社会課題をビジネスで解決する。「100億人が100歳まで豊かに暮らせる持続可能な社会」を目指し、三菱総研が今年度も8期目となるアクセラレーションプログラムを開催!
「社会課題を解決し、豊かで持続可能な未来を共創する」ことを使命とし、社会変革を先導する事業創出や社会実装を進めている総合シンクタンク、三菱総合研究所(以下、MRI)。同社は、多様なステークホルダーが参加するプラットフォーム「未来共創イニシアティブ(ICF)」を運営している。
オープンイノベーションの発想に基づく共創活動を通じて社会課題解決と社会実装に繋げ、より大きなインパクトを創り出すことを目指すICFは、昨年に続き『ICF Business Acceleration Program 2022』の募集を開始する。ICFの前身となる組織から数えると、8回目の開催だ。
ICFが描く理想の未来である「100億人が100歳まで豊かに暮らせる持続可能な社会」の実現に向け、「ウェルネス」「水・食料」「エネルギー・環境」「モビリティ」「防災・インフラ」「教育・人財育成」の6分野にわたりビジネスアイデアを募集する。(応募締切:2022年8月26日)。
募集開始にあたり、運営事務局の須﨑氏、加藤氏、水田氏、そして今年度より未来共創本部に加わった亀井氏と八巻氏にインタビューを実施した。
プログラムの特徴や目指す方向性、そして具体的な共創イメージや求めるパートナー企業像、さらには前回のプログラムで生まれた共創の成果など、様々な方向から話を伺った。
8期目となる今回は、さらに社会課題ビジネスの実現にこだわる
――今回、8期目の『Business Acceleration Program』ということですが、実施する狙いについてお聞かせください。
須﨑氏 : 2021年の4月、MRIは新たな会員プラットフォーム「未来共創イニシアティブ(ICF)」を設立いたしました。こちらは、2010年から課題解決先進国を掲げ変革を提言してきた「プラチナ社会研究会」と、2017年よりイノベーションによる社会課題解決に取り組んできた「未来共創イノベーションネットワーク(INCF)」という、MRIが主催・運営してきた両会員組織が統合し生まれたものです。
ベンチャー、大企業、自治体、大学・研究機関、そして官公庁といった会員の方々と共に、社会課題をビジネスで解決していくことを目指して運営をしています。
『Business Acceleration Program』は、「100億人が100歳まで豊かに暮らせる持続可能な社会」のために、社会課題をビジネスで解決することを目指す共創型プログラムで、これまで7回実施してきました。
おかげさまで毎回おおむね100件以上のご提案をいただいており、ベンチャー企業の方々の社会課題への関心の高さを実感しています。プログラムの回を重ねるごとに、アイデアをより実現に近づけていきたいという気運が高まってきています。改めて、共創の成果を現実的にビジネスとして羽ばたかせていきたいと強く考えてプログラムを企画しました。
――やはり、ベンチャー企業との共創意識が、貴社の中で根付いてきたということでしょうか。
須﨑氏 : そうですね。当初は「ベンチャー企業は当社とどのような接点があるのだろう」と、手探りでした。それが活動を続ける中で、ベンチャー支援の意義や、当社らしい支援の仕方について具体的な議論ができるようになりました。現場からも、ベンチャー企業との関わり方について、私たちに相談が来るようになったことも、大きな変化だと思います。
社内組織としても、我々と同じ社長直轄組織として「コーポレートベンチャー推進室」が創設されました。こちらの組織は、ベンチャー企業との連携により当社の事業を推進する目的を持ち、出資検討も行っております。今年度からBAPの取り組みも支援する予定です。
▲株式会社三菱総合研究所 未来共創本部長 主席研究員 須﨑彩斗 氏
社内・社外ネットワークを駆使し、さらに支援体制に厚みを持たせる
――続いて、今回のプログラムの特徴を教えてください。
加藤氏 : 大きなポイントとしては3つあります。
1つ目は、「共創事業の成果創出とその成果の見える化」です。これまでは、12月にベンチャーピッチを実施し、その後は共創事業創出のため、ファイナリストとの事業検討を継続して行っていたものの、成果発表の場は設けておりませんでした。そこで今回は事業の成果をしっかりと意識し、ベンチャーピッチの後に3カ月間共創期間を設け、3月に成果発表会を行うことにしています。
