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「昆虫食」の海外動向は? EUはコオロギを含む4食品が承認済み、シンガポールも解禁へ

「昆虫食」の海外動向は? EUはコオロギを含む4食品が承認済み、シンガポールも解禁へ

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コオロギ粉末が学校給食に試験採用されたことなどをキッカケに、日本国内でも急激に関心が高まっている「昆虫食」。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第42弾では、注目を集める「昆虫食」の海外動向を取り上げる。

昆虫食に対して抵抗感があるといった意見も高まる一方で、タンパク質不足という社会課題を解決するため昆虫食を食卓に取り入れていこうという動きは世界的に見られる。本記事では、欧州、及びシンガポールの「昆虫食」にフォーカスして、現状を伝えたい。

【EU】23年1月までに4つの昆虫食を承認

欧州委員会では、2023年1月までに4つの昆虫食を新規食品として承認している。具体的には、冷凍・乾燥・粉末状のイエロー・ミルワーム、レッサー・ミルワーム、トノサマバッタ、コオロギで、コオロギは部分脱脂粉末状も承認済みだ。これらは、食用原料として正式にEU市場での販売が許可されている。

ミールワームとはゴミムシダマシ科の幼虫で、飼育動物の生餌とするために流通していた食材だ。しかし、昆虫食の普及に伴い、食用としても注目されてきたようだ。

食品の安全性について、欧州委員会は公式ホームページ上で「安全である」と表明している。「新規食品は、欧州食品安全機関 (EFSA)による厳格な科学的評価に基づき、承認されている。利用可能な科学的証拠に照らして、食品が人間の健康に安全上のリスクをもたらさないことを検証している」というのが欧州委員会の見解だ。

国連食糧農業機関(FAO)によれば、昆虫は脂肪、タンパク質、ビタミン、繊維、ミネラルを多く含み、栄養価が高く健康的な食材であるそうだ。FAOもまた、昆虫は健康的で持続可能な食生活への移行を促進する代替タンパク質源とみなしている。

アレルギー反応については、それを引き起こす可能性があると結論づけた。特に、甲殻類、ダニ、場合によっては軟体動物に対するアレルギーの既往症がある被験者の場合、その可能性がある。さらに、飼料に含まれるアレルゲン(グルテンなど)が、摂取した昆虫に混入する可能性もあるそうだ。したがって、承認済みの昆虫食にはアレルゲン性に関する特定の表示要件を定めている。現在、EFSAによる安全性評価の対象になっている昆虫食の申請は8件あるという。

一部の昆虫食が認められているとはいえ、市場としては非常に小さくニッチである。消費者の心理的な抵抗感は否めないが、安全性が認められ販売される製品が増えれば、市場が拡大する可能性があるとして、EUでは研究開発の動きが進んでいるようだ。

2011年に創業したフランスのバイオテクノロジー企業「Agronutris(アグロヌトリス)」では、コオロギを含む9種類の昆虫の研究を40年以上続けている。ジェトロの報道によれば、欧州委員会が初めて承認した昆虫食「乾燥イエロー・ミールワーム」の販売申請をしたのは同社だった。同社は、フランスが打ち立てた民間投資プロジェクの1つとして選ばれており、政府から830万ユーロの支援を受けている。

▲フランスのバイオテクノロジー企業「Agronutris(アグロヌトリス)」の公式ホームページより

【シンガポール】23年中にも昆虫食を解禁へ

シンガポールでは、環境負荷の少ない新たな代替タンパク源として、2023年中にも人向けの食用や動物飼料としての昆虫の輸入・販売が解禁となる見通しだとジェトロが報道した。

同国では動物飼料用(ペットフードは含まない)の昆虫は一部条件付きで認めているが、食用は未承認だ。今回、販売・輸入が認められるのは、過去に食品として実績がある①バッタやコオロギなどの直翅類(ちょくしるい)、②甲虫類などの鞘翅目(しょうしもく)、③ハチミツガやカイコなどの鱗翅目(りんしもく)、④コガネムシ類、⑤ミツバチに代表される膜翅目(まくしもく)の5種類の昆虫だという。

