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地球の未来を握るDeeptechの今

地球の未来を握るDeeptechの今

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近年、大きな注目を集めている「Deeptechスタートアップ」。国内のスタートアップを牽引していたウェブサービスやアプリなどをはじめとするIT系のビジネスとは違い、革新的な技術や発明を武器に急成長を遂げるケースが増えている。大学教授や医師など、これまではあまり見られなかったバックグラウンドを持つ起業家が中心だ。

しかし、今後の活躍が期待されている一方で「とっつきにくさ」を感じている方もいるのではないだろうか。「技術を見ても、どうすごいのか判断できない」「どの領域が盛り上がっているのかわからない」と思っている方もいるだろう。そんな方に向けて、Deeptech業界の有識者や起業家たちの話を届けるのが新シリーズ「Deeptech Baton」だ。

第一弾となる今回は、創業から一貫してDeeptech領域への投資や成長支援を手掛けるBeyond Next Venturesで執行役員を務める橋爪氏にインタビュー。社会人になった当初から、10年以上大学発ベンチャーを中心にテック領域への投資経験を重ね、自身でも会社の立ち上げに携わってきたユニークな投資家だ。

約10年に渡りDeeptech領域で投資を続けてきた橋爪氏に、その変遷や現状について語ってもらった。

「なぜ研究シーズが事業化されないのか」投資家になるきっかけとなった大学時代の原体験

ーーまずは投資家になろうと思ったきっかけを聞かせてください。

橋爪氏 : きっかけは大学時代にさかのぼります。私は大学2年から研究室に入り、大学院を卒業するまで5年に渡りコンピューターサイエンスの研究をしていました。そこで感じたのが「研究成果がなかなか事業化されない」という現実。日本の研究は世界と比べてもレベルが高いものの、事業化されるケースは多くありません。

その経験から、「研究を事業化する仕事がしたい」と兄に相談したところ、VCという業界があること、投資家という仕事があることを知りました。自分がやりたいことにマッチする職種だと思い、就活はVCに絞って行うことに。当時は今と比べてVCの数も多くなく、新卒採用を募集していた数少ないVCであるジャフコに入社することにしたのです。

ーージャフコでは、どのような領域を担当していたのでしょうか。

橋爪氏 : 周りの同期が皆ITベンチャーに投資する中、私は自ら希望して大学発ベンチャーに投資するチームに配属されました。そのチームの当時のリーダーがBeyond Next Ventures代表の伊藤です。

実は入社前にも伊藤と話す機会があって、一緒に働けるのを楽しみにしていました。大学時代、同じキャンパスの先輩が創業した慶應大学発のSpiberという会社の研究成果を聞いていて、そこにジャフコが投資していたんです。

選考中に、先輩の話を聞かせてほしいとお願いしたところ、紹介されたのが当時スパイバーを担当していた伊藤です。「自分が注目していた会社に投資しているなんてすごいな」と思って、彼が率いるチームで働きたいと思いました。

国策により20年かけて大きく変わったDeeptechの変遷

ーー橋爪さんがジャフコに入社した当時のDeeptechの状況を教えてください。

橋爪氏 : 私は2010年に入社したのですが、少し話を遡って説明します。日本のDeeptechの最初の転機は、2001年に経済産業省が打ち出した「大学発ベンチャー1000社計画」。国が大学発ベンチャーの設立等を支援する助成金等の支援を行い、3年で1,000社の大学発ベンチャー設立を誘発するという計画でした。


この取り組みが功を奏し、目標通り1,000社の大学発ベンチャーが設立されたのですが、今度は新たな壁にぶつかることに。会社が立ち上がっても、なかなか事業化が進まないのです。いくらお金があっても、ビジネス経験者がいなければ事業は立ち上がりません。

そこで文部科学省が2012年に新たに始めたのが「大学発新産業創出プログラム(通称START)」。大学とVCが一緒に会社を作って、そこに国の助成金を充てるという取り組みです。VCが研究者を国に推薦するスキームとなっており、つまり国がVCに研究シーズの目利きを依頼した形となりました。

当時は私も入社から3年が経ち、徐々に投資実績も出始めたころ。2012年から会社の立ち上げに参画し、約2年かけて立ち上げたのが東京工業大学発の「リバーフィールド」です。