2つ目は、「MRIとの共創事業検討の本格化」です。昨年度のプログラムより、MRIの事業や中期経営計画との連携を意識し、当社の研究員が支援に入っておりました。今回は、支援に入るメンバーを増員する予定です。前回はベテラン陣が中心でしたが、今回は若手研究員も加え、支援の幅を広げ、さらなる質の向上に取り組みます。
3つ目は、「社外ネットワークの有効活用」です。これまでも社外ICFアドバイザーの方々に支援に入っていただいていましたが、さらに外部の支援者の協力をあおぎ、手厚い支援をしたいと考えています。具体的には、起業経験者、VC、弁護士などの士業の方々などを想定しています。
▲株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 研究員 加藤美季 氏
――ICF会員企業との接点もあるのでしょうか。
加藤氏 : そうですね。ICF会員リストに入っている企業・団体(※)とのマッチングの可能性があることは、ベンチャー企業にとって大きなメリットだと思います。ICF共創会員様には、二次審査のピッチからご同席いただき、より積極的に共創事業創出に関与いただきます。ICF一般会員様においても、個別でご要望があれば、MRIが面談をセッティングし、マッチングを調整します。もちろん、ファイナリストにはICF会員になって頂けるので、プログラム終了後も、会員同士の接点は多く、ビジネス機会となっています。
(※約540の大企業・自治体・ベンチャー企業などが会員となっている)
――昨年度は、「インパクト戦略起点の事業検討フレーム」を導入していらっしゃいましたが、今回はいかがでしょうか。
加藤氏 : 今回も、「インパクト戦略起点の事業検討フレーム」をベースに支援を提供していきます。これは、事業や活動の結果として生ずるインパクトを、短期・中期・長期の各フェーズで定量的・定性的に可視化し、そのインパクトを創出するためのアクションプランを策定し戦略に落とし込むものです。ファイナリストとメンターが共同で作成しており、シード・アーリーステージのスタートアップに特に好評です。
今期は、その「インパクト戦略起点の事業検討フレーム」をブラッシュアップしようとしています。社会課題解決型のビジネスを支援するにあたり、インパクト測定・マネジメント(Impact Measurement and Management, IMM)という世界的なインパクト評価の体系もベンチマークしながら、MRI流のインパクト支援の確立を目指します。それを、本プログラムを通じてベンチャー企業にも提供していきたいと考えています。
――今期より事務局に参画された、八巻様と亀井様のバックボーンをお聞かせください。
八巻氏 : 私はこの4月に未来共創本部に加わりました。これまでは、厚生労働省医療系ベンチャー・トータルサポート事業「MEDISO」や、経済産業省のヘルスケアベンチャーの相談窓口「InnoHub」、東京都の創薬ベンチャーアクセラレーションプログラム「Blockbuster TOKYO」といった、主にヘルスケア・医療領域で官公庁のプロジェクトのマネジメントを行ってきました。今後はヘルスケアに留まらず、多様な観点からベンチャーのアクセラレーションに携わりたいと考えています。
▲株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 兼 営業本部 コーポレートベンチャー連携推進グループ 兼 ヘルスケア&ウェルネス本部 ヘルスケアイノベーショングループ 主任研究員 八巻心太郎 氏
亀井氏 : 私はこれまで、交通計画などのプロジェクトを中心に携わってきました。たとえば、国土交通省などを顧客とした、道路交通や車両安全系のプロジェクトや、直近では環境省などを顧客とした、福島の被災地復興プロジェクトに従事してきました。今年の1月から未来共創本部の一員となりました。さまざまなパートナーとの共創で、地域活性に寄与していきたいです。
▲株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 シニアコンサルタント 亀井則夫 氏
――おふたりは、本プログラムにはどのような特徴やメリットがあるとお考えでしょうか。
八巻氏 : 官公庁とのつながりが強く、最新の政策動向を捉えられることは、MRIの大きな強みです。医療系をはじめ、技術を世に送り出し実用化する中では、様々な規制があります。そうした国の動向をしっかりと把握し、各種補助金などの情報提供も含めた支援を提供できることは、このプログラムの大きな特徴でしょう。
