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世界唯一の微生物培養技術!「高機能バイオ炭」で世界の環境問題に挑む

世界唯一の微生物培養技術!「高機能バイオ炭」で世界の環境問題に挑む

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近年、大きな注目を集めている「Deeptechスタートアップ」。国内のスタートアップを牽引していたウェブサービスやアプリなどをはじめとするIT系のビジネスとは違い、革新的な技術や発明を武器に急成長を遂げるケースが増えている。起業家の特色を見ても、大学教授や医師など、これまではあまり見られなかったバックグラウンドが目立つ。

しかし、今後の活躍が期待されている一方で「とっつきにくさ」を感じている方もいるのではないだろうか。「技術を見ても、どうすごいのか判断できない」「どの領域が盛り上がっているのかわからない」と思っている方もいるだろう。そんな方に向けて、Deeptech業界の有識者や起業家たちの話を届けるのがシリーズ企画「Deeptech Baton」だ。

第七弾で紹介するのは、人工土壌高機能バイオ炭(宙炭)で様々な環境課題の解決に向けた取り組みを行っている株式会社TOWING。同社が開発した高機能バイオ炭を土に撒けば、作物の収穫量がアップするだけでなく、二酸化炭素を固定し、Jクレジットとして販売することも可能にしている。

今回話を聞いたのは創業者でありCEOの西田 宏平氏と、その弟でありCTOである西田 亮也氏。同社が開発する「宙炭」がどのような環境問題を解決していくのか、今後どのように事業を展開していくのか深掘りした。

▲株式会社TOWING CEO 西田宏平氏

大手メーカーでの研究開発を経て、名古屋大学在学時に学んでいた技術を社会実装する為にTOWINGを創業。未来永劫、おいしい作物が食べられる世界を実現するべく日々邁進する。

▲株式会社TOWING CTO 西田亮也氏

土壌技術研究に従事。Innovator Under 35 Japan 選出。農学だけでなく、材料工学、プログラミング等にも明るく、マルチな知識でTOWINGのプロジェクトを支える。将来的にはスペースファーマーを目指している。

世界で唯一、土地に合わせて機能をカスタマイズできる高機能バイオ炭「宙炭」

ーーまずは御社が開発している「高機能バイオ炭」について教えてください。

西田(宏)氏 : 宙炭とは、未利用バイオマス等の多孔体に微生物を付加し、有機質肥料を混ぜ合わせて適切な状態で管理してつくられた人工土壌のことです。

通常、農業に適した土壌を作るには3-5年はかかるのですが、宙炭を導入すればわずか1ヶ月で良質な土壌になります。その他にも収量の向上などの導入効果もあり、私たちが提供している栽培システムと併せて、農家の生産性を高めることができるのです。

加えて、高機能バイオ炭は炭素固定効果もあるため、環境負荷も大きく減らせます。炭素クレジットにも認められており、どれくらいの二酸化炭素を削減したかも数値化できるため、削減した二酸化炭素は、二酸化炭素を排出する企業に販売することも可能です。

ーー競合他社にはない特徴はあるのでしょうか。

西田(亮)氏 : 海外には、似たようなバイオ炭を開発しているスタートアップは存在します。しかし「有機転換」や「収穫量アップ」など、様々な機能を付加する技術を持っている企業はほとんどありません。

それが可能なのは、私たちが「どんな微生物を加えれば、どんな効果が生まれるか」を再現し高く評価でき、そのデータをもとに微生物の培養をカスタマイズできるからです。

▲温室効果ガス排出削減と、減化学肥料・有機転換を同時に実現する土壌改良材である、高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」。

日本各地で問題になっている「未利用バイオマス」を解消

ーー高機能バイオ炭を使い、どのような取り組みをしているのか教えてください。

西田(宏)氏 : 現在、最も注力しているのが「未利用バイオマス」の活用です。以前は産業廃棄物の不法投棄も大目に見られていましたが、近年はコンプライアンスも厳しくなって産業廃棄物の処理に困っている企業は少なくありません。

たとえば畜産業の糞尿も環境に悪影響を及ぼすため、しっかり処理してから廃棄しなくてはいけなくなりました。しかし、その処理コストも高騰しており、今後さらに経営を圧迫していくと予想されています。

