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政府が成長戦略の「重要な柱」に掲げるAI×ヘルスケアの共創事例

政府が成長戦略の「重要な柱」に掲げるAI×ヘルスケアの共創事例

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多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。TOMORUBAの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態に迫り、どのような共創が行われているかに迫ります。

今回は、超高齢化社会を迎えるにあたって注目が集まるヘルスケアとAIの共創事例を取り上げます。ヘルスケアは病気を予防することだけでなく、要支援・要介護者の生活を支援することも含まれます。今日では、大量のデータとAI活用によって病気を未然に防ぐ有力な共創プロジェクトが数多く存在します。その中でも、特に期待が集まる共創を紹介します。


ヘルスケアは政府の成長戦略の「重要な柱」に

経済産業省が2019年に公開した資料「次世代ヘルスケア産業協議会の今後の議論について」の中では、ヘルスケア産業の市場規模は2016年は約25兆円、2025年には約33兆円になると推計しています。

参考として、2018年の国内の外食産業の市場規模が約26兆円ですから、ほぼ同等程度の市場規模となっています。ヘルスケアがいかに巨大な市場であるかがわかります。

同資料では、ヘルスケア産業を成長戦略の重要な柱の一つとして、市場や雇用の創出が見込まれる分野と位置づけており、生涯現役社会の構築を目指して「国民の健康寿命の延伸」「新産業の創出」「あるべき医療・介護費の実現」を目標にかかげています。


関連ページ:次世代ヘルスケア産業協議会の 今後の議論について

AI×ヘルスケアの共創事例

ここからはAI×ヘルスケアの分野で有力な共創を創出した事例を紹介します。

【共和薬品工業×FRONTEO】AIを活用した認知症診断支援システムに関する事業提携

共和薬品工業とFRONTEOは2020年3月、認知症診断支援システムに関し、事業提携に関わる基本合意書を締結しました。

認知症診断支援システムはFRONTEO独自の自然言語解析AI「Concept Encoder」を利用し、患者と医師との間の5〜10分程度の会話から認知機能障害の有無や重症度を判定する事が期待されているシステムです。

FRONTEOの同システムは、短い日常会話から認知機能を判定する事のできるため、診断者側と受診側双方の負担を軽減し、認知症の早期発見や短いサイクルでの評価を実現する可能性があります。

共和薬品との基本合意により、FRONTEOは同システムの研究、開発、販売体制を強化し、自然言語解析AIを使った認知症診断システムの国内初の薬事承認を目指します。

関連記事:共和薬品工業×FRONTEO | AIを活用した認知症診断支援システムに関する事業提携

【ハタプロ×大阪大学】AIロボットを活用した認知症の予防・進行抑制をテーマに共同研究

対話AIと小型汎用ロボット『ZUKKU』などを開発するハタプロは2019年9月より、大阪大学 大学院 医学系研究科 臨床遺伝子治療学の認知症診断や予防・進行抑制に関する研究事業に参画することを発表しました。この共同研究は、大阪万博に向けた大阪府モデル事業の一環として、大阪府からの受託研究として実施されます。

近年の論文においては、認知機能障害を早期に発見し、早期から積極的に非薬物的介入を行うことで、認知機能が維持できるという報告が増えています。また、その効果を簡便かつ客観的に評価することができる手法が確立されれば、より多くの地域住民を対象とした認知症の早期発見・早期介入プログラムとして発展させることも可能です。

ハタプロは、今回の取り組みを通して、AIロボットを活用し、継続しやすく医学的根拠の高い介入プログラムの開発と非薬物的介入の知見を蓄積します。そして、スマートスピーカーとも大型のロボットとも違う、日常に溶け込みながら、本物のペットのように寄り添うシニア・アシスタントデバイスとしての機能を強化する予定です。

関連記事:ハタプロ、AIロボットを活用した認知症の予防・進行抑制をテーマに、大阪大学大学院と共同研究を開始

【ハタプロ×東京工業大学】5GとAIロボットを活用した、高齢者の重大事故予防に向けて共同研究を開始

もう一つハタプロからの共創事例です。ハタプロは2020年4月、東京工業大学 環境・社会理工学院 西條美紀研究室と共同研究を開始したことを発表しました。共同研究のテーマは、「高齢者の日常生活行動における、重大事故予防のためのセンシングとフィードバック方法の開発」とのこと。

2025年には、日本の高齢化率が30%に到達すると言われており、介護者が32万人不足するという予測が出ているため、今後、介護者の負担がますます深刻になると予想されています。