ーー大学と一緒に会社を立ち上げるとは、具体的に何をするのでしょうか。

橋爪氏 : 起業に必要なこと全てです。通常、技術系スタートアップに投資する際に主にチェックするのは「シーズ」「経営チーム」「マーケット」の3点ですが、私たちが関わるタイミングで存在しているのはシーズのみ。

そのため、経営チームを探したり、マーケットを探して事業計画を作ったり。投資家の知識を活かして資金調達計画も作ります。普通なら経営者がすべき仕事をVCが肩代わりするんです。

ーー支援というよりも、起業そのものですね。文科省の取り組みによって事業化する大学発ベンチャーは増えたのでしょうか。

橋爪氏 : この取り組みはうまくいったと思います。START以降はシードマネーをVCから獲得する大学発スタートアップも増えました。また、今ではよくみかける「NEDOのプロジェクトをはじめとし、VCが支援をするスタートアップや研究に助成金を交付し、国と民間のVC資金を繋げやすくする」という取り組みもSTARTが先駆けとなり、NEDO STS、総務省I-Challenge!なども他の省庁におけるスタートアップ支援施策の参考になってると思います。

取り組み自体の成否はもちろん、その後も様々なプログラムに波及したことを考えると、業界にとって大きなターニングポイントだったと言えると思います。

大学発スタートアップを取り巻く3つの大きな変化

ーー20年前に比べて、現在のDeeptech領域がどのように変わったのか聞かせてください。

橋爪氏 : 主に3つの面で劇的に変わったと思います。1つ目は調達額。Deeptech領域に限らず、この10年でスタートアップの調達環境は大きく変わりました。2010年は700億円ほどだったスタートアップへの投資額は、現在は約8,000億円以上。10倍以上に増えています。

昔は1億円でも大型調達と言われていましたが、今は10億円でもニュースになりませんよね。スタートアップ全体の調達額が増えたことで、Deeptech領域にも多くの資金が集まるようになりました。


▲出典:日本ベンチャーキャピタル協会

もう一つの変化は「人材」です。かつて大学発ベンチャーと言えば、50~60代の教授が起業するのが多い印象でした。経営やビジネスと異なる専門性の方がスタートアップの経営に携わるため、不慣れな事業運営をするケースも多かったと思います。

しかし、今は30~40代の若い方が起業するケースが増えています。彼らは考え方も柔軟で、起業してから十分なビジネスリテラシーを身に着けることを当たり前のこととして捉えています。プレゼンなどを見ても、IT業界の起業家と遜色ありません。

また、起業家だけでなく、そこで働く人々の質も大きく変わりました。以前に比べてコンサルティング会社や商社などビジネス領域出身、それもとびきり優秀な人がジョインするようになっています。ある程度ビジネス経験を積んだ方が「大きな社会課題に挑戦したい」と転身するケースが増えているのです。

ーー3つ目の変化は何でしょうか。

橋爪氏 : 支援環境の変化です。最近は大学も起業に対して協力的で、事業を立ち上げるための予算を用意したり、大学側で起業家教育をしているケースも増えています。

その背景にあるのは、2013年の大きな成功事例です。東大発ベンチャーのペプチドリームが1千億円以上の初値をつけてIPOを果たしました。東大は同社に特許権を渡す代わりにストック・オプションをもらい受けていたので、大学は数億円のリターンを得たと言われています。

これを機に「大学発ベンチャーが成功すれば、大学も大きなリターンを得られる」と証明され、多くの大学が起業支援に乗り出しました。その後も大阪大学や慶應義塾大学がストック・オプションで大きなリターンを得ることに成功し、より起業支援の風潮が強まっていると感じます。

ーーかつての大学は、起業に前向きではなかったのですね。

橋爪氏 : 昔は「研究者は金儲けするべきではない」という考えが強かったのではないでしょうか。私も入社直後、ある大学の教授に「研究成果を使って会社を作ろう」と提案したら、産学連携の担当者に「金儲けはやめておけ」と言われました。

当時と比べたら、大学における起業環境はまるっきり変わったと思います。

「対等な関係を築けるか」スタートアップとの共創を成功させるために

ーーDeeptechはITスタートアップに比べて目利きが難しい印象がありますが、橋爪さんはどんなポイントを見ているか教えてください。

橋爪氏 : 技術の優位性や市場規模ももちろん重要ですが、最も大事なのは「熱意」です。経営者や教授の「この課題を解決したい」という強い想いが感じられなければ投資することはありません。苦しい時期を乗り切れるか、最後までやりきれるかは熱意にかかっているからです。