私たちは、そのように地域で余っているバイオマスから「高機能バイオ炭」を生産できます。従来の処理方法に比べてコストを抑えられますし、出来上がったバイオ炭を販売すればコストも埋められるでしょう。

ーー未利用バイオマスの課題というのは、どれほど深刻なのでしょうか。

西田(宏)氏 : 現在、日本各地で残渣(ざんさ)の処理が問題になっており、農水省も本腰を入れて残渣を処理するプラントの建設に力を入れているほどです。各地の自治体や企業が続々とプラントづくりを進めており、私たちもプラントの設計からお手伝いすることがあります。

私達が関わったケースでも、1つの市で毎年5,000トンものもみ殻が出ていました。これまではそれを焼却処理していたのですが、それでは環境への負担も大きく負の遺産になってしまいます。これだけの残渣を環境への負担をかけずにいかに処理するか、日本各地ではもちろん、世界各国での取り組みが進んでいます。

ーーどのように地域の課題を解決しているのか教えてください。

西田(宏)氏 : 徹底的に地域の農業形態をリサーチしてから、どのように未利用バイオマスを有効活用するか計画を立てながら進めていきます。地域によって、どんなバイオマスがどれほど出ているのか異なりますし、農家の数も違うからです。本来であれば、バイオマスが出た地域でバイオ炭が利用されるのが理想的ですが、地域によってはそれが難しい場合もあります。

たとえば和歌山はみかんが有名ですが、畑作はそこまで行われていません。これまでは大量のみかんの皮を九州に送って処理していたのですが、それをバイオ炭にしても県内では使いきれない状況でした。しかし、和歌山でできたバイオ炭を近くの県で利用してもらえれば、輸送コストも抑えられ環境負荷を減らせます。

ーー従来の処理に比べて、どれほどコストを抑えられるのでしょうか。

西田(亮)氏 : ケースによって異なりますが、これまで処理にかかっていたコストを少なくとも半減することもできると考えています。たとえば鶏糞から有機肥料を作る場合、5,000円分の肥料を作るのに5万円のコストがかかっていました。つまり、4万5,000円分の赤字ですね。それを私たちが回収して資材として販売すれば、その赤字を埋めることができるのです。

農家の売上を増やし、コストを下げる「宙炭」の本領とは

ーー宙炭を使うことで、農家さんたちにどのようなメリットがあるのか教えてください。

西田(宏)氏 : 一つは売上を増やせること。私たちの宙炭を使えば収量を増やせるという結果も出ているので、単純に作物を多く売れます。さらに「脱炭素」というブランドをうまく使えば、これまでよりも高単価で販売できる可能性もあると考えています。

また、コストを抑えられるのも大きなメリットです。単純に私たちの宙炭は従来の化学肥料よりも価格が安いですし、農地に撒くことで農薬の吸着効率もアップできるという結果も出ているので、将来的には農薬の投薬量も抑えられると思います。

特に日本の肥料は輸入に依存しており、世界情勢によって価格も大きく変動します。現在はガソリンのように国が補填しているため深刻な問題になっていませんが、国からの援助がなくなれば農家にも大きなダメージになるでしょう。そのため、国産肥料の開発が求められているのです。

ーーどれくらいのコスト削減効果があるのでしょうか。

西田(宏)氏 : 作物によってコストが大きく違うため、削減効果も変わります。たとえばキャベツの肥料代は米の10倍はかかりますし、ビニールハウスなどを使えば、その差は更に広がります。

作物によって育て方も収支の考え方も違うため、私たちも作物に合わせた飼料を作らなければいけません。米と野菜では商品を作り分けていますし、野菜によってもいくつかランク分けした商品を展開しています。加えて、地域によって土の性質や発生する残渣も変わるため、メリットを最大化するには地域に適した使い方をする必要があるのです。

作物の種類や使い方によって、コスト削減効果も大きく変わるでしょう。

ーー単純に炭を畑に蒔けばいいというものでもないんですね。

西田(宏)氏 : そうですね。土の状態や作物に適した使い分けをしなければ、思ったような効果がでません。そのため、単に炭を販売するだけでなく、どのような循環モデルが必要なのか、どのように私たちの商品を利用すべきか理解して使ってもらう必要があります。

