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『バイオマスエネルギー』でゴミを再エネに変える!ジェット燃料や土壌改善にも活用できる未来の資源とは

『バイオマスエネルギー』でゴミを再エネに変える!ジェット燃料や土壌改善にも活用できる未来の資源とは

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回のテーマは『バイオマスエネルギー』です。バイオマスエネルギーは持続可能で再生可能なエネルギー源として、二酸化炭素排出削減の取り組みに世界的に貢献しているソリューションとなりつつあります。

本記事では、そもそも「バイオマス」とはどのようなものを指すのかを明確にし、その上で「バイオマス燃料」や「バイオマス発電」について解説していきます。

バイオマスは3種類に分類され、いずれも再生可能な資源となる

バイオマス発電について解説する前に、そもそもバイオマスとはどのようなものなのでしょうか。バイオマスは一般的に生物資源(bio)の量(mass)を表す概念とされており、農水省のウェブサイトでは「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義しています。

さらに、バイオマスはいくつかの種類と特徴があり、その賦存状態(理論上は潜在的に存在していると算定される状態)により、「廃棄物系バイオマス」「未利用バイオマス」「資源作物」に分類されます。それぞれ特徴は以下の通りです。

1.廃棄物系バイオマス:家畜排せつ物、食品廃棄物、廃棄紙、黒液(パルプ工場廃液)、下水汚泥、し尿汚泥、建設発生木材、製材工場等残材

2.未利用バイオマス:稲わら、麦わら、もみがら、林地残材

3.資源作物:糖質資源(さとうきび等)、でんぷん資源(とうもろこし等)、油脂資源(なたね等)、柳、ポプラ、スイッチグラス

これらはいずれも化石燃料のように燃焼することでCO2を排出することはなく、再生可能な資源でありニュートラルな資源となっています。

参照ページ:バイオマスとは?:九州農政局

そして、バイオマスを原料として得られるエネルギーを「バイオマスエネルギー」と呼びます。バイオマスを直接燃焼したり、バイオマスをガス化することで得られる熱を利用したりすることで発電することを総称して「バイオマス発電」と呼ぶのです。

代替航空燃料(SAF)などを中心に急拡大するバイオマスエネルギー市場

バイオマス発電はFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)を追い風にしながら導入件数を拡大させて、バイオマスエネルギー市場を牽引しています。

矢野経済研究所が2021年10月に公開した市場調査では、2023年度にはバイオマスエネルギー市場規模は8,654億円となる予測となっており、2035年度には2023年度比で約2倍の17,215億円にまで成長する見込みです。

出典:矢野経済研究所

近年では、バイオマス由来の原料で製造される「代替航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)」が注目されています。バイオジェット燃料とも呼ばれています。主な原料は廃食油や木質バイオマス、都市ゴミ、バイオマス糖などが挙げられます

航空業界では運航時に排出されるCO2の量が規制されていることから、バイオジェット燃料に期待が寄せられています。特に欧米ではバイオジェット燃料の需要は拡大しており、商用化は目前とも言われているため、今後のバイオマスエネルギー市場を牽引する新たな要素になる可能性があります。

関連記事:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

市場調査のレポートでは、バイオマスエネルギーの普及は大規模な木質バイオマス発電所の新設件数は2023年度ごろから鈍化すると予想されていますが、その一方でメタン発酵のような「廃棄物処理」「再資源化」の需要はなくなることがないため、今後は中小規模の発電を中心に広がりを見せていくと将来を展望しています。

バイオマスエネルギーを活用した事例

バイオマスエネルギーの技術は確立されつつあり、すでに実証実験や商用化のフェーズに進んでいるソリューションが数多くあります。事例を紹介していきます。

【JR東海×ユーグレナ】バイオディーゼル燃料の実用性検証試験を実施

JR東海とユーグレナは2022年1月、JR東海在来線の試験走行者に、ユーグレナが開発・販売する次世代バイオディーゼル燃料を使用する試験を実施することを発表しています。

