「エコ」「持続可能」の主張は40%が根拠なし。EUで進む「グリーンウォッシング」対策
国際消費者保護執行ネットワーク(ICPEN)の調査によって、衣料、化粧品、食品などの製品やサービスを宣伝する約500のウェブサイトのうち、約40%が消費者法を違反している可能性があると判定された。裏付けや根拠がなく「エコ」や「持続可能」などの用語が使われていたり、認定された組織に関連付けられていない独自ブランドのエコロゴやラベルが使用されていたりするようだ。
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第41弾では、EU、及びイギリスにおける「グリーンウォッシング」(※)対策、及び関連スタートアップを取り上げる。
※グリーンウォッシング……環境問題に関する公共利益の上昇を利用し、その企業の環境に関する活動や商品について虚偽的、もしくは誤解を招く恐れのある発言をすること
欧州委員会では、企業が環境に関する主張を立証することを義務付ける提案を2023年3月30日に提出見込みで、違反には罰則が課される予定だ。このような動きの中で、より貢献度の高い気候変動対策へのソリューションを提供するスタートアップも生まれている。
サムネイル写真提供:Photo by micheile dot com on Unsplash
根拠のない主張には、罰則を科す方針
欧州のWEBメディア・EURACTIVが発表したEU法の草案によると、EU加盟国では自社製品について根拠のないグリーン・クレーム(環境主張)をする企業に対して、罰則が科されるという。EU諸国がグリーン・クレームのルール施行を保証する責任を負い、違反者に対して効果的で相応、かつ抑止力になる罰則を導入することになる。
草案の目的は、消費者がより良い情報を得た上で製品を選択できるようにすることだ。このような動きの背景には、約40%の企業が消費者の誤解を招き、消費者法に違反する可能性のある行為を行っているという問題がある。
▲北欧では日本以上に「エコ」や「プラスチックフリー」などの宣伝が目立つ印象があった(筆者撮影)
国際消費者保護執行ネットワークは、毎年WEBサイトの一斉点検を行っているが、2020年に初めて「誤解を招くような環境保護に関する訴求」に焦点を当て調査を実施した。問題とされた行為は、以下3つに分類される。
1、「エコ」「持続可能」などの言葉や、十分な説明や証拠のない「天然素材」など、あいまいな表現や不明瞭な表現を使用する
2、認定された組織とは関係のない自社ブランドのエコロゴ、およびラベルを使用する
3、より環境に配慮しているように見せるために、製品の汚染レベルなど特定の情報を隠したり、省略したりする
欧州委員会は、草案の中で「消費者は製品の持続可能性に関する信頼できる情報を持っておらず、グリーンウォッシュや環境ラベルの透明性と信頼性の欠如といった誤解を招く商法に直面している」と述べている。
消費者に誤解を与えるような宣伝は、「本当に環境に良い製品」を提供している企業が、それに見合うだけの顧客を獲得できていないことも意味する。消費者の混乱を招くのみならず、気候変動対策に真摯に取り組む企業が不利益を被ることにもつながってしまうのだ。
EU諸国に求められる「検証システムの構築」
こういった根拠のないグリーン・クレームへの対策として、草案には次のような内容が示されている。
「グリーン・クレームを行う企業は、環境への影響を評価するための標準的な方法論として、製品環境フットプリント(Product Environmental Footprint:PEF)と呼ばれるEUの単一の手法を使用して、その主張を実証する必要がある。この方法は、原材料の採取から廃棄に至るまでバリューチェーン全体を通して、製品や組織の環境パフォーマンスを16の環境影響カテゴリーを用いて測定するものである」
▲環境への影響を正確に示す必要性はあるが、企業への負担は懸念事項だ(Photo by tanvi sharma on Unsplash)
EUの技術産業協会Orgalimの事務局長は、この草案について次のように述べている。
「PEFは、ライフサイクル アセスメント(LCA)に基づく、あるいは製品の環境への影響を定量化する方法である。原材料の抽出から、生産、使用、最終的な廃棄物処理まで、いわゆる『完全な』ライフサイクル・アプローチを採用している。LCAは非常に複雑な作業だが、製品の環境影響を完全に理解するためには不可欠である」
欧州環境局(EEB)の上級政策官は、「PEFは製品の環境影響を評価するための最も包括的な科学的手法である」としながらも、完璧な手法ではないと指摘する。例えば、生物多様性の損失やマイクロプラスチックの環境中への流出など、カバーされていない環境影響もある。なぜカバーが困難かというと、方法について科学的な合意が得られていないためだ。