昆虫食解禁の動きに伴い、昆虫の育成に取り組むスタートアップが増えており、2022年末時点で15社に。カイコの研究に取り組む日系スタートアップのMorus(モールス)がシンガポールに法人を設立する動きも見られた。2021年創業の若い企業で、信州大学とタッグを組みカイコの高速品種改良に取り組んでいる。東洋経済による「すごいベンチャー100」2022にも選出された。

▲モールスは食品・化粧品・飼料・医薬品の産業向けのカイコの原料供給を主軸とした自社製品開発事業と、新規原料の共同研究開発の2軸で事業を展開(モールスの公式ホームページより)

シンガポールが昆虫食に積極的な姿勢を見せる背景には、栄養ベースでの食料自給率の引き上げに貢献する食材としての期待がある。同国は現状、​​食料の約9割を輸入に依存しており、2030年までに30%へ引き上げることを目標としている。

牛や鶏といった植物性のタンパク質と比較して、農地・水量・労働量のどれもが、昆虫食は著しく低い。こうした魅力的な条件から、政府が解禁に向けてアクセルを踏んでいるのは理解できる。

一方で、昆虫食が消費者に受け入れられているかというと決してそうではない。中国、タイなどアジアの国々では昆虫食が食べられてきた歴史があるが、シンガポールでは昆虫食の習慣がほとんどないそうだ。

人向けの昆虫食は心理的ハードルが高い

政府の動きを見ても、各国で昆虫食への期待が高まりつつあるのは事実であり、普及は急速に進んでいる。とはいえ、昆虫食に取り組む企業も「人向けで普及させるのはハードルが高い」ことは重々承知しているようだ。

フランスで2011年から昆虫食の開発に取り組むアグロヌトリスは、犬猫向けのペットフードや飼料、あるいは有機農業に使える有機肥料として製品を提供している。

▲アグロヌトリスが販売する、脱水および脱脂されたアメリカミズアブの幼虫で作られた犬猫用の昆虫食(アグロヌトリスの公式ホームページより)

2016年に創業したシンガポールのスタートアップ「Protenga(プロテンガ)」もまた、犬や猫向けのペットフードや飼料、農業用の肥料を生産している。マレーシアにペットフードの製造拠点を置き、アメリカミズアブの飼育から製造までの一貫生産を手がけている。

同社のCEOによれば、「アメリカミズアブは味が良く、栄養が豊富であり、ペットの消化にも良い」そうだ。この昆虫は成長サイクルが短く、なんと約8日間で収穫できるという。

▲プロテンガが発売する飼料。中鎖脂肪酸が豊富な昆虫オイルで、特に子豚、ヒヨコ、エビなどを飼育する際の初期の栄養に適しているそう(プロテンガの公式ホームページより)

一方で、人向けの食品として昆虫食を販売するスタートアップも。イギリスで創業した「EAT GRUB(イートグラブ)」は、コオロギを使ったスナックやプロテインパウダーのほか、料理に使えるバッタやミルワームの商品もある。

▲主力商品はコオロギをカリカリにローストしたスナックで、写真のとおりグロテスクな見た目だ(イートグラブの公式ホームページより)

日本でも同社の商品がウェブ上で販売されているが、ほとんどが欠品中になっていた。同社のSNS投稿も1年ほど前から更新が止まっており、積極的にPRしている姿勢は見られなかった。

日本と同じく、欧州やシンガポールでも、人向けの昆虫食は心理的な抵抗感が強く、浸透するのに時間を要すると予想される。しかし、人々の反応とは相反して、EUやシンガポールの政府は昆虫食に期待を抱き、受け入れる姿勢だ。このような国々の昆虫食が今度どのように広がっていくのか、引き続き注目したい。

編集後記

筆者は、数年前に食用コオロギの普及を通じてタンパク質不足の問題解決に挑む株式会社グリラスの存在を知り、「食べる気はしないけれど、未来の社会に不可欠なビジネスなのだろう」と思っていた。同社の製品のようにコオロギの原型がないクッキーやプロテインバーなら、いざとなれば食べるかもしれないが、やはり気が進まないのが正直なところ。私たちは昆虫食を受け入れられるのか。機会があれば、挑戦してみようと思う。

(取材・文:小林香織) 

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Global Innovation Seeds

世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。