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内閣府・井上大臣に聞く「日本のイノベーションの今と国が描く未来」

内閣府・井上大臣に聞く「日本のイノベーションの今と国が描く未来」

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今年2月25日、虎ノ門ヒルズフォーラムにて表彰式が行われた「日本オープンイノベーション大賞」。内閣府主催によるオープンイノベーションの取り組みで、2018年度にスタートし、3回目の開催。イェール大学助教授の成田悠輔氏やZOZO Technologiesのチームによる「社会的意思決定アルゴリズムのオープンソース開発& 実装基盤」が内閣総理大臣賞に選ばれるなど、社会インパクトが大きく持続可能性のある14の取り組み・プロジェクトが表彰されました。

今回、TOMORUBAでは大賞の選定にも携わった内閣府科学技術政策担当大臣の井上信治氏に、本賞をはじめとした国によるイノベーション推進の取り組みについてインタビューを実施。表彰制度を始めた背景や、これから注力していく取り組みについて語ってもらった様子をお届けします。

好事例を広くPRし、日本にオープンイノベーションを浸透させていく

――まずは日本オープンイノベーション大賞の趣旨を聞かせてください。

井上大臣 : 表彰制度を作ることで、いい事例を広くPRしてもらい、横展開してもらうのが目的です。近年、組織の壁を超えて新しい取り組みにチャレンジするオープンイノベーションの機運が高まっていますが、まだまだ社会に浸透しているとはいえません。新たに刺激を受けた方が新しい挑戦をすることで、イノベーション創出が加速することを期待しています。

――今回のオープンイノベーション大賞で、どのプロジェクトが印象的でしたか。

井上大臣 : 二つありまして、一つ目は内閣総理大臣賞を受賞した「社会的意思決定アルゴリズムのオープンソース開発&実装基盤」のプロジェクト。AIによる新規アルゴリズムの安全性や効率性を検証するための性能評価技術を、スタートアップ等の企業と大学が連携して開発した事例です。技術を無償公開しており、今後幅広い領域のアルゴリズムを改善し、AIの社会実装を促進してくれることを期待しています。

二つ目は、科学技術政策担当大臣賞を受賞した「生体認証とバイタルサインの同時計測が可能なシート型イメージセンサの開発」です。大学と企業が連携し、静脈や指紋による生体認証とバイタルサインの一つである脈波の計測が可能なシート型センサを開発しました。本人確認できるウェアラブルデバイスにより、「なりすまし」の防止や、病院における患者の捕違い防止に効果を発揮してくれるでしょう。

いずれも30代の若手研究者が中心となって進めてきたプロジェクトです。AIやライフサイエンスなどは、国としても今後進めていかなければならない領域。今後も若手研究者の活躍に期待しています。


▲内閣総理大臣賞を受賞したプロジェクトの概要。そのほか、各賞を受賞したプロジェクト内容については、【「第3回 ⽇本オープンイノベーション⼤賞」受賞取組・プロジェクトの概要について】で確認することが可能だ。

内閣府が司令塔となり、各省と連携してイノベーションを促進していく

――国としては、今後どのようにオープンイノベーションを推進していくのでしょうか。

井上大臣 : オープンイノベーションは、イノベーション創出の重要な柱ですので、国としても引き続き強力に推進していくつもりです。今回の「日本オープンイノベーション大賞」もそうですが、様々な省庁にまたがる取り組みですので、今後さらに各省と連携しながら進めていきたいですね。

内閣府が全体の司令塔として先頭に立ちながら、各省とすりあわせしながら、政府としての一貫性をもって統一的な制作を実施していきたいと思います。

――具体的な施策があれば教えてください。

井上大臣 : 成功事例を横展開するための日本オープンイノベーション大賞の他にも、社会実装のモデルケースを支援する「オープンイノベーションチャレンジ」という取り組みも進めています。

また各省と連動しながら、産学官の連携の促進や優遇税制にも取り掛かっているところ。例えば、スタートアップエコシステム拠点都市における産学官の連携促進や、文部科学省が推進している各大学のオープンイノベーション機構の連携、経済産業省の「オープンイノベーション促進税制」がそうですね。

とにかくスタートアップ業界は日々変わり続ける業界なので、それぞれの企業や研究者のニーズを敏感にキャッチしながら、求められる支援を柔軟に提供していきます。


イノベーションの担い手であるスタートアップを積極的に支援

――スタートアップ支援に関しては、国としてどのように支援していくのでしょうか。

井上大臣 : 政府としても、スタートアップはその多様性と機動性から、イノベーションの重要な担い手だと認識しています。産業と地域の活性化や、オープンイノベーションの観点から見てもキープレーヤーだと言えるでしょう。

