「世界でもっとも持続可能な100社」2022が発表。トップ10企業の「サステナビリティ施策」は?
カナダのメディア・投資調査会社「Corporate Knights」(コーポレート・ナイツ)は、2022年1月に「世界でもっとも持続可能な100社」の最新版を発表。これは、売上高が10億ドル以上の上場企業約7000社を対象に、炭素生産性スコアやクリーンな収益、女性取締役の比率などの厳格な基準に基づいて、A+からD−までのランクを付け、持続可能性を評価するものだ。
日本からは、積水化学工業(22位)、エーザイ(32位)、コニカミノルタ(53位)の3社がランクイン。トップ10のうち、5社がEU、2社が米国企業となり、EUの持続可能性への取り組みは世界的に評価が高いことがわかる。
世界の企業が取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第18弾では、同ランキングのトップ10に入賞した企業の「サステナビリティへの取り組み」を各社のレポート等を参考に紹介したい。
【10位】オーストラリア「Brambles」スコア:A−
「Brambles」(ブランブルス)は、再利用可能なパレット、木枠、コンテナのプールを管理するサプライチェーン関連企業だ。
同社では、2025年までの目標をHP上で明確に断言している。例えば、100%持続可能な木材調達のために、1本の木を使用するごとに2本の木を持続可能な方法で育てる。カーボンニュートラルを達成する。埋立地に送られる廃棄物をゼロにする。再生プラスチックやアップサイクルされたプラスチックを30%使用する。顧客とのコラボレーションを250から500にする。管理職の女性比率を40%にする、などだ。
▲ブランブルスの2021年サステナビリティレポートより
2021年の実績では、320万本の木、3,160メガリットルの水、240万トンのCO2の削減、100%持続可能性に配慮された木材の使用、100%再生可能エネルギーの導入、管理職の女性比率が32%に増加などがある。
【9位】フランス「Dassault Systemes」スコア:A−
3Dエクスペリエンスカンパニーを名乗り、3D技術などを提供するフランスのソフトウェア企業「Dassault Systemes」(ダッソー・システムズ)。日本を含む世界中で事業を展開しており、2011年の55位から一気にランクを上昇させた。
▲ダッソー・システムズの2050年までの持続可能性の目標
同社も2025年までの目標を明確に掲げており、従業員1人あたり5トンのCO2の削減、管理職の女性比率向上(ピープルマネージャー30%、上級管理職40%)のほか、従業員の誇り、及び満足度調査において85%を達成するなどを名言している。
具体的な施策には、低炭素エネルギーの購入、主要なサプライヤーから購入する製品の持続可能性を評価する、データセンターのエネルギー効率の改善、ハードウェアの長寿命化、電子廃棄物の管理などがある。
同社は、バーチャルツインの技術を5つの産業界で活用した場合、2030年までに1兆3,000米ドルの経済価値と7.5ギガトンのCO2排出量削減という複合的なメリットをもたらすと自社のビジネスモデルにおける持続可能性も主張する。
【8位】イギリス「Atlantica Sustainable Infrastructure plc」スコア:A−
イギリスの「Atlantica Sustainable Infrastructure」(アトランティカ・サステナブル・インフラストラクチャ)は、再生可能エネルギーや水などを管理・販売するインフラストラクチャー企業だ。
▲アトランティカ・サステナブル・インフラストラクチャの持続可能性の概要
同社の気候変動対策では、2035年までにエネルギーの単位あたりの温室効果ガス排出率を2020年比で70%削減する厳しい目標を立てている。
これまでの実績は、2019年比で有害廃棄物の削減量が75%ダウン、管理職の女性比率が21%にアップ、LTIFR(休業労働災害度数率)が21%ダウンなど。同社のHPでは細かいポリシーの言及にとどまり、具体的に何をしてこの数字が達成できたのかは触れられていないようだ。
【7位】デンマーク「Orsted」スコア:A−
