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最新の「エネルギー基本計画」では原子力の活用が方針転換。AI、DX、GXの普及も課題に?新計画の内容を解説

最新の「エネルギー基本計画」では原子力の活用が方針転換。AI、DX、GXの普及も課題に?新計画の内容を解説

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回のテーマは、約3年ぶりにアップデートされた「第7次エネルギー基本計画」(2024年12月公表)です。この計画は、再生可能エネルギーの推進、脱炭素化、そしてエネルギー安全保障を柱に、日本の未来のエネルギー政策を形作る重要な指針となっています。近年の世界情勢とテクノロジーの進歩を考慮して、再生可能エネルギーや原子力に関する考え方に変化がでています。本記事では、これまでの基本計画を振り返りながら最新の基本計画の注目ポイントを解説していきます。

エネルギー基本計画とは

エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の中長期的な指針を示す重要な政策文書です。2002年に制定された「エネルギー政策基本法」に基づき策定され、日本のエネルギー供給や使用に関する基本方針を定めています。この計画は、エネルギー供給の安定性、経済効率性、環境適合性、そして安全性という「3E+S」の視点に基づいています。

参照ページ:S+3E | 日本のエネルギー 2021年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」

第1次計画は2003年に策定され、その後の社会や技術の変化に応じて数年ごとに改定されてきました。2024年12月には、最新の「第7次エネルギー基本計画」が公表されました。この新しい計画では、脱炭素社会の実現を目指した再生可能エネルギーの主力電源化や水素エネルギーの推進、エネルギー安全保障の確保など、現代の課題に対応する新たな目標が設定されています。

特に、エネルギー自給率が低い日本において、エネルギー基本計画は経済成長を支えながら、気候変動対策を進めるための重要な枠組みとなっています。この計画は、政府だけでなく、企業や市民も含めた社会全体が協力して取り組むべき目標を示しており、今後の日本のエネルギー政策を理解するうえで欠かせないものとなっています。

2040年度の電力構成案では再エネ比率が増加、原子力と火力はほぼ変わらず

第7次エネルギー基本計画では、2040年度時点のマイルストーンとして電力構成案が提示されており、再生可能エネルギーを主力電源と位置づける方針がさらに強調されました。

2021年に制定された従来計画(第6次エネルギー基本計画)では、2030年度の電力構成比は再生可能エネルギーが36〜38%、火力が41%、原子力は22~24%の目標となっています。

関連記事:「46%削減」修正で話題の脱炭素。46%という目標が生まれた経緯と、潜むビジネスチャンスとは - TOMORUBA (トモルバ)

新計画である第7次計画で示された2040年度の電力構成比は、再生可能エネルギーの比率がさらに引き上げられ、4〜5割程度と明記されました。これには太陽光発電や風力発電の大幅な拡充、地熱やバイオマスの活用が含まれます。一方、火力は3〜4割程度とされており、2030年度のマイルストーンからさらに縮小される計画です。原子力については、2割程度という表記になっています。原子力について詳しくは後述します。

出典:エネルギー基本計画(原案)の概要

火力は3〜4割と高い水準が維持されていますが、石油や石炭といったCO2排出の多い化石燃料から、比較的CO2排出の少ないLNGの比率を上げること、さらに水素やアンモニアといった「火力の脱炭素化」を実現する新たな燃料に関する記述が盛り込まれています。

原子力は「可能な限り依存度を低減」から「最大限活用」へ方針転換

これまで原子力政策は、東日本大震災後の福島第一原発事故を契機に「可能な限り依存度を低減」という基本方針が採られてきました。この背景には、原発事故による安全性への懸念や、国民の不安といった課題がありました。そのため政府は再生可能エネルギーの普及促進と省エネルギーの推進を通じて、原子力発電の縮小を目指してきた経緯があります。

しかし、新計画では、原子力政策が転換し、「最大限活用」が掲げられることとなりました。この方針変更の背景には、いくつかの理由が挙げられます。

まず、エネルギー安全保障の確保が急務となっています。ロシアのウクライナ侵攻を契機とする化石燃料価格の高騰や供給不安、さらに中東情勢の緊張が続く中、国産エネルギー源の安定供給が不可欠とされています。次に、カーボンニュートラル目標の実現に向けて、再生可能エネルギーだけでは増大する電力需要に対応しきれない現実があります。特にDXやGXの進展に伴い、脱炭素電源の確保が産業競争力に直結するため、経済成長と両立可能な電源として原子力が再評価されています。

新計画では、既存原発の運転期間の延長や、次世代型原子炉の導入が検討されています。この方針は、脱炭素社会を目指す中で現実的なエネルギー政策の一環として位置づけられ、国民的理解を得るための透明性ある議論と安全性確保が重要とされています。

避けられない電力需要増大の要因である生成AI、DX、GX

電力需要の増大は、現代社会において避けられない課題となっています。その背景には、生成AIの普及、DXの加速、そしてGXの推進という、時代を象徴する3つの要因が大きく影響しています。