そのため、その人を理解するために「なぜその事業を始めたのか」を聞くのはもちろん、時にはその人の生い立ちにまで目を向けることもあります。家族構成や学生時代に取り組んでいたことなどを細かく聞いて、その人の考え方や判断軸を見て判断するのです。

ーー「人」が一番大事なのは、これまでのスタートアップ投資と変わらないんですね。

橋爪氏 : 結局、どんなに技術が優れていても、一人で事業化することはできませんからね。事業化のためには少なくても数十人規模のチームが必要ですし、それだけの人を導くには人柄や共感できるビジョンが欠かせません。

その人の生き様を聞きながら「この人はどうやって周りを巻き込んでいくのか」を見ていくのです。

ーー大企業がDeeptechスタートアップと組む上で気をつけるべきポイントはありますか?

橋爪氏 : 知財の扱いには気をつけてください。大企業がDeeptechスタートアップと組むにあたり、スタートアップの知財を大企業のものにしようとしてトラブルになるケースは多いと思います。スタートアップを利用しようという姿勢では、本来うまくいく共創も成功しにくいと思います。

結局、大事なのはスタートアップと対等な関係を築けるかどうかです。会社の規模が違っても、対等に付き合おうと思えば、相手の知財を奪おうとは思わないはず。成功している共創事例を見ても、最初に対等な関係を築いた上で取り組みをスタートさせています。

例えば、三井化学はプリントで基盤を作っているエレファンテックと組むにあたり、自社の敷地内にプラントを用意しました。三井化学の社員も出向させながら、全面的にバックアップしているんです。お互いが自社のリソースを出し合いながら本気で組むのが、成功の秘訣だと思います。

VCの役割は「投資」から「会社づくり」へ

ーー橋爪さんが注目している領域があれば教えてください。

橋爪氏 : 私が注目しているのは「ヘルスケア業界」です。日本は医療機器の分野が海外に比べて弱く、医療機器の輸入超過は2兆円超にまで膨らんでいます。国もその現状を課題に感じており、国を上げて国内のヘルスケア産業の強化に乗り出しているのです。

例えば、福島に医療機器の開発から事業化までをサポートする「ふくしま医療機器開発支援センター」を建てたり、承認フローを迅速化して事業化しやすい環境を整えています。また、ソフトウェア、スマートフォンのアプリ、AIなどのテクノロジーを活用した医療機器も承認事例が増えており、医療機器を開発できる人も多様化しました。

ーーヘルスケア業界で特に注目しているスタートアップはありますか?

橋爪氏 : 手術室の情報プラットフォームを開発しているOPExPARKには非常に注目しています。もともとはデンソーのいち事業だったものを、カーブアウトして立ち上げたスタートアップです。私たちも会社の立ち上げを支援したので、特に思い入れが強い一社です。

もしもこれから伸びる業界を探しているなら、大きな社会課題を探してください。大きな社会課題には国も本腰を入れて取り組みますし、優秀な人も集まります。

ーー最後に、これから橋爪さんが注力していきたいことを聞かせてください。

橋爪氏 : これから力を入れていきたいのは「会社を作ること」です。OPExPARKのように大企業のアセットを活用してもいいですし、起業家を探してきて一緒に起業テーマを考える方法もいいですね。

直近では、2021年12月に株式会社ALYを起業家の方と共同創業しています。ALY(アリー)は医療データビジネスを手掛けるディープテックスタートアップで、半年間かけて起業家と私で事業構想を練り、技術シーズの探索や病院との連携を進め会社化に至りました。

ALYは、実は当社で企画した起業家候補とVCの共同創業プログラム「APOLLO」というプログラムから誕生しています。APOLLOは、現在第2期募集を受付中なので、興味のある方はぜひご応募ください。

このように、能動的にVC(キャピタリスト)が自らテーマを掲げて起業家を巻き込み、新しい事業を創る活動にも力を入れ始めています。

今や世界中にVCが溢れていて、VCはスタートアップに「選ばれる側」になってきています。これまでのように「いいスタートアップを探して投資する」では他のVCに先んじることはできません。スタートアップがVCに求めているのは、+αの価値。

今は事業の成長支援をしている会社が増えましたが、私がしたいのはその先の「一緒に会社を作る」ことです。現在は新たな取り組みにも挑戦していますが、数年後にはVCが一緒に会社を立ち上げるのが当たり前の社会を作っていきたいです。

(取材・文:鈴木光平)

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