「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊿〜ウェルビーイング経営
近年、「ウェルビーイング」(well-being)という言葉が注目を集めています。これは、個人や組織が「心身ともに健康で、社会的に満たされた状態にある」という概念のこと。経営においても重視されるようになってきており、ウェルビーイングの概念を取り入れる企業も少なくありません。
そこで、TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第50弾では、『ウェルビーイング経営』を取り上げます。どのようなメリットが期待できるのか、成功させるためのポイント、導入事例などを紹介していきます。
ウェルビーイング経営とは
ウェルビーイングとは、個人や組織が「心身ともに健康で、社会的に満たされた状態にある」という概念です。”心身の健康”とは、単純に病気か否かを指すのではありません。人が健全な状態で幸福が感じられる状態を意味します。このウェルビーイングという概念を企業の経営に活かすことで、肉体的・精神的・社会的な側面から従業員が満たされるような環境を提供できるため、エンゲージメント向上にもつながります。
なお、ウェルビーイングは、アメリカの世論調査会社・ギャロップ社によって定義された、「5つの要素」から構成されています。
1.キャリアウェルビーイング(キャリアの幸福度)
2.ソーシャルウェルビーイング(人間関係における幸福度)
3.ファイナンシャルウェルビーイング(経済的な幸福度)
4.フィジカルウェルビーイング(身体的な幸福度)
5.コミュニティウェルビーイング(地域社会での幸福度)
ウェルビーイング経営が目指すのは、健康の先にある幸福、従業員の満足度に焦点が当てられています。従業員が健康であるからといって、必ずしも企業やキャリアに対して満足しているとはいえません。上記のような「5つの要素」を満たすような働く場・機会を提供できているかが重要です。
ウェルビーイングを企業経営に取り入れるメリットとは?
ウェルビーイングを企業経営に取り入れるメリットについて、以下の3点が挙げられます。
1.離職率低下/優秀な人材の採用
ウェルビーイングを取り入れ、多様な働き方が可能になることで、離職率の低下が期待できます。従業員ひとりひとりが最適な働き方を選び、心身ともに健康に働ける場や環境を提供できれば、心理的安全性を保ちながら働き続けてもらえるでしょう。一方、ウェルビーイングに積極的に取り組む企業として認識されれば、企業のブランド力の向上にもつながり、優秀な人材の確保にも有利に働きます。
2.生産性向上
ウェルビーイングに取り組むことによって、従業員の心身の健康度合いや業務へのモチベーションが高まります。ワークエンゲージメントの向上も期待でき、従業員のパフォーマンスが上がるでしょう。組織全体として生産性が向上すれば、業績アップにも寄与するはずです。
3.企業価値向上
経済産業省は「健康経営」を推奨しています。同省は健康経営を「従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義。健康経営に優れた上場企業を「健康経営銘柄」として選定しています。ウェルビーイングに注力することで、企業価値の向上が見込めます。
また近年、「ESG投資」(Environment/環境、Society/社会、Governance/企業統治)が世界規模で拡大してきています。中でも”Society/社会”には、労働環境の改善・女性活躍の推進などが含まれており、ウェルビーイングに重なる視点が多々あります。
ウェルビーイング経営を成功させる5つのポイント
ウェルビーイング経営を成功させ、個人や組織が「心身ともに健康で社会的に満たされた状態」にするには、どのようなポイントを押さえるべきなのか。5つのポイントをご紹介します。
1.経営層/マネジメント層の意識改革
ウェルビーイング経営は、経営層やマネジメント層が主体となって取り組むべき施策です。そのため、経営層やマネジメント層の意識改革が必要となるでしょう。経営層やマネジメント層は、利益を追求する立場にあります。ウェルビーイング経営を推進すると、短期的には利益が減る可能性も否定できません。しかし、中長期的な視点で見ると「生産性向上」や「採用」において多くのメリットが期待できます。そのため、経営層やマネジメント層への意識改革では、中長期的な視点で取り組めるように意識を醸成しましょう。
2.労働環境の改善
充実して働くためには、労働環境の改善が必要です。具体的には、長時間労働の改善、柔軟な働き方の導入、オフィスレイアウトの見直し、などに取り組みましょう。また労働環境の改善によって、従業員同士のコミュニケーションが活発化し、雰囲気のよい職場ができるきっかけにもなります。
3.福利厚生の充実
福利厚生は、従業員とその家族に対し、健康や生活の質を向上すべく実施する取り組みのこと。福利厚生を充実させることで、ウェルビーイング向上にもつながります。具体例として、社内スポーツクラブの設置、宿泊施設の優待券、社員食堂の設置などがあります。
4.従業員の声を見える化
ウェルビーイング経営を成功させるには、従業員の声を可視化する必要があります。社内アンケートなどで得た従業員の声を見える化し、データを数値化することで、課題点が浮き彫りになります。また、過去のデータと比較すると、状況の推移や施策に対する効果もわかるでしょう。
5.コミュニケーションの活性化
社内のコミュニケーションが活性化すると、仕事を円滑にすすめやすくなり、人間関係の悩みへの解消にもつながります。コミュニケーションの活性化を実現する具体的な施策としては、オフィスレイアウトの見直しや、職場内にリフレッシュスペースを用意するといったものがあります。また、社内SNSやチャットツールなどコミュニケーションツールを導入するという方法もあります。
ウェルビーイング経営の事例
それでは最後に、ウェルビーイング経営の事例について3社(アシックス、味の素、デンソー)の取り組みをご紹介します。これからウェルビーイング経営を推進しようと検討している担当者は参考にしてみてください。
・アシックス
スポーツ用品の製造・販売を手がけるアシックスでは、以下のような施策を展開しています。
●仕事終わりにスポーツを楽しめる空間を用意
●全社員に向けてメンタルヘルス研修を実施
●定期的な運動推進セミナーを実施
また、上記に加えてウェルビーイング経営の効果検証のため、定期健康診断やストレスチェックはもちろん、社内の独自調査(ASICS Well-being survey)を全社員に実施。さらに、調査結果の分析も行い、ウェルビーイング経営の向上に力を入れ続けています。
・味の素
以前から「よく生きる」ことを発信してきた味の素。同社は「味の素で働いているだけで健康になる」ことを目指し、以下のような取り組みを実施しています。
●健康状態を確認できるサイト「My Health」を設置
●面談を実施し、個別にメンタルヘルスを支援する
また、上記以外にも、労働時間の短縮や会議の質向上など、働き方改革の面からもウェルビーイングに注力しています。
・デンソー
「一人ひとりにウェルビーイングな日常を」をコンセプトとして掲げ、積極的にウェルビーイング経営に取り組んでいるデンソー。以下のような施策を実施しています。
●定期健康診断などのデータを「見える化」
●各現場に「健康リーダー」を配置
見える化されたデータを踏まえて、健康リーダーが積極的なアクションを起こします。健康リーダーは、各現場の担当者であるため、それぞれ現場の状態を確認しながら施策を実行する点が特徴です。
(TOMORUBA編集部)
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