欧州のWEBメディア・EURACTIVの報道によれば、2月4日時点ではPEFが企業の義務になるのか、あるいは自主的な要求になるのか、加えて企業がPEFに準拠していることを証明するために製品にラベルを付ける必要があるのかは明確になっていない。
PEFを義務化することで公平な競争の場が生まれ、製品の環境性能が規制当局や消費者の目に見える形で示されるのはメリットといえる。一方で、PEFに準拠したLCA評価を行うには膨大な時間と労力、コストが必要になる。特に中小企業にとっては困難な作業となりえる。また、罰則の導入についても流動的であり、公開前に変更の可能性があるという。
カーボンオフセットを評価する「Sylvera」
EUでグリーンウォッシング対策が進むなか、気候変動対策への貢献度を正確に評価するソリューションも生まれてきている。2020年にイギリスで創業したSylveraは、カーボンオフセットプロジェクトに対し、より正確な炭素削減量を算出するシステムを提供する。
同社が問題視するのは、透明性が欠如しておりブラックボックス化しているカーボンクレジットの現状だ。カーボンクレジットは、森林破壊の防止や発展途上国における汚染の少ない調理用コンロの購入など、さまざまな形で気候変動への貢献を目的としたプロジェクトによって発行されている。
▲カーボンクレジットを購入する企業は多いが、その信頼性は必ずしも高いとはいえないようだ(Photo by Eutah Mizushima on Unsplash)
The Wall Street Journalの報道によれば、各クレジットは、そのプロジェクトが大気中から1トンの二酸化炭素を除去する、または1トンの二酸化炭素の排出を防止するという主張を表している。しかし実際には、すべてのプロジェクトが約束された恩恵をもたらすわけではない。
こういった課題を解消するため、Sylveraでは300万本以上の熱帯雨林のレーザースキャンや衛星写真を使った独自調査により、従来より13倍正確な森林の地上バイオマス量と炭素蓄積量を推定、その情報を機械学習技術で解析し、森林の植林や保護を行うカーボンオフセット・プロジェクトの有効性を評価する。
2020年のサービス開始以来、デルタ航空、穀物商のカーギル、コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーなど大手企業と契約しているという。同社に投資する投資家は、「カーボンオフセットを使って気候変動目標を達成する大企業が、株主への報告義務に直面し、より見識が高まっているため、評価システムに対する需要が高まるだろう」とコメントしている。
大気から直接CO2を抽出する「Climeworks」
2009年にスイスで創業した「Climeworks」は、2021年9月8日、アイスランドの炭素貯蔵企業 Carbfixと提携して、世界初で最大の直接空気捕捉貯留プラント「Orca」をアイスランドに立ち上げ、運用を開始したことで注目されている。
▲世界初で最大の直接空気捕捉貯留プラント「Orca」の完成イメージ(Climeworksのプレスリリースより)
同プラントは、Climeworksが持つ直接空気捕捉(direct air capture)技術を活用し、年間最大4,000トンのCO2を吸引するという。これは、約790台の自動車の年間排出量に相当する。
同社のホームページによれば、空気はコレクター内にあるファンから吸い込まれ、フィルターを通過し、二酸化炭素粒子が捕獲される。フィルターがCO2で完全に満たされるとコレクターが閉じ、温度が約100°Cまで上昇する。これによりフィルターからCO2が放出され、回収ができるそうだ。
▲同施設は8つのコレクターコンテナで構成され、それぞれ年間500トンのCO2の捕集能力がある(Climeworksのプレスリリースより)
地下に貯留したCO2は、炭酸飲料やカーボンニュートラルな燃料として販売されるほか、2年以内に石に変えることにより、自然で永久的に貯留できるという。二酸化炭素を水に溶かし、地下に注入することで炭酸塩鉱物を生成する方法で、自然のプロセスにより好ましい岩石層と反応し、固体の炭酸塩鉱物を生成するそうだ。
2022年4月には、シリーズFで6億5,000万ドル(約870億円)の資金調達を実施。これは、2022年の欧州のディープテックスタートアップの資金調達のうち最高額だった。同社は「炭素除去が1兆ドル規模の市場となる中、この資金調達により直接空気捕捉を数百万トンの容量に拡大し、大規模施設を導入することが可能になる」と述べている。
編集後記
環境先進国といえる欧州の取り組みは、非常に学びが多い。筆者は北欧を中心に、環境にやさしい手法でつくられた製品や気候変動対策に取り組む企業を多く取材しており、それらはいずれも明快な説明や具体的な数値が添えられていた。そういった企業が正当に評価されるような仕組みは確かに必要だ。「グリーンウォッシング対策」の続報を引き続き追っていきたい。
(取材・文:小林香織)