亀井氏 : 社内には様々な分野の研究員がいますので、こうした社内のリソースを活用しながらベンチャー企業への支援を実行できたらと考えています。当社の研究員も社会課題の解決を目指していますので、目標を一つにして一緒にビジネスを考えていけることが、このプログラムの特徴と考えています。
継続的な課題と、新たな切り口の課題、双方でテーマを設定
――続いて、共創テーマについて伺います。前回は「ウェルネス」「水・食料」「エネルギー・環境」「モビリティ」「防災・インフラ」「教育・人材育成」、これら6つのテーマを設定していましたが、今回も大枠のテーマとしては同様でしょうか。
水田氏 : そうですね。MRIでは、国内外の様々な社会課題を分析・整理し「イノベーションによる解決が期待される社会課題一覧」(通称:社会課題リスト)を年に1回発行しています。
その中で、今回も6つの分野(ウェルネス、水・食料、エネルギー・環境、モビリティ、防災・インフラ、教育・人財育成)から課題を国内・海外において抽出をしています。この社会課題リストと、当社の事業との連携も考慮した上で、具体的な募集テーマ設定をしています。
ビジネス・アクセラレーション・プログラムは8回目になりますが、たとえば「ウェルネス」での生活習慣の改善など、継続して同じテーマを出している領域もあります。社会課題は良いサービスができたからといって即解決するものではなく、継続して取り組む必要があるからです。
また、2030年~2050年の未来像からバックキャスティングで課題を特定し、それらもテーマに加えていきます。たとえば「水・食料」の領域では、食の需給バランスという継続的な課題もありますが、「孤食」の問題など食とコミュニケーションに関する新しい切り口もあります。このように、継続的な課題と新しい切り口の課題をミックスしてテーマを設定していきます。
▲株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 副本部長 主席研究員 水田裕二 氏
――具体的な共創のイメージがあれば、ぜひお願いします。
亀井氏 : 防災の分野では、既に様々な対応策が存在します。しかし、何十年に一度の災害のために備えるとなると、場合によっては過剰投資になりかねません。そこで近年注目されているのが、身の回りにあるモノやサービスを平時だけではなく災害時にも役立てる『フェーズフリー』という概念です。
フェーズフリーを考える際には柔軟な発想が必要です。新たな観点、新たな発想によって、災害対策にも繋がる技術やサービスを具体化していきたいです。また、防災領域ではまだ人手をかけて対応しているところも多いです。先進的な技術やアイデアで、その課題解決に挑んでいきたいです。
八巻氏 : ウェルネス領域では、医療費・介護給付費の増大を抑えるべく健康増進という継続的なテーマがあります。これまでもこのテーマでは、行動変容を促すためのサービスは存在していました。
しかし、どうしても積極的に健康増進に取り組むことができる人に向けたものに留まってしまい、その一歩先のサービスが出てきていないことに問題意識がありました。全体の底上げにつなげるためにも、誰もが普通に生活する中で、気が付いたら行動変容につながっていたというサービスやアイデアが出てきたら面白いと思います。
亀井氏 : 個別の技術はあるものの、具体的なサービスに落とし込めていないものは、たくさんあると思います。たとえばモビリティ領域ではドローンを使ってモノを運ぶという技術は存在するものの、物流のラストワンマイルの課題解決にまでは至っていません。新しい技術やサービスと社会課題をしっかりと繋げることで、解決に向かっていけたらと考えています。
水田氏 : 共創のパターンについても様々な形があると思います。MRIとベンチャー企業の1対1での業務提携も、もちろん一つの方法です。
ただ、ベンチャー企業の技術やアイデアは幅広い領域というよりは、ピンポイントで優れているものです。そこで、ひとつのテーマに対して、複数のベンチャー企業や大手企業、さらには自治体も加える形でコンソーシアムを組成するなど、新しいマーケットをつくるという共創のあり方も模索しています。
従業員のメンタルヘルスや女性の健康などの領域で、共創が進む
――昨年度のプログラムの実績について、お聞かせください。
加藤氏 : 昨年度に実施した「ICF Business Acceleration Program 2021」では、126件のエントリーをいただきました。最終審査には7社が登壇し、リスク計測テクノロジーズ株式会社が最優秀賞を受賞しました。
同社のプロダクトは5秒の「声」のデータでメンタルヘルスリスクを可視化する『Motivel』です。MRIでも企業の従業員のメンタルケアを支援する『COCOPRO』というサービスを開発しています。その開発に携わる当社のHR系チームもメンタリングに入り、リスク計測テクノロジーズ株式会社を支援してきました。
