「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く㊽〜AISAS
PCやスマートフォンが普及し、インターネットで情報を収集してから購買に至るケースが多くなってきました。インターネット上で消費者がある商品を認知してから購買に至るプロセスを説明する代表的なモデル『AISAS』(アイサス)は、ビジネス戦略を描く上で、ますます重要になると言えるでしょう。
そこで、TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第48弾では、AISASを取り上げます。AISASとは何か紐解きながら、取り組むメリットや成功事例まで紹介していきます。
『AISAS』(アイサス)とは?
AISAS(アイサス)とは、Attention(注意)→Interest(興味)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)の頭文字を組み合わせた、消費者の購買行動プロセスを説明する代表的モデル。消費者は、商品を認識して契約に至るまでさまざまな検討や行動をとります。その行動を大まかに段階分けして、購買行動モデルのひとつとして確立されました。2005年に電通が商標登録した用語であり、インターネットが普及した今の時代に沿った購買行動モデルであるとも言えるでしょう。
AISASは各行動の頭文字からきており、それぞれ以下のような行動を指します。
【Attention】(注意)……ニュースや広告・SNS等のメディアを通じて、商品・サービスについて知る
【Interest】(興味)……役に立つかもしれない等、商品・サービスに興味を持つ
【Search】(検索)……使用感や値段、口コミなどを検索エンジンやSNSで調べて購入するかどうかを検討する
【Action】(行動)……自分にとって価値があると判断した場合に購入・申込をする
【Share】(共有)……期待以上の価値があったと感じた場合、SNSなどでシェア・拡散する
このように消費者の多くが、商品・サービスを購入する際に、知らず知らずのうちに上記の流れを辿っています。
『AISAS』の特徴
インターネットが普及したことによって消費者の購買モデルも変わり、それに対応する購買モデルがAISASです。その象徴が、2つの「S」です。商品やサービスに興味を持った消費者は、すぐに購入するのではなくインターネットを使用した「Search(検索)」を行います。さらに、購入した後はSNSで「Share(共有)」するという、インターネット時代に即した購買プロセスを踏むのが、AISASの特徴と言えるでしょう。この「Share(共有)」を上手く活用できれば、消費者間でAISASを循環させることも可能です。すなわち、企業が多大な労力をかけずとも消費者発信でプロモーションを図ることができます。
しかし、注意したいのは「Share」はポジティブなものだけとは限らないという点です。商品・サービスのクオリティが低い場合は、ネガティブな「Share」が生まれることもあります。
『AIDMA』(アイドマ)との違い
購買行動モデルのなかでもベーシックなモデルが『AIDMA』(アイドマ)です。1920年に販売・広告の実用書の著者であるサミュエル・ローランド・ホールの著書で提唱されて以来、AIDMAは多くの企業で活用されています。AIDMAは以下の各行動の頭文字からきており、それぞれ次のような行動を指します。
【Attention】(注意)……ニュースや広告・SNS等のメディアを通じて、商品・サービスについて知る
【Interest】(興味)……役に立つかもしれない等、商品・サービスに興味を持つ
【Desire】(欲求)……興味・関心を持った商品・サービスが欲しくなる
【Memory】(記憶)……商品・サービスを記憶しておく
【Action】(行動)……キャンペーンなどをきっかけに購入に踏み切る
AISASの元となったのがこのAIDMAモデルです。基本的な部分はAIDMAと変わりませんが、AIDMAが提唱された当時にはなかった、インターネットやSNSなどを考慮した要素を追加したことに違いが表れます。
ではなぜ、消費者の購買行動モデルはAIDMAからAISASへと変化したのでしょうか。日本国内では、2000年代に入り、GoogleやAmazonが日本に本格参入。さらに、家庭向け光回線サービスが登場したことにより、インターネット普及率が大幅アップしました。また時同じくしてブログやSNSが注目を集めます。こうした背景により、消費者は購入前に「調べる」ことができるようになりました。特に高額商品においては失敗を回避したい心理が働くため、類似商品の検索をはじめ、口コミを調べてから購入に至るようになったのです。