内閣府では、昨年7月にスタートアップ・エコシステム拠点都市を選定し、関係省庁と連携しながら集中的な支援を強化していく予定です。私自身も昨年、大阪を訪れ様々なスタートアップと触れてきました。

本当は全国の拠点を回ろうと思ったのですが、コロナの影響で回れなかったのが心残りです。コロナが落ち着いたら、引き続き各拠点を回って様々なスタートアップの話を聞き、盛り上げる施策を考えたいと思います。

――実際にスタートアップと対面した印象はいかがでしたか。

井上大臣 : とても面白かったですね。多くのスタートアップが集まってくださり、様々なプレゼンをしてくれました。オリジナリティのある内容に加え、若い人も多く独特の熱気も感じました。

私は大阪・関西万博の大臣もしているので、万博で空飛ぶ車を披露するために空飛ぶ車を開発しているスタートアップのSkyDriveも視察してきました。今や世界中で空飛ぶ車の開発が行われており、日本でも多くのスタートアップにチャレンジしてほしい。

海外の企業と比べると資金規模が全然違いますし、話を聞くとやはり資金面で苦労しているようでした。大阪・関西万博では空飛ぶ車を飛ばしたいですし、日本で開催するのですから日本の製品を飛ばしたいと思っています。これから規制緩和なども含め、技術者がのびのび開発できる環境を整えていきたいですね。


▲2021年3月、井上大臣はSkyDriveを視察した。(内閣府Webサイトより)

欧米レベルの「起業環境」を日本に

――イノベーション創出の目玉制作として、SBIR(中小企業技術革新研究プログラム※)の抜本改正を行いましたが、その背景を教えてください。

井上大臣 : もともとSBIRはアメリカが先行して実施しており、今ではイノベーションの源泉になっています。国際的な競争力を身に着けたい日本としても力を入れていかなければならず、内閣府を中心とした省庁連携の取り組みを強化するために改正に踏み切りました。

――井上大臣はイギリスの大学にも通っていましたが、日本と欧米ではイノベーションを生み出す環境として大きく違うものですか。

井上大臣 : 私がケンブリッジ大学に通っていたのは20年も前ですが、当時から日本とはイノベーションに対する姿勢は違いました。印象的だったのは、大学の近くにMicrosoftの研究施設が立地されたこと。ケンブリッジの優秀な人材を採用するために、ここまでお金を投資して研究施設を建てるのだなと思いました。

私の大学時代の友人も卒業後に起業しましたが「日本で起業しようとは思わない」と話していたのが記憶に残っています。それほど日本は欧米に比べて資金調達も難しいですし、エコシステムも整っていなかったのですね。日本も今は少しずつ環境が整いつつありますが、まだまだ足りないこともあるので考えられる支援はすべてしていきたいですね。

――日本の起業環境に危機感を覚えているのですね。

井上大臣 : このまま国内で起業や研究がしづらい環境が続いてしますと、優秀な人材が海外に出ていってしまいますからね。それは国として大きな損失です。スタートアップを中心に、やる気のある中小企業などを積極的に支援して「日本は起業がしやすい、研究がしやすい」とイメージを持ってもらわないといけません。

――日本の国際的な競争力を担っていくという側面では、期待しているのは「ものづくり産業」でしょうか。

井上大臣 : 基本的にはそうですね。ものづくり産業こそ、もともと日本の経済力の源泉でしたから。私は科学技術の担当大臣も担っているので、これから積極的に応援したいですね。資金面の支援や、表彰制度によって他の研究者の目標になってもらえればと思います。

――最後に、これからも日本イノベーション大賞は続けていくのか聞かせてください。

井上大臣 : もちろん続けていきます。できれば、賞金のようなインセンティブも増やして多くの企業のイノベーションを創出するきっかけになってもらえれば嬉しいですね。


※米国SBIR制度を参考に、1999年から中小企業庁において中小企業等経営強化法に基づき実施。スタートアップ・中小企業等に対して、研究開発に関する補助金・委託費等(特定補助金等)の支出機会の増大を図るとともに、その成果の事業化を支援する。

科学技術基本法等の一部を改正する法律(2020年6月法律改正、2021年4月1日施行)により、「中小企業等経営強化法」から「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」に根拠規定を移管し、制度の見直しを図った。

(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平、撮影:古林洋平)