OCRマーケットの急成長を担う【AI-OCR】の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。TOMORUBAの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態に迫り、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回はAIを活用したOCR技術にフォーカスします。OCRと聞くと、画像データから文字を認識する技術として、多くの分野で昔から活用されていたイメージがありますが、AIを利用することでどのようなイノベーションが起きているのでしょうか。そして、共創を通じてどのようなシーンでAI-OCRは実際に活躍しているのでしょうか。実例を踏まえて紹介していきます。
OCR市場の急成長の大部分を担うAI-OCR
OCRとはOptical Character Reader(もしくはRecognition)の略で、画像の中から文字が書かれている部分を認識し、テキストデータに書き出す技術のことです。汎用OCRとも呼びます。汎用OCRは決まった識字ロジックによってテキストデータ化するため、文字の認識を間違えたとしても修正しにくい欠点がありました。
AI技術を活用することで、識字を間違えたとしても、学習して正答率を上げることができます。また、汎用OCRはフォーマットに沿ったスキャンしかできません。例えば、郵便物の伝票の記入欄の内側だけしか読み取ることができないなど、柔軟なスキャンが難しいケースがあります。しかしAI-OCRならばフォーマットに関わらず文字を認識することができます。このように、OCRにAIを活用することで、OCRの可能性がぐっと広がりを見せました。
調査会社のミック経済研究所が2020年3月に公開したレポートによると、OCRサービス製品の市場規模は2018年度実績は392億円、2019年度見込は420億円(対前年比107%)、2020年度予測は560億円(対前年比133%)となっています。
出典:AI OCRで拡大するOCRソリューションの市場動向 2020年度版
急成長と言っていい伸び率ですが、カテゴリ別の内訳を見てみると、汎用OCRはほぼ横ばいなのに対して、AI-OCRは2019年度は対前年比276%となっています。2022年度にはAI-OCRは汎用OCRの市場規模を逆転する予測です。
関連ページ:AI OCRで拡大するOCRソリューション市場動向 2020年度版(発刊3版目)
AI-OCRの共創事例
ここからはAI-OCRを活用した共創事例を紹介していきます。
【AI inside×みずほ×日立】東京都の実証実験でAI-OCRサービス「DX Suite」を提供
AI insideは2020年2月、みずほ情報総研、日立製作所と連携し、東京都の実証実験で当社独自開発のAI-OCRサービス「DX Suite」を提供しました。
東京都では、「2020 改革プラン」の1つである「しごと改革」に基づく業務改革・改善として業務プロセス効率化の推進を掲げており、AI活用に積極的である背景があります。
実証実験では、DX Suite 導入による紙帳票のデジタル化を通じ、バックオフィス業務を中心とした業務効率化・省力化が可能となる業務の見極めや本番導入を見据えた効果検証をみずほ情報総研、日立製作所と連携して行いました。
関連記事:AI inside、みずほ情報総研・日立と連携、東京都の実証実験でAI-OCRを提供
【Automagi×ニチレイ】ニチレイが賞味期限読取AIソリューションを導入
AIソリューション「AMY(エイミー)」を開発・提供するAutomagiの開発した撮影画像からAIを使って賞味期限を自動で読取るソリューションを、ニチレイロジグループが2020年4月より採用しました。Automagiでは、ニチレイロジグループの物流業務のデジタルトランスフォーメーションの実現を、2018年よりAIを提供することで支援を行っており、今回の取り組みもその活動の一環となっています。
ニチレイロジグループでは、従来から商品の品質管理の為に商品の梱包箱の外観を撮影して、撮影画像を保持管理していたましたが、更なる品質管理向上の一環として、撮影画像から賞味期限を読取り、撮影画像と一緒に保持管理出来ないか検討していた背景がありました。