こうした購買行動の変化を受け、従来のAIDMAからAISASに購買モデルも変化しました。広告媒体もテレビや新聞・雑誌、ラジオといったマス広告からインターネット・SNSへと主戦場が移り変わっています。
AISASを活用するメリット
AISASを使いながら消費者の購買行動モデルを分析することは、どのようなメリットをもたらすのでしょうか。代表的な2つを紹介します。
・分析によって、ステップごとの適切なアプローチが可能となる
消費者は、商品・サービスの契約にたどり着くまで、さまざまな行動をとります。例えば「Attention」(注意)のステップにいる消費者と、「Action」(行動)のステップで契約目前の消費者では、企業に対して求めている対応は大きく異なるのです。ステップや相手に合わせたアプローチをとれなければ、消費者離れを招いてしまう可能性があるでしょう。そのため、消費者の心をしっかりと掴んで、自社サービスと契約をしてもらうために、分析が必要となるのです。
・”売れる仕組み”を設計できる
SNSを有効活用することで、「Attention」(注意)が生まれます。例えば、SNSを使って企業がプレゼントキャンペーンを行うと、当選者以外にも「Interest」(興味)や「Search」(検索)の高まりが見られるようになるでしょう。結果として「Action」(行動)へたどり着けるのです。商品・サービス購入者に必ず「Share」(共有)をしてもらい、ポジティブな内容の発信を促すと、精度の高い売れる仕組み作りにつながります。
AISASの進化版『Dual AISAS』
2015年に入ると、AISASをさらに詳細に議論した『Dual AISAS』というモデルというものが提唱されました。Dual AISASでは、これまで考えられてきた購買行動に関するAISASの存在も仮定しますが、さらに「広めたい」という気持ちに関するAISASというものが存在すると考えます。
このもう一つのAISASは”広めたいAISAS”と呼ばれ、「Activate」(活性化)、「Interest」(興味)、「Share」(共有)、「Accept」(受容)、「Spread」(拡散)の頭文字を表しています。この、”広めたいAISAS”の流れの中のAcceptは、Attention(注意)を刺激することでそれを購買への興味へと「昇格」させるファクターとして登場しました。
SNSなどでの口コミの拡散が近年より無視できない影響力を持ち始めたことを受け、それを”広めたいAISAS”という部分に明確にわけて捉えたモデルであるといえ、単なるAttentionの獲得が購買につながるというよりも、それをいかにInterestへとつなげるのかというところにも着目したものになっています。
『AISAS』を活用した成功事例
それでは最後に、AISASを活用した3つの成功事例(ライザップ、コストコ、スターバックス)を紹介します。
・RIZAP
パーソナルトレーナーがマンツーマンで指導するプライベートジム「RIZAP」でもAISASを活用し、多くの人の興味・関心を引くことに成功しています。
【Attention(注意)】
インパクトのあるビフォーアフターと記憶に残るBGMで認知度を上げたRAIZAP。覚えやすくマネしやすい、かつインパクトがあることからYouTuberによるパロディ動画が公開されるなど、その認知度の高さが窺えます。
【Interest(興味)】
さまざまなジャンルの有名人・著名人をCMに起用しています。また「結果にコミットする」「たった2ヵ月でこのカラダ」といったベネフィット訴求でRIZAPへの消費者の興味・関心をかき立てることに成功しています。
【Search(検索)】
多くの消費者が興味・関心を持って「検索」することを見越して、RIZAPではホームページのコンテンツを充実させました。ダイエット成功者の写真を多用し、消費者が将来像を描きやすくしています。しかし、世間的には「効果がない」という声も一定数あります。そうした声に消費者が不安を抱かないよう、アフィリエイトを上手く利用。ネガティブなキーワードに対してもポジティブな印象を受けるような記事が上位表示されるように工夫を凝らしています。