今も様々な自治体から相談を受けていますが、一件一件コンサルティングしながら進めているところです。

ーー高機能ソイルを使えば二酸化炭素も吸収できるとのことですが、炭素クレジットによる利益についても聞かせてください。

西田(亮)氏 : 炭素クレジットの利益を農家さんに還元するかどうかは、今後の単価を見ながら判断していく予定です。炭素クレジットは私達が回収して販売するモデルを考えています。

単価が低く、十分な利益を還元できないようであれば、農家さんに還元するよりサービスの改良に充てた方が、結果的に農家さんの利益に繋がります。どれくらいの値段で売れるのか、これからデータを取りながら判断していくつもりです。

国内外に事業を展開するために欠かせないオープンイノベーション戦略

ーー今後の事業の展望についても教えてください。

西田(宏)氏 : 今後は本格的に海外展開を考えており、既に海外市場のリサーチを始めたり、アメリカやブラジルのアクセラレーターにも参加をしています。海外には私達の競合が存在する一方で、既に市場ができあがっているため、数年以内には進出を果たしたいですね。

海外に進出する際には、パートナーを見つけながら、わたしたちの微生物培養技術を導入して一緒に進めていくつもりです。そのため、海外のパートナー探しも進めていかなければなりません。

ーー日本のスタートアップならではの強みはあるのでしょうか?

西田(宏)氏 : 多様な土地や気候のデータを集められることです。実は日本の環境というのは、世界的に見てもとても珍しく、面積の割に様々なデータを集められます。国土が南北に広がっているため、北と南ではまったく気候が異なりますし、地域によっても土壌の質が全然違います。

現在、各地に適した循環モデルを作り提案していますが、そのデータと経験は海外展開する際に必ず活きるでしょう。そのため、海外展開を進めながらも、しっかり国内事業も地盤を固めていくつもりです。

ーー海外展開はパートナーと共に進めていくという話でしたが、国内におけるオープンイノベーション戦略についても聞かせてください。

西田(宏)氏 : 国内のオープンイノベーションは3つの軸を考えています。1つ目はバイオ炭を作るのに欠かせない炭化炉、つまりは炭を作るプラントを持っている会社です。数は多くありませんが、炭化炉メーカーや、それを導入している企業を探していきたいと思います。

2つ目の軸はバイオマスを利用しきれていない会社。既にJAさんと組んでもみ殻を回収しています。今後はコーヒー豆やお茶殻はもちろんのこと、他にも再利用できるバイオマスを幅広く探していくつもりです。

3つ目は消費者向けに事業を展開している、メーカーさんや小売企業です。私達の宙炭を使った環境に優しい野菜のブランド化を一緒に進めていければと思います。今や多くの企業が脱炭素に向けた取り組みを行っているので、農家さんたちと共に取り組みに貢献できるはずです。

ーー既に多くの大企業との提携を果たしたり、アクセラレータープログラムでも採択されていますよね。オープンイノベーションを進める上で意識していることはありますか?

西田(宏)氏 : 取り組みに参加している事業者全員のメリットを考えることです。農業のプロジェクトや食料生産のプロジェクトというのは、決して一つの企業が儲かるようなモデルではありません。それでも、将来のためには必要なことですし、地域の方々に喜ばれるのは確かです。

そのような取り組みに賛同してくださるパートナー企業さんに、しっかりメリットを提供したいとは常に考えています。

ーー最後に読者の方にメッセージをお願いします。

西田(宏)氏 : 私達の事業は、誰もが日々口にする食べ物や、日々生活している地球の環境に大きく密接するビジネスです。一見、複雑なビジネスに感じるかもしれませんが、私達の事業が広がることで、地球がより住みやすくなり、安心で質の高い食べ物がより流通していくと信じています。

そのような未来を目指している企業や個人の方と、ぜひ一緒に事業を成長させていきたいと思います。

(取材・文:鈴木光平)

■連載一覧

第1回:地球の未来を握るDeeptechの今

第2回(前編):細胞培養の常識を変える「培地」開発技術

第2回(後編):細胞培養の常識を変える「培地」開発技術

第3回:「iPS細胞の実用化の鍵」を開発ーーときわバイオに迫る

第4回:脳の老化を最小限に抑えるー20年の研究から導かれた脳ドックの新常識

第5回:画像解析AIで医療・創薬を変革 ー東大発ベンチャーの​​成功譚

第6回:医学×流体力学を極めた鬼才・板谷医師が生み出した「血流解析」は医療の未来をどう変えるか?

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