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2030年には全ての新築を『ZEB(ゼブ)』『ZEH(ゼッチ)』に。建物の消費エネルギーをネットゼロにする省エネと創エネのアプローチとは?

2030年には全ての新築を『ZEB(ゼブ)』『ZEH(ゼッチ)』に。建物の消費エネルギーをネットゼロにする省エネと創エネのアプローチとは?

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回のテーマは『ZEB(ゼブ)』と『ZEH(ゼッチ)』です。ZEBとZEHは、エネルギー消費をゼロにすることを目標とした建物を指す言葉です。いずれも政府がカーボンニュートラルを達成するための戦略として、注力する技術に挙げられているほど期待が寄せられている領域となっています。

ZEBとZEHが持つ影響力はどの程度なのか、また注力する技術としてピックアップされている理由はどのようなものか、解説していきます。

ZEB・ZEHは建物内のエネルギー消費を「省エネ」と「創エネ」でネットゼロにするアプローチ

ZEB(ゼブ)は「Net Zero Energy Building」の略で、ビルや工場、学校などの建物を対象としたエネルギー対策です。ZEH(ゼッチ)は「Net Zero Energy House」の略で、一般住宅向けのエネルギー対策を指します。いずれもエネルギー消費をゼロにすることを目的とした建物を指します。

ZEBもZEHの違いは建物がビルや工場であるか、一般住宅であるかだけで、エネルギーをゼロにする技術や方法が異なるわけではありません。

建物で消費するエネルギーをゼロにするのがZEB・ZEHですが、建物内では人々が活動しているため、正確には「建物内でのエネルギー消費をネットゼロにする」アプローチをしています。建物内で使うエネルギーを減らす省エネのアプローチと、建物内で使う分のエネルギーを創出する創エネのアプローチをあわせてネットゼロを達成するのが一般的です。

出典:ZEBとは? | 環境省「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」

ZEB・ZEHを実現する仕組みとメリット

ZEB・ZEHを実現するアプローチには省エネと創エネがあることがわかりました。建物のエネルギー消費には空調、換気、照明、給湯、エレベーター、OA機器といったものがあり、通常はこれらの消費を電気やガスといったエネルギーで消費します。

出典:建物で使われているエネルギーってどんなもの? | 環境省「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」

ZEB・ZEHにはエネルギーゼロの達成状況に応じて4段階のZEB・ZEHシリーズが定義されています。

■ZEB・ZEH:省エネ(50%以上)+創エネで100%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物

■Nearly ZEB・ZEH:省エネ(50%以上)+創エネで75%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物

■ZEB・ZEH Ready:省エネで基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物

■ZEB・ZEH Oriented:延べ面積10000㎡以上で用途ごとに規定した一次エネルギー消費量の削減*を実現し更なる省エネに向けた未評価技術(WEBPROにおいて現時点で評価されていない技術)を導入している建物

出典:建物で使われているエネルギーってどんなもの? | 環境省「ZEB PORTAL - ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」

ZEB・ZEHを実現する方法ですが、大きく3段階に分けられています。

■パッシブ技術:日射遮蔽、外皮性能向上、昼光利用、自然喚起など必要なエネルギーを減らすための省エネアプローチ

■アクティブ技術:高効率証明、高効率空調など、エネルギー消費を無駄なく効果的に使う省エネアプローチ

■再生可能エネルギー活用:太陽光発電、バイオマス発電など、建物自身が再エネによって発電する創エネアプローチ

こうしたエネルギーマネジメント技術によって、省エネ・創エネの双方からアプローチすることで、①高い経済性、②建物自体が室温を一定に保つ快適・健康性、③災害時のレジリエンスといったメリットを受けることができるのです。

参照ページ:ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について - 省エネ住宅

すでにZEB・ZEHを利用した建物の事例は出てきています。四国銀行潮江支店では、断熱等による外皮性能の向上、高効率省エネ機器の導入により、エネルギー消費量削減率(省エネ率)は52%、太陽光発電による創エネを考慮した場合の省エネ率は65%となり、ZEB Ready(省エネ率50%以上75%未満)を達成する見込みとのことです。