【Action(行動)】
RIZAPは決して安くはない価格設定です。しかし、「30日間全額返金保証制度」を設けることで、入会のハードルを下げることに成功。入会を尻込みする人の後押しをしています。
【Share(共有)】
外見のなかでも体型の変化は認知されやすいため、消費者のSNS投稿への熱量が高めです。ビフォーアフターの写真映えといった点においてはInstagramとの相性が良く、投稿数も非常に多い。このようにして顕在・潜在問わず「痩せたい」と思っている消費者にコストをかけずにリーチすることに成功しています。
・コストコ
アメリカで誕生したディスカウントストア、コストコ。倉庫のような広い敷地に大容量商品が並び、日本でも人気が高まっています。
【Attention】(注意)
日本では馴染みのない海外サイズの商品は、見た目のインパクトがあります。そこで、情報番組などのテレビやメディアを活用して、コンスタントな情報発信をし、ユーザーの注目を集めました。
【Interest】(興味)
テレビなどのメディアで、商品紹介や、実際に店舗で買い物をする様子を発信して興味を引きます。広い倉庫内を大きなカートを押して進む、大容量の商品たちを見てまわる、自身の生活に直結する商品を購入する様子を見て自己投影を行えるのです。コストコは、面白い海外製スーパーに加え、生活に寄り添ってくれる便利な場所だということが証明されます。
【Search】(検索)
店舗入場者は「会員」になる必要がある点も、コストコの特徴です。コストコに興味を持った消費者が検索を行うと、Web上で事前に会員登録や会費支払いができるというお知らせが表示されます。事前にコストをかけることで、ユーザーは自然と次に取るべき「Action」(行動)、すなわち店舗へ訪れるように導く設計です。
【Action】(行動)
店舗に訪れて、買い物します。ガラス張りの店内調理場で実際に商品を作っている場面や、新商品の実演販売を見ることができるなど、購入を後押ししやすい環境整備を欠かしません。
【Share】(共有)
コストコらしい商品を購入・使用するとき得られる感動は、SNSに発信しやすい特徴があります。ダイナミックでインパクトのある見た目は、わかりやすいためSNS映えしやすく、「Share」(共有)されやすいのです。コストコの人気は年々上昇しており、珍しいものから馴染みのものへと移行しています。そのため、商品購入で得られる感動の質を高めることが、今後のさらなる飛躍に欠かせない課題です。
・スターバックス
世界的コーヒーチェーン店であるスターバックスも、AISASを活用しています。特に同社は「Share」を上手に活用。消費者が自発的にプロモーションを行うような仕組み作りを行っています。
【Attention】(注意)
スターバックスでは広告ではなくSNSに主軸を置き、集客を行っています。公式Twitter、Instagramにおいても巨大なフォロワーを抱えており、新商品の投稿をすれば瞬く間に拡散。広告費をほとんどかけていなくても、商品の認知拡大を図れる体制ができています。
【Interest】(興味)
公式サイトのツイートや投稿を見た消費者は投稿された商品に興味を持つ人がでてきます。そのうちの何割かは、公式ツイートのリツイートや、購入した商品を写真付きでSNSに投稿。その投稿を見た別の消費者が興味を誘発される仕組みができあがっています。また、スターバックス側でも消費者に興味を持ってもらえるよう、新商品に関するコンテンツをリリースしたり、季節限定商品を発売したりしています。
【Search】(検索)
興味をもった消費者は、インターネットやSNSなどを利用して商品の情報・口コミの検索を行います。写真映えする外観・スタイルを持つスターバックスでは、InstagramやTwitterで投稿されることが多くあり、スターバックスの消費者は「ハッシュタグ」検索を当たり前に行います。
【Action】(行動)
評判や口コミを見た消費者はさらに興味をかき立てられ、実際に店舗に足を運び、購入に至ります。
【Share】(共有)
スターバックスは商品も店内もおしゃれで写真映えするため、SNSでシェアされやすい傾向にあります。AISASの肝とも言える「Share」(共有)の部分が非常に強く、これにより広告費をほとんどかけずに集客が可能となっています。
(TOMORUBA編集部)
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