風力発電と再生可能水素を提供するデンマークの「Orsted」(オーステッド)。HPは、真っ先に最新版のサステナビリティレポートにアクセスできるデザインになっており、いかに持続可能性を重要視しているかがうかがえる。
同社の気候変動対策の目標は、2025年までにエネルギーの生成と運用においてカーボンニュートラルを達成し、温室効果ガスの排出量を2006年比で98%以上削減することだ。さらに、2040年にはバリューチェーン全体でネットゼロ(※)の目標を持つ。
※ネットゼロ‥‥温室効果ガス、あるいはCO2の排出量から森林などの吸収量などを差し引いて、CO2排出量を正味ゼロとすること
▲陸上の風力発電のイメージ(写真提供:Unsplash)
同社の持続可能性のアクションは多岐にわたる。例えば、世界自然保護基金(WWF)と協力し、個体数が極端に少なく生態系に悪影響を与えているタラの人工養魚場を国内に配備する。熱電併給設備から石炭を廃止し、持続可能なバイオマスに置き換えるとともに、石炭火力発電設備の閉鎖をすすめる。ストレス、ハラスメント、差別などに対処するための管理職向け新教材を作成する。健康モニタリングアプリを全事業所に展開し、筋肉・骨格の健康状態を測定する補助機能を試験的に導入するなど。
【6位】アメリカ「American Water Works Company」スコア:A
米国最大の下水道サービス企業である「American Water Works Company」(アメリカン・ウォーター・ワークス・カンパニー)は、同国の24州で1,400万人以上の人々に、飲料水や廃水関連のサービスを提供している。
▲アメリカン・ウォーター・ワークス・カンパニーのESGページより
同社の目標は、2025年までに温室効果ガス排出量を2007年比で40%以上削減する、2035年までに顧客一人当たりの送水量を2015年比で15%削減しつつ、顧客のニーズを満たすなどだ。
現在までの取り組みでは、温室効果ガス排出量を36%削減、勤務中のケガを2015年比で67%削減、社員の女性比率54.5%、業界平均より20倍良い水質などを実現。この背景には、2020年に年間10万時間を超える従業員の安全トレーニングに専念したり、従来のものより多くの水を節約しながら飲料水の配水管を洗浄でき、水質の改善につながる給水栓洗浄システムの採用などがある。
【5位】シンガポール「City Developments」スコア:A
「City Developments」(シティ・デベロップメント)は、29ヵ国にネットワークを持つシンガポールの大手グローバル不動産会社だ。同社は、昨年の40位から飛躍的に順位を向上させた。
▲シティ・デベロップメントのESG戦略ページより
同社のHPでは、2030年までの目標に対し、どこまで達成できているかが示されている。例えば、「自社が所有・管理する建物の90%でグリーンマーク認証を取得する」は85%まで達成、「CO2排出強度(※)を2007年比で59%削減する」は、44%まで達成している。
※CO2排出強度‥‥国内で排出されるCO2を一次エネルギー総供給で割った値
持続可能性を高める独自の活動も見られ、国内外へ気候変動の取り組みをを呼びかけることを目的とした気候変動展示会の開催、業界を越えて女性のエンパワーメントを高めるコミュニティ「Women4Green」の創設、SDGsに沿った目的を持った社会的企業の支援などがある。
【4位】フランス「Schneider Electric」スコア:A
フランスの「Schneider Electric」(シュナイダーエレクトリック)は、電気機器の提供を通して、効率と持続可能性の向上を目指している。近年、企業向けに脱炭素化を通じて持続可能性を支援するコンサルティングサービスも開始した。2021年のランキングでは1位を獲得したが、今回は4位にとどまった。
▲シュナイダーエレクトリックのHP上のサステナビリティ関連レポートより
同社の2050年までの目標は、グリーン収益(※)を80%にする、2018年比で8億トンのCO2の排出を削減する、製品に含まれる環境に良い材料の使用率を50%にする、100万人の恵まれない人々にエネルギー管理のトレーニングを行うなど。2030年までには、ネットゼロを目指す。
※グリーン収益‥‥よりきれいな空気、水、土地など、環境に有益な製品の売上高を示す割合
