meet ▶[Sustineri]: GHG(温室効果ガス)算定サービスで描く、環境負荷の少ない選択ができる社会
今や多くの業界でカーボンニュートラルが進められているが、そのために欠かせないのがGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量の可視化だ。排出量を正確に把握できなければ、効果的にGHGを減らすことはできない。
しかしながら、GHG排出量を算定するには専門的な知識が必要で、正確な算定が難しい点が課題となっている。それが日本のカーボンニュートラルを遅らせている原因の一つにもなっているのだ。
そのような課題を解決しているのがSustineri株式会社。商品・サービスを販売するウェブサイトやアプリとAPI連携することで、商品の販売やサービス提供に伴うGHG排出量を可視化し、相殺することができる「カーボンオフセットクラウド」を提供している。
eiicon companyのオリジナルピッチ企画「eiicon meet up!!」登壇企業に話を聞くインタビュー企画『meet startups!!』。――今回は、Sustineri株式会社 代表取締役 針生洋介氏にインタビューを実施。起業の経緯と今後の展望を聞いた。
▲Sustineri株式会社 代表取締役 針生洋介氏
海外との差に危機感を覚え、会社を飛び出し起業
――まずは起業の経緯を聞かせてください。
針生氏 : 私は15年ほど前から気候変動に関する仕事に携わっていて、企業のサステナビリティ戦略策定や気候変動対応を支援するコンサルタントなどをしていました。2019年頃になると、海外ではテクノロジーでGHGを削減する取り組みが始まってきたのですが、なかなか日本では同じような取り組みが始まらない状況だったのです。
このままだと世界との差が広がるばかりだと焦りを感じた私は、自分自身で取り組もうと2020年に会社を飛び出しました。1年間プログラミングの勉強をして、2021年に立ち上げたのがSustineriです。
――なぜ日本と海外では環境に対する取り組みが遅れているのでしょうか。
針生氏 : 単純に気候変動問題に対する意識の違いだと思います。海外に比べて日本は気候変動問題に対する意識が3~5年は遅れている印象があります。それでも日本の意識も変わってきたと思います。マスメディアでSDGsが積極的に取り上げられるようになったり、2020年に日本政府がカーボンニュートラルを目指す宣言をしたことで、本格的に気候変動対策に取り組むようになってきました。
日本で進まなかった商品・サービス単位でのGHG算定
――なぜGHGを算定するサービス(カーボンオフセットクラウド)を開発したのか、お聞かせください。
針生氏 : 起業する以前から、企業がGHGの算定に課題を感じているのは知っていました。以前から多くの企業が自社の企業活動全体から排出されるGHGの算定に取り組んでいました。しかし、気候変動に配慮した社会を実現するためには商品単位・サービス単位で算定しなければなりません。
商品単位やサービス単位でのGHGの排出量を算定するにはより専門的な知識やデータが必要なため、多くの企業が算定に着手できていませんでした。
――商品やサービスごとのGHG排出量を算定することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
針生氏 : たとえば出張の際に、よりGHG排出量が少ない移動手段を選択したり、調達の際に、より環境負荷が少ない製品を選べるようになります。サプライチェーンのどこでGHGの排出量が多いのか、より細かく把握できるので効果的な対策が打てるのです。
また、消費者に対しても、細かくGHG排出量を提示できるようになります。今は消費者の意識も変わり、環境への負荷の少ない商品やサービスを選ぶ人が増えてきているため、GHG排出量を提示することは大きなアピールになるはずです。
――すでに変化の兆しがある業界があれば聞かせてください。
針生氏 : 今は個人需要よりも法人需要の方が強いですね。特に私たちのサービスが活用されているのが、出張の手配などです。たとえば新幹線や飛行機など、交通手段を選ぶ際の判断軸として使われることもあります。
これまでは価格と移動時間だけで選ばれていたのですが、より環境負荷の低い方法で移動しようと考える企業も現れ始めています。将来的には企業間取引や消費活動のあらゆる場面でGHG排出量を可視化し、企業や消費者が気候変動に配慮した選択をするためのインフラを構築していきたいと考えています。
▲2022年11月29日に開催されたピッチイベント「eiicon meet up!!vol.5」に登壇した針生氏。
小売業界を改革することで、消費者の意識を革新していく
――EC サイトプラットフォーム「Shopify」とも提携していますが、どのような取り組みなのか教えてください。
針生氏 : Shopifyを使って構築したECサイトに私たちのアプリを取り入れてもらうことで、自動で商品配送時のGHG排出量の表示と相殺が可能になります。中小規模の会社でも、カーボン・オフセットに取り組みたいという企業が増えているのですが、社内にエンジニアがいないと難しいという課題を耳にしていて。プラットフォーム向けのアプリを開発することで、小規模なショップでも簡単にカーボン・オフセットに取り組めるようにしたいと思ったのです。
――今後はどのように事業を展開していく予定なのでしょうか。
針生氏 : 大規模なショップが多いプラットフォーム向けのアプリを開発していきたいと思っています。大規模なショップに導入してもらい、より多くの人々が気候変動対策のアクションをできるようにしていきたいですね。
――法人取引の方がGHG排出量は多いと思いますが、あえて小売業界に注力している理由があれば教えてください。
針生氏 : 消費者の身近なサービスだからです。今は多くの人がECサイトを利用して買い物をしていますし、中には全ての買い物をオンラインで済ませている人もいますよね。
もしも買い物をするときに、全ての商品にGHGの排出量が表示されていたら、気候変動問題を自分ごととして捉えられると思うんです。たしかに法人向けに比べてインパクトは小さいかもしれませんが、一人ひとりの意識が変わることで結果的に社会全体を変えていけるのだと思います。
――最後にこれから実現したいビジョンをお聞かせください。
針生氏 : さまざまな意思決定をする際に、環境のことを考えて行動できる社会を作りたいと思っています。たとえば買い物をする際も、価格や品質だけでなく、環境負荷の少ない工程で作られているのかを考え、選べるようにしたいです。
そのため、あらゆる製品やサービスの環境負荷を可視化できなければなりません。今は私たちのサービスを提供できる業界が限られていますが、今後より多くの業界に届けていきたいと思います。
(取材・文:鈴木光平)