「R3」と表示し、「R1~R3、R4~R6」といったように3~5段階にセグメントしていきましょう。最近購入した顧客にはアフターサービスや類似商品、付属商品などを提案し短期間での収益化が狙えます。
一方で、最後に購入してから日数が経っている顧客には、新規顧客に近いアプローチが必要です。改めて商品の魅力や特性を伝えて、再び興味を持ってもらわなければなりません。
Frequency(頻度)
Frequencyでは、購入頻度で顧客をグループ分けしていきます。購入頻度が高ければ、それだけ良い顧客と判断でき、F○とセグメントするのが一般的。どれくらいの期間内の購買行動を対象とするかは、商品の特性などによって設定します。
購入頻度が高い顧客は常連顧客となりますし、低い顧客は商品やサービスに満足していない可能性が高いことがわかります。ただし、購入頻度が高い顧客にセールス活動を積極的にしても、それ以上売上拡大が見込めない場合もあるので、購入頻度の中~低の顧客にあえてアプローチするのも得策です。
Monetary(購入金額)
Monetaryは購買履歴から購買金額の総額を計算して、グループ分けしていく方法。金額が多ければ多いほど良い顧客だと判断でき、M○とセグメントするのが一般的です。金額が高い顧客は「大口顧客」となるので、今後も継続的な購入を促すようなマーケティングが効果的と言えます。
一方で大口顧客にアプローチしても、更なる売上拡大が見込めない場合は、あえて売上金額が小さいが伸びしろのありそうな顧客にアプローチして、売上拡大を図る方法もあります。
RFMを分析を行うメリット
RFM分析を行うことで、どのようなメリットを得られるのか解説していきます。
LTVの最大化
顧客をグループ分けし、それぞれのグループに適したマーケティング施策をすることで、LTVの最大化を図れます。たとえば優良顧客に対しては類似商品などを提案したり、逆に休眠顧客に対しては休眠の理由に合わせた施策を行うことで、再び商品を買ってもらえるようになります。
マーケティング施策の無駄を削減する
顧客に一律のマーケティング施策をするのは、非常に無駄が多いです。たとえばRecency、Frequency、Monetaryのすべてが低い顧客に対して、他の顧客と同様のアプローチをしても効果に繋がる可能性は低いでしょう。無駄を減らすためには、あえて施策から外すという選択肢も考えられます。
浮いた費用や人的リソースを、より売上拡大が期待できるグループに対するマーケティング施策に充てることで、マーケティングの効率化を図れます。
RFMを分析を行う上での注意点
RFMは気軽にマーケティング効率を高められる手法ですが、注意すべき点がいくつかあるので紹介していきます。
優良顧客以外へのアプローチもしっかり考える
RFM分析をすると、つい優良顧客ばかりを優先的に考えすぎてしまいます。しかし、優良顧客とは既に自社のファンになっているため、あまり伸びしろがないとも考えられます。施策によって更に売上を拡大することもできますが、より簡単に売上拡大を期待できる顧客がいるのも事実です。
たとえば次のような顧客は、優良顧客になる可能性も高いため、アプローチする価値が十分にあると考えられるでしょう。
・最近初めて商品を購入した新規顧客
・最近は動きがないものの、以前は頻繁に購入していた顧客
・購入頻度は高いものの、金額が小さい顧客
このような顧客に対してアプローチを行い、優良顧客もしくはロイヤルカスタマー(優良顧客よりも上位の層)に育成した方が、より効果的と言えます。
それぞれの基準値の意義を考える
RFM分析では、グルーピングの基準値が重要になります。たとえば最終購入日を「3ヶ月以内」と「3ヶ月以降」で分けた場合、その3ヶ月にどんな意味があるのか考えなければいけません。
最初から適切な基準値を考えるのは難しいですが、仮説と検証を繰り返すことで、それぞれの基準値がどんな意味を持っているのか考えていきましょう。
RFM分析が使えない商材もある
全ての商材でRFMが活用できるわけではありません。例えば季節性の高い商材。ウィンタースポーツ用品を扱っている会社は、顧客の購買行動が集中するため、最終購入日や購入頻度がさほど重要な指標にはなりません。
また、百万円以上するような高額商材も、何度も頻繁に買うわけではないため、購入頻度が重要な指標にはならないでしょう。自社の商材がRFMに適しているのか、よく検討しましょう。
RFM分析の仕方
どのようにRFM分析を進めるのか、その方法を紹介していきます。