同社では、この目標を達成するために、デジタルフォーメーションと電気化を促進する、使い捨てプラスチックを削減し、再生可能な紙を多く利用する、全社員にサイバーセキュリティの講座を提供する、クリーンテックやイノベーションプログラム
【3位】アメリカ「Autodesk」スコア:A
AutoCADなどの図面作成ソフトウェアを開発するアメリカの「Autodesk」(オートデスク)は、2021年の43位から3位に急上昇した。同社では、2031年までに2020年比で温室効果ガスを50%削減するという目標を定め、意欲的に活動に取り組んでいる。
▲オートデスクのHP上のサステナビリティ関連ページより
2021年の実績には、女性取締役の比率を50%に向上、77万トンのCO2排出量の削減、2890万ドルの自社ソフトウェアを世界中の2,000以上の非営利団体や新興企業に寄付などがある。
すでに、クラウドサービスと自社の不動産は100%再生可能エネルギーで運営されており、カンファレンスや会議、教育に積極的にオンラインを活用することで、移動時のCO2の削減にも努めている。また、エネルギー効率や環境負荷の低い材料を使うなど、自社のグリーンビルディングソフトウェアを使ったグリーンビルディングの設計も推進する。
【2位】デンマーク「Chr Hansen Holding」スコア:A
デンマークの「Chr Hansen Holding」(クリスチャン・ハンセン)は、世界30カ国以上に拠点を持つバイオテクノロジー企業だ。2021年の24位からランクアップし、一気に評価を上げた。
同社は、温室効果ガスにまつわる目標として、2030年までに自社の運営による温室効果ガスの排出量を42%削減、サプライチェーン全体の排出量を20%削減する目標を設定。これを実現するために、まずはグループ全体のワークショップを開催し、組織内から幅広く意見を集め、実現性の高い脱炭素化ロードマップを作成したという。
▲クリスチャン・ハンセンの脱炭素化ロードマップ
現在までの実績としては、100%再生可能エネルギーへの転換、植物発酵素材ブランド「VEGATM」の発売、女性役員比率30%というダイバーシティ目標を前倒しで達成などがある。
食品廃棄物の課題にも取り組んでおり、同社は賞味期限が1週間長く、味にほぼ影響のないバイオプロテクションを開発。同製品を提供することで、2025年までに200万トンのヨーグルト廃棄物の削減を目指す。
【1位】デンマーク「Vestas Wind Systems」スコア:A+
デンマークの「Vestas Wind Systems」(ヴェスタス・ウィンド・システムズ https://www.vestas.com/en )は、85か国に145GWの風力発電機を設置した実績を持つ、世界をリードする風力発電機メーカーだ。2021年の21位から1位に飛躍し、ランキング内で唯一のA+を獲得。トップ10に3社のデンマーク企業がランクインしたことになる。
▲ヴェスタス・ウィンド・システムズのサステナビリティレポート2021に掲載された持続可能性のマイルストーン
同社の目標は、2030年までにカーボンニュートラルを達成、サプライチェーン全体のCO2を2019年比で45%に削減、発電機の羽部分のリサイクル率を100%に、負傷者発生率を0.6%に、管理職の女性比率を30%にすることだ。さらに、2040年には発電機事業でゼロ・ウェイスト(廃棄物ゼロ)を目指す。
2021年の1年間にも、多くの実績を残している。例えば、同年中に生産されたタービン532基の耐用年数で5億3200万トンのCO2を回避、50社の戦略的なサプライヤーと契約し、 3438 社をサステナビリティの基準で評価、285枚の使用済みの羽を再利用、クリーンエネルギーの研究開発に4億4,400万ユーロを投資など。同社の場合、カーボンフットプリント全体の99%以上がサプライヤーの業務に起因しているため、他社との協力関係の構築に注力する姿勢だ。
編集後記
トップ10にランキングした企業は、いずれも明確な数値を含む長期的な目標を持っていた。持続可能性の戦略を策定・実行する責任者を立て、各部署と連携を取りながら、地道に実行に移している印象も。ランクインした企業はグローバル規模で展開する大手が多いものの、中小企業であっても「紙の使用や車での移動頻度を減らす」「パッケージを見直す」など、案外できることはあるように思う。
(取材・文:小林香織)