実証実験では、在来線で従来から使用している「軽油」を「バイオマス燃料」に置き換えることでCO2排出量の削減に貢献することが狙いとなっています。次世代バイオディーゼル燃料は従来のバイオディーゼル燃料と異なり、既存のエンジンに変更を加えることなく使用できることが特徴です。実証実験によって次世代バイオディーゼル燃料がエンジン性能に与える影響などを検証し、実用化を目指します。

関連記事:JR東海×ユーグレナ | 次世代バイオディーゼル燃料の実用性検証試験の実施を発表

【TOWING】良質な土壌を作り、さらにCO2を地中に固定できる高機能バイオ炭『宙炭』

燃料としての用途以外にもバイオマスは利用されています。土壌技術を研究するスタートアップTOWINGは、バイオマスを活用した高機能バイオ炭『宙炭』を開発・販売しています。宙炭は未利用のバイオマスなどの多孔体に微生物を付加し、有機質肥料を混ぜ合わせて適切に管理して作られた人工土壌です。

わずか1ヶ月で良質な土壌が作れるだけでなく、高機能バイオ炭は地中にCO2を固定できる効果もあるため、環境負荷を減らし、カーボンクレジット(CO2排出削減量を企業間で売買)にも認められているため、削減したCO2を販売して売上を得ることもできます。

宙炭の原料である未利用バイオマスは利用されなければ産業廃棄物となってしまうため、宙炭として再利用すれば産廃処理コストを削減するだけでなく、CO2排出削減量を販売できるため注目を集めています。

関連記事:世界唯一の微生物培養技術!「高機能バイオ炭」で世界の環境問題に挑む

編集後記

従来まではゴミとして処理されてきたものを原料にしてバイオマスエネルギーとして再生させる技術は拡大を続けています。人間が活動する上で消費するエネルギーをゼロにすることはできませんし、ゴミの排出をゼロにすることもできませんから、バイオマスはカーボンニュートラルを達成する上で必須の技術となるはずです。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

第31回:日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

第32回:80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

第33回:カーボンニュートラル必達を掲げ『GI基金』に2兆円を造成。支援する分野や採択されたプロジェクトとは

第34回:排出されるCO2を捕捉して貯蔵する技術『CCS』はカーボンニュートラルの救世主となるか?

第35回:次世代送電網『スマートグリッド』は再エネの弱点を補う?カーボンニュートラルの観点から解説

第36回:間もなく普及が完了する次世代電力計『スマートメーター』が脱炭素に与える影響と、新たなビジネスチャンスとは

第37回:電力送電網とつながらない『オフグリッド』がカーボンニュートラルになぜ貢献するのか?一般家庭や事業者への導入事例を紹介

第38回:「GX基本方針」で示されたふたつの目標とは。「GX推進法」「GX推進戦略」との違いなど解説

第39回:「電力貯蔵技術」がなぜ脱化石燃料と再エネ活用の促進になるのか?脱炭素達成にはマストの重要な技術を解説

第40回:『脱炭素アプリ』でどうやって企業や自治体のカーボンニュートラルを実現するのか?仕組みと事例を解説

第41回:「米国インフレ抑制法(IRA)」がなぜカーボンニュートラルに貢献するのか?バイデン政権が3910億ドル投じる肝入りの政策を解説

第42回:GI基金も支援する水素サプライチェーン・プラットフォーム。化石燃料の代替として期待がかかる水素技術の未来とは

第43回:国土交通白書が掲げる「カーボンニュートラル貢献」と「生産性向上」の両輪を回す新技術とその事例とは

第44回:政府が本腰で取り組む「水素・アンモニア」の燃料としてのポテンシャルと、社会実装までの展望とは

第45回:『GX脱炭素電源法』が批判される理由とは?GX基本方針との関連や、60年超の原発稼働が可能になった背景など解説

第46回:2030年には全ての新築を『ZEB(ゼブ)』『ZEH(ゼッチ)』に。建物の消費エネルギーをネットゼロにする省エネと創エネのアプローチとは?

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