生成AIの普及によるエネルギー負荷の増加

AI技術の進展に伴い、クラウドデータセンターやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)など、大量の計算リソースを必要とする分野が急速に拡大しています。生成AIの台頭により、データ処理量が飛躍的に増大し、AIモデルを運用するための電力需要が大幅に上昇しています。これらの技術は多くの産業で採用されつつあり、電力消費量は今後も増加傾向にあります。

DXによる社会全体の電力需要増加

DXは、企業や行政がデジタル技術を活用して業務プロセスやビジネスモデルを変革する動きです。IoT(モノのインターネット)機器の普及や、スマートファクトリー、オンラインサービスの需要増加が、電力消費の一因となっています。さらに、リモートワークやオンラインサービスの利用増加も、企業や個人の間でデジタル依存を加速させています。このような社会全体のデジタル化は、経済的・社会的な利益をもたらす一方で、エネルギーインフラの安定性や持続可能性に課題を投げかけています。

GXの推進によるクリーンエネルギー拡充の必要性

GXは、脱炭素社会の実現を目指す取り組みであり、再生可能エネルギーや水素エネルギーの導入を促進しています。しかし、これらの新たなエネルギー技術の拡充には多大な電力供給が求められるほか、蓄電池や電動車両の普及も電力需要を押し上げる要因となっています。また、産業界全体がカーボンニュートラルを達成するために電化を進める中で、基盤となる電力供給の安定性が不可欠です。

編集後記

第7次エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の新たな方向性を示す重要な指針です。本記事では、これまでの計画との違いや、再生可能エネルギーの推進、原子力政策の転換、さらにはAIやDX、GXがもたらす電力需要増加の影響について取り上げました。

エネルギー政策の進化は、単なる技術革新や環境問題の解決にとどまらず、社会や産業の持続可能性を支える基盤となります。一方で、再エネや原子力の活用には国民的な理解と協力が必要であり、政策の透明性が求められます。また、急速に増大する電力需要に対応するためには、供給側の整備だけでなく、省エネルギー技術の普及や効率的なエネルギー利用の推進も欠かせません。

持続可能な未来を築くために、エネルギー政策の動向を注視し、ビジネスや生活に活かしていく姿勢が求められます。本計画がどのように社会を変えるのか、引き続きその動向に注目していきましょう。

参照ページ:エネルギー基本計画(原案)の概要

参照ページ:エネルギー基本計画 (案)

(TOMORUBA編集部 久野太一)

■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

第31回:日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

第32回:80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

第33回:カーボンニュートラル必達を掲げ『GI基金』に2兆円を造成。支援する分野や採択されたプロジェクトとは

第34回:排出されるCO2を捕捉して貯蔵する技術『CCS』はカーボンニュートラルの救世主となるか?

第35回:次世代送電網『スマートグリッド』は再エネの弱点を補う?カーボンニュートラルの観点から解説

第36回:間もなく普及が完了する次世代電力計『スマートメーター』が脱炭素に与える影響と、新たなビジネスチャンスとは

第37回:電力送電網とつながらない『オフグリッド』がカーボンニュートラルになぜ貢献するのか?一般家庭や事業者への導入事例を紹介

第38回:「GX基本方針」で示されたふたつの目標とは。「GX推進法」「GX推進戦略」との違いなど解説

第39回:「電力貯蔵技術」がなぜ脱化石燃料と再エネ活用の促進になるのか?脱炭素達成にはマストの重要な技術を解説

第40回:『脱炭素アプリ』でどうやって企業や自治体のカーボンニュートラルを実現するのか?仕組みと事例を解説

第41回:「米国インフレ抑制法(IRA)」がなぜカーボンニュートラルに貢献するのか?バイデン政権が3910億ドル投じる肝入りの政策を解説

第42回:GI基金も支援する水素サプライチェーン・プラットフォーム。化石燃料の代替として期待がかかる水素技術の未来とは

第43回:国土交通白書が掲げる「カーボンニュートラル貢献」と「生産性向上」の両輪を回す新技術とその事例とは

第44回:政府が本腰で取り組む「水素・アンモニア」の燃料としてのポテンシャルと、社会実装までの展望とは

第45回:『GX脱炭素電源法』が批判される理由とは?GX基本方針との関連や、60年超の原発稼働が可能になった背景など解説

第46回:2030年には全ての新築を『ZEB(ゼブ)』『ZEH(ゼッチ)』に。建物の消費エネルギーをネットゼロにする省エネと創エネのアプローチとは?

第47回:『バイオマスエネルギー』でゴミを再エネに変える!ジェット燃料や土壌改善にも活用できる未来の資源とは

第48回:カーボンプライシングがもたらす行動変容とは?国によってことなるアプローチや大企業の導入事例を紹介

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