『Motivel』はエッセンシャルワーカーを中心に実証実験をしていたのですが、『COCOPRO』は主に大企業向けで顧客ターゲットが異なっていたのです。そこで、お互いの強みを生かして良いサービスをつくるという目的で、検討チームをたち上げました。現在も緊密に連携を取りながら、事業連携を模索しています。
▲2021年12月に開催された「ICF Business Acceleration Program2021」の最終審査会。
――ファイナリストの合同会社サンク・サンクとも共創が進んでいるそうですね。
加藤氏 : 合同会社サンク・サンクは、女性の更年期に伴う経済的・社会的損失の解決を目指すソリューション「カンテラ」を提供しています。プログラムに応募いただいた時はまだアイデアの段階だったのですが、事業開始までの設計を支援し、更年期特化型ヘルスケアアプリを中心とした各種サービスを形にしていきました。
しかし、代表社員の手塚さんが描く未来はアプリを作って終わりではなく、更年期の実態を日本の女性のみならず男性にもしっかりと理解してもらい、マーケットをつくっていくことでした。そのビジョンに私たちも強く賛同し、採択した経緯があります。
その後、更年期マーケット創出のため、実態調査・健康啓発などを行うコンソーシアムを設立すべく、ICFネットワークを活用しながら、活動を継続しています。
社会課題解決に向けて、熱い想いを持つパートナー企業を求む
――最後に、今回のプログラムにかける期待や、応募を考えている企業にメッセージをお願いいたします。
亀井氏 : 私たちも社会課題について様々なことを思考していますが、どのような技術やサービスが有効であるかについては、まだ十分見渡せていません。ベンチャー企業との共創によって、私たちも勉強しながら、一緒に進めていきたいと思います。
八巻氏 : 応募いただく際には、完成された技術でなくとも、アイデアベースでも歓迎いたします。私たちがまったく想像もしないアイデアを持つ方々と一緒に走りながら考えていきたいですね。
加藤氏 : 社会課題というものは、解決されていないからこその社会課題だと思います。そういった非常に困難な社会課題の解決に、ベンチャー企業1社だけで切り込むのは難しいでしょう。社会課題に対する熱い想いがある方は、ぜひこのプログラムに応募いただき、一緒に解決にむけて頑張りましょう。
水田氏 : ビジネス・アクセラレーション・プログラムは今回で8回目になりますが、それでもまだ三菱総研という存在は、ベンチャー企業の間には浸透していないと思います。私たちも試行錯誤で育ててきているプログラムです。もっと広く私たちのプログラムを知っていただき、この機会を活用していただきたいと思っています。
須﨑氏 : 今の時代は、ベンチャー企業を中心に新しい技術をどんどん取り込むことができる時代です。そういった技術を、社会課題の解決に結びつけていきたいと私たちは考えています。
最近では、Web3.0やブロックチェーン技術により、金融や経済の仕組みも中央集権から地方分散になってきています。それは、社会構造が変わるほど大きなことであり、民主主義のあり方も変わってしまうかもしれません。
必ずしも課題が即座に解決することばかりではありませんが、そういった大きな転換点に踏み込んでいけるプログラムだと思います。ご応募をお待ちしております。
取材後記
「100億人が100歳まで豊かに暮らせる持続可能な社会」を実現するために、社会課題解決ビジネスの共創・社会実装を目指す『ICF Business Acceleration Program 2022』。第8期となる今回は、事業部門との連携をさらに強化し、MRIとの共創事業創出を目指す。豊富な知見を有するMRIの研究員や、外部プロフェッショナルによる支援体制もさらに厚みを増すという。また、約540の大企業・自治体・ベンチャーといったICF会員ネットワークを活用したマッチングやディスカッションの機会が提供されることも大きな魅力だ。
昨年に続き、独自メソッドである「インパクト戦略起点の事業検討フレーム」の提供など、豊富なリソースやアセットを活用し、社会実装を目指していくことができる。自社のアイデアや技術を社会課題解決につなげていきたいと考える企業には、ぜひ応募を検討していただきたい。応募締切は、2022年8月26日(金)だ。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)