そこで、AIを提供しているAutomagiの賞味期限自動読取AIソリューションを2018年より利用して、梱包箱の外観を撮影した画像から自動で賞味期限を読取り、文字をデータ化する実証実験を実施しました。
実証実験の結果、賞味期限の読取精度が93%以上、処理速度は約2秒と高い数値を達成したため、現場での実運用に利用できると判断し、Automagiの賞味期限読取AIソリューションを採用するに至りました。
関連記事:Automagiの賞味期限読取AIソリューションをニチレイロジグループが採用
【LINE×学研】 新型コロナウイルスに伴う休校中の学習に関する協定を締結
LINEがCSR活動の一環として設立したLINE未来財団は2020年4月、学研ホールディングスと、「教育現場におけるICTの活用に向けた教材開発及び推進を共同して行うことに関する協定」を締結したことを発表しました。
同協定に基づいて、新型コロナウイルスの影響で臨時休校となり授業を受けられない全国の小学生、中学生、高校生、およびその保護者を対象に、「Gakken 家庭学習応援プロジェクト」LINE公式アカウントを新たに開設し、学習システムの提供を開始しています。
そして今後の展開として、LINE BRAINのOCR技術を活用したAI採点システム(仮称)を開発していく予定です。AI採点システムを導入することで、学研の教材に手書きで記入して写真を撮り、「Gakken 家庭学習応援プロジェクト」LINE公式アカウントに送ると自動で採点されるような仕組みを実現できるようになるとのことです。
関連記事:LINEみらい財団×学研ホールディングス | 新型コロナウイルスに伴う休校中の学習に関する協定を締結
【郵船×シナモン】AI-OCR「Flax Scanner」を活用した物流業務改善で協業
郵船ロジスティクスとAIベンチャーのシナモンは2020年3月、物流業務改善に向けたソリューション提供において、AIを活用した協業を開始しました。シナモンAIのAI-OCR 「Flax Scanner」技術を活用し、航空輸出におけるケースマーク照合システムを開発することを目指すとのことです。
これまで倉庫から輸出貨物を出庫する作業では、倉庫作業員が利用者から収集した貨物情報と貨物に貼付されたケースマークを目視で確認することで、出荷すべき貨物の照合する必要がありました。その目視確認をシナモンAIのAI技術であるFlax Scannerを活用しケースマークを読取・照合させることで、目視による確認作業の軽減や照合誤りの未然防止につなげることを目指します。
まずは郵船ロジスティクスの成田ロジスティクスセンターでの導入を目指し、その後、他の国内物流施設や海外施設への導入も進めていく予定とのことです。
関連記事:郵船ロジスティクス×シナモン | 物流業務改善で協業、 AIを活用したシステム開発に着手
【NTTデータ×シナモン】地方銀行向けAI-OCRの実証実験を実施
続いてもシナモンの共創事例です。シナモンは2019年3月、NTTデータと共同で地方銀行向けAI-OCRの実証実験を実施しました。前述したシナモンのAI-OCR技術である「Flax Scanner」の導入を進めます。
今回のNTTデータと共同で行った地方銀行向けAI-OCRの実証実験では、口座振替依頼書や為替私製伝票、請求書などを中心とした地方銀行で利用される様々な非定型帳票に事前チューニングを行い、より多くの地方銀行に活用されることを検討しました。
今後は、AI-OCRを活用した「Flax Scanner」の地方銀行向けソリューションに続く、業務特化型のソリューションの製品ラインアップを拡充していくとのことです。
関連記事:人工知能スタートアップのシナモン、NTTデータと共同で地方銀行向けAI-OCRの実証実験を実施
【編集後記】AI-OCRで読み取った後のフローも大事
フォーマットに沿っていない文字でも読み取れるのがAI-OCRの強みです。もちろん、人間が手作業で行なっていた業務が効率化されるというメリットもありますが、AI-OCRを導入するならば全体の業務フローを見つめ直すことが重要ではないでしょうか。
LINEのAI採点システムはAI-OCRを上手に使った事例で、生徒の回答を読み取った後に「採点」まで自動でしてしまうことによってさらにプロダクトの付加価値を高めています。
このように「AI-OCRで読み取った後にどうするか?」をしっかりと考えることで、業務効率はさらに高められるはずです。
(TOMORUBA編集部)