参照ページ:平成28年度環境省補助事業「業務用ビル等における省CO2促進事業」におけるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の導入事例のご紹介 | 報道発表資料

四国銀行の事例のように、ZEB・ZEHの建設には国からの補助が適応されるケースが多くあります。補助制度はレジリエンス強化を目的としたものや公共施設を対象としたもの、もちろん民間建築物を対象にしたものなど、多様な用途に対応しています。

参照ページ:https://www.env.go.jp/earth/zeb/hojo/

ZEBとZEHは『GX基本方針』や『国土交通白書』でも注力する技術に挙げられている

経産省の運営する省エネポータルサイトでは、ZEB・ZEHの普及に向けた政府目標について以下の2点が挙げられています。

・2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す

・2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す

このように、2030年には新築住宅をZEHの基準を満たす住宅に置き換える計画です。この内容は政府が今後10年の脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の方針を取りまとめた『GX基本方針』にも記載されています。

参考記事:「GX基本方針」で示されたふたつの目標とは。「GX推進法」「GX推進戦略」との違いなど解説

さらに、国土交通省が発行している『令和5年版国土交通白書』でも取り上げられています。令和5年度の白書は「デジタル化」をテーマにしていますが、国土交通分野のデジタル化を目指すにあたってDXの推進に期待が寄せられていることを示すデータとして「ZEB・ZEHや交通機関(EV・FCV)の整備について期待しているか」という調査結果をピックアップしています。調査結果では期待していると答えた人の割合が7割を超えており、注目の技術として取り上げられています。

参考記事:デジタル化がテーマの『令和5年版国土交通白書』を読み解く。日本の競争力を挽回する6つ施策とは

編集後記

全ての建物では多かれ少なかれエネルギー消費が発生しています。そのため建物からの消費エネルギーをネットゼロにするZEB・ZEHのインパクトは大きいものがあります。2030年からは新築をZEB・ZEH水準のものにするという計画からも、スピード感を持って大胆に投資される分野になりつつあることがわかります。建物を建てる側にもZEB・ZEHを選ぶ判断力が必要になってきそうです。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

第31回:日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

第32回:80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

第33回:カーボンニュートラル必達を掲げ『GI基金』に2兆円を造成。支援する分野や採択されたプロジェクトとは

第34回:排出されるCO2を捕捉して貯蔵する技術『CCS』はカーボンニュートラルの救世主となるか?

第35回:次世代送電網『スマートグリッド』は再エネの弱点を補う?カーボンニュートラルの観点から解説

第36回:間もなく普及が完了する次世代電力計『スマートメーター』が脱炭素に与える影響と、新たなビジネスチャンスとは

第37回:電力送電網とつながらない『オフグリッド』がカーボンニュートラルになぜ貢献するのか?一般家庭や事業者への導入事例を紹介

第38回:「GX基本方針」で示されたふたつの目標とは。「GX推進法」「GX推進戦略」との違いなど解説

第39回:「電力貯蔵技術」がなぜ脱化石燃料と再エネ活用の促進になるのか?脱炭素達成にはマストの重要な技術を解説

第40回:『脱炭素アプリ』でどうやって企業や自治体のカーボンニュートラルを実現するのか?仕組みと事例を解説

第41回:「米国インフレ抑制法(IRA)」がなぜカーボンニュートラルに貢献するのか?バイデン政権が3910億ドル投じる肝入りの政策を解説

第42回:GI基金も支援する水素サプライチェーン・プラットフォーム。化石燃料の代替として期待がかかる水素技術の未来とは

第43回:国土交通白書が掲げる「カーボンニュートラル貢献」と「生産性向上」の両輪を回す新技術とその事例とは

第44回:政府が本腰で取り組む「水素・アンモニア」の燃料としてのポテンシャルと、社会実装までの展望とは

第45回:『GX脱炭素電源法』が批判される理由とは?GX基本方針との関連や、60年超の原発稼働が可能になった背景など解説

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