1.RFMの項目ごとにランク分けする
まずはRFMの項目ごとに、それぞれ基準を設けていきます。たとえばRなら「1週間以内に購入した顧客は5点、1ヶ月以内なら4点」といった風に、それぞれのランクに点数をつけていきます。
細分化して考えると分析が煩雑になるため、それぞれ3~5のランクに分けるといいでしょう。
2.合計点で顧客のランクを決める
1で設定した点数の合計点でランクを決めていきます。たとえば、それぞれの項目の最高点を5点とした場合「13点以上ならロイヤルカスタマー、10点以上なら優良顧客」といった風に顧客をグルーピングできるようにします。
この時注意すべきは、イレギュラーを見落とさないグループ分けをすること。たとえば同じ12点でも「R4点、F4点、M4点」の顧客と「R2点、F5点、M5点」の顧客では必要なアプローチは変わります。
合計得点だけで判断するのではなく、イレギュラーにも気づけるグループ分けも用意しておきましょう。
3.グループに適したマーケティング施策を行う
RFM分析は、分析だけで終わるのではなくマーケティング施策に活用して初めて意味があります。たとえば全ての項目が高得点のロイヤルカスタマーには、特別セールへの招待や優待価格での商品を紹介することで、競合他社への流出を防ぐことができるでしょう。
ただし、各グループに対して単発のマーケティング施策を行って満足しないこと。大事なのは、顧客が自然と優良顧客、ロイヤルカスタマーになっていく仕組みを作ることです。個々のマーケティング施策を考える際も、大きな流れにそってシナリオやストーリーを考えるようにしましょう。
4.マーケティング施策を検証して改善する
マーケティング施策は、一度行なって終わりではありません。施策の結果を見ながら、本当に自分たちの仮説が合っていたのか、改善できる点がないか検証していきます。データは日々変わっていくため、データの変化に合わせて施策を調整しなければなりません。
また、長期的にRFM分析の精度を高めていくには、顧客ごとに紐づいたデータを蓄積していく必要があります。効率的にデータを分析し続けていくには、MA(Marketing Automation:マーケティングの自動化)ツールや、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)ツールの導入も検討しましょう。
RFM分析の活用事例
最後に、様々な業界でのRFMの活用事例を紹介していきます。
老舗アパレルメーカーの事例
とある高級老舗アパレルメーカーでは、長年利用している顧客を大切したいという考えがあったものの、贔屓にしている顧客と新規顧客の差別化ができていませんでした。なぜなら、一部のベテラン店員を除いて、贔屓の顧客を把握できていなかったからです。
そのような課題を解決すべく、RFM分析を実施して優良顧客を抽出し、その顧客を店員全員が覚えるように教育します。具体的に購入頻度と購入金額に注目することで、贔屓の顧客を抽出して、優良顧客に対して手厚い接客ができるようになりました。
健康食品通販企業
とある健康食品通販企業が抱えていた課題は、離反顧客や休眠顧客に対する膨大なマーケティングコスト。健康食品の購入では、初回で脱落する顧客は「体質的に合わない」などの理由が多く、復活しにくいことはわかっていました。そのため、そのような顧客にDMを送らず、優良顧客へのアプローチに注力したいと思っていたのです。
そこで初回脱落の顧客を除いてDMを送るようになり、無駄なコストを下げることに成功し、優良顧客に対してよりマーケティング施策を打てるようになりました。
化粧品通販企業
とある化粧品通販会社は、新規顧客の獲得率が低下したため、既存顧客による売上を高めるために、定期購入顧客への引き上げを考えていました。
そこでRFM分析を活用し、最終購入日が1ヶ月以上前であり、購入頻度が低い顧客に対して、おすすめ化粧品のレコメンドメールを送ります。更にその一ヶ月後には、おすすめ化粧品と合わせて使うと効果の上がる乳液のレコメンドメールを送るという施策を実施。
これによりリピート率が高まり、既存顧客の購入頻度が高まりました。中には、まとめ買いをする顧客も増加し、既存顧客による売上向上に成功したのです。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
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