東工大西條美紀研究室では、文部科学省「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」内の『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点において、高齢者の日常生活行動における重大事故予防に向けて、センシング技術の活用方法とフィードバック方法の開発を行っています。

一方、ハタプロはAIを活用したロボット、およびIoTデバイスの開発分野のエンジニアがこの研究に参加し、5Gなど先端技術の活用も見据えた先進的なサービスの共創に取り組むことで、研究の推進に貢献できると考え、本共同研究契約の締結を決定しています。

研究のテーマは「高齢者の日常生活行動における、重大事故予防のためのセンシングとフィードバック方法の開発」としており、①高齢者の日常生活行動における重大事故の予兆の定義とその検出方法の開発、②介護者・被介助者に対するフィードバック方法の開発の2点について研究を推進するとのことです。

関連記事:【ハタプロ×東京工業大学】 5GとAIロボットを活用した、高齢者の重大事故予防に向けて共同研究を開始

【FiNC】FiNCアプリに活用するAI開発などのため約50億円の第三者割当増資

予防ヘルスケア×AIに特化したヘルステックベンチャーFiNC Technologiesは2020年1月、今回のラウンドで約50億円の資金調達を実施したことを発表しました。さらに、FiNCアプリ内「食事画像解析」の大幅アップデートに併せて、食事記録に関連する「メニュー選択」などのAI関連特許権を取得も発表しています。

アップデートされた「食事画像解析」機能とは、AIや深層学習を活用し、食事の画像を識別してカロリー・三大栄養素を計算する機能。「FiNC」アプリで食事の画像をアップロードするとカロリーが表示され、目標に応じたカロリーに対し、摂取カロリーが不足・標準・過剰の3段階で判別され、三大栄養素の推奨摂取量に対し、摂取量もグラフで表示されます。これらの解析結果は食事の画像を「FiNC」アプリ内に記録するだけで、日々の摂取カロリーや不足した栄養素など変化を一覧で確認することが可能になります。

今回の資金調達により、ヘルスケア/フィットネスアプリ「FiNC®️」をはじめとした各種サービスに活用しているAIの開発や新規事業の拡大、さらにマーケティングの強化に焦点を当てていくとのことです。

関連記事:FiNC Technologiesが約50億円の第三者割当増資、創業より累計150億円強の資金調達へ

【東大病院×SIMPLEX QUANTUM】「心電くん」を活用した、心不全再発検知のための実証実験

SIMPLEX QUANTUMは2020年9月、東大病院とともに実施する「心臓疾患患者の心不全再発と心電データの関係性」についての共同研究において、同社の携帯型心電計測デバイス「心電くん」を活用した実証実験を開始しました。

同社は2020年1月より開始した東大病院との共同研究において、心電情報から心不全を検出するAIの開発に成功した実績を持っています。次の段階として、東大病院に入院する患者の協力のもと、同社開発の「心電くん」で計測した心電図におけるAIの効果を検証する実証実験をスタートしました。

「心電くん」はLTE回線を使用した心電計測デバイスで、場所を選ばずに使うことができます。取得されたデータは、クラウド経由で医師へ連携され、必要に応じて医師から助言を受けることも可能です。使い方は両手で30秒ほど握るだけ。外出中や運動の合間でも使用できるようデザインされています。

SIMPLEX QUANTUMは東大病院と共同で、心電情報を活用して心不全の再発早期発見するための研究プロジェクトを2020年1月より開始しています。東大病院のデータと、SIMPLEX QUANTUMが開発するセンサーデバイスで取得した心電、その他生体情報をインプットに、心不全の再発早期発見のための特徴をAIにより解析します。将来的には、心不全再発の早期発見に貢献することを目指します。

関連記事:東大病院×SIMPLEX QUANTUM | 「心電くん」を活用した、心不全再発検知のための実証実験を開始

【編集後記】生産性とも直結する人々の健康

超高齢化社会を控える日本では、健康寿命を伸ばすことが課題となっています。健康寿命が伸びれば不自由なく生活を送れるだけでなく、高い生産性を持って働くこともできます。

以前、日本サービス大賞の委員会委員長を務める村上輝康氏を取材したところ、日本のサービス業の生産性はアメリカに比べて約半分であることが国内サービス業の抱える課題だと語っていただきました。

ヘルスケアがAIによって発展すれば、高齢者の多い日本では健康に働ける人が増えることに直結するでしょうから、生産性の向上にも寄与するかもしれません。

関連記事:日本サービス大賞委員長・村上氏と考える――サービスイノベーション 日本の生存戦略とは?

TOMORUBA編集部

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Break Down AI

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