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イギリス初の「昆虫食レストラン」がオープン。「昆虫食」は現地で受け入れられているのか

イギリス初の「昆虫食レストラン」がオープン。「昆虫食」は現地で受け入れられているのか

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2024年5月、イギリスのスタートアップYum Bugが、イギリス初の昆虫食レストラン「Yum Bug」をロンドンにオープンした。2023年に実施したポップアップレストランの成功を経て常設店を構えるようになり、オープンから数ヶ月で数千人の顧客が訪れるほど繁盛しているという。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第57弾では、イギリスにおける「昆虫食」の取り組みにフォーカスする。

日本ではコオロギをはじめとした昆虫食が浸透しているとは言い難いが、イギリスではどのように昆虫食が受け止められているのだろうか。昆虫食がメインのレストラン「Yum Bug」の共同創業者Leo氏のコメントと共に、寿司のアクセントとして昆虫食を取り入れているお任せ料理のレストラン「JUNO」の事例を紹介したい。

サムネイル写真提供:Yum Bug

昆虫食レストラン「Yum Bug」が生まれるまで

LeoとAaronの2名の若手起業家により、2017年にイギリスで創業されたYum Bug。現状の食品システムに不満を感じた2人が注目したのが「コオロギ」だったという。従来の家畜より持続可能なタンパク質源であり、使い勝手がいい万能な食材だと気づき、昆虫食のレシピ開発に取り掛かった。

コロナ禍に手作りした「昆虫レシピキット」を手売りで販売すると、1,000食以上が売れたという。その後、資金調達を経て、より昆虫食の開発が本格化していった。

同社の公式ホームページによれば、肉のような見た目で肉のように使える商品や調理済みのレトルト食品などを開発し、食材のみの販売もしているそうだ。

▲肉のように見えて、肉のように使える素材を開発(提供:Yum Bug、以下同)

▲そのまま食べられるレトルト食品もある

商品開発のエピソードを共同創業者のLeoにたずねてみると、以下の回答があった。

「例えば、cricket mince nduja(コオロギのミンチ ドゥイヤ)のアイデアは、濃厚で風味豊かな伝統的な食品においても昆虫由来の製品が万能であることを示したいという思いから生まれました。ドゥイヤとは香辛料が効いたペースト状のサラミで、昆虫食で再現するにあたりスパイシーで伸びやすい食感がぴったりだと感じました。

▲コオロギのミンチを使ったドゥイヤで作られた料理

コオロギのミンチで肉厚な食感を出し、チリ、スモークパプリカ、ガーリックなどのスパイスを加えて、特徴的なスパイシーな風味を引き出しました。その結果、従来のドゥイヤが持つスパイシーで香ばしいパンチのある味わいと、コオロギが持つ持続可能性や豊富なタンパク質などエッジの効いた新しさを併せ持つコオロギのミンチ ドゥイヤが誕生しました。トーストにのせたり、パスタに混ぜたり、ピザのトッピングにも最適です」(Leo氏)

その後、2023年11月には昆虫食のポップアップレストランをオープンした。現地で実績を持つ12人のシェフとコラボして、粉末や細切りなどに加工した昆虫を使った複数の小皿料理を提供。すると数百人が訪れ、用意したテーブル数が完売するなど大成功のうちに幕を下ろしたという。

一番人気はタコス、活動的で健康志向な若者が支持

このポップアップレストランの成功を経て、2024年5月に常設店「Yum Bug」をロンドンにオープンすることに。Leo氏いわく、9月現在で1500人以上がウェイティングリストに名を連ねているそうだ。ただ、Yum Bugの予約サイトを見ると当日予約枠のみ開放されており、予約は取れる状態のようだ。

すべてのメニューにコオロギを使用しており、ミンチやパティのほか、ローストしたコオロギをそのまま使う料理もある。

▲コオロギを丸ごと使ったピザも

▲一番人気はタコス(写真左)

「ダントツの一番人気メニューはコオロギのブリスケット(前脚の内側にある牛肩ばら肉)を使った『タコス』です。リッチでスモーキーなコオロギならではの風味が心地よく、かつユニークです。コオロギのミンチを使った『コロッケ』も人気です。外はサクサク、中はクリーミーで香ばしいおいしさが詰まっています。

デザートは、ココナッツ・ショートブレッドとコオロギのキャラメリゼを添えた『レモングラスのポセット』(ムースのような食感の冷たいデザート)が多くの人に好まれています。さっぱりとした味わいで、コオロギの歯ごたえが人々を驚かせ、喜ばせています」(Leo氏)

主な顧客層をたずねると、若年のスポーツマン、かつフレキシタリアン(※)で構成されているとのこと。彼らは持続可能性に関心があり、より健康的で環境に優しい食品の選択肢を常に探している人だという。

※フレキシタリアンとは、植物性食品を中心にしているが、時には肉・魚も食べるという柔軟なベジタリアンを指す。

「彼らの多くは活動的で健康志向なので、昆虫のような高タンパクで低負荷の食材を食生活に取り入れるというアイデアが気に入っています。コオロギを使った新しい料理に好奇心があり、試してみたい気持ちが湧くのだと思います」(Leo氏)

握り寿司のアクセントに昆虫食を使うレストランも

イギリスの昆虫食事情を探っていると、ロンドンにある比較的新しいお任せ料理のレストラン「JUNO OMAKASE(以下、JUNO)」でも、昆虫食を採用していることがわかった。

▲お任せ料理のレストラン「JUNO」(JUNOの公式ホームページより)

固定メニューを持たないJUNOは、伝統的な日本料理にメキシコの革新的なひねりを加えたオリジナルの料理を提供する。そのうち握り寿司に、グサノ(イモムシ)、チカタナ(羽アリ)、チャプリネス(バッタ)などを原料とした調味料をアクセントとして使用しているという。

一例として、マグロの握りにグサノを使った粉末の調味料を少量乗せるなどして提供している。グサノはメキシコの有名な蒸留酒であるテキーラやメスカルの原料となるアガベの葉などを食べて育つイモムシだ。

▲握り寿司のアクセントに昆虫を使った調味料を使用している(JUNOの公式ホームページより)

JUNOでは「お任せ料理」というスタイルを採用しており、かつ昆虫は主役ではなく魚の風味を引き立てる調味料として使われている。そうした側面もあり、あえて顧客が寿司を食べ始めるまでは「昆虫を使っている」と明かさないという。食べる前にその事実を伝えてしまうと、顧客がどうしてもネガティブな感情を抱いてしまうためだ。

さらには、「塩やコショウというスタンダードな調味料について、あえて言及しないのと同じように、昆虫を使った調味料もスタンダードなものにしていきたい」という思いがシェフにはあるという。

昆虫食を取り入れた握り寿司の味わいは好評のようで、昆虫が持つパンチのある風味を少量取り入れることで、魚の風味が強調され、複雑な味わいに変化させる狙いがあるそうだ。

JUNOが昆虫食を積極的に取り入れている背景には、メキシコが世界有数の昆虫食大国であることも関係していると考えられる。在日メキシコ大使館のSNS投稿によれば、同国に存在する昆虫食の数は500種類以上にもなるようだ。チャプリネス(バッタ)は塩、ニンニク、唐辛子などで味付けし、揚げたものがスナックとして売られているという。また、「芋虫はメスカルの味を深める」と言われ、瓶に1匹丸々が入っていることがあるそうだ。

課題は多いが、時間の経過による解決に期待

イギリスの昆虫食の浸透を調べていくと、ウェールズの小学校4校で給食に昆虫食を試験導入する動きが近年見られた。子どもたちが希望すれば、昆虫食を使用した給食を選択することができるという。

この取り組みは、環境にやさしい肉の代替品として、若年層に昆虫食を受け入れるよう推奨する科学者の運動の一貫だとされている。給食への導入と同時に、昆虫食を使用した給食製品に携わる科学者たちは、学生たちに代替タンパク質の利点について学んでもらうためのワークショップも開催したそうだ。

イギリスの一部では浸透しつつあるように見える昆虫食だが、Yum BugのLeo氏によれば、「昆虫を食べることに対する人々の心理的障壁は未だ高い」という。

▲チャプリネスを使ったピザ。このように昆虫の姿が見えるものは特に抵抗感が強そうだ(Photo by Nahima Aparicio on Unsplash

「人々の心理的障壁を克服することが、私たちにとって最大の課題です。西洋文化では昆虫は食べ物として広く受け入れられていないので、根気強い教育が必要でしょう。加えて、昆虫の調達にも課題があります。昆虫の養殖は伝統的な家畜よりも持続可能ですが、この産業はまだ成長過程で、安定した高品質の供給を確保するのは難しさがあります。また、比較的新しい市場であるため、規制上のハードルにも直面しています」(Leo氏)

より広く昆虫食を浸透させるには未だ数々のハードルがあるが、代替タンパク質への世間の関心が高まっていることから、「時間の経過とともに、これらの課題が解決に向かうだろうと確信している」とLeoはポジティブな姿勢を見せた。

編集後記

世界の昆虫食の動向は以前の記事でも紹介したが、昆虫食を展開するスタートアップが世界に多く誕生する一方、その多くは食事としての提供ではなく、昆虫を使ったペットフードや飼料、肥料を販売している。そうした企業と比較すると、Yum BugやJUNOの取り組みは先進的だ。イギリスで広く昆虫食が受け入れられるのか、引き続き注目したい。

(取材・